第87話 執 行 〜殺るか、殺られるか〜
「ガァァァ・・・グァァァァ!!!!ジョウノォ!ジョウノォォ!!!ゴロズ!ゴロォォオォォァァァスッッ!!!」
おどろおどろしい右腕の魔力でマントが吹き飛ぶ。
大きい、と一言で表していいものなのか。
人一人が腕に引っ付いているかのように錯覚してしまうほどに、太い。
長さは3mはあるであろう。
肩と肘の関節は機械のバネのような部分が見える。
「おいおい・・・人間、辞めたのかよ。・・・そこまで・・・そこまでして、力が欲しかったのか・・・?」
「ギィィィィィィアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!」
ドラゴン使いだったものの右腕が、バリバリと木が割れるような音と共に、車が突っ込んできたかのようなスピードで庄野に向かって伸びてくる。
(ちょっと待てッ・・・それ、伸びんのかよッ!)
庄野はとっさに右方向へと飛び込み前転で回避する。
伸びた腕は闘技場の壁に激突する。大きな穴が開くとともに、地面が揺らぐ。
地面の揺らぎを、まるでジェットコースターのように観客は喜んでいる。
伸びた腕は鞭のようにしなり、再びドラゴン使いの元へと引き戻される。
(危・・・ねぇ・・・。
何なんだ・・・こいつは・・・?
いや、こいつについて考えてもしょうがない。
今の状況について分析していかないと・・・。
俺とアイツの距離、多分20mくらいだろう。その距離を一気に伸ばして攻撃できるのは脅威だ。射程はこのフィールド内全域と考えたほうがいい。
木の幹みたいな筋が見える腕・・・あれは、木なのか?何かしらの魔石であんなふうになってしまったのだろうか・・・。硬さが分からないから、無闇に触れない方がいい。
それに、あの速度・・・。この壁を見る限り・・・当たったら、確実に死ぬ。
それに、アイツを倒した後が問題だ。アイツを倒しても、ドラゴンが残っている。なぜ攻撃をしてこないのかは謎だが・・・。
・・・倒せるのか?俺に。
銃は無い。武器はナイフ一本、槍の矛先が5個。
まずは、アイツをやる。
接近しなければ・・・勝機はないッ!)
意を決して、ドラゴン使いに接近する。
「ガァッ!!」
再び右腕での攻撃。伸びる腕は庄野の上半身を削るような軌道でまっすぐ突っ込んでくる。
壁に腕がめり込む。
壁への激突音が会場へと響く。
庄野が左右に避けた様子はない。
(・・・一回目の攻撃が、やたらに上を狙っていた。伸ばした後は自由に使えるのかもしれんが、伸ばす方向は垂直にしか伸ばせないんだろう。伏せれば避けられると思ったが、予想通りだったな。
あんな化け物になっても、戦闘に関しては素人のままのようだな。)
「・・・グゥゥ?」
直撃した感触が無いのに、庄野を見つけられない。
確認の為、腕を一度格納する。
その格納を始めた瞬間、一気に距離をつめ、喉にナイフを突き立てる。
「グゴオ!・・・ォ・・・。」
「すまんな。(あの時は、サクラ姫がいてくれたからナイフを直前で止めることが出来た・・・。だが・・・。
さらばだ。)」
喉元に突き刺したナイフを抜く。
夥しい紫色の液体が飛沫を上げ、観客からは歓声が沸き上がる。
(・・・血液まで、こんな色に変色するのか・・・。
自分の意思でこうなったのか、誰かにこんな姿にさせられているのか・・・。
もう、聞くことも出来ないが・・・。
さて、あとはこのドラゴンだけだ。)
庄野はドラゴンの方を向き、ナイフを構える。
目を合わせると、ドラゴンは不敵な笑みを浮かべる。
「フン。この馬鹿を倒す力はあるようだな。」
「・・・は?」
「いつもは私の上で指示しかしない癖に、今回は戦いたいと言い出すものだからな。何か策を持っていると思えば・・・やみくもに攻撃して終わりか。話にならん。」
「・・・おい・・・喋れるのか?」
「ん?使い魔を持っているのに知らんのか?・・・あぁ、お前が持っているのは『特異型』だったか。
『戦闘型』と『補助型』はレベルが上がれば言葉を話せるのだ。『回復型』は脳内に直接話すテレパシーを使う。『特異型』は会話できるほど高知能な魔物ではないのだ。グゥワハハハ・・・こいつと一緒だな。」
「・・・お前、目的は・・・おわっ!!」
『黙れ』と言わんばかりに、尻尾で庄野を薙ぎ払う。無論、当たれば無事で済む威力ではない。
「フン。
異界人風情が。吾輩の餌の前に立っているからだ。」
「・・・餌?何を言って・・・。
・・・お前・・・まさか・・・。」
ドラゴンの尻尾の先にはドラゴン使いの死体が摑まれている。薙ぎ払いではなく、ドラゴン使いを掴む為に、尻尾を使っただけであった。
それを右手に掴んだ瞬間、歓声が沸く。
「フハハハハハハ!そんなに血相を変えるな!
安心しろ。この闘技場内には、『幻想』の魔法をかけてある。
体内に魔力を帯びているサリアン人にしか効かない魔法だ。
吾輩は悪人を処刑する聖騎士に、貴様は極悪非道な罪を犯した魔物にしか見えていない。この馬鹿も魔物に見えているだろう。
吾輩の行う食事行為は、魔物にとどめを刺しているように見えているのだよ。だから何も気にすることは無い。」
「ふ・・・ふざけんなぁ!そんな事・・・許されるかぁ!!」
「止めてほしければ!力尽くで止めてみるがいい!ほら、・・・どうした!」
「くそっ・・・!」
(尻尾の薙ぎ払いの範囲が広すぎる!地面に擦るように振り払ってくるから、伏せて避ける方法は使えない。飛んで避けるにしても、1m近くジャンプをすれば避けられるが、攻撃の間隔が短い。着地した瞬間を狙われて終わりだ。どうすれば・・・。)
必死に避けながら接近を試みるが、尻尾の薙ぎ払いの速度が速く。全く近寄ることが出来ない。
「グワハハハハハ!!所詮、貴様もただの人間なのだよ。
ほら、そこで吾輩の食事でも見てるがいい。」
(せめて・・・くらえェッ!)
槍の矛先を口の中に向かって投げるが、尻尾によりすべてはじかれて地面に落ちる。
「・・・哀れだな。自分自身の無力を恨むがいい。」
ブシュッ。
まるで紫色のトマトが潰されるかのような音と光景。
ドラゴンの右腕は高く上にあげられ、ドラゴン使いから垂れる紫色の液体をそのまま口に流し、飲み干していく。
残ったものは口の中に入れ、一瞬にして飲み込んだ。
「フゥ・・・やはり、魔石で汚れた人間の血は不味い。それに、人間は肉が少なくて骨が多い。丸呑みにしないと口の中に骨が刺さるのがいかんな。」
「お前ッ・・・人間を、何だと思ってるんだ!」
「ん?人間か?
食っても魔力の吸収量が少ない。食べ辛い。弱い。一時の感情で同族を殺す。少しでも自分たちと違う部分があれば迫害する。
人間ほど存在価値を疑う生物はこの世界にいないだろう。
サリアン人は典型的な無能だな。
魔力があれば人間、魔力がなければ異界人。
馬鹿馬鹿しい。そんなバカなことをしているから、吾輩に毎日人間が食われていることに気が付かないのだ。
・・・利用価値はあるがな。
吾輩はレッドドラゴンではない。正式な名は『魔食竜』。魔力を帯びた生物を食らえば食らうほど、強くなる。限界値ごと上がるから、食らえば食らうほど、強くなる。吾輩はここの馬鹿な人間をおかげで、魔力をどんどん強化することが出来ている。
しかしながら・・・ここに来てからほとんど成長が出来ていない。
わかるか?」
「・・・異界人には、魔力が無いから・・・?。」
「その通りだ!その聡明さは我が主にも欲しかった。
はっきり言って、異界人なぞ食らってもしょうがないのだ。
魔力のない人間なぞ食っても、胃腸の運動にしかならん。
『吾輩の口を通って肛門から出るだけ』だからな。」
「・・・貴様ッ・・・貴様ァァァァァァァ!!!!!」
怒号と共に庄野はドラゴンに向かって突進する。
「馬鹿が!怒りに任せて肉体が強化されると思うてかッ!」
尻尾による薙ぎ払いが庄野を襲う。
間一髪で避けきれず、庄野は吹き飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がり、ドラゴンの立つ反対側の壁まで飛ばされる。
「ぐッ・・・うう・・・。」
「たわいもないな。吾輩に勝てるわけが・・・ん?」
ドラゴンに違和感が走る。
おかしい。
感じたことがない感覚がドラゴンを襲う。
寒気?
違う。
痺れ?
違う。
熱気?
違う。
激痛がドラゴンを襲う。
「グッ!?ギィヤァァァァァァァア!!!!
ナンダァ!尻尾が・・・切れている!」
よく見ると、ドラゴンの尻尾には大きな切れ目があり、縦に半分ほど切れている。
(・・・あばら、何本かいったな。早すぎて、受け身が出来なかった。
このナイフを信じて・・・肉を切らせて、骨を断とうとしたんだが・・・半分切れたなら、上等か。
これで、尻尾は封じた。)
「行くぞ・・・。処刑されるのは、お前の方だ!」
「舐めるナァ!!!イカイジンガァァァァァァァ!!!」




