12.招集命令
中々、文字数が増えない……というか、昨日よりも減ってる……。
食事を済ませた後、いつも通りに風呂に入って仮眠を取ろうとしたが、そこで俺の携帯(仕事用)に着信が入った。
『紫電さん、今空いてますか?』
「ん?まぁ、家で寛いでいるところだけど?」
『でしたら、すぐにアジトに来てもらって良いですか?招集命令が出てるんです』
「……」
“命令”と言ってるのに人の是非を問うってなんかおかしくない?
普通、命令は強制的なものだろう?
しかし、最近はろくに眠れてなかったし、今もなんか頭痛いしでちょっと行きたい感じじゃないなぁ……。
どうする?断るか……?
「……誰の?」
『ボスです』
「………」
いや、それ拒否権なくね?
俺は無言で電話を切ると、すぐさま出かける支度をした。
◇
「ふぅ〜……」
無言で切られた携帯をソファに放り込み、私は(紫電さんが使用済みの)枕に顔を沈める。
「んぅ………っ」
紫電さんのにおいぃぃぃぃぃっっっっ!!!
先ほどまで本人の声が耳朶を刺激していたこともあり、一瞬で全身が火照る。
「ふぅ〜……」
万が一にでも、仕事に支障をきたすわけにもいかないので、布団を巻き込むようにしてぐるぐると回りながら、なんとかうちに込められた熱を鎮める。
ここはアジトに設けられた戦闘員専用の部屋。
一応二人部屋として設計されているものの、私のパートナーである紫電さんは表の仕事の都合上、この部屋には滅多にやってこない。
『ノア』という組織は、基本的に常に二人一組を心掛けるように言われている。
それこそ仕事中は勿論の事として、プライベートにおいてもそうだ。
一緒に行動しないのは風呂とトイレのときだけで、その規律はボスでさえもきっちりと守っている。
だからこそ、最初紫電さんのパートナーになれたときは、嬉しさ半分恥ずかしさ半分といった感じではあったけど、彼との新生活を楽しみにしていた。
なのに、蓋を開けてみたらこれだ。
紫電さんはいつも一人で行動してるし、ここには中々帰ってこないし、表の仕事が何なのかも教えてくれないし、プライベートなことも一切語ってくれないし……。
しかも、本名だって私は教えたのに彼は全然言いだす気配がない。
もしかして、このまま茶を濁す気だろうか?
そんなこと罷り通るはずがない。
今度、絶対に問い詰めて吐かせてやる……どんな手を使っても!
それに、ボスもボスだ。
私がいっつも紫電さん勝手気ままな態度を咎めていても、横から入ってきて、
『まあまあ、良いじゃないか』
とか、適当なこと言いやがって!
なんで彼にだけ甘いんだろうか?
いつもは規律を破った奴は即刻、罰を与えているのに……。
今回の任務だって招集命令なんだから隊員を強制的に喚び出すのが普通なのに、紫電さんだけは、
『来れなかったら、無理して来なくてもいい、と言っておいてくれ』
とか、言いやがって!
なんだよ!
あいつ、紫電さんにほの字かよ!
キモいわ、デカブツ!!!
「ふぅー、ふぅー、ふぅ〜〜……」
おおっと、いけないいけない。
これじゃあ逆に興奮してしまう。
今はとりあえず、今回の仕事に集中しないと……。
「はぁ〜……仕事の報酬、紫電さんの束縛権とかにならないかなぁ……」
私はもう一度紫電さんが使っていた枕を抱きしめると、居住まいを正してこの場を後にした。