10.危険な少女
他力本願の方が人気だな……何でだろ?
よくわからないけど少しショックを受けている自分がどこかにいる。
とりあえず当面の目標は他力本願を追い抜くことにします。
すいません、諸事情によりしばらく投稿できません。
次話投稿は、2月7日になります。
首が捻り切れたチャラ男二人の死体。
その隣で倒れ伏した俺を抱き起こすと、何か飲み物でも飲むか?と尋ねてきた。
「いや、今はそんな気分じゃないし、それに……」
「………あっ」
俺の視線は完全に死体へ向いていた。
そのことに気付いた黒髪の少女も俺の言いたいことを理解できたのか、ハッとした表情を見せる。
「そう言えば、死体処理がまだでしたね。はやく行わないと犯行がばれてしまうというのに、私としたことがうっかりしていました」
「………」
いや、別にそんなことを言いたかった訳じゃないんだけどな?
俺としてはもっとこう穏便に事を運べなかったのか?とかどうしてこんな所で人を殺したのか?とか人の死に対して抵抗が無さすぎだろとか……。
色々と言いたいことはあったものの、助けてもらった事実は変わらない。
恩人に仇なすというのは俺のポリシーに反するので、黙って彼女の死体処理を手伝った。
死体処理の手順は簡単。
死体にガソリンをまき、火を投下。
死体が完全に燃え尽きるのを待ってから退散、という具合だ。
待っている間に誰か来たらどうするんだよ、と思いしたが、彼女曰く、
『私の家の権限でどうにでもなるでしょう』
とのこと。
着ている服装からして何となく勘付いてはいたが……。
やはり彼女はやんごとなきお方のようだ。
ならば、心配は無用だろう。
と、そう考えながら燃えカスになっていく死体を眺めていた。
◆
「さっきはありがとな?助かったわ……」
「えっ?」
所変わって、近所の公園。
死体処理も無事に終了し、ちゃんと証拠隠滅が確認できた後、俺たちはそれぞれの家に帰ろうとしていた時。
ちょうどこの公園を境にして左右に別れるようだったので、そう言えばまだ礼を言えていないな、と思い謝辞の言葉を発した。
いきなり言われたためか、黒髪の少女は面食らった様な顔をしてこちらを見ている。
「いや、お前がいなかったら俺は男でありながら処女を失うところだったかもしれなかったからな……」
「ああ、そういうことですか………っというか、貴方は男性だったんですか?」
「ん、そう言えば言い忘れていたっけ?俺は普通の男だぞ」
「信じられません……」と呟く黒髪の少女。
目は肩は胸を行ったり来たりして、最終的には俺の股間を凝視していた。
「あんまり見られると恥ずかしいんだが……」
「あっ、すいません。つい……」
目を手で覆って見ない様にする、が……。
結局その手も開かれたこっそりと、いやほぼ堂々と俺の股間を覗き見ている。
もう放っておくか……。
俺が諦観の念を抱いていると、今度は彼女から声がかかる。
「あの……えっと、お礼は嬉しいんですけど……私が怖くないんですか?」
股間を凝視しながらオズオズとそう尋ねる。
うーん、それはどういう意味なんだろうか?
性的な意味で襲われるのが怖くないのか?ということだろうか?
だとしたら問題ない。
こんな美少女に襲われるんだったら俺としては本望だ。
というかむしろ聞くことはそれで良いのか?
何で女装してるのか?とかは気にならないのだろうか?
とか考えながら俺は口を開く。
「いや、別に?何でそんなこと聞くんだ?」
「あっ、えっと……その、私が何の躊躇いもなく人を殺したりするものですから……よく、周りの人から怖がられるんです、よ。だから……」
何だ、自分でもそれが異常であることを自覚しているのか。
だったらもうちょっと自重するなり人目を避けるなり色々方法があるだろうが。
とは思いはしたものの、こんな涙目でこちらを見つめてこられると、俺も流石に強くは言えない。
だから俺は、出来るだけ相手を傷つけないような言葉を選んだ。
「別に気にしなくて良いんじゃないか?」
「えっ……?」
「いや、お前が周りにどう言われようが、そんなに気にすること無いんじゃないんか?殺しは良くないなんて言う奴は結構多いけど、俺としては助かったんだし、文句を言われる筋合いはないだろ?」
「でも、私……沢山の罪の無いの人の命も奪いましたし……」
罪の無い人の命、ね……。
何だかそこはかとなく不吉な印象を受ける言葉だ。
罪の無い、なんてそんなものは誰にもわからないと言うのに……。
そんなことを口に出来るということはそれだけ後ろめたいことをやってきている証拠。
俺としてはむしろそんな奴は糾弾されてしかるべき、と考えるのだが……。
何だかこの黒髪の少女の目がな……ユリに似てて怖いんだよなぁ。
もし拒絶されたら即座に殺そう。
と、そんなことを考えていそうで……。
俺は額から滴る冷や汗を拭いながら言葉を紡ぐ。
「……罪の無い、って何だよ?」
「……へ?」
「だから、罪の無い、って何だよ?」
「それは……一般市民だと思い、ますけど……」
「ふーん、じゃあさ。さっきのチャラ男二人は?あれは一般市民に入んのか?」
「入ると思います……。特殊な武芸を収めておらず、どこの組織にも所属していない様でしたので……」
「そうか……でも、俺からすればあいつらは立派な犯罪者だったぜ?というか、誰がどう見ても犯罪者だっただろ?」
「まぁ、それはそうですけど……」
「だから、さ。そんなに気にすること無いと思うんだよな、お前が殺した人間のアレコレとかさ……。いや、もちろん俺みたいな部外者何言っても軽い言葉にしかならないとは思うけど……でも、少なくともお前のその殺しのおかげで助かった人物が一人は居るんだ。だからーーー」
「ーーー別に胸張って生きてても誰も文句はいわないんじゃないか?」
「あっ……えっ、と……」
「まぁ、もしかしたら言う奴がいるかも知れないが……そしたら俺に言えば良いから。俺も今日助けてもらった恩返しとしてそれなりのことはしてやれるはずだし……」
「あ、ありがとう……ございます」
恥じらいながらもそう礼をする彼女の姿は美しはあったが、それと同時に触れれば毒に侵される様な危険な匂いを放っていた。
もうこれ以上話すことはないだろう、とそう思って踵を返せば、
「あのっ!名前を、教えてください……」
と言われたので、走りながら、
「天雷紫乃!じゃあ、また会おうな!」
と心にもないことを言ってその場を後にした。
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