貴族的ヒロインの排除方法
「対象が本日、五人目と関係を持ちました」
「そう、では排除開始して」
「承知しました」
私は公爵家の令嬢、王太子の婚約者。
そして、転生者である。
生まれた時から前世の記憶はあったが、部分的だったためか、今世に特に支障はなかった。
前世は地球の庶民だったが、今世の貴族生活も受け入れている。
だからだろうか、同じ転生者と思われるヒロインが受け入れられなかった。
ここがゲームだと信じている彼女は、この世界に不要だ。
現在通っている学園に入学してきた男爵家の令嬢が、下位貴族にも拘らず、高位貴族の令息を次々籠絡していった。
そこで私は初めて、ここが乙女ゲームの世界の可能性に気づいた。
普通ならハニートラップや暗殺を疑うはずの、婚約者がいる令息が、簡単に籠絡されていく。
貴族生活に染まった私には信じられなかった。
そんな時だ。
婚約者の王太子殿下の周りをうろちょろされ、
警戒した私の耳に彼女の声が聞こえたのは。
「次のイベントなんだっけー、逆ハールートまじハードなんだけど! 悪役令嬢たちも仕事しないしどうしようかなー」
そうか、彼女が【ヒロイン】で
私は【悪役令嬢】なのか。
しかし、よくあるゲームの嫌がらせやイジメなどは貴族ではしないのだ。
いや、もっと姑息で醜悪と言うべきか。
あんな稚拙なことは貴族はしない。
男爵家の令嬢、しかも庶子一人、高位貴族からしてみれば、消したところでなんともない。
それよりも、政略結婚とはいえ婚約者がいるにも拘らず、婚姻前に不貞を働き、瑕疵がついた家には膨大な損害が発生する。
各家の未来とヒロイン一人、天秤にかければ簡単なこと。
攻略対象の家も、婚約者たちの家も、学園についている侍従や侍女から、素行については各家に報告されているだろう。
ヒロインが編入してから4ヶ月。
そろそろどこかの家が動いてもおかしくない。
攻略対象全員が、ヒロインと肉体関係を持ったのだから。
しかし、このスキャンダルは効果的に使いたい。
王家に貸しを作れる最高の舞台だ。
だから、私が動く。
ヒロインの周辺を調べたが、男爵家はシロだった。
当主も嫡男も武官で、情報に疎く、夫人が亡くなっているために、ヒロインの好き放題。
家を潰すのはやめてあげた。
男性関係は、攻略対象以外にも複数発覚。
これはもう、娼婦と変わらないだろう。
だから、娼婦として死んでもらう。
ある日、体調を崩しはじめたヒロインがとうとう寝込み、1週間程して亡くなった。
買収した侍女と、私が裏で手引きした医師による毒で。
そして、学園長から攻略対象全員とその婚約者が集められた。
そして、医師が告げる。
「先日亡くなられた男爵令嬢ですが、娼婦がよくかかる病で亡くなられたことが判明しました。これは粘膜の接触でうつる可能性が高い病気です」
ヒュッと誰かの喉が鳴った。
「彼女と接触が多かったと噂のある君たちを集めたのはその為です。また、婚約者にも注意が必要なので同席願います」
医師が全員の顔色を窺う。
私は笑うのを我慢する為に頬を噛む。
そっと目線を巡らせると、攻略対象全員の顔が青い。
「この中で彼女と口付け、または肉体関係を持った方は診察を受けていただきます。発症の個人差があるので経過観察も必要になります。彼女と関係を持った後、婚約者とも関係があった場合は申告してください。婚約者にも早期治療が必要です。嘘はつかないように」
攻略対象の一人が真っ青な顔色で聞く。
「あ、あの、口付けもダメなのですか」
「粘膜の接触ですから、口付けも対象です」
質問した攻略対象がチラリと婚約者の方を見た。
あー、ヒロインと肉体関係後も婚約者に口付けしてたのか。
なんてクズなのだろう!
令嬢が視線に気づいてしまった。
「ま、まさか! 彼女とはなんでもないと言っていたあの日!?」
わー、それは怒ってもいいと思う。
これは婚約破棄あるかな?
ヒロインの男爵家ダメかもしれんが、頑張れ。
お家取り潰しでも武官だしいけるか?
さて、爆弾投下しましょうか。
「こちらの殿方五人は、今月肉体関係を持たれたと影から報告されておりますわ。私は診察の対象外ですので退室してもよろしいかしら?」
全員の視線が集まる。
婚約者含む攻略対象達がハクハクと口を動かす。
そして医師に更なる爆弾を促す。
「やはりそうですか。彼女は他にも複数人と関係を持ったと発覚しております。その中の一人が同じ病で亡くなっておりました。ご協力感謝いたします」
私の出番は終わり。
死の恐怖に怯えながら、思い知ればいい。
貴族社会の厳しさを。
無能な自分を。
私は悪役令嬢じゃない、ただの公爵令嬢。
貴族のやり方でヒロインを排除しただけ。
この先ずっとあなたたちのことは語り継がれるわ。
娼婦のような女と、それに騙された男達。
これでしばらく貴族社会で浮気は減るでしょう。
ありがとう、ヒロイン。