第88話 怪 物 ~化け物VS化け物~
(さて、虚勢を張ってみたが・・・。
正直・・・立っているのですら・・・。
さっきみたいな動きは出来ない。回避に専念して、接近を試みたいが・・・正直、厳しい。
足を上げんのが、やっとだ。どこまでやれるか・・・。
とにかく、『人食い火吹きトカゲ』の尻尾を切っただけで、戦いが終わるわけがない。
・・・ここからだ。)
「グゥゥゥゥ!!!!ガァァァァアアアア!!!」
空に向け、雄たけびを上げる。
ドラゴンの口から、青紫色の炎が燃え盛っている。
まるで、炎でうがいをしているかのように庄野の目には映る。
(・・・来るッ!)
「死ネェェェェェ!!!」
口から青紫色の炎が放たれる。速度は速くないものの、砂まみれの地面を焼きながら庄野に近づいていく。
(あれくらいなら、ボロボロの体でも・・・簡単に避けられる・・・。
だが・・・。
地面の炎が消えていない。しばらくすれば消える・・・ようには見えないな。
・・・そんな炎があったな。
ヌークが使っていた「呪いの炎」に近い性質の炎だろうか。迂闊に触れないほうがいいだろう。)
「逃ガスカァァァ!!!!」
怒りにまかせ、でたらめにドラゴンの口から大量の炎が吐き出される。空に、地面に、観客に、自分自身に・・・。炎はあらゆる場所へと飛んでいく。
結界が張られているため、観客に直撃することは無い。
しかしながら、庄野にとっては脅威であった。
「炎に囲まれた・・・。
あっちいな・・・。・・・ん?
・・・くそっ。」
目を足元に向ける。
ただでさえ、危険な状況に曇っていた庄野の表情は更に曇りをみせる。
(走ってる時にやや違和感を感じた。踏み込む時に力が変な方向に散っているような感覚があったんだが・・・納得だ。
・・・グリーブが・・・溶けている。炎の熱が原因か?
足首から下、地面の設置部分が原型をとどめていない。時間をかけている余裕が無い。
危険を伴うが・・・一気にカタを付けるべきだな。)
燃えている地面を避けていき、錯乱しているドラゴンの懐に入る。
(・・・くらえッ!)
ナイフが二本足で立っているドラゴンの足を切りつける。
「グゥルルルルルルアアアアアアアァァァァァァ!!」
悲鳴と共にバランスを崩し、頭が地面に着く。
(よし・・・成功だ。
さっきの尻尾が切断できた範囲を考えれば、同じように足を切ればバランスを崩すのは自明の理だ。
どんな生物でも、脳さえ破壊すれば、生命としての機能は停止する。
頭を狙う・・・そこだッ!)
ナイフを眉間の位置に突き刺し、そのまま頭の頂点へと滑らし、脳を真っ二つに割く。
それですべてが終わる。
そのはずだった。
庄野の右手に持つナイフはドラゴンの眉間に刺さる直前で止まっている。
その刃先を青紫色の木の幹のような手が掴んでおり、全く動かせない。
「・・・お前っ・・・まだ、生きていたのか。」
「ケケケケケケケケケ、マダ、死ンデネェヨオォォォォ!
コイツヲ取リ込ムノニ、時間ガカカッチマッテヨォォォォ!!!」
ドラゴンの眉間に、人の上半身がウネウネと生えてくる。
腕だけではない。顔の色まで青紫色になり、全身が木の幹のような筋が入っている。過去、人間だったと言われても、もうわからない。
(アイツが飲まれてから、言葉が流暢だったドラゴンが雄たけびばかりになったと思ったら・・・これが原因か。)
「サテ・・・力ヲ開放シヨウ。」
「アアアアアァァァァァアア!!!!」
ドラゴンの悲鳴が響く。
会場の観客からは、どよめきが走っている。
みるみるうちに、人工的には出せない綺麗な彩色の赤い肌は毒素を含んだかのような青紫色の肌へと変貌していく。
赤いマントを翻し、明らかに動きにくい長靴のような服装のドラゴン使い。
そのドラゴン使いにいいように使われている、力を持て余しているレッドドラゴン。
そんな面影は全く無い。
木の幹のような体をした化け物はドラゴンの頭に寄生しているようにしか見えない。
赤い肌は全身青紫色であり、もう『レッドドラゴン』と言う名称は使われることは無いだろう。
(・・・化け物。
そんな言葉しか思いつかない見た目になったな。
さっき、俺のナイフを掴んで止めた。ドラゴンと同化していない時は簡単に喉元に突き刺せたんだが・・・。
『魔食竜』とかいう名前だったな。逆に、こいつがドラゴンの能力を吸い取って強化されているんなら・・・ちょっと厄介だな。)
「解放完了・・・ふぅ。ドラゴンは完全に取り込んだ、これで普通に話せる。
久しぶりの再会だなぁ、自衛隊。随分と質素な服装だな?迷彩の服はどうした?」
「色々とあってな。こっちのほうがダサくないだろ?」
「ククク・・・あぁ、お似合いだよ。世界を救ったのに、犯罪者として扱われる、哀れな囚人のお前にはなぁ。」
「・・・お前はどうなんだ?魔王の所では上手くいかなかったのか?」
「うるさい!あんなやつ・・・俺の・・・俺たちの力の凄さを理解出来なかったんだ!所詮、自衛隊はその程度だ!過去の栄光にすがって、新しいものへの試みが無いんだ!『凄いかもしれんが、リスクがデカすぎる』なんてさぁ!力があるものには、リスクがあって当然だろ!!
お前も、その程度なんだよぉ!!」
ドラゴンは再び、二本足で立ち上がる。
ドラゴンの足は、先ほどまでは骨が見える程に深く切られていた。それほどに凶悪な武器によって傷つけられた足には傷一つない。尻尾も同様に回復しており、完全につながっている。
(力の解放とあわせて、傷口の再生もしたのか・・・?
いや、どうだろうか。
切られて一瞬で再生する可能性もある。試してみるしかない。)
地面を抉りながら庄野へめがけて尻尾の横薙ぎが迫ってくる。
青紫色に変化したことで、速度はやや落ちたが、威力はけた違いに上がっているであろう。抉れている地面の深さを考えれば、先ほどとは比べ物にならないのがわかる。
庄野には走って避ける力は残っていない。
2、3歩後方に下がり、そのまま後ろにゆっくりと倒れていく。
左手の甲を右耳の後方につけ、尻、腰、背中、右肩と順番に地面と接触する。
頭部は地面に一切接触することなく、ゴロンと回転して、再び立ち上がる。
自衛隊でいう『後方回転受け身』というものである。
本来なら、小銃を携行した状態でこの受け身を実施する。両手が塞がっている状態で、正面から攻撃を受けた際を想定されたものであり、そのまま立ち上がって反撃に転じることが出来る受け身である。
一番の重要ポイントは、『地面に頭部をつけないこと』である。後方に倒れた時、最も危険なのは『後頭部から倒れること』である。子供から大人まで、立った姿勢から後頭部をぶつけた場合、かなり高い確率で死に至る。一段目の梯子の高さから落ちて後頭部を直撃し、しばらく放っておいたら死んでしまった知人を知っている。
内出血だった。
『人間はなかなか死なない』という話があるが、大間違いである。『運良く、死に立ち会っていないだけ』である。
後方回転受け身により、間一髪のところで避ける。
(この足じゃあ踏ん張れない。だったら、後ろに倒れた方が、まだ避けられる。体重移動だけで何とかなる、こっちのほうが避けやすいからな。)
「避けたか。
でもなぁ、その足で逃げ回れるのかぁ?まだまだ魔力には余裕があるんだ、ブレスはたんまりとお見舞いしてやるぜぇ・・・?」
ケタケタと奇妙に笑う。
その笑いでタイミングをずらし、左右ではなく、上下に尻尾を振り回す。
虫を殺すかのような勢いで、太い木の幹のような尻尾が庄野を押しつぶそうと迫る。
庄野は膝の力を抜き、横に倒れながら回転をする。
古武道の技術である『抜き』を正しく理解している人間は多くいても、実行できている人間は少ない。
宮本武蔵の絵を見たことはあるだろうか。
猫背ではないのに、頭はやや前に出ている。
左足を少し前に出しているのに、左手を前に構えており、難波歩きのようになっている。
そして、剣先は地面を向いている。
骨盤が立っている状態で全身が綺麗に脱力していると、このような姿勢になる。
グラリ、と倒れるかのように動き出し、間一髪で直撃を避ける。
(昔、古武道を習っていた時に猛練習をした成果だ。
技としては不十分でも、咄嗟の時に使えるなら及第点だろう。)
「はっ!なかなかやるな・・・。でもなぁ、連続なら、躱せねぇよなぁ!!」
「・・・。」
空には何もない。
「・・・おい。」
「どうした?」
「・・・てんめェ・・・何しやがった?」
「何って、それか?」
庄野が指をさす。
ドラゴンの尻尾は無い。
途中から真っ二つに切られており、下の半分は壁の近くに転がっている。
「貴様・・・キサマアアアアアあああぁぁぁァ!!!!
・・・いつだ・・・いつ、切った?」
「あぁ・・・いつだったかな?
最近物忘れが多くてな、自分でも忘れてしまうんだ。」
「ふっざけんなよっ!バケモンがよぉ!」
「お前にだけは言われたくは無いッ!」




