第94話 真 実 ~ググったらいけない~
(見覚えがある少女がいる。
見間違えるはずがない。少しだけ猫のような釣り目の修道服から見える整った顔の女性。
カスミさん・・・?
なんで?)
庄野はゆっくりとカスミと思われる女性に近づく。
「カスミさん?」
庄野が声をかけると、庄野の顔の方へと目線をむけた。
(あぁ・・・カスミさんだ。
どうして生きているのか不思議だが、魔法が存在する世界だ。そういう薬とか魔法で回復したのかもしれな・・・ぐふぅ!!!)
突然、庄野の腹部に何かが突き刺さる。
完全に油断していた庄野の水下に、カスミの拳がめり込む。
あまりの苦痛に庄野は地面に膝をつき、うずくまってしまう。
カスミは腹部から拳を抜くと、数歩下がって左手を前に重心を低く構える。
「え・・・カスミさん・・・何、で・・・。」
「ここに何しに来たんですか。あなたのような化け物が来ていい場所じゃありません。」
「化け・・違う。俺は・・・。」
「人の言葉を理解しているなら、ここから立ち去りなさい!ここはあなたのようなものが来る場所じゃありません!」
「何で?どうして・・・。」
「あなたの質問の前に、私が聞きたいことがあります。・・・私の名前をどこで知りましたか?私と親しい人物以外には教えていないはずなのに。・・・あなたは何者ですか。」
「庄野です!庄野哲也!」
「・・・。」
カスミは構えていた両手をおろす。
それを見た庄野は安堵の表情を浮かべる。
(よかった・・わかってくれたみたいだ。)
安堵もつかの間。
カスミは背中から鎖の付いた鎌を取り出した。
「ただのウソなら、逃がしてました。でも・・・わざわざ、サリアンを、この国を救った英雄の名を語るなんて許せません。
始末します。」
安堵の表情のまま、庄野の顔は引きつった顔になる。
なぜ。どうして。
庄野の思考回路はそれ以外の単語が出てこない。
死の間際、何も考えることが出来ないでいた。その横でカスミは無慈悲に鎌を振り上げた。
「カスミ、離れなさい!」
遠くのほうで老人の声が二人の耳に入った。
(・・・神父、さん。)
神父はカスミのもとに走ってきて、すぐさま両手でカスミを引っ張り、庄野と距離を取った。
「司祭様、どうしたんですか?」
「殺してはいかん!これは『祟りつき』だ。殺めたものに祟りとなって憑りつき、化け物の姿に変える。姿も、記憶も、何もかもだ。カスミが殺めればカスミもこの姿になってしまう。早く離れて部屋で待ってなさい。終わったら呼ぶから、それまでは出てきてはいけない。早く!」
「わ、わかりました。」
カスミは走って教会のほうへと向かっていった。
カスミと変わって神父が杖の先を庄野のに向ける。
(ハハハ・・・泣きっ面に蜂ってやつか。)
「『鑑定』・・・呪いか。「ぬぅ・・・『解呪』!」
神父は魔法を使ったが何も起こらなかった。
「ふぅむ・・・解呪の魔法で何も起こらないということは、相当強力な呪いですな。」
「え・・・?」
庄野はキョトンとした目で神父を見つめる。
「ん?どうしましたかな、庄野さん。」
「俺の事・・・わかるんですか?」
「まぁ、この類の相談を受けることも多いですからな。それにしても、ボロボロですな。左腕と左足は義肢ですか。直してあげましょう。『復元』・・・これで元通りですな。」
庄野のボロボロだった左腕は元の形に戻り、ドロドロになった左足も足の形を成している。
「これだけの呪い・・・魔物を殺したりしましたかな?」
「はい。」
庄野は神父にこれまでのいきさつを説明した。
「魔食竜を、ですか。魔食竜にそんな能力はないですから、おそらくは食した人間にそう言った能力をもつ者がいたのでしょうな。」
「その・・・これってどういう症状なんですか?」
恐る恐る庄野は神父に質問した。
「『幻覚の呪い』ですな。
普通の幻覚魔法は、相手に魔力をぶつけて視界の中に別のものを見せたり、既存のものを別の物に見せる魔法ですな。
でも、この呪いは違います。魔力をぶつける必要が無いんですな。魔力をもつ者であれば誰でもその効果を受けてしまう。
自ら持っている魔力に反応して幻覚を見てしまい、その人を認識できなくなるという呪いですな。だから、私のように魔力をもともと持っていない人間からはそのまま見える。魔力を持っている異界人か、この世界に生きている人間が対象になるわけですな。」
「そうか・・・カスミさんは異界人のハーフだから、魔力を帯びてるんですね。」
「ハーフ?」
「ええ、昔カスミさんに聞いたことがあります・・・あれ・・・?」
庄野は違和感を感じる。脳をフル回転で回し、過去の記憶を思い出す。
思い出すのはカスミとの会話。自らの手のひらを撃ち、コピードールに飛翔する弾丸を複製させた時の事を必死に思い出す。
(そうだ・・・カスミさんはああ言っていた。
じゃあ・・・この人は・・・誰だ?)
「どうしましたかな?」
「・・・聞きたいことが、もうひとつあります。」
喉を振り絞り、勇気をだして庄野は質問をすることを決意した。
(本当は聞きたくない。カスミさんの勘違いであってほしい。
でも・・・あの魔法を見てしまったら、そう考えるしかない。
でも、知りたい。ちゃんと知って、このモヤモヤを払しょくしないと、俺は・・・。)
「なんですかな?改まって聞かなくとも、解呪の方法なら教えますよ。」
「・・・あなたはカスミさんの父親ですか?」
ニコニコと笑っていた神父の顔から笑顔が全て消えた。
「・・・誰から聞いた?」
神父の怒りに震えた声が庄野に圧力を与える。
「『鑑定』のスキルは父親譲りだと聞いたので、そうなのかなって思っただけです。」
「ふぅ、そうですか。その話については誰かに話さないでいただけますかな?」
「それは、どういう意味ですか?」
「そのままの意味です。親子だとバレるとカスミが恥ずかしがりますからな。あの子も年頃ですし、私に『結婚させてくれー!』なんて押し寄せて来られても困りますからな。」
「最初は義理の父親だと思ってました。」
「まぁ、私とカスミは似てないですからな。母親の血が濃いのでしょう。」
『ホッホッホ』と神父は笑う。その笑顔に庄野の感じていた違和感は疑惑へと変わり、確信へと変わった。
「カスミさんが言ってました。『父親は疫病で亡くなった』って。
・・・もう一度聞きます。
あなたはカスミさんの父親ですか?」
笑顔のまま、神父は庄野に背中を向けた。
「庄野さん。あなたが選べる選択肢二つ。
一つは、私にこれ以上何も聞かずにここを去ること。もし、何も聞かないのであれば・・・再びあなたがここを訪れたときは歓迎しましょう。
もう一つ。今からある場所に案内します。あなたは真実を聞く事ができますが、二度とここを訪れないでください。もし、真実を知ったうえでここを訪れた場合、あなたに容赦はしません。
どちらを選びますかな。」
「・・・後者を。真実を教えて下さい。」
「わかりました。ついてきなさい。」
庄野は神父の後をついていき、教会の中へと入った。




