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7.実は……

次は月曜日投稿予定です。



「ねぇ、どういうこと?なんで?なんでなの?なんでこんなところにこれがあるの?」


荒ぶる神の怒りを体現するかのように、ユリは黒い眼を瞳孔いっぱいに見開いた。


「はい、すいません……!」


そんな怒り心頭な様子のユリとは対照的に、俺は無様にも床に伏して一生懸命に許しを乞いていた。


「だ・か・ら!謝れなんて言ってない!なんでここにあるのか、って聞いてるの!答えて!!!」


「ひっ……!」


ガシガシッ、と俺の頭を踏みつけ彼女はヒステリックに叫び続ける。


「わたしのこと!好きなんでしょ!?だったら!なんでこんなモノがここにあるの!?ねえ!答えてよ!ーーー答えろよ!!!」


「ゲホッ!」


頭を足で押さえられた状態で、腹にも足で蹴飛ばされ俺は思わず噎せてしまう。

しかし、彼女の怒りは留まるところを知らずただ俺だけを見つめている。


その彼女の右手には、どう考えても女用としか思えない、黒いアダルティなパンツが握られていた。


どうしてこんなことになってしまったのか……。


俺は約数十分前のことを遠い過去のことのように思い出していた。





俺の飯を毎日作る、と宣言されてから時間が経ち……放課後になった。


本来ならば7時近くまでユリと訓練をするのが恒例なのだが、今回は俺の飯の材料を買ったり料理の作り置きをしたりと色々と準備があるので、訓練はお休みということになった。


「ふふっ♪」


「随分とご機嫌だな」


「うんっ……だって、しのくんの、おうちにいけるんだもん………たのしみ、だよ」


「……あんまり期待するなよ?俺、整理整頓は得意じゃないから部屋は汚いだろうし……」


「だったら、わたしが、掃除するっ………」


「そうか……」


なんて会話をしながら、俺たちは家へと向かった。


ユリがご機嫌なのは当然として、実を言うと俺もそこまで機嫌は悪くない。

理由は、ユリとの特訓がなくなったからだ。


あの特訓、どんな相手を想定してのものかは知らないが……。

少なくとも学生にやらせるものではないな、と思うぐらいにキツイ。

もし、俺が本当にただの学生だったら絶対に投げ出しているだろう、と思うほどだ。


何がなんでも7位を獲得したい。

そんなユリの執念がひしひしと伝わってくる訓練内容であった。


というわけで、俺としても訓練が無くなるという情報は朗報であり、ユリが俺の家に入ってくるのを少しは歓迎しようかなと思える程度には機嫌が良かった。


当初はヤンデレに住所を知られるとかヤバすぎるだろ!と忌避していたものも、俺もこの四日間ぐらいである程度ユリの性根が理解できたので、そこまで生命の危機を感じていない。

どうせ、住所は元からバレてるだろうしなぁ……。


そんなことを考えながら歩いていると、ボロボロの木造アパート即ち俺の借りてる宿に到着した。


「ここが俺の家だ」


「へぇー!………わりと、古風な家に………住んでるんだ、ね?」


「ああ、まぁな」


このアパートの大家に遠慮しているのかどうかは知らないが、ユリは“古風”という婉曲表現を使って苦笑を作った。


ただ、ぶっちゃけた話、俺の家は古風なんてもんじゃなかった。


二階建て木造アパート『日和』

全体的に何か虫が集った跡のようなものが壁にこびりついており、二階に行くための階段の手すりが錆び付いていたりして如何にも倒壊寸前といった雰囲気を醸し出している。

夏は蒸し暑いし冬は寒い。

正しくダメな家の典型としか言えない有様で、たまに水道やガスが止まったりと管理もボロボロ。

一応、一部屋につきトイレと風呂はついちゃいるが……。

それもオマケ程度の機能しか果たしていない。

防音も全然なっちゃいないので、下の階の恋人二人のイチャつきがウザくて堪らねぇ!


そんな感じのアパートである。


俺はユリの気遣いにあまり構わず二階の部屋に向かう。


扉には、2のCと書いてある札が一枚、ヨレヨレの状態で掛かっていた。


「2のC………これが、しのくん、の……」


「もう外観でなんとなく分かると思うが、ここはマジでオンボロだからな?あんまり汚くても文句言うなよ?」


「………うん」


ユリの返事を聞き、俺は鍵を差し込みガチャリと開けた。


六畳一間、プラスのキッチンと風呂トイレ付きで月3万二千。

駅やバスなどの公共交通機関も遠くはなく、コンビニは徒歩3分で着くところにある。


まぁまぁの都心……。

それで部屋もそこまで狭くはなく、さらには家賃が3万ちょっと。

俺としてはかなり良心的な値段だと思うのだが……。




数時間後。


ガサゴソガサゴソ……。


俺とユリは二人で掃除をしていた。

しかし、もう腕が疲れたなぁ……。

そう思った俺はユリに休憩を提案する。


「ふー……そろそろ一息つけないか?」


「うん、わかった………」


最初、俺の部屋に入ったときは俺が病気になってしまう!とか嘆いていた。

そしてこうしてはいられないと、いきなり掃除をし始めたのだ。

……俺を巻き込んで。


いや、別にここは俺の部屋だから自分の部屋を自分で綺麗にするのは当然と言えばそこまでなのだが……。

俺としてはこのくらいの汚さなら許容範囲かな、と思っていたわけなので、そんな掃除に付き合わされるのはまあまあ不服であった。


しかし、不満を垂れながらもあれから二時間。

午後6時半をもって俺の部屋は大分綺麗になっていた。

所狭しと置かれた物は整理整頓されて床が見えるようになり、錆び付いた窓は専用の洗剤を使って綺麗にし、埃の溜まっていたキッチンのゴミ置場も袋に包んでゴミ集積所に置いていった。


部屋として見られるようになったので、ユリもその結果に満足して掃除の手を止めることに賛成した。


「ふー………ちょっと、汗、かいたし………風呂に、入ろっかな………と、おもう、けど……良い、かな?」


「着替えとかはあるのか?」


「うん、一応……もって、きた………」


「そうか、なら問題ないぞ。ただ、うちの風呂はボロボロだからいきなりはお湯でないからな?シャワーからお湯出るまで待ってくれ」


「うん、わかった………」


そう言ってユリは風呂場に向かった。


ふー、これでゆっくり出来るぜ。


俺はユリが居なくなったことを確認してから、地面に寝転がる。

掃除して綺麗になったからか、普段よりも寝心地が良い。

そのまま横になった状態で目を閉じてみると、不意に風呂場の光景が思い浮かばれる。


確かまだ風呂の掃除はしてなかったからもしかしたら汚いかもしれないなー……。

……って、あ。

そういえば、干しっぱなしの服が風呂場に置きっぱなしだったっけ?

だとしたら、ユリには手間をかけさせてしまうな……。


一瞬、取りにいった方が良いかな、と思いはしたものの、ユリが既に真っ裸だったら困るので、俺は思いとどまってまた寝っ転がる。


まぁ、あんまり負担になるもの干してないしな。

精々タオルとかハンカチとかそんなもんだろ?


と、そこまで考えて俺はとんでもないことに気付いた。


「そうだ!俺、確か理音の下着を干しっぱなしーーー」


「ーーーねえ?」


俺が何かを呟くよりも早く、『彼女』は現れた。


「えっ?あっ、えっと………」


「これ………明らかに、女性物の、下着だよ、ね……?しかも、わたしの、物じゃない、他人のーーー」


ゴゴゴッと瞳に熱を宿らせて、ユリは問う。


「ーーーねえ、なんでこんな物がここにあるの?」


……以上が、事のあらましであった。





「ねえ、早く答えてよ?ーーーねえ!!!」


「グゲッ」


踏み潰されたカエルの断末魔のような悲鳴が響く。


ぐっ、どうする?

このままじゃ、最悪ヤンデレとの無理心中バッドエンドが来かねない。

何としても避けなければならないが……。


ガンガンと腹と頭を蹴られながら、俺は必死に考える。


……どうする、もう素直に言うか?

もしかしたら案外許してくれるかもしれない……。

素直に言えて、偉いね、って……。


いや、そんな甘い娘じゃない。


無言でナイフをぶっ刺してくる可能性の方が高い。


「答えろ!答えろ答えろ答えろ答えろ答えろ答えろ答えろ答えろ答えろ答えろ!!!!!!」


「うっ………ふぅー、ふぅー……」


もうこれ以上時間を延ばしておけない。

限界だ……。


言う、言うしかない……ッ!


本当は、こんなこと言いたくなかったんだが……。


俺は決死の思いで口を開く。


「じ、実は!」


「………?」


「じ、実を言うと……」


うわー、言いたくねぇ。

でも、言わなきゃ。

でないと、この場をおさめられない!


イケ!

言うんだ、俺!

勇気を見せろ!!!


ゆっくりと息を吸いそして大声で言った。



「ーーーーーー俺は!女装が趣味の変態なんだぁあああああッ!!!」


「………………えっ?」


終わった……俺の社会的な地位。


ポカンとした顔でこちらを見てくるユリを見て、俺はそう思った。






ブクマ、ポイントありがとうございます!

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