第93話 分 岐 〜エッチなゲームだと分岐の事をCG回収用セーブポイントって言いがち〜
「グォォォォオオオオ・・・」
ドラゴンは倒れたまま、首だけを空に向けて叫んでいる。
その叫びは怒りなのか、悲しみなのか。ドラゴンはゴロゴロと喉の奥を唸らせ、今にも立ち上がって襲って来そうである。
(まだ生きてたのか。火吹きトカゲもそうなんだが、ここの爬虫類は生命力が高すぎる。
とっとと、トドメをさすか。
・・・なんだ?)
よく見ると、ドラゴンの全身から黒い煙のようなものが出ている。
煙はどんどん広がっていき、闘技場から外の方へと漏れ出している。
(何だ、これは・・・毒ガスってわけじゃなさそうだな。
呪いって言ってたが、何かあるのかもしれない。
不味いな。考えているうちに黒いガスがどんどん広がってきている。
このままガスが止まらなかった場合、サリアン中がこのガスに埋もれて、何かしらの影響を及ぼす可能性がある。しばらく放って止まるのかどうか、それはわからない。
逆に接近してドラゴンにトドメを刺せば、俺自身に何かしらの影響を及ぼす可能性が高い。
・・・悩む必要もない。
天秤にかけられているのはこの国の住民の命か、自分の命か。
俺は自衛官だ。なら、やることは一つ。自分の命で何十人の命が助かるのであれば、安いもんだ。)
庄野は右手にナイフをかまえ、黒い煙の中へと進んでいく。
(ガスは無臭、目が滲みる事も皮膚がピリピリする事も無い。手足の間隔もしっかりしているし、呼吸器系に影響を及ぼしているような感覚は無い。毒って事は無いようだが、あまり吸わないようにしたほうが良いだろう。
奥に行けば行くほど、ガスが濃くなって全く見えない。
ドラゴンはいるんだろうな・・・?)
「よう。」
「グルルルル・・・。」
(黒い煙でほとんど見えていないが、手を伸ばせば触れられるドラゴンが倒れているのがわかる。)
「すまんな。」
ナイフを振りかざす。
ドラゴンの喉の部分に刃がするりと入り、大量の血が噴き出す。
「グガァァ・・・!」
ドラゴンは苦痛の叫び声をあげる。叫び声が波のように押し寄せ、黒い煙を消散させていく。
「よし、ガスが晴れていくな。これで、おわりだ。」
「クックック・・・終わりだと?」
「しぶといな。まだ生きてたのか。」
「終わりではない。始まりなのだ、これは。
始まりが終わったのだ。
吾輩にトドメをさした事で、貴様は・・・。もう・・・。」
ドラゴンは完全に動かなくなった。
(終わりの始まり、か。
人間が人間である以上、日々死へと進んでいる。生まれた時から死ぬことは決まっている。
何も変わることは無いんだ。)
庄野は闘技場を見渡した。
誰もいない。シエラも数名いたロシア兵の格好をしたサリアン人も、観客もいなくなっていた。
(さて、ここを出るか。
出てから、どこに向かうべきだろうか。
ソーラに直接向かうか。いや・・・カスミさんの事を何も言ってなかった。一度神父様の所に行くべきか。
サリアンが今どんな状態かわからない。なるべく人に見つからないようにここを出ないと。)
誰もいない闘技場を出る。
外には見たことのある装甲戦闘車がズラリと並んでいる。
(BMPT-3がぱっと見て40両近くある。それだけの部隊が準備できているという事か。
反逆者達・・・いつかやり合う時がくるのかもしれない。)
庄野が家屋の隙間をこそこそと抜けている途中、路地裏で遊んでいる女の子にばったり会ってしまう。
「おっと、嬢ちゃん。ごめんな、そこを通っていいかな?」
「ひっ・・・パパ・・・ママ、助けてぇ!」
突然女の子が叫びだす。
その声を聞いて、数人の大人が駆けつけてくる。
「どうした?う、うわぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁ!」
「化け物・・・化け物だぁ!!」
庄野を見るや否や、その大人たちは子供を抱えて走って逃げていった。
(なんだったんだ?
あぁ、そうか・・・俺、血まみれだったな。怖いよなぁ・・・。
早く、着替えないと。)
何度か人に見つかるが、会う人たちは悲鳴と奇声をあげることはあっても庄野を捕まえたり、攻撃を加えることは無かった。
幸か不幸か、何事もなかったかのように庄野はサリアンを出ることに成功した。
(よし・・・出られた・・・。)
外に出ると、庄野は見たくないものを見てしまう。
「あれは・・・。」
(Tu-160M。ロシアの爆撃機・・・。もう、ここはサリアンと思って関わらないほうがいいな。
ここはロシアだ。ロシア軍がいる基地と認識していったほうがいい。)
外へ出て、茂みや草木を活用して誰にも見つからないようにサリアンを離れ、小さい丘の上にポツンと立つ教会へと歩いていった。
(神父様になんて説明すればいいんだ・・・。
『俺の不注意で死なせました』か?『俺をかばって死にました』か?
どっちにせよ、カスミさんを連れてっいったから、カスミさんは死んだんだ。
おれのせいだ。
どうして俺は、一人で回収しようとしなかった。
カスミさんは子供をサリアンに連れていく用事があった。それに便乗して、俺もついていった。
なさけない。出発する直前に襲われたのに、全く判断が出来ていなかった。
過去は変えられない。でも・・・悔しい。
心の中でドス黒い靄がどんどん広がっているような、ムカムカとした感情が沸き上がる。
辛い。でも現実から目を背けていたら意味がない。
進もう、前に。)
気が付けば時間は夕暮れであった。
空が朱色に染まり、教会の白色の壁も同じ色に染まっている。
(え・・・。)
教会に近づく。
懐かしい草木。懐かしい風景。
その傍らで洗濯物を取り込んでいる少女がいた。




