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尚、士気については旺盛であります!  作者: 固太 陽
第一章
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第91話 狂 気 ~例え漫画のようなありえない話でも自衛官なら「確かにやりそう」で済ますこと多いですよねって話~

(いっ・・・てぇ・・・。




こんなに背中が痛いのは、空挺降下課程の時以来か。

あの時は受け身が下手すぎて何回も背中を強打していた。

あの時に比べれば・・・まだいける。



とりあえず・・・()()()()()()


握りつぶされて食われてたら、脱出はおろか生きて帰るのは不可能だった。

死んだふりをして、ドラゴン捌きナイフ(ドラゴンスレイヤー)が折れたように見せて・・・。

もう戦えないように誤認をさせた事で、握りつぶされてなかったんだろう。

次は無い・・・二度とこんな運任せな作戦はやめよう。

結果として生きてはいるが、命がいくつあっても足りない。


それに、このドラゴンは武器ごと飲む事がよくあったみたいだ。喉の辺りに大量の槍や剣が刺さっている。柄の部分に上手く引っかかることが出来た。多分、今までの連中が飲まれた時に悪あがきで刺したんだろう。

おかげで胃袋まで流されずにすんだ。



あとは、この左腕か。左腕が使えないから、慎重にいかないとな。ミスって下に転落・・・なんて笑えない。

はぁ・・・ピカソが書いた手の方がまだマシに見える。完全に変形してグッチャグチャだ。こんな形状でも痛みが無いのが不思議だ。)








庄野はドラゴンに食われたが、一命を取りとめていた。

ドラゴンの体内にいる状態にも関わらず、庄野は驚くほどに冷静であった。


初めて他の生物に捕食をされるというのは、本来であれば恐怖するものである。

捕食とは、じわじわと死に近づいていくものである。

生物が生きている以上、ゆっくりと死へ近づくのは当然のことであるが、それを目視し、感覚として感じるのが捕食である。

普通の人であれば、可視化した死が迫ってくる様に恐怖し、涙を流し、時には発狂するものである。




しかしながら、自衛官は違う。

どんな状態でも、自衛官には冷静さが求められ、どんなことがあっても挫けない屈強な精神力が必要となる。

その為に、自衛隊には厳しい訓練や指導、厳格な規律が存在する。


コンプライアンスの問題がある。

時代に合っていない。

意味が無い。


様々な意見があれど、自衛官が自衛官である以上、銃を持ち、人間に向かって銃を撃つ場面を想定している。

なればこそ、どんな環境でも通常の状態を維持できる精神力が必要になる。

仲間を殺された。

家族を殺された。

恋人を、愛するものを殺された。

例え、そんな事があったとしても恨みを込めて引き金を引いてはならない。その引き金を引いて発射された一発は、たとえ個人が撃ったものであっても、組織の一発であり、国としての一発でもある。


数センチしかない部品を数センチ後ろに動かす事がどれだけの責任があるのか。それを考えれば、どれだけの精神力が必要なのか。そして、どれだけの訓練が必要なのか。





庄野は数本の槍の柄の部分に座って思考する。



(・・・さて、どうしたもんか。

このドラゴンの能力がイマイチわかっていない。食った人間の魔力を取り込むとかどうとか言ってたが、体内にいるだけでその効果が発揮されるのか、胃袋まで流されて発揮されるのか、想像がつかない。

何にせよ、直ぐに脱出をしたほうが良い。


しかしなぁ・・・どこをどう切るかなんだよな。明かりが無いから、決め打ちで切らないとならないんだが・・・闇雲に切りつけて『肺』を切るのは危険だ。


初めてこの世界に来た時、火吹きトカゲを食おうとしたときにバラバラにしたら、肺の少し上に、ガソリンの匂いがする袋があった。そして、喉には金属みたいなのが二つあった。多分、火打石みたいな機能だろう。そこから推測するに、肺からガソリンを供給して、喉の火打石のような部分で着火して火を吐く。

ドラゴンも結局はトカゲの進化だろうから、恐らく同じ構造をしている。何となくガソリンの匂いがしているのもそのせいだろう。)



庄野は右手を伸ばし、槍の柄をつたって肉の壁に触れる。



(ここに刺さってるのか。

人間で言う食道の部分なんだろうか。


ドラゴンの機能停止を目的とするなら、心臓を狙う。

脱出を目的とするなら、外皮に近い方向へと真っ直ぐに狙う。


後々の事を考えて、ドラゴン使いを倒すことを目的とするなら・・・()()を狙う。

これは推測だが、ドラゴン使いがドラゴンの体を奪って動かしてるのは神経系を操作しているんだと思う。ドラゴン使いが頭から出現して以降、火を吐かなくなったのはそれが原因と考えれば・・・。

脊髄を切断してやれば良い。そうすればドラゴンは完全に停止するはずだが・・・問題は背中がどっち側かわからない事だ。



運任せな作戦は辞めると決めたばかりだったな。

『脱出』を優先しつつ、可能な限り切り刻んで外へ出る。それが最良だろう。


よし、切るか。)




ズボンの背中側に隠していたナイフを取り出し、ゆっくりと()にナイフを当てる。まるで手術をしているかのように。

するりと切れた部分から赤い液体がドバドバと流れ出す。



(少し切りすぎたか。

・・・いや、こっちは動脈か?下側の方から溢れ出ているように見えるな。上をもっと切るか。)



切れた部分の上、ちょうど庄野の目線の高さくらいにナイフを当て、スパッと切れ目を入れる。

先程より少量であるものの、一気に庄野へ向かって赤い液体が吹き出す。



(・・・。

さっさと脱出して、風呂に入ろう。)




しばらくすると、出血が止まる。血が止まった部分を再び切り、出血が止まったらまた切る。

これを繰り返して、少しずつドラゴンの外へと向かっていった。

















ドラゴンの外側では、ドラゴン使いがその異変に気づいた。


「ん?レッドドラゴンの体がおかしいな。急に重くなってきたような・・・。」




ドラゴン使いは目を瞑り、感覚を研ぎ澄ませる。


(クソ自衛隊がレッドドラゴンの体内で何かやってるのかもしれねぇ。ちょっと怖いが、一瞬だけドラゴンと感覚を同調させる。)




「・・・ぐっ!いってぇぇ!!!

なんだ?

喉が・・・焼けるみたいに、熱い!


まさか、喉を切ってるのか?!」



ドラゴン使いは動揺を隠せない。

喉の中で何かをされているのはわかる。喉を握ったり、殴ったりしてみるが、何も変化は無い。



(クソ!クソッ!

喉の中にいるのはわかってんのによぉ・・・。

どうにかして、火を吐くしかねぇ!)



「吐け!吐けよぉ!レッドドラゴン!

どうやって火を吐いてんだよぉ!



クソがァァァァァァ!! 」



喉をガラガラと鳴らしながら空に向かって叫ぶ。

そのガラガラ音と共に、喉の奥でバチバチと火花がなったような音がした。



(今の音・・・。)





「ククク・・・。


わかったぞ。『うがい』で火が起こせるのか。」




上を向き、ガラガラとうがいを始める。

喉の更に奥から別の液体が送られ、口の中で引火し、空に向かって火炎が広がる。



「アハ、アーーッハッハッハッハッ!!!

これだ!これが火を吐く方法か!


これなら殺れる!体内でバカをやってる自衛隊をぶっ殺せる!」




再び()()()を始め、口元に発生した火をドラゴンに一気に飲み込ませた。



















ボンッと鈍い爆発音と共にドラゴンから黒い煙が発生した。




(・・・これでやっと死んだろ。)














ドラゴン使いは安堵の表情を浮かべる。

自分を殺そうとした狂人が死んだと確信し、自分自身に危害を加える生物がいなくなったことに安心しきっていた。




その安堵は数秒で終わった。



ドラゴン使いに完全に支配されているはずのドラゴンが、突然大暴れを始めた。

何かを訴えているように叫んでいるが、先程、無理矢理火炎を飲み込んだせいで喉が焼けており、言葉が出ない。




「どうした?レッドドラゴン!落ち着け!」

「グゥォォォォァァァ!!」



感情に任せてドラゴンは上空へと羽ばたく。地上の人間が豆粒になるほどまでの高さまで上がると、ドラゴンは()()()を始めた。




「グゥゥゥ!ガァァァ!!!!」




地面に向かって火炎が放たれようとしたその瞬間、地面から飛んできた何かがドラゴンの体に直撃した。

直撃と同時にその何かは爆発し、ドラゴンの翼をボロボロの姿に変えた。






「うわぁぁ・・・!!」







ドラゴンとドラゴン使いは激しく地面に叩きつけられ、動かなくなった。













「・・・っぷへぇッ!


ゼェ、ゼェ。ひっどい匂いだ。

それに、めちゃくちゃ揺れた気がするが・・・。


・・・どうなってるんだ?」




庄野はドラゴンの体外に出た。

ドラゴンが地面に直撃した瞬間、偶然大量の赤い液体内にいたため、衝撃を緩和していた。



辺りを見渡す。

ドラゴンが空を飛び、地面に向かってブレスを吐こうとしていた事を察し、殆どの観客は逃げ惑っていた。

残っているのは、最後まで戦いを見届けようとする変人と、携帯地対空誘導弾(PSAM)を持っている人間が数名ほどである。



(9K333(ヴェルバ) SA-24(グリンチ)。ロシアのPSAMをこんな所で見る事になるとは。

先日見たテルミナトルと言い・・・サリアンはどうなってるんだ?)






庄野の傍らでドラゴン使いがボソボソと喋っている声が聞こえた。




「おい、大丈夫か?」

「・・・たい。・・・ん。」



「しっかりしろ。ドラゴンと分離して、ここから出るぞ。」

「・・・り、たい。・・・さん。」




何度も庄野が励まし、声をかけ続けるが、弱々しい声は時間と共に消えていき、最後には何も喋らなくなり、動かなくなった。

木のような肉体はみるみるうちに消えていく。

青紫色の体は箔のようにパラパラと風に運ばれ、どこかへ飛んでいった。





庄野が最後に聞き取れた言葉は「帰りたい」と「お母さん」だけだった。


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