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尚、士気については旺盛であります!  作者: 固太 陽
第一章
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第92話 羅生門 〜死体から何かを回収するのはゲームでも小説でも普通の話〜


(帰りたい・・・か。


・・・俺も帰りたいな。彼女の元へ。

元気にしてるだろうか。風邪をひいていないだろうか。変な物を食べてお腹を下していないだろうか。危険な目にあっていないだろうか。

色々と思うと、心配になってくる。


そうだ。

手紙では『どこかの国で会いましょう』という内容が書いてあった。もしかしたら、サリアン、ソーラ、ガラの三国以外の場所にいるのかもしれない。海を渡って遠くに行けば、会えるのかもしれない。

コピードールの使い方もある程度理解してきた。今はこんな形だが、左手も左足も手に入れた。

姫様を探す旅に出ても良いかもしれない。




・・・いや、まずはこの問題を解決しなければならない。

サリアンの事を解決しなければ、戻って来たとしても、戻る場所が無くなっているかもしれない。



やるべきことは決まった。その為には・・・ここを脱出しなければならないな。)




庄野は闘技場の中央で佇んでいた。





闘技場には庄野と数名の武装した兵隊、観客席には恐怖で足が動かなくなったのか逃げ遅れたサリアン人が数名。そして庄野の傍らに動かなくなったドラゴンだけ。ドラゴン使いの肉体は塵となり、髪の毛一本すら存在しない。



(戦いは終わった。

俺は開放されるのか、それとも次の戦いに駆り出されるのか。


・・・見てるアイツに聞いてみるか。)



庄野は上を見上げる。

闘技場御用達の特等席には、女スナイパーのシエラが座っていた。



「俺はどうなるんだ?」

「ヒュウ♪流石だねぇ。


次はここにいるアタシの部下と戦ってもらおうか?

元々はサリアンの女兵士だが、1から鍛え直した。立派なロシアの軍人と思っていいさ。

流石に束になってかかったら可哀想だから、武器はナイフのみで一人ずつにしてやるよ。アンタら、可愛がってやんな!」




(サリアン兵・・・いや、ロシアの軍人と一人ずつと思って戦うか。昔、ロシアの軍人とは手合わせをした事がある。ロシアの『システマ』、全く歯が立たなかった。それを機会に俺も古武道を学んだ。


実験格闘術、システマ。日本の古武道を元に作られたと言われる格闘術。脱力と無意識、力の入る部分への攻め方を学ぶが、これらは古来からあった日本の武術だ。時代の流れからそれを学ぶ人間がおらず、廃れた日本の武術が海外では実践格闘術へと昇華している。しかもシステマは世界中から注目を浴びる格闘術だ。

日本の武術が海の外では世界の格闘術となり、その格闘術は日本人にむけて使われる未来がきた。何とも皮肉なもんだ。)



じわり、じわりと兵隊が観客席の隅から中央のフィールドへと向かって歩み寄ってくる。四方八方からニタニタと笑いながら。



(パッと見る限り、13人か。分隊長が1人、3人編成の班が3つって感じだな。そんな感じに分散してるし。)



ゆっくりと歩み寄ってくる中、突然1人の兵隊が全力疾走で走って来てフィールドへとダイブする。

着地した兵隊はスッと立ち上がると、その背丈は庄野より高く、体格もガッチリとしている。見た目に疑問を持つとすれば、顔立ちが整っている女性であるということだけである。



(かなりの自信家みたいだな。

言われたとおり、武器はナイフだけのようだが・・・。

他の班とは離れて行動していた。ということは、いきなり分隊長か。)



「最初の相手は私だよ。何か不満はあるか?」

「無いですよ。今ここにいる部隊のリーダーがいきなり出てくるなんて、思ってもいませんでしたけど。」




「へぇ。何でアタシがリーダーって思ったんだ?」

「勝負が終わったら話します。」




「良いね!

そんな状態で私相手に生き残ってるつもりでいるその自信。

気に入った、一撃で殺してあげるよ!」


 


庄野に向かって鋭い突進。人間が出せるスピードを遥かに超えている。

同時に、手に持っているナイフが庄野の顔面に向かって真っ直ぐに突き進んでくる。




(早い!いくら鍛えた人間でも、こんなスピード出せないだろ!魔法か何かか?


片足が踏み込めないから避けきれない。

中途半端に避けても、バランスを崩して倒れたらリスクが大きい・・・!

()()()()()()ッ!)





ステップも出来ない、体をひねって回避する事もできない。

ヒュン、とナイフが風を切る音と共に、庄野の顔面から血飛沫が飛び散る。




「あははっ!『身体強化』で速度を上げた状態での突進、その速度で繰り出したんだ。ざまぁ無いね。

姐さんが言った通りだ!『所詮日本の軍人だ。戦争も知らない、侵略されている現実から目を背けて国民が軍隊の存在を否定する、そんな愚かな国の軍隊が何も出来るわけが無い』ってね!キャハハハ!」


庄野の顔、ちょうど口元の部分にナイフを刺したまま、女兵士はケラケラと笑っている。





「姐さーん、一撃で終わっちゃいましたよ!」




庄野の顔にナイフは突き刺さったまま、その手を離す。

女兵士は腑抜けた笑顔で、血塗れの手をシエラに向かってヒラヒラと振る。



しかし、その目には厳しい表情のシエラが映った。





「油断するな!()()()()()()()()()()!」



突然、シエラが叫んだ。



「え?」

シエラにむけていた目線を瞬時に庄野の顔に向ける。

先程までケラケラと笑っていた女兵士の顔は恐怖へと変わる。




「あ。」

女兵士は、それしか言葉を発する事が出来なかった。何もかもが気がつくには遅すぎた。

気がついた時には女兵士自身の喉元にナイフが刺さっていた。




(相討ち。

俺は重症だが、致命傷ではない。

そっちは・・・致命傷だ。)



女兵士の喉元を貫いたナイスが抜かれる。赤い液体が心臓の鼓動のリズムに合わせて大量に出たり出なかったりを繰り返す。



女兵士は絶命する。それは確定している。

だが、すぐには死なない。死に至るまでは時間がある。

女兵士は目を凝らす。

何故庄野哲也の顔面にナイフが刺さったのに死ななかったのか。死ぬ間際にそれだけは知ろうとした。


ナイフは確かに庄野の顔面を捉えている。逆にそれが問題だった。 

ナイフは庄野の左頬を貫き、そのまま右頬を貫いている。

庄野はナイフを避けられなかった。

だが、首だけを捻り、頬でナイフを受けていた。



「嘘・・・そんな、方法・・・。・・・。」


残り少ない、僅かな寿命を使って放った言葉はそれだけだった。

女兵士は天を仰ぎながら、そのまま動かなくなった。


 

(死んだら終わりだ。だから、死なない方法をとった。それだけだ。


頬が火傷をしたみたいに熱い。ナイフが邪魔だ、口を上手く動かせない。左頬から刺さっているから、右手では真っ直ぐに抜けない。左手はぐちゃぐちゃだから使えない。



しょうがない、少し頬を切るが、無理やり抜くか。)



庄野は強引に顔に刺さっているナイフを抜き取る。

頬からは白色と赤色の筋が何本か見えている。



頬から血を流しながら、庄野はまもなく絶命する女兵士の体をまじまじと見つめる。



(そういえば・・・丁度よさそうだな。)



庄野はいきなりその女兵士の服を剥ぎ出した。

上着とズボンを剥ぎ、女兵士は下着姿だけになった。




「貴様ぁ!何をする!」




庄野の奇行に怒り、一人の女兵士が庄野に向かって走ってきた。

庄野は突進してくる女兵士を十分にひきつけ、腰元に隠していた槍の刃先を投げナイフのように投げる。その刃先は突っ込んできた女兵士の目に刺さった。


「ぎゃぁあ!」


突然の痛みに前屈みになる。しかし足は前に進む。バランスを崩し、ゴロゴロと転がっていくと、しゃがんでいる庄野の目の前で止まった。



(こいつ、体格が細い割に足がでかいな。()()()()()()。)



「がっ。・・・。」



庄野は転がってきた女兵士の喉元にナイフを突き刺し、素早く抜いた。

首から血飛沫をあげ、女兵士の体はビクンビクンと痙攣している。

庄野はその女兵士のズボンを突然引裂き、靴を脱がせた。







 

(うん。靴のサイズも丁度いい。

ロシア製の戦闘服か。機能性は良さそうだな。・・・若干、香水の匂いがするのは気になるが。)





庄野は戦闘服の上下、そして半長靴を奪い、左手を使わないでするりとそれらに着替えた。

庄野が着替えている間、他の兵士達は誰も近寄ろうとしなかった。

隙だらけであり、半長靴を履いている時に攻撃をすれば簡単に勝つことは出来るだろう。




しかし、誰もそれを実行しなかった。いや、()()()()()()()()



怖い。



死体の服を奪い、それを戦いの最中に着始める。

庄野にとって、服を奪った事は『戦う上での機能性』を考慮した行動だが、普通に考えれば異常者の行動である。



ただただ、庄野哲也という人間が怖くて誰も近寄れなかった。






兵士達がたじろいでいると、その静寂を破るようにシエラが大声で叫んだ。




「アンタ達!撤退だ!

あの子はほっといて、皆は逃げるんだよ!!」




シエラの『撤退』という言葉と共に、闘技場に残された兵士達は皆一目散に闘技場の外へと逃げて行った。




(なんだ、急に・・・。)











庄野の後ろで、倒れていたドラゴンがゆっくりと動き出す。


身体は倒れたまま、顔だけが動く。









「コゾウ・・・お前だけは・・・。


我が、恨みを・・・()()を、受けよ・・・!」

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