第89話 竜使い ~少年から大人へって表現はきれいだけど、現実味のある話をしたら汚れていく事って話~
ドラゴン使いのお話
(僕は、何でこんな世界にいるんだろう。)
何となく、昔の事を思い出す。
僕がサリアンに来たのは数年前の事。まだ中学生だったと思う。
思う、と表現をしたのは、学校に行ってなくてよく覚えていないからだ。
当時の僕は、一言に真面目な少年だったと思う。
悲惨なイジメにあっていたことを除けば。
イジメというイジメは全て受けたと思う。
軽いもので言えば、筆箱は隠され、壊される。教科書はもともと書いてある文字がわからない。話には入れてもらえない、全て無視される。
敵は同級生だけじゃない。大人からも標的にされた。
両親は「イジメられるお前が悪い」といつも僕を殴った。
先生は「お前がシャキっとしてないのが悪い」と教科書で頭を叩いた。
味方なんて誰もいなかった。
死のうと思った。
よくある話だ。
ただ、『生きるのが辛くなった』だけ。
自ら命を経とうと決めた時には、ロープを片手に実家の裏山に入っている最中だった。
どうせ死ぬなら、誰にも見つかりたくない。
海は遠いし、どうせなら家の近くで死んで幽霊になりたかった。
奥へと進んでも、ちょうどいい高さの木が見つからなかった。
運動なんてほとんどやらない僕にとって、山道を歩く事は本当に苦痛であった。
足の痛みを我慢してさらに奥へと進むと、森を抜けて何もない平野に出た。
そこには違和感しかなかった。コンビニが無いとか、ガードレールが無いとか、スマホが電波拾わないとか、そういう田舎あるあるな話じゃなくて。
遠くには見覚えのない城。日本には絶対に無い、立派な城がそびえ立っていた。
(ここは・・・どこ?
もしかして、漫画でよく見る『異世界転移』ってやつなのかな?)
少しだけ、自殺する事を忘れた。
異世界に迷い込めた事にウキウキとして平野に足を踏み入れた。
その瞬間、後ろから聞いた事の無い動物の雄叫びが僕の耳をキーンと鳴らした。
後ろを振り向くと、赤い肌のドラゴンが二本足で立って僕を見下していた。
「ひぃっ・・・誰かぁ!助けてぇ!?」
情けない声で叫んでしまう。が、周りには誰もいない。
目の前のドラゴンへの恐怖で走る事も動くことが出来ない。カエルに睨まれた蛇が動けなくなる気持ちがよくわかった。
「フン。情けない異界人だ。これが我の主か。」
「・・・え?喋れるの・・・?」
「我が名は・・・いや、名など無い。『レッドドラゴン』とでも呼んでくれれば良い。お前の名は?」
「・・・沖谷徹一、です。」
「オキ、タ・・・ムゥ。発音が難しい。『主』と呼ばせてもらうが、構わんか?」
「え?・・・は、はい。」
赤い肌のレッドドラゴンは色んなことを教えてくれた。
僕のように、よその世界から来た人間は『異界人』と呼ばれていること。
異界人には4種類の人間がいること。
強力な魔力を持った者か、強力な使い魔を使役していること。
・・・もしくは、大したことのない魔力の人間か、弱い使い魔を使役しているか。
見えている城がある国は『サリアン』と呼ばれ、強力な魔力か使い魔を持っていなければ人権すら危ういほど差別が横行している国だということ。
そして・・・
僕に元の世界に変える方法は無いこと。
「どうする?主よ。ここに残るか、帰る方法を探すか。
・・・もし、この世界に残ることを拒むなら・・・。
ここで吾輩の腹の中に入ってもらう。
吾輩は人間を食うことで強くなる能力を持っているのでな。」
「・・・いいよ、食べて。僕は死ぬためにこの森に入ったんだ。今更、帰りたくはないよ。」
「・・・死ぬために?何を言っている?」
「自殺しようとしてたんだ。だから、良いよ。」
ドラゴンは混乱していたように見えた。
それもそうだ。
生き物の中で、子孫の為とか防衛本能とかじゃなく、ただ苦痛から逃れるためだけに自殺を選ぶ生物なんて人間しかいない。
日本は特に、何百年も前から『自決』という歴史もある。
でも犬や猫は自殺なんては絶対にしない。する意味が無いからだ。
ドラゴンは腕を組み、空を見上げて何かを考えていた。
そして、僕に一つの提案をした。
「自ら死を選択できるほどの度量があるなら、主には強くなる才能があるだろう。吾輩と来るがいい。もし、その道中で死を選択したくなったら、吾輩が引導を渡してやろう。どうだ?」
「・・・うん。お願いするよ。」
僕は、レッドドラゴンと共に生きる道を選んだ。
衣食住に困ることはなかった。日々やることと言えば、ドラゴンに乗って国の周辺のパトロール。
平原や空に出現する強力な魔物と戦い、サリアンの平和を守っていた。
強力な使い魔を持っていることで、僕はサリアンでそれなりの地位を得た。
でも、それも最初だけだった。
魔法は日々進化していき、王の娘の一人の能力が開花して、世界中を見渡す能力を身につけた頃には、僕はお払い箱になった。
やることがなくなった僕たちは、闘技場で罪人や腕に自慢のあるサリアン人を戦って、その賞金で暮らしていた。
僕は人を殺したくなんてなかった。
魔力が帯びている人間をドラゴンに食べさせれば、ドラゴンが強くなる。
でも・・・しょうがない、と割り切るには時間がかからなかった。
18歳になった時の事だった。
僕をいじめていたクラスメイトがこの世界にきていた。闘技場で僕の目の前に立った。
僕をいじめていたころのように、ニタニタと笑っていた。
傍らには、ライオンのような獣が棒たちを睨んでいた。
『ドラゴンさぁ、そんな雑魚より、俺と組まねえか?』
ムカついた。
そんな感情一つで、ドラゴンに獣を殺し、クラスメイトの足を折るように命じた。
獣は5秒もせずに黒焦げになり、ドラゴンの口から腹の中へとに入っていった。
クラスメイトの両足はドラゴンの爪で綺麗に千切れた。
命令以上の事をしたことに何も思わなかった。
むしろ、それ以上に行われた残虐な光景は・・・僕の脳みそに不思議な電流を流した。
クラスメイトは何かを叫んでいたが、僕は持っている剣で何度も殺した。
(なんだ・・・復讐ってこんなものなんだ。オナニーみたいに、やった後は倦怠感しかないや・・・。
そんなものより・・・アイツの足を千切った後、凄かったな。)
皆が僕を恐れるようになった。
でも、それでよかった。
「主よ、強くなっているぞ!」
ドラゴンに褒めてもらえることが、とてもうれしかった。
例え、最後にはドラゴンに食べられるとしても・・・誰かに認めてもらえることがうれしかった。
それから、僕は・・・
俺は、人殺しを楽しむようになった。
もう20歳を超えただろうが、何歳になったかはわからない。
ただ言えるのは、人を殺すことが本当に楽しかった。
真面目な人が残虐な犯罪をするニュースを子供の頃、何回も見た。
思えば、簡単なことだった。
大人になってグレたからだ。子供がグレても、破るのは学校のルールくらい。大人になって破るものは、法律か常識だ。
俺は常識をバラバラに破って、捨てた。
あえて残虐に、あえて残酷に、あえてぐちゃぐちゃに、あえて許しを請うように。
生きている人間がむなしく、無力に死んでいく様がたまらなく楽しかった。
そんな時、優勝賞品が西の都のお姫様との結婚が出来る大会が急遽開かれた。
(あんな美しい人間を自分のものに出来るのか・・・ッ!
欲しいッ!何としても欲しい!
どうやって殺してやろうか・・・?)
もう、何を見てもそんなふうにしか思えなくなっていた。
そうしないと、ドラゴンに褒めてもらえない。誰からも認めてもらえないからだ。
でも、俺は・・・返り討ちにあい、現れた自衛隊に殺されそうになった。
初めて、人間に本気で殺されそうになった。
怖かった。死ぬっていうのがこんなに怖いって知らなかった。
俺は、戦うことが怖くなった。
でも、戦わなければ、誰にも認めてもらえない・・・。
闘技場を見るのも嫌になり、俺は逃げた。
サリアン襲撃後、俺はサリアンを離れて魔王についていこうと決めた。
(ここなら、きっと俺を認めてくれる・・・。)
だが、魔王は・・・俺を認めてくれなかった。
「あー・・・お前、あれだな。サイコキラーだな。
レッドドラゴンの能力は申し分ない。だがな、お前のような歯止めが利かない異常者はいらねぇんだわ。
『凄いかもしれんが、リスクがデカすぎる』。力を制御できるようになったら来てくれ。」
「ふっざけんなよ・・・こっちから願い下げだ!!」
「あー、それなら、庄野を倒せたら仲間に入れてやるよ。お前がやられた自衛隊の阿保だ。」
俺は、躍起になった。ただひたすらに力を求めた。
レッドドラゴンのように、魔力が帯びているものを取り込めば強くなるだろうと、大量の魔石を体中に着けた。
そこからの記憶はほどんどない。
気が付いた時には、庄野哲也と再び戦う事が出来ると聞いて、さらに魔石を装備して・・・。
覚えているのは、喉元にナイフを刺された時、『すまんな』と謝られたことだ。
許せなかった。
(謝るくらいなら、俺を殺すな。)
そこから再び記憶が飛び、怒りにまかせて目を覚ました時はレッドドラゴンの頭部に融合していた。
『バケモンが・・・ぶっ殺してやるッ!』
強気な言葉を発したが・・・俺の中には恐怖しか無かった。
傷だらけでボロボロ、呼吸は荒れ、肩を上下させないと息が吸えていない。ナイフを持っている右手はダランと垂れており、子供でも奪えるのではないか、としか思えない程に握れていない。
そんな男に対して、明らかに有利なのは俺たちの方なのに、手が出せなかった。
(どうやって、ブレスは吐けるんだ・・・?やろうと思っているのに、全然言う事を聞かない・・・!)
庄野がボロボロの人間とは思えない速度でこちらに走ってナイフを突き刺そうとしてきたのが目に入った。
(ひぃ・・!来るなぁッ!)
怖くて目を瞑りながら、ドラゴンの手をブンブンと振り回し抵抗した。
「ぐぁ・・・ッ。」
庄野の声が聞こえた。明らかに苦痛を感じている声だ。
目を開ける。
庄野の腹部から、ボタボタと血が流れている。
偶然だ。ドラゴンの振り回した腕の爪が、庄野の腹部を切り裂いたのだ。
(勝てる。
たとえ、屈強な自衛隊相手でも、俺なら勝てる。
見てみろ。右手だけ突き出してうずくまっている。
ナイフが消えていない炎の上にあることに気が付いていない。熱で握れなくなるもの時間の問題だ。)
「その出血量じゃあ、どうにも出来ないな・・・。最後に、何か言いたいことは無いか?」
もう舐めプで勝てる。
ほっといても出血多量で死ぬ。手を下すのは気持ちよくない。
「・・・ぐうぅ・・・。」
待っていると、庄野はナイフを自らの腹部に突き刺した。
(・・・なんだ。
所詮、自衛隊何て旧陸軍の成れの果てだ。最後には自決・・・人間なんてそんなもんだ。)
遺体を食うことも面倒になった。
振り返り、後ろの扉へと歩く。
(・・・これで、魔王軍に入れる・・・。
俺にも、居場所が・・・。)
「どこに行くんだ?まだ、終わってねぇだろ?」
(・・・え?)
振り返る。
庄野が立って、ナイフを俺に向けて構えている。
さっきまで裂けていた腹部の傷口は塞がっている。
(何で・・・?
何で、何で、何で、何で、何で、何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で???!!)
よく見ると、腹部の傷跡は焼けていた。
「そうか・・・ナイフを炎に当てていたのは・・・。
気力が無いからじゃなくて・・・腹を焼くために・・・。」
「さぁ・・・ラウンド3だ。ここで終わりにしよう。」
怖い。
こんな化け物と戦いたくない。こいつは同じ日本人じゃない。ただの化け物だ。
どうして、こんな化け物と戦わなくちゃいけないのか。
どうして、こんな世界で、こんな目に合わなくちゃいけないのか。
僕は、何でこんな世界にいるんだろう。




