恋愛期間×2
15年前、一生に一度出会えるかどうか分からない程の恋をした。
でも、そう思うようになったのは、別れてから10年経った 今…
1:恋愛期間
「こんばんは~」
「こんばんは~」
「梅雨入りの宣言まだ無いですね。 もうこんなにじめじめしてるのに」
そんな事を話ながら準備体操を始めていると、クラブの部長さんが見知らぬ男子と現れた。
「みんな聞いて、今日から仲間になってくれる、河井憲之君です。 のりちゃん、って呼んであげてね」
と、新入部員を紹介した。
「はじめまして、河井です。 よろしくお願いします」
そう挨拶した彼は、甘いマスクのイケメン! 私より5才下の27才。
こんなイケメンが入ってきてくれるなんて! これからの練習時間がより一層楽しくなりそうだ!!
私が所属しているクラブは、一般の混合バレーボールチーム 「Sign」
18才~50才の25人が所属している。 色んな大会に出場しているが、予選敗退ばかりの弱いチームだけど、コミュニケーションを取るために、大会後の反省会や、定期的に懇親会をしていて、和気藹々で笑顔が多く、楽しいチームだ。
このチームでの活動が私の唯一のストレス解消の時間! だから、バレーボール中心にスケジュールを組んでるくらい!!
そんな楽しい時間にもっと気分を上げてくれるイケメンがやって来て、私だけでなく、所属女子部員全員の目が輝いたのは言うまでもない…
ある日の練習日に部長が
「のりちゃんのお陰で女子の出席率が良くなったよね。混合バレーだから練習は正直キツイでしょう!? それが原因でみんな休みがちだったんだと思うのよ… だからそれをどうにかしたくて、知り合いにイケメンで、バレー経験者で、即戦力になる子を紹介してって頼んだの」
と、話してくれた。 確かに、私ものりちゃんのお陰で今まで以上にこの時間が楽しくなってる!
イケメン効果って凄い!!
そしてこの日
「お知らせしま~す。 来月の12日(土)に懇親会をしま~す。 今回はバーベキューで~す。 出欠を来週の金曜に聞かせて下さ〜い」
と、いつも幹事をしてくれる若い男子部員が言った。
今回の懇親会はきっと大所帯になるだろうな… 来月の12日かぁ、休みだったかな…
私は家に帰ってから会社カレンダーで確認した。 その日は丁度休みの日だった! 私は思わずガッツポーズしていた。
のりちゃん来るかな… 来てくれると楽しくなるのにな…
のりちゃんがチームに加入してからの私は、練習日が待ち遠しくて、練習日がくると朝からそわそわ! 仕事中も練習風景や、のりちゃんとのやり取りを妄想してしまうほど… 私 ヤバイ…
次の週の金曜日
「では、懇親会の出欠をお願いしま〜す」
「参加します」
「私も参加でお願いします」
「俺は仕事なので不参加で」
と、みんなが言っていくなか、のりちゃんが返事をした。
「僕も参加でお願いします」
私は、(よしっ!!)と、心で言ってみんなを見渡した。 するとやっぱり!! と思う程、女子部員全員の顔が満面の笑みだった!!
みんな同じ気持ちだったんだね…
懇親会当日
私とのりちゃんは同じ買い出し班、今回私は飲まないから、私が車を出して数人乗せて買い出しに行った。
お酒関係をどれにするかとか、どれだけ買うかとか、色々話ながら楽しく買い出し!
神様、楽しい時間をありがとうございます!! と思っていたらのりちゃんが
「ともちゃんと話してると楽しいわ」
と言ってくれた。
私の名前は、吉田友美 32才だけど、みんな私を 「ともちゃん」 と読んでくれてる。
「そう!? 私ものりちゃんと話してると楽しいわ」
と私も返した。 密かにドキドキしながら…
バーベキューが始まり、みんなでワイワイ騒ぎながら色んな話をしたり、ゲームをしたりして、笑い声が絶えなかった。
私は、今までも何度かバーベキューの懇親会があったけど、今回が一番楽しいと感じていたからか、バーベキュー場の閉館時間があっという間にきてしまった。
「じゃあみなさん! 二次会はお決まりのカラオケに行きましょ~!!」
いつも懇親会の後はカラオケに行くというのがこのチームのパターンで、行ける人だけ二次会に行くことになり、私ものりちゃんの歌声を聞いてみたくて参加した。 カラオケBOXまで私は、数人車に乗せて行った。 その中にのりちゃんもいて、道中他のメンバーがのりちゃんに、彼女はいるのか聞いたら 「いないです」 と答えてた。 それを聞いて、チャンスなんかある訳無いのに嬉しくなってしまった… それからのりちゃんの元カノの話になって、元カノが何度も浮気して、それに疲れて別れたと話してくれた…
何度も浮気したって… それを何度も許してきたんだ… のりちゃんって一途なんだ… ってか、こんなイケメン彼氏がいて何度も浮気するなんて、元カノってどんな人なんだろ… 何度も浮気するんだから、モテる人ってことだよね! ってことは、めちゃくちゃ美人か、めちゃくちゃ可愛い人なんだろうな… だからのりちゃんもその人のことが凄く好きだったから、浮気されても許してきたんだろうな… と勝手に考えて、勝手に焼きもちを焼きながら運転していた。
カラオケBOXに着いて、みんな席につきカラオケ大会が始まった。 いつものように盛り上がり、ついにのりちゃんの番が来た! 始めて聞くのりちゃんの歌声は想像していた通り上手だった! そしてその歌声に、この場にいる女子部員全員が心捕まれたようだ! なぜなら、のりちゃんが歌い出してから女子部員全員の目がうっとりしていたから!! そんな中女子部員の1人、 山中春美ちゃんが酔った勢いなのか、のりちゃんが歌っている間にのりちゃんの座っている所まで、人の膝を渡り歩き隣に座り、ベッタリとくっついた。 するとのりちゃんは、歌いながらすっと立って機械を触り、さっきと違う所に座った。 しばらくしてまた春美ちゃんは人の膝を渡り歩き、のりちゃんの隣に座った! その様子を見て私は、自分の思いのままに行動できる春美ちゃんの事が羨ましく思い、嫉妬していた。
春美ちゃんのせいで気持ちが落ち着かない… 私は気持ちを静めるため部屋から出てトイレに向かった。 しばらくの間トイレで心を静め、部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、のりちゃんが部屋から出てきて、少し困った顔で私にこう言った。
「あんなことされると 引くわ」
人の膝を渡り歩き、のりちゃんを追っかけ回してた春美ちゃんのことを言っているんだと悟った私は
「ああ… 春美ちゃん?」
と聞いた
「うん 僕 あ~ゆ~タイプ 無理」
と言ってのりちゃんは、眉間にシワを寄せた。
「そうなんだ… でも あんな春美ちゃん見たの初めてだわ! 以外と積極的な子だったんだって思ったわ」
と、のりちゃんが春美ちゃんのようなタイプは無理、と言った言葉を噛み締めながら返事をしたら
「僕は、ともちゃんみたいな人がタイプだよ」
と言って、のりちゃんは優しく笑った。
しまった! やられた!!
そう思ったとき、何かで自分の気持ちを支え、欲を隠してきたのに、のりちゃんの言葉と笑顔で支えていた物が音をたてて崩れ、心が大きく揺れた。 それでも私は、のりちゃんに自分の気持ちを悟られないように
「ほんとに? ありがとう」
と、大人の対応でその場をやり過ごした。
のりちゃんが春美ちゃんから逃げるように部屋から出たらしく、その後からの春美ちゃんは大人しく座っていた。 お陰で私の心も乱される事無く、楽しく過ごせた。 多分、他の女子部員もそうであろう… それに、さっきののりちゃんの言葉で心が満たされていたのもある。 ずっと頭の中でのりちゃんの言葉がリピートされて、にやけそうになる顔を必死で普通に戻し、ついのりちゃんを見てしまう自分に (ダメだよ!) と言い聞かせ、二次会終了を待った。
プルプルプルプルプル
部屋の電話がなり、終了10分前を知らせた。
「ではみなさん、これでお開きとします」
「は~い、お疲れ様でした~」
「ねぇ、誰が送ってよ~」
「いいよ、私送るよ」
「じゃあ、飲んでない人悪いけど手分けして送ってくれる?」
「了解で~す」
と、車を出した者が送ってあげることになり、私の車には3人乗ってきた。 その中にのりちゃんもいる! のりちゃんは助手席側の後部座席に座った。 カラオケBOXから家が近い人順に送り、最後にのりちゃんを送っている時、のりちゃんは後部座席の真ん中に座り直し
「ともちゃん、連絡先交換してよ」
と言ってきた。
2人きりになってから、私の心臓は普通じゃなかったのに、その一言で壊れるんじゃないかと思うくらい激しく打ち出した。
「うん いいよ」
のりちゃんの家の近くで車を止め、私達は連絡先を交換した。
この日から毎日、のりちゃんからメールが入ってくるようになり、私の気持ちは歯止めがきかなくなっていった。
(明日 暇? 会いたいな…)
そうのりちゃんからのメール
時間はあまり無いけど、私も会いたい!
(昼からなら時間作れるけど、カラオケでも行く?)
と返事をしたらすぐに
(やったー!! 行く! 何時にどこで待ち合わせる? ともちゃんに合わすから決めて)
(じゃあ、13時に現地集合でいい?)
(うん、いいよ、わかった)
と、私達は2人で会う約束をした。
(じゃあ明日、楽しみにしてるね。 おやすみなさい)
(うん、私も楽しみにしてるね。 おやすみ)
のりちゃんとのメールを終えてから私は、明日何を着ていこうかと、クローゼットを開いて嬉しさで頭が回らないまま2時間程、1人ファッションショーをし、やっとの思いで、頑張った感を見せず、でも年上の魅力をチラつかせる服に決めた。 2人きりでカラオケ! 考えただけでドキドキして、興奮状態の私はなかなか眠れなかった…
抜け駆けするみたいでみんなには悪いけど いいよね… のりちゃんから会いたいって言ってきたんだし… 私は罪悪感を、そう思うことでかき消した。
次の日の午前中
私の気持ちはすでにのりちゃんとのカラオケに向いてる状態! 用事をしていても、そわそわドキドキで、ちゃんと用事を終わらせたのか覚えがないほどで… 私は約束の時間の30分も前にカラオケBOXの駐車場に着いてしまった。 車の中でのりちゃんを待っている時、これまでの自分の気持ちや行動を振り返って (ダメだよ!)と言い聞かせ、自分の気持ちを押さえてきたのに… と、私の中の欲が溢れ出し、止められない状態になっていることを再認識していた。
約束の時間より5分程遅れてのりちゃんがやってきた。
「ごめん 待たせてしまって」
「ううん いいよ。 じゃあ行こう!」
私達は受付を済ませ、部屋に向かった。
「昨日約束してから何歌おうかずっと考えてて、でも思い浮かばなくてね…」
そうのりちゃんが話し出した。
「分かる分かる!! いざとなると思い浮かばないもんだよね!」
と言いながらも、何やかんやとノリノリの曲を歌い合い、2時間程たった時、お互い頑張り過ぎたのか声に疲れが出だして
「ちょっと一休み~」
と言ってのりちゃんが入れた曲は
尾崎豊の『I Love You 』
「ともちゃん尾崎好きだったよね?」
「うん、歌ってくれるんだ! 嬉しい ありがとう」
出だしの歌詞【I LOVE YOU】をのりちゃんは私を見ながら歌った。 告白とも言える行動に、私は驚きを隠せなかった! するとのりちゃんは歌うのを止め、マイクを置いて私の方に向き
「ともちゃん 僕と付き合ってください」
と、突然の告白!
「えっ… あっ… でものりちゃん 私…」
「分かってるよ! でも付き合って欲しい 返事は 『OK』 しか受け付けないから」
と、いつになく強引なのりちゃんに戸惑いながらも、私も自分の気持ちに正直になろうと思い、コクリと頷いた。
この日から、楽しく、 辛く、 嫉妬に狂った 内緒の恋の5年間が始まった。
実は、私は既婚者! 子供も2人いる。
だからのりちゃんとの付き合いは… 世間の言葉で言うと
不倫…
付き合いが始まってから毎日のメールの回数が増えた。 おはようから始まり、おやすみまで、普通に隣で話しているかのように言葉を交わした。 のりちゃんからのメールは、自分の行動を示す内容もあって『何時からどこどこで 誰と何をする』とか『今どこどこに居るんだけど』など、一緒に居られない時間を、私の頭の中に映像で映し出してくれた。 会っているときはもちろん、会えないときもメールが私達を繋いでくれてた。
ある日のとある大会
私達は1回戦を2-1で勝ち、次に私達のチームと対戦相手になるチームが決まる試合を、スタンドで観戦していると、のりちゃんが私の隣にきて
「今、Bコートでやってる試合の 赤いユニフォームの方のセッター 顔見える?」
と言ってきた。 私は視力は悪くはないが、さすがにはっきりとは見えないので
「はっきりとは見えないけど、何となく見えるわ」
と答えた。 するとのりちゃんが
「あのセッター 前に話した元カノだよ」
と言った。 私は思わぬのりちゃんのカミングアウトに驚き
「えっ! そうなの!? ってか 何でそんなこと教えるのよ!!」
と言って、のりちゃんの腕にグーパンチをした。 するとのりちゃんは笑って
「ともちゃんの方が可愛いって言いたかったから」
と、私がグーパンチした腕を擦りながら答えた。 その言葉が嬉しかったけど、あの時想像していた元カノの容姿と、少し違っていた事に私は、複雑な気持ちになった。
Bコートの試合が終わり、次に私達と対戦するチームが決まった。 その対戦チームは、のりちゃんの元カノが所属するチーム! 私は『絶対に負けない!』と、闘争心を燃やした。 私達と元カノが所属するチームの試合が始まり、闘争心にスイッチが入っている私は必死にボールを追った。 でも… 結果は残念ながら、1-2で負けてしまった… この日の残念会で、私はのりちゃんに
「絶対勝つって気合い入れてたんどけどなぁ… めっちゃ悔しいわ!」
と言ったら
「俺も、めちゃくちゃ悔しい!」
と、握り拳を自分の膝に打ち付け、本気でのりちゃんは悔しがっていた。 この日のりちゃんがカミングアウトした元カノが誰かって事は、二人だけの秘密!
しかし… この元カノと私は、後に思わぬ所で再会することになるなんて、私は知るよしもなかった…
ある日の練習中
のりちゃんと若い女子部員が楽しそうにしている様子を、私は視界の端の方で見ながら、イライラしていた。 すると別の女子部員 井上陽子ちゃんも2人の様子を見ていて、陽子ちゃんが仲の良い子 埜田翔子ちゃんに
「どう思う? あれ」
と言いながらのりちやんの方を見て、顎で指した。 私はその様子を見ていて、疑問や不安といった、嫉妬とは違う感情が湧き上がってくるのを感じ 『何かある』と気付いた。 私は陽子ちゃんに
「どうしたの?」
と話しかけた。 すると陽子ちゃんが
「あっ えっと… のりちゃんって何考えてるかわからない人だな…と思って」
と答えた。
「何かあったの?」
と、続けて聞くと
「実は、少し前までのりちゃんからめちゃくちゃメールが入ってきてて、私の事好きなのかな…と思ってたんですけど、私はのりちゃんの事まだよく知らないし 、当たり障りない返事をして様子を見てたんです。 でも、のりちゃんは脈が無いと思ったのか、急にピタッとメールがこなくなって… 気になりかけてたのに…」
と話し出した。
「メールがこなくなってから、最近あの子と仲良いし、何なんだろうと思って… それに※#△○□※#□△▽…」
私は、嫉妬と怒りで、陽子ちゃんがまだ話してるのに、その話が全く入ってこず…
いつの間に連絡先交換したんだろ…
と、今までの陽子ちゃんとのりちゃんの絡みを思い返していた… でも、私の記憶の中では、2人が連絡先を交換しあうほどの絡みは思い当たらない… ほんと、いつ交換したんだろ… と思いを巡らせていた。
この日を境に、のりちゃんの行動が少しずつ、私の耳に入ってくるようになって、私は嫉妬に狂い始めた。
次の練習の日
陽子ちゃんは練習にこなかった… 用事があるから来れない… との事だけど… 私はのりちゃんのせいだろうな… と思っていた。 正直私も、あんな光景は見たくない! 思い出しただけでもイライラしてくる! でも、私がいない所で他の女子部員と… と考えると嫉妬に押し潰されて、自分を失いそうだから、私の存在をのりちゃんに見せて、のりちゃんの行動を制御しようという気持ちもあって、上がらないモチベにムチを打ち、練習に参加していた。
「じゃあ、10分休憩しま~す」
と部長が言った。 私は荷物の所に行き、水分補給をしていると、翔子ちゃんが私の所にきて
「ともちゃん… のりちゃんの事なんだけど… 」
と言ってきた
「どうしたの?」
と聞いたら、翔子ちゃんが話し出した。
「実は… のりちゃんが陽子ちゃんにメールをし出す前に、私の所に毎日メールしてきてたんです… でも、私に彼氏がいるってわかった途端 ピタッ とメール入ってこなくなって… そしたらしばらくして陽子ちゃんから、のりちゃんから毎日凄いメール入ってくる って聞いたんです… 陽子ちゃんには、私にもそうだったなんて言えないし、 ほんと、のりちゃんって人が 分からないです。 それに、陽子ちゃんと私だけじゃないみたいなんです! のりちゃん 彼女が欲しくてこんなことしてるのかもそれないけど、ちょっとやり過ぎだと思いませんか?」
私はショックで言葉を失っていた!
「ともちゃん?」
「あっ! ごめん ちょっとびっくりして!」
「ですよね… 私もそうでした。 最初にのりちゃんからのメールの事を聞いたのは春美ちゃんだったんです。 懇親会でバーベキューに行った時に… でも、その日からピタッとメールが入ってこなくなったらしいんですけどね… そしたら、今度は私の所にメールが入り出して、2人で遊ぼうと誘われたから、彼氏いるからって返事したら、それっきり入ってこなくなって、次に陽子ちゃんにメールし出して… のりちゃん… 女子部員に片っ端からこんなことするつもりなんですかね…?」
私は、それでだったんだ! 懇親会でバーベキューに行ったあの日、二次会で春美ちゃんがとった行動には、こういう理由があったからだったんだ!! と思った。
私は、ショックと嫉妬と怒りを隠し
「ちょっと… やり過ぎだよね… そんな子だったなんて 思いもしなかったわ!
何か 残念だわ…」
と、とりあえず答え、のりちゃんを見た。
のりちゃんは、私と翔子ちゃんがこんな話をしてるなんて、思ってもいないだろう… 無邪気に笑って、他の女子部員と話をしている…
私の知らない所でののりちゃんの行動を知った私は
『のりちゃん… 私達って 付き合ってるんだよね…』 と何度も心で確認していた。
年末 チームの忘年会
今年の忘年会は温泉旅館で一泊。 本当なら私は、泊まりの行事には出席しないのだが、今年はのりちゃんの事があったから、出席することにした。 『どうか 何もありませんように…』 と願いながら…
この日は現地集合。 私は部長と一緒に向かった。 旅館に着いてロビーでみんなを待っていたら、のりちゃんと数人の部員がやってきた。
ん? なんだろ… そう思った相手は古川美憂ちゃん この子は若いけど既婚者で、子供もいる。 でも、のりちゃんと一緒に玄関から入ってきた時、私は違和感を感じた…
しばらくして全員集まり、部長が受付を済ませ
「宴会は19時から 柊の間だからね! じゃあみんな 後で!」
と言う部長の言葉で、みんな部屋に向かった。
私の部屋には、部長と、ベテラン部員2人と、私の4人。 いえば、年長既婚者部屋! だから宴会時間までの間、これは別腹! と言って、お菓子を食べながらお茶を飲んで、ペチャクチャお喋りして過ごした。
宴会開始時間10分前になり、私達は宴会場に向かった。
宴会場に着くと、すでにのりちゃんは席に着いていた。 お膳には美味しそうな料理がのっていて、コの字に配列されている。 私はのりちゃんの様子が見れる位置に座った。
のりちゃんの隣には、旅館のロビーで違和感を感じた子、美憂ちゃんが座っている。
私は胸騒ぎがした…
宴会が始まりお酒も進み、のりちゃんは酔っている様子で、美憂ちゃんにちょっかいを出し始めた!
それを見た私は(うそでしょ! のりちゃん 私がこの場所にいる事 忘れてるの? どういう事!?) と普通じゃあり得ない行動に動揺した。 それでも、私には何も言える訳もなく、何の行動もできるはずもない… 私はその様子を見ているのが辛くなり、2人に背中を向けた。 しばらくして、2人がどうしているのか確かめるため振り向くと、2人は居なくなっていた! 居ないことに気付いてから5分経っても、10分経っても、まだ2人は帰ってこない… 私はトイレに行くふりをして辺りを探したが、見当たらない… 仕方なく席に戻り、2人が帰ってくるのを待った。 どれくらい時間が経っただろうか… やっと帰ってきた! のりちゃんはいつもと変わらない様子。 でも、一緒に消えた美憂ちゃんは、頬を赤らめ、何かありました感満載の様子!!
胸騒ぎが的中してしまった!!
(のりちゃん… いくらなんでもこれは酷いよ… 確かに私達は不倫だけど 不倫でも恋愛のルールってもんがあるんじゃないの? ねえのりちゃん どうして…)
と、私は心の中で問い掛け、のりちゃんを見つめた。
2人帰ってきてからも、のりちゃんは美憂ちゃんの隣をキープしたまま離れない…
のりちゃんは、こっちを見ることもない… 私の事は眼中に入っていない様子… 私は耐えられなくなり、宴会場を出て部屋に向かった。 惨めな思いを抱えながら…
見なきゃよかった… 気付かなきゃよかった… 来るんじゃなかった…
と、私は後悔した。
この事があってから私は、のりちゃんから(いつ 誰達と何処へ行ってくるよ)とメールが入ってくると (分かったよ 気を付けてね)と返事をしながらも、『絶対嘘だ』と、心の中で呟くようになっていた。
それでも、こんな思いをしても別れられなかったのは、2人で会っている時ののりちゃんは、私に何度も『大好きだよ』と言ってくれるから! 2人の時間では、ちゃんと私を見てくれてると感じられるから! 会った後すぐにメールが入ってきて『気を付けて帰ってね』とか『ともちゃんお願い これ以上可愛くならないで! 僕困るよ』と、優しい言葉や、嬉しい言葉を沢山くれるから! 何より私が、のりちゃんの事を嫌いになれなかったからだ。
これが、惚れた弱味というものなのだろうか…
ある日、私が嫉妬して、それをのりちゃんにぶつけた時、のりちゃんがこう言った。
「ともちゃん ペアリング買おう! お金出しあってペアリング買おうよ!! 僕の気持ちを形にしたら、ともちゃんも少しは安心できるでしょう?」
私は、(そう言う事じゃないんだけど…)と思いながらも、のりちゃんの案に賛同した。
「僕センスないから ともちゃんが選んで買ってきてよ! お金は後から渡すから」
「うん、わかったよ」
こうして私達は、ペアリングをするようになった。 のりちゃんの指のサイズがわからなかったので、これくらいかな? と思うサイズを買っていったら ぶかぶかだった。 「直そう」と言ったけど、のりちゃんは「このままでいい」とぶかぶかのまま着けていた。 私は普段から着けていて、のりちゃんは私と会う時だけ着けることにした。 2人共普段から着けていて、もし、2人共通の知り合いに見られたりしたら困るから… でも、それってやっぱり意味が無いよね… 私はそう感じていた。 それでも、指輪を見て、触れて、のりちゃんを想った。
でも…
[私達のような関係では ペアの物は全く意味を持たない ただの飾り物] そう決定付ける出来事がおきた!
のりちゃんは、2人で会う時でも指輪を忘れるのか、着けてこない事が増えた。
何度か続いた時、私はのりちゃんに聞いた。
「最近指輪してこないね」
「うん… やっぱり、少しサイズが大きいのがね…」
「やっぱ直す?」
「ううん いい…」
私はこの時感じた! 理由は他にもあると…
それから半月程して、私の誕生日がきた。
のりちゃんからメールが入ってきて
(誕生日のプレゼント渡したいんだけど 出れる?)
(ほんとに!? ありがとう。 20時過ぎなら出れるよ)
(じゃあ20時過ぎに いつもの所で待ってるね)
(うん わかったよ)
と約束した。
いつもの所とは とあるショッピングモールの駐車場だ。
待ち合わせ場所に行くと、のりちゃんは先に来ていて、私が車を停めると、自分の車から降り、後部座席から以外と大きな包みを抱え、私の車に乗り込んできた。
「はい 誕生日プレゼント おめでとう ともちゃん」
そう言ってプレゼントをくれた。
「ありがとう のりちゃん」
私がプレゼントを受け取ると、のりちゃんは俯いて、何か言いたげで落ち着かない様子… その様子を見て私は『そうか! これがのりちゃんからの 最後のプレゼントなんだ!』と思った。 しばらく俯いて黙っていたのりちゃんが話始めた。
「ともちゃん… 僕 ともちゃんから卒業しようと思います… これが 僕からの最後のプレゼントです」
のりちゃんが指輪を着けてこなくなってから、何となくこの日が近いって分かっていた私は、それなりに心の準備をしていたのか、駄々をこねる心もなく、受け入れる事ができ
「わかったよ 今までありがとね」
そうちゃんと言えた。
のりちゃんと付き合い始めてから3年程経って、私達は一度別れた。
家に帰ってすぐ私は、貰ったプレゼントを見ることなく、クローゼットの奥にしまった。 そして、指輪を外しローチェストの引き出しに閉まい、(ほらね! やっぱりペアリングしてたって、意味なんか無かったよね)と呟いた。 何となく分かってたけど、仕方ないけど、やっぱ辛い…
明日から、どうしたらいいんだろう… と私は、ボーっとしながら考えていた。
のりちゃんと別れてから始めての練習日、のりちゃんは来なかった… 来ずらいのかな… 私に気を使ったのかな… 顔、見たかったな… まだまだ気持ちの切り替えが出来そうにない私は、
(早く普通のチームメートに戻らなきゃ… じゃなきゃ のりちゃんと楽しくバレーができないもんね)
と思っていた。 のりちゃんがまた練習に来るようになったのは、私と別れてから3週間後だった。 久しぶりに現れたのりちゃんを見て、私はホッとした。 私との事が原因で、もう来ないんじゃないかと不安だったからだ。 練習が始まって、少し遅れてきた40代の女子部員が、久しぶりに来ているのりちゃんを見て、休憩中私に
「ねぇともちゃん のりちゃんとしーちゃん 付き合ってるの?」
と聞いてきた。
しーちゃんとは 山形忍ちゃん という独身の女子部員で、のりちゃんに、積極的にアプローチしている子だ。
「えっ? 何で?」
と私は聞き返した。 すると40代の女性部員が
「この間の日曜に2人でいるのを見かけて その様子がそうのかな…と思う感じに見えたから」
と言った。
その話を聞いて私はショックだった。 なぜなら、まだのりちゃんと付き合っている時から、しーちゃんからのりちゃんへのアプローチに焼きもちを焼き、それをのりちゃんにぶつける度にのりちゃんは『しーちゃんは 僕のなかでは恋愛対象にならない人だよ』と言っていたからだ
私は心の中で呟いた。
(やっぱりのりちゃんは嘘つきだ…)
しーちゃんとのデート?事件を聞いてから2ヶ月程経った時、のりちゃんからメールが入ってきた。
(ともちゃん… 元気?)
私は、複雑な心境で
(元気だよ)
とだけ返した。 すると
(少し 会えない?)
と、返ってきた。
会えない事はない… けど… どうしよう… やっと少し落ち着いてきた私の心が葛藤している! 2人で会ってしまったら、また欲が出てくるかもしれない… 終わったんだから、もう2人で会わない方がいい… でも…
私は、少しの期待と、まだ切り替えができていない心に負け
(いいよ…)
と、返事をしてしまった…。
いつもの所で待ち合わせをし、私達は会った。
「ともちゃん… ごめん… 僕から離れたくせに… 今更かもしれないけど… やり直せないかな… ずっと ともちゃんの事が心から離れなくて…」
と、ほんとに今更な事を言った。 でも、この言葉を待っていた自分がいたのも事実で、私は別れてからずっと、どんよりして曇り色だった心が、少し色を変えたのを感じていた。 そして
「うん わかったよ」
と、返事をして、私達はまた、付き合い始めた。 しかし、私の心は、曇り色から少し色を変えただけで、それ以上変わる事はなかった…
やり直してからののりちゃんはと言うと、前と変わらない行動で、私を嫉妬させる。
でも、私の方は、その嫉妬させられる事に、気力と、体力と、忍耐力がついてこなくなっていて、前のように2人で会っていても、楽しいとか、嬉しいという気持ちも減り、一緒にいる時でも、心から笑えず、のりちゃんからの『誰とどこへ行く』というメールも、『今 どこどこにいる』というメールも、信じてあげられなくなっていた。
そんな時、恒例の懇親会を開催すると、お知らせがあった。 私は、出席しようか、欠席しようか迷った。 出席して、女性にだらしないのりちゃんを見るのは耐えられない! でも… と考えている時、メールが入ってきた。 のりちゃんからだ!
(ともちゃん 懇親会行くよね?)
私は正直に
(どうしようか迷ってる)
と、返事をした。 するとのりちゃんは
(僕行くし 行こうよ!)
と、返してきた。 私は気が乗らなかったが
(うん じゃあ行こうかな…)
と返事をし、出席する事を決めた。
懇親会当日
やっぱり私は気が乗らないままだったので、のりちゃんの近くの席が空いていたけれど、なるべくのりちゃんが見えない位置に座り、みんなが集まるのを待っていた。 すると、しーちゃんがやって来て、空いている席を見渡して私の隣に座った。
(あれ? いつもならのりちゃんの近くをキープするのに… やっぱりのりちゃんと何かあったのかな…)と、前に40代の女性部員に、2人でデート?してた的な事を聞いてから、ずっと頭からその事が離れなかった私は、それとなく聞くことにした
「珍しいね! 私の隣に座るなんて」
「そうかな…」
「そうだよ! いつもあっち側じゃん!」
と言って、私は少しのりちゃんを見た。 するとしーちゃんは、黙ったままうつ向き、首を横に何度も振った。 それを見て私は、私と別れていた期間に、やっぱり2人は付き合っていたんだと確信し、心の中で大きく溜め息をつき、こう思った…
(しーちゃんは恋愛対象にならないって言ってたくせに… 私も、しーちゃんだけは嫌だって 何度も言ったのに… もう… 無理かな…)
そして、しーちゃんが話し出した。
「実は、のりちゃんに結構長く片想いしてて、無理だと分かってたけど、諦めるために告白したの、最初は全然連絡とかもくれなかったのに、急に、ほんとに急に連絡してくるようになって、家おいでって言われて… 急にどうしたのかなって思ってても、おいでって言われたら嬉しいじゃん、付き合おうって言葉は無かったけど、それからよくのりちゃんの家に行くようになって、休みの日も、2人で会うようになって、2ヶ月程経って さあ!これから!って時に、これも急にメールで、(やっぱり友達以上に思えないわ、ごめん)って… キスしたくせに…」
と言った。 私は
「えっ! キスしたの!?」
と、聞き返した。(嘘でしょ!)と思いながら… するとしーちゃんは
「うん してくれた でもメールで、やっぱり友達以上に思えない って言われた時は 大人ぶって わかったよ って返事したけど、正直 納得いってない!」
と答えた。
それを聞いた私は、嫉妬や怒りと言うよりも、落胆、意気消沈、と言った言葉が合う気持ちになっていた。 そして、私はのりちゃんを見ようと顔を上げると、のりちゃんは最初に座っていた場所から移動していて、私としーちゃんが見える所に座って、こっちをじっと見ていた。 私と目が合ったのりちゃんは、唇をぎゅっと結び、ごめん…と言いたかったのだろう… 私を見ながら、みんなに分からない程度に頭を下げた。 私は何のリアクションもせず、のりちゃんから目を離した。 この日から私は、無理に時間を作ってまで、のりちゃんと会うことをやめた。
寄りを戻してから1年程した時
他のチームが人数不足で練習できないから、合同練習させて欲しいと申し出があり、他チームの女子4人と男子1人が練習に加わることになった。
女子は全員独身で、3人は彼氏がいて、1人だけ彼氏募集中らしい。 その彼氏募集中の子のことを、チームのみんなが言うには、私と性格が、何となく似てるらしい… 名前は 石田智香ちゃん、名前のニュアンスも、なんとなく似てる…
同じ(ともちゃん)だけど、すでにともちゃんと呼ばれている私がいるため、石田智香ちゃんは(いっちゃん)とアダ名が付いた。 いっちゃん達が合同練習するようになって3ヶ月程した時、4人の中の1人、長谷川美穂ちゃんが練習中に
「のりちゃんといっちゃんって お似合いだと思うんだけど、くっ付けちゃおっかな! 2人共恋人募集中だし! ねっともちゃん、そう思わない?」
と言ってきた。 私は(やめてくれー)と心で叫びながらも
「いいかも…」
と言うしかなく、そう答えてすぐ、これ以上話をしたくなくて、美穂ちゃんから離れた。 この頃からだ! のりちゃんといっちゃんの距離が、ぐっと縮んだのは… 私はそれを、練習に行く度に感じ取っていた。 のりちゃんが、今までの子達への態度と違うのも、そして、私達の別れが近いことも、感じ取っていた。
いつもなら仕事が終わったら
(終わったよ~ 今から帰るね~)
と、メールが入ってきていたのに、最近入ってこない時もあって、私の方から
(終わったよ~)
とメールしても、なかなか返事が返ってこなかったり、のりちゃんが、友達と一緒にいるという時でも、メールはしてきてくれていたのに、それも無くなってきていた。 この頃から私は、いつ別れよう…と考えるようになっていたが、のりちゃんを手放す勇気がなく、重い気持ちで日々を過ごすようになっていった。
のりちゃんと会う約束をしていた前日、私の叔母が亡くなり、明日がお通夜だと連絡があった。 私は、のりちゃんとの約束をどうしようか考えていた。 すると、のりちゃんからメールが入ってきて
(ともちゃん ごめん… 明日なんだけど、会えなくなった… ちょっと友達と会うことになって… ほんとごめん…)
私はそのメールを見た時、「ほんとのりちゃんって嘘下手だわ…」 と思い
(そうなんだ、実は私の方も会えそうになくなったから、今メールしようと思ってたとこだったの!)
と返信した。 すると
(そうだったんだ、じゃあ丁度良かったんだね!)
と返事をしてきた。 のりちゃんは、私がどうして会えなくなったのか、聞かないんだね… とガッカリした気持ちで
(そうだね、じゃあまたね)
と、メールを終わらせた。
私は「友達と会うことになった」かぁ… 多分、いっちゃんと会うんだろうな… 何かもう… 嘘つかれることに 疲れちゃったな… と思っていた。
次の日、叔母のお通夜に行く準備をしていると、のりちゃんからメールが入ってきた。
(今から友達に会いに行ってくるね! ともちゃんも用事? 頑張ってね! また後でメールするね。)
私は
(分かったよ)
とだけ返して、お通夜に向かった。
お通夜を終え、21時頃帰宅した私は、ポケットから数珠を出して机の上に置き、携帯を見た。 のりちゃんからのメールはまだ無い。 「21時過ぎか… こんな時間に入ってくるわけ無いか…」 私は携帯を置き、着替えを済ませ、数珠をしまおうと手に取った。 すると、数珠の糸が切れ、数珠玉がフローリングにバラバラバラと音をたてて散らばった。 その瞬間私は、「あぁ!
終わらせろって事なんだろうな… うん… そうだね… 終わらせよう…」と、のりちゃんとの関係を終わらせる決心をし
(のりちゃん、お別れしよう… 急にごめんね)
とメールをした。 そして、ローチェストの引き出しにしまっていたペアリングを取り出し、燃やせないゴミ用のゴミ箱にすて、携帯を枕の下に放り込み、お風呂に入りに行った。 お風呂からあがって、枕の下から携帯を取り出しメールを見たら、のりちゃんから返事がきていた。
(ともちゃん… ほんと急だね… 分かったよ… ともちゃん、今までありがとう ほんとに ありがとう。)
こうして 楽しくて、辛くて、嫉妬に狂った5年の恋愛期間が終わった。
2: ×2
叔母のお通夜の日に、大切にしていた数珠の糸が切れた事で、のりちゃんとの関係を終わらせる決心をし、別れを告げた私は、鳴らなくなった携帯に苦しめられ始め、こんなにも依存していたんだと、思い知らされた。 毎日頻繁にメールしてきたから、依存症になっててもおかしくない… それにしても、寂し過ぎる… 辛過ぎる…
こんなに辛くて苦しくても私は、チームの練習に顔を出していた。 急に休むようになったら、みんな不思議に思うに違いない… だから、いつも通りにしてなきゃ… そう思い、無理矢理笑って、はしゃいで、必死に隠していた。
のりちゃんの方は、2週間程休んで、また練習に来るようになった。 でもそれは、1人でじゃなく、2人で… のりちゃんは、いっちゃんを自分の車に乗せ、練習に来るようになったのだ! その経緯を、美穂ちゃんが話してくれた。 「のりちゃんがいっちゃんに猛アタックして、付き合いだした」 と… それを聞いて、「私はまだこんなに苦しんでるのに、のりちゃんはもう切り替わってるんだ! って言うか、私と付き合ってる時からすでに、のりちゃんの気持ちはいっちゃんに向いていたんだよね… でも、私と別れてまだ1ヶ月も経ってないのに… どうしてこんな残酷な事ができるの!?」と、心の中で叫んだ。 それから私は、2人が一緒に練習に来て、一緒に帰って行く姿を見る度に、帰りの車の中で涙を流した。 どれだけ泣いても、気持ちは全く楽にならない… 辛くて、苦しくて、やりきれない気持ちにイラ立ち、私はのりちゃんを憎むようになっていった。
私は、携帯依存症を治すため、会社に行く時は、わざと携帯を置いて行ったり、電源をOFFにしていたりして、克服出来るように必死で努力した。 でもそれは、本当に過酷だった。 わざと携帯を置いて行っても、帰ってきてから携帯を見て、アクションがあった報せが何一つ無い事に酷く落ち込み、電源をOFFにしていた後に、電源をONにしても、報せは何一つ無く、惨めさが込み上げてくる… それでも、これらをずっと続けた。 いつか必ず、克服出来ると信じて…
そして、別れた辛さを忘れたくて、仕事や家事に没頭した。
練習では、私からのりちゃんに話し掛ける事は一切せず、のりちゃんの方から話し掛けてきても、無愛想に返事をしたり、時には聞こえていないふりをして、ガン無視したりもした。 大人げない… と、誰しもが思うだろう… でも、そうでもしないと自分を守れない! それに、のりちゃんは自分の想いのまま、いっちゃんを連れて行動していて、私がそれを見てどう思っているのか、どう感じているのか、考えてなんかいないだろう… 無神経すぎる! だから、私がこんな態度を取っても仕方ないんだよ! と、私はそう思っていた。 のりちゃんも、それは分かったのか、私に話し掛ける事はしなくなった。
こんなに辛くなるなんて… 一度別れたあの時、寄りを戻すんじゃなかった…
と、私は後悔もした。
どんなに月日が流れても、どんなに泣いても、癒されることがない… のりちゃんを忘れる事もできない… 辛く、苦しい日々が続くだけだった。
そして私は、練習に行って2人を見ると、心臓が苦しくなり、脈の乱れを感じるようになった。 そしてそれは、2人の様子を思い出しただけでも、感じるようになっていった。 そんな身体の変化に不安を感じた私は、ある日病院へ行き、医者から、不整脈だと言われ、バレーボールを辞めるようにと、ドクターストップをかけられ、チームを退部する事になった。
『不倫』という、人の道を外れた事をした代償は、大きかった…
バレーを退部してから、1年程経ってからだったか、のりちゃんといっちゃんが結婚したと聞いた。 丁度その頃、私は携帯依存症を克服した。
のりちゃんと別れてから、2年が経っていた。
携帯依存症を克服してからは、自分を取り戻しつつあったが、心のキズはまだまだ癒されず、のりちゃんとの事を時々思い出すと、嫉妬に狂った感情や、怒りと憎しみがよみがえってきて、脈の乱れを感じる事も、まだあった。 のりちゃんと別れて、5年以上も経っているのに… でも、この頃から少しずつ、のりちゃんと行った場所に行っても、のりちゃんが歌っていた歌を聴いても、心の乱れを感じなくなっていき、のりちゃんとの事を思い出す事も、無くなっていった。
のりちゃんと別れて7年程たった頃、あるショッピングモールで、家族で買い物をしている姿を見掛けた。 この時私は、少しだけハッとしたが、その様子を微笑ましく見る事ができていた。 そして、のりちゃんとの楽しく、辛く、嫉妬に狂った5年間が、想い出に変わってきている事を感じた。 それと同じ時期に、私の息子が高校に進学し、小学生の時からしていた野球部に入部した。 そこで、前にバレーの大会会場で、のりちゃんがカミングアウトして教えてくれた元カノと、再会した。 私は驚き、世間は狭いという事を実感した。 そして、それからだった! 私の気持ちが大きく変わったのは…
のりちゃんと付き合っている時、嫉妬に狂っていた自分や、別れてからの、とてつもない苦しさは、それだけ私自身が、本気でのりちゃんの事を想っていたからだ! と、思うようになった。
そして、のりちゃんとの恋愛期間(5年)×2の期間(10年)を経た今
『一生に一度、出会えるかどうか分からない程の恋をした』
と、思っている…
ー完ー