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魔法専門学校

初投稿作品です

 魔法は空想上の存在では無い。

 そう遠くない昔、偉い学者が言ったそうだ。確かに魔法は今現在、誰もが持っている。

 そう、誰もがだ。

 誰もが魔法を使える。


 人生でたった1度だけ、魔法が使える。



 ♢♢♢



 この高校はいわゆる国立高校であった。魔法を人類の為に正しく使用する教育をすることを目的としており、実際に魔法によって実績を残した人物も多い。起業家、演出家、技術者、作家、政治家……多岐にわたる職業で活躍している。

 しかし、この学校の出身というだけで輝かしい将来が待っている訳では無い。前述した通りの人物と同じ道を歩むためには才能が必要となる。

 そしてこの学校は才能を伸ばすことが出来るかと問われれば、答えはNOだろう。

 いや、確実に違うと答えるはずだ。

 魔法とは生まれ持っての才能であり、努力ではどうにもならない。例えばスポーツでは9割以上の努力と残りの才能、この程度必要だと仮定する。するとどうだろうか、これは勉強にも当てはまるのではないだろうか。しかし魔法はこれには当てはまらない。魔法とは人間の遺伝子……といえば語弊があるかもしれない。遺伝子を組み変えれば魔法を自由に変えることができると言っているようなものだからだ。

 絶対不変の遺伝子。

 それが魔法だ。

 将来を決めるのは魔法。

 今の世界はそんな感じだ。


「いやはや、まだ高校1年生でもう将来を考えているなんてね。きっとユキぐらいだよ」


 ユキとは俺の名前を省略したもので、本名は御島由紀斗。有名な文豪の名前を参考にしたと両親から聞いた事がある。実のところ、その人の本は読んだ事がない。


「……実際、将来を自由に選べるのはひと握りの人間だろ? 特に俺らみたいな等級の国民にはさ」

「僕からすれば、最低限の期待しか背負わされない自分は嫌いじゃないよ」


 そう言って目の前の人物は破顔した。

 相沢亮。小学校からの腐れ縁。身長は俺よりも5cmほど高く、肩幅もある。昔から筋トレが趣味で非常に恵まれた体型をしている。運動部の勧誘が絶えないのが悩みと豪語するこいつは楽観視が過ぎると俺は思う。


「それにこの学校の普通は世の中的には上の部類に入ると思うよ。何せエリート様の学校だからね。おこぼれにあやかるなんてのは別に悪いことじゃないさ。むしろ楽でいいじゃない」

「まぁ……な」


 否定は出来ない。

 俺も苦労したいですかと問われればいいえと答える。努力というものを信用していない訳では無いが、今までこれといって頑張ることはしてこなかったと思う。祖父が編み出した武術を努力で身につけてはいるが、自発的な努力ではない。物心つく前から触れていたので、修行が当たり前のような感じになっている。

 その武術で最強になりたいと思ったことはない。第一、継承権は姉にあり、それを羨ましいとも思ったことがない。


「我が1年C組はこの学校では普通……1番楽な立ち位置じゃない?」

「いや、俺は別にこのクラスに不満はないんだよ。等級による評価も正しいと思ってる」

「じゃあなんで将来はどう思ってる、なんて聞いたんだよ」

「……なんでだろな」

「おい」


 そんな他愛ない会話の最中にチャイムが鳴り、教師が教室に入ってきた。それに反応してクラス全体が静かになり、勉強に集中する空気が流れる。

 そんな折だった。


「そういえばAクラスに転校生が来たらしいよ」

「えっ? まだ5月だよ? なんで?」

「さぁ……でもAクラスの中でもかなり貴重な魔法をもってるんだって。それこそ日本……いや、世界でも希少とか」

「へぇ」


 隣の席からそんな会話が聞こえてきた。

 4月に入学して1ヶ月しか経っていない。そんな時期にこの学校にくる……妄想を捗らずにはいられない。大金持ちがおてんば息子(娘)の気まぐれに付き合ったとか、あるいは事件に巻き込まれていて入学が遅れたとか。

 まぁ、Cクラスの俺には関係の無い話だ。



 授業が終わって昼休みとなった。

 いつも俺は学食で済ませる。この学校では弁当を持ってくる人が多く、食堂が極端に混むことはなち。更に安くてうまくてご飯のおかわり自由、という学生の味方のような制度に助けられている人も多い。俺はそんなに食べる方ではないので、いつもご飯は1杯だ。


「鳥の唐揚げ定食で」

「僕はブリ照り定食で」


 食券を出すと「了解」という声が厨房から聞こえてきた。各自でご飯と味噌汁を用意し、目的のものが出てくるまで待つ。これがここの学食のスタイルである。いつもと変わらない風景。

 ……のはずだった。


「きゃぁぁあ!!」


 女子生徒の悲鳴が聞こえた。驚いて振り返ると、男子生徒同士が揉めた後だった。そこには地面に倒れた生徒と殴ったであろう短髪で長身の生徒がいた。殴られた生徒は口と鼻から血が出ており、殴った方を睨んでいた。


「なんだ?」

「……Bクラス、それとDクラスの……喧嘩かな?」


 亮が言った通り、殴った方の制服にはBのバッジがつけられており、倒れている方にはDのバッジがつけられていた。

 この学校……というか今の世の中には格差がある。

 魔法による格差。

 才能による差別。

 人は生まれながらにして等級をつけられる。大きく分けて4つ。クラスで分かれている通り、A・B・C・Dと区分される。アルファベットで先に来る方が優遇されるが、A・B・Cにはそれほど差がある訳では無い。Dだけが圧倒的に不遇なのだ。今見ているような現状がそれを証明している。

 目安として、Aは人類にとって求められている魔法、Bは世界にとって有用な魔法、Cは一般的だが唯一無二な魔法、そしてDは使う必要のない魔法である。


「お前……ぶつかったよな?」

「だ、だからごめんって……」

「ごめんだぁ? ははっ、たかがDの分際でごめん? 言葉遣いがなってねぇなぁおい!!」


 倒れている生徒に追い討ちをかけるように蹴りが顔面に入った。鈍い音が、食堂に響き渡る。倒れていた生徒は蹴られた箇所を抑え、蹲っていた。

 食堂が異様な空気になる。


「……ちっ」


 蹴った生徒はその様子を見て舌打ちをし、その場から立ち去った。あまりに衝撃的な光景にどうすればよいか、その場にいた人は見ているだけだった。

 そんな中、


「……ねぇ、大丈夫?」


 1人……亮だけが動いていた。それに反応して俺も倒れている生徒に駆け寄る。


「……うわっ、これは酷いな。早く冷やした方がいい」

「にしても冷やせるものなんて……あっ、厨房の冷凍庫に氷ありませんか?」


 厨房から様子を伺っていた中年の女性は、はっとして急いで氷を袋に入れて渡してきた。処置としては不完全だが、とりあえずはこれで良いだろう。


「早く保健室に行かないと……」

「保健室は確か……やべ、どこか分かんねぇ。俺たちの教室から離れていたような……」

「食堂を出て真っ直ぐにあります」


 保健室が何処にあるかとあたふたしていた俺たちの元に、1人の女子生徒が現れた。

 魔法というものが世界で普及し始めた頃は、物語の世界に来たのではないかと祖父が言っていたのを思い出した。何故、そんなことを突然思い出したかというと、それは目の前の説明をすれば分かるだろう。

 まるで雪を思わせるような白い肌と髪。宝石を思わせるような緑の輝きを目に宿し、細い体躯ながらも芯があると思わせるような自信のある足取り。おとぎの国の住人の特徴のような人が実在するとは思っていなかった。


「さぁ、早く行きましょう」


 その一言で俺と亮は倒れた生徒を一気に抱えた。まるで目の前の女子生徒の鶴の一声を掛けられたかのようだった。


「あり……が、とう」


 口の中を切って喋りづらいのか、Dクラスの生徒は小声でそう言った。近くで聞いた俺でやっと聞き取れたのに、前を先行していた女子生徒は振り向き、


「構いません。困った人がいるのなら助けるのが当たり前です」


 真っ直ぐな瞳で、正義の味方のようなことをハッキリと言った。更にポケットからハンカチを取り出し、Dクラスの生徒から出ていた血を拭き取った。


「何だか今日は凄い日だね」


 亮の言葉に俺は頷くことしか出来なかった。



 ♢♢♢



「失礼します。生徒が怪我をしてしまったので処置をお願いします」


 前にいる女子生徒が保健室の先生にこれまでの経緯を説明した。1度も淀まず、すらすらと喋る姿に俺は感心していた。


「……あっ、あの子って例の転校生じゃない?」


 亮の言う転校生。

 ……あぁ、そういえば隣の人が言っていた。

 Aクラスに来た凄い魔法を持つ転校生。それが彼女なのか。確かに見た目は魔法の国の住人……その国のお姫様と言われても信じてしまいそうだ。


「……はい、ではよろしくお願いします」


 その転校生が先生との話を終え、俺たちの元へ来た。


「貴方たちは……Cクラスの方でしたか。手伝ってくれてありがとうございます」

「いえいえ、君の一言がなきゃ僕たちはあたふた踊ってただろうよ」

「あた……ふた? そんな踊りが日本にあるのですね。勉強になります」

「……え?」


 ……は? 

 何を言ってるんだこの人は。


「……ま、まぁだから感謝するのはこっち側だよ。ところで……君はもしかしてAクラスの転校生かな?」

「はい、レイン・ベルティアンセ。今日からこの国立魔法第一高等専門学校に転入しました。以後、よろしくお願いします」

「こちらこそ! 僕は相沢亮、それでこっちが御島由紀斗」


 亮に紹介され、よろしくと軽く頭を下げる。彼女は俺たちと比べて深くお辞儀をした。振る舞いやら出で立ちやらでいいとこのお嬢様のように思える。


「ところで……このようなことは普通なのでしょうか?」

「このような? あっ、さっきのか。僕たちも初めてだよ。こんな喧嘩……というか暴力だね」

「ただ肩がぶつかっただけのように見えたけど……それにしてもあいつの沸点が低すぎないか?」


 普通じゃない出来事にどう反応すれば良いか分からない。そんな3人の中に、


「この学校じゃよくある事なんだよ」


 Dクラスの生徒の処置を終えた保健室の先生が話しかけてきた。ありふれた白衣に丸眼鏡という、いかにも研究者みたいな格好の男性。柔和な笑みでコーヒーを持ちながら近くまで寄ってきた。


「もっとも、我々教師が干渉することはあまりないけどね。いつだって大人が動くのは事件が起きた後だ」

「そうですか……やはり原因は肩をぶつけた、というよりも」

「うん、ベルティアンセさんの思っている通りだよ。等級による格差社会、それは学校も例外では無いのさ」

「……そんな」

「別に珍しいことでもないだろう? 君が元いた学校でもあったはずだ」

「ありましたが……日本のような安全な国でも格差による理不尽があるだなんて……」


 信じられない、という言葉が小さく出た。

 更に先生は続ける。


「日本……だからかもね。他者を拒む性質は世界でもトップクラスだと私は思うよ。例を出すなら、海外の人に道を尋ねられると、英語が話せない日本人がほとんどだ。身振り手振りで一生懸命伝える人よりも、『アイドントスピークイングリッシュ』と言って突き放す人の方が多いのさ」

「なるほど……」


 先生という立場だからなのだろうか、何故か授業のような感じになっていた。俺や亮も思わず聞き入っていた。

 そんな中、保健室という閉鎖空間だからか、空腹を知らせる音が大きく聞こえた。俺は亮を見るが、亮は首を振った。

 ……むっ、それじゃ誰が? 


「……っ」


 ……あー。


「ええと、レインさん?」

「ふぇっ!? はっ、な、何ですか?」

「いや、お腹空いたのかなって……まぁ俺たちも減ってるけどさ」

「……」

「……」

「その……な、名前を」

「名前? レインさんだよね?」

「そ、そうですが……その……異性に名前で呼ばれたのは初めて……でして」


 ……いや、ファミリーネームを忘れたから名前で呼んだのだが。どうしてこんな空気になるのだろうか。


「ベルティアンセさん、ユキは他人との距離の測り方が苦手なんだよ。だから大目に見てやって」

「待て、俺は至って普通だぞ」

「変な人ほど自分が普通って言い張るよね」

「なんだと。お前だって変じゃないか」

「僕は自分が普通とは思ってないよ」


 亮のくせになんてことを言うんだ。

 ……いや亮は亮だ。いつもこの調子で物事を楽しそうに話す。


「それじゃあ……ベルティアンセさん?」

「いえ、別に名前で構いませんよ?」

「…………いや、ベルティアンセさんで」

「長くて喋りづらくありませんか? 名前でも構いませんが?」

「…………名前?」

「はい、名前で」


 頑なに俺に名前で呼ばせようとしているのは気のせいだろうか。何故なのか。


「よし、これで名前で呼ぶかどうかの話は終わりだね。それじゃ気を取り直してご飯食べに行こうか」


 亮がパンと手を叩いて切り出した。確かにこれ以上、目の前のお嬢様を空腹にさせてはおけない。俺たちは食堂に向かった。



 ♢♢♢



「それでベルティアンセさんはどうしてこんな時期に転校なんてしてきたんだい?」


 亮がふった質問にレインさんは箸を止めた。

 俺たちは食堂でそれぞれ頼んでおいた定食を食べながら談笑していた。先程より人が少なくなっており、会話をしていても物寂しく感じる。


「……実は、探している人が居るんです」

「へぇ、それって恋人とか?」

「ち、違いますよ!」

「ははは、それで誰を探しているの?」

「はい、私は……とある魔法が使える生徒を探していまして。その魔法の所持者がこの学校にいると聞いたものでして」


 とある魔法、という言葉に俺と亮は首を傾げた。魔法はその人物のステータスであるが故に、自ら公開するか、秘匿するかは人によって大きく分かれる。例えば『魔法は何ですか?』という質問は『年収はいくらですか?』という質問と同じ感じだと俺は思っている。


「魔法……ねぇ。それってどんな魔法かな? まぁ知ったところで『その魔法使えます』なんて言う人はあまり居ないだろうけど」

「確かに魔法を秘匿する人は多いと聞きますね」

「でも僕たちが知っている範囲なら教えるよ」

「えっ、いいんですか?」

「僕たちが言ったってことは内緒にしておいてね」


 僕たちってことは俺も手伝わなければならないのか。でもレインさんなら情報を漏らすような人間ではないと思っている。もっとも、俺たちで力になれるかどうかだが。


「それで、どんな魔法を探してるって?」

「はい、死者の声を聞くことが出来る魔法の持ち主を探しています」


 へぇ、死者の声を……。

 …………。

 ……。

 うん? 


「ごめんレインさん。もう一度」

「死者の声を聞くことが出来る魔法の持ち主を探しています」


 ……聞き間違いではない。


「……まじ?」


 亮は笑いを堪えながら、こちらを見てきた。

 おい、なんだその目は。


「……はははっ! こりゃ凄い!」

「えっ、えっ? 何ですか?」

「はは……はぁ、笑った。ベルティアンセさん、その魔法の持ち主知ってるよ」

「だ、誰ですか!?」

「……そこ」


 亮が指をさした。

 その先にいる人物。

 驚いたように目を見開き、橋を持った手を止めていた。癖のない黒髪で前髪を横に流し、C組のバッジを制服につけていた。見た目はごく普通の高校生……。



 というか俺だった。








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