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Sempre  作者: うちょん
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おまけ②【変記号】


 おまけ②【変記号】














 なずきには、姉がいた。

 姉とはとても仲が良くて、いつも一緒にいた。

 なずきと姉は父親と一緒に暮らしていたのだが、母親は父親に愛想を尽かし、1人で出て行ってしまったのだ。

 とはいえ、姉は母親と連絡を取り合っていたらしく、何処に居るのかを知っているという。

 「僕はお姉ちゃんが大好きだよ」

 「私も大好きよ」

 姉はとても優しくしてくれたし、なずきを大切にしてくれた。

 そんな2人には秘密があった。

 「お姉ちゃん、今日も一緒に寝よう」

 「いいよ」

 なずきは姉の布団にもぐりこむと、姉はなずきの顔に自分の顔を近づけてきて、2人はそのままキスをする。

 そして深い行為へと移行する。

 こんなことが始まったのは、いつからだろうか。

 どちらから、とかいうこともなく、なんとなく、流れでそうなってしまった。

 でも嫌ということもなかったし、姉のことが大好きだったなずきは、ずっとこのままでいたいと思う様になっていた。

 無意識による相互依存とでもいうのか。

 そしてある時、姉が泣いていたので理由を聞いてみた。

 すると、父親に暴力を振るわれ、耳元で姉を傷つけ辱めるようなことを、舐めるように言い続けるのだと言う。

 なずきは赦せないという気持ちと同時に、嫉妬が芽生えていた。

 だから、姉の耳を切り落とした。

 こうすれば、姉は誰の言葉も声も聞かなくて済むと思ったから。

 姉は、笑って赦してくれた。




 ある日、なずきが出稼ぎから帰ってくると、姉が父親と行為に及んでいたのを見てしまった。

 明らかに姉は嫌がっていたけど、そのうちに女性の顔になってしまって、悔しい感情と自分の物だという所有物を奪われたような感情が混じっていた。

 強制的支配による依存。

 父親は、なずきと姉の関係に気付いていた。

 だからこそ、姉の足を切り落とすという手段に出た。

 そうすれば、姉がここから逃げ出すことが不可能となるからだ。

 姉は、笑って大丈夫だと言った。

 言い忘れていたけど、なずきと姉は双子だ。

 男女だから多少似ていないところもあるが、基本的には似ている。

 ある日鏡で見た自分を見て、なずきは自分が姉になれるかどうか考えていた。

 自分のことを愛そうと思ってもなかなかなれないけど、姉のことは大好きだし、それ以上の感情だってある。

 自己愛による自己依存だと言われても仕方がないかもしれない。

 なずきは、自分が姉になれるのか、姉は自分になれるのかを確かめなくて、姉になりたくて、姉にこんな提案をした。

 「お姉ちゃん、僕と血を交換しよう?」

 姉が好きでたまらなくて、姉になりたくて提案をしてみたけれど、もちろん断られる可能性だってあった。

 しかし、姉はいいよ、と言ってくれた。

 なずきは、自分の腕と姉の腕に傷をつけると、互いの傷口に口をつけ、そこから滴る血に吸いつく。

 異様な光景ではあるが、本人たちはいたって真面目だ。

 「お姉ちゃん、僕になりたい?」

 「うん、なりたい。なずきみたいに、男の子になりたい」

 姉は、泣きながら僕の腕に吸いついた。




 母親が、久しぶりに姉に会いたいと言って、姉を連れてどこかへ行ったらしい。

 父親がとても荒れていて、僕を殴る。

 姉が帰ってきたのは翌日で、とても痛々しい姿だった。

 どうしたのかと聞けば、母親に襲われ、女性同士の行為をさせられたという。

 信じ難い話だったが、真実だと思う。

 父親にはすでに愛されていない自分とは対照的に、女として成長し父親にまで愛されている姉に対する醜い憎悪。

 憧憬による過剰依存とも言える。

 そして母は、姉の片目を抉った。

 姉は、弱々しく僕を抱きしめた。

 姉が日に日に弱って行く姿を見て、もう僕は我慢できなくなっていた。

 姉が寝ている間に帰ってきた父親は、いつも通り酒を飲み始めてすぐに酔ったから、包丁で刺して殺した。

 姉から聞いた母親の住所へと1人で向かって、不用心に出て来た母親も、同じように同じ包丁で刺して殺した。

 部屋の中には、あの時姉の目から抉ったのであろう目玉が転がっていたから、僕はそれを持ちかえる。

 姉は心配したような顔で待っていたから、全部終わったと教えた。

 安心したような表情を浮かべて、姉は僕に強く抱きついてきたけど、それと同時にこうも言った。

 「私も殺して」

 僕はとても悲しかった。

 でも、姉を助けてあげたかった。救ってあげたかった。守ってあげたかった。

 姉が望むことなら、なんでもしてあげたかった。

 だから、僕は姉の首締めて殺した。

 姉は何も喋らなくなってしまったし、何も話さなくなってしまった。

 骨の髄まで愛したくて、僕は姉の身体から骨を抜いて、姉が他の人を抱き締めないように、腕も切り取った。

 母のもとから持ってきた姉の目を自分の目に入れようと思ったけど上手くいかなかった。

 もどかしくて、しかたなかった。

 姉の肌も感じて痛くて、皮膚を剥ぎ取って自分の肌の上に重ねた。

 心臓移植もしようと思ったけど、出来なかった。

 姉が生き返るかもしれないと思って、教会に行って姉の腕とか足とか、身体を捧げてみたけど姉は起きなかった。

 でも僕は姉をまだ愛していた。

 僕は姉の子宮を取り出して、体外受精が出来ないかと画策した。

 もちろん、僕と姉の子だ。

 なんとか産まれた子供は、すぐに死んでしまったけど、ホルマリンにつけてあるからすぐにでも動き出しそうだ。

 僕がそんなことをしている間に、教会に捧げた姉の身体が無くなっていて、僕は姉の顔を探した。

 何処にあるんだろうか。

 僕は絶対に探し出してみせる。

 「だって僕は、お姉ちゃんなんだから」




 歪で悲しい、愛の歌。


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