8.泥沼式に落ちていく……
ダメだ……。
全然意欲が湧かない。
年末までには何とかして投稿するので、もうちょっと待ってください……。
艶やかな黒い髪。
パッチリと開いた大きな紫水晶色の瞳。
唇には目と同じ紫色の口紅が引かれており、ゴスロリちっくな衣装によく映える様相をしていた。
誰がどう見ても美少女と称されるであろう鏡に映った人間の名は……。
「天雷紫乃、と言った……というか、まるっきり俺なんですけどね」
「うんっ………似合ってるよっ………」
パシャパシャと携帯のカメラ機能で俺を取りながら興奮しているユリはそういった。
◆
女装が趣味の変態だと告白した時から一時間が経過していた。
ユリの怒りを鎮めるために言ったその冗談は、思った以上に彼女の受けが良かったらしく、どこからか材料を持ってくると、早速俺に着替えるように指示した。
最初は、
『いや……人前でするのは恥ずかしい、というか……』
と、遠慮してる風に見せて断ろうとしていたが、
『ーーーやれ』
というユリの端的な言葉によって押し黙ることとなった。
そして、彼女の言う通りゴスロリの服に着替えた後、その写真を撮られるという恥辱に満ちた行為をされているというわけだ。
「じゃあ………こんどは、スカートの、すそ、めくって………?」
「え?……こ、これくらいか?」
「もっと………パンツが、見える、ギリギリまで………」
「うっ……わ、わかった」
最初は、ただ撮るだけだったユリ。
しかしその行為も徐々にエスカレートしていき、今では若干変態チックなポーズまで取らされている。
だが、俺に拒否権はない。
俺は彼女の言う通りにスカートをパンツが見えるギリギリまで捲り上げた。
……ちなみに、俺が今はいているのは女の子用のパンツです。
めちゃくちゃ恥ずかしいな……。
「うん、うんっ………イイ、すごく、イイッ………!」
女装姿の俺を撮っているユリの目は段々とおかしくなっていき、今となっては目の焦点がどこに向けられているのかも判断できない。
ただ、その網膜が俺の姿を焼き付けていることだけは理解できた。
◆
「うん……ありがと……っ」
一頻り俺の女装姿を愉しんだユリは、静かにお礼を言うと携帯をポケットに仕舞った。
「いや、まぁこんなことで良いなら……」
本当は“こんなこと”では済まされないぐらいに屈辱的な行為ではあったものの、余計なことを言って藪蛇にでもなったら困るので、俺はありきたりな言葉を返してすぐさま事態の収拾に向かう。
兎にも角にも、もうこれ以上女装する必要はないのだ。
これで厄介ごとは済んだ。
そう思うことにしよう。
と、無理矢理に自身を納得させてニーソを脱ごうとしたとき、ユリからとんでもない一言を頂いた。
「ーーーじゃあ、スーパーに白菜買ってきてよ」
「……は?」
何故に白菜?
というか、なんで俺が買いに行かないと行けないのか?
「……なんだ、夕食は鍋なのか?」
「ううん、カレー」
「だったら、白菜いらないじゃん!」
「でも……必要だし、ね?」
いや、意味わからんし……。
そんな、ね?とか同意を求められても俺じゃ答えられませんけど?
「わかった、とりあえず白菜がいるんだな?じゃあ、ちょっと着替えるから少し待っててーーー」
「ーーーだめ………今すぐ、言って」
「は……?今すぐ?……この格好で?」
「うん……その格好で…………」
……なるほど、話は読めた。
途中までてっきりこいつはホントにカレーに白菜を使うつもりなのかと戦々恐々としたいたけれど……なんのことはない。
こいつはただ俺に嫌がらせがしたいだけなんだ。
ユリは先ほど女装で、俺が女装が趣味の変態だとは納得しても、おそらく俺はオープンな変態じゃないと判断した。
まぁ、実際俺はユリに見られて恥ずかしがっていた訳だし、当然といえば当然だ。
そこで、ユリは新しい嫌がらせを思いついた。
というか、多分未だに俺の部屋に女性物の服があるのが納得いってないのか。
それの意趣返しと思えばわからなくは、ない。
いや、でもこれは流石に断れる案件だ。
すごく恥ずかしいから無理だ!といえば押し通せるはず。
そう思って口を開ける前に、ユリは追加で条件を出した。
「しなかったら……この写真を、あした、教室に………ばらまく………」
「あっ、あっ………そ、それはッ!?」
そこには、スカートをパンツが見えないギリギリまで捲り上げた男の娘ーーーというか俺が映っていた。
も、もしかして、こいつ!?
俺にこの要求を飲ませるためにあんな恥ずかしい格好をさせたのか!?
だとしたらーーー
「ちなみに………コレは、既に家のパソコンに……メールで、添付した、から………わたしの、携帯、とっても………無駄、だよ?」
「くっ……」
「ねえ、どうする?言うこと、聞く?聞かないなら写真………教室に、まく……けど?」
「……わ、わかりました。喜んで買い物に行かせていただきます!」
「うん……いってらっしゃい……っ」
俺は泣きながら財布を持って、家を出た………。
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