第86話 処 刑 〜死ぬか、殺されるか〜
「起床ー!!点呼集合ーーー!!!」
看守の叫び声と共に庄野達の朝が始まる。
日々、囚人の数は変動している。増えもすれば減りもする。一気に10人入ったと思えば、翌日には消えている。そんな監獄なので、点呼の並ぶ位置は毎日異なる。庄野の隣に並んでいた人間は右も左も新しく入った囚人へと変わっている。
気が付けば、庄野が一番長くここの生活を送っていた。
点呼が終わり、朝の清掃にかかる。
しかしながら、庄野は特別で、掃除に参加しないことを命ぜられた。
牢獄の小さな小窓からではほとんど入らない朝日を僅かに浴びながら、掃除道具を片手に上から下まで拭き掃除を行う。
そんな日々も今日で終わり。
庄野哲也に、処刑執行の朝が訪れた。
(・・・最終日。今日、俺は処刑される。)
「庄野哲也、今日はここで食事をとれ。」
「・・・わかりました。」
看守によってトレーに乗せられた朝食が渡される。
(ありがたい事だが、朝から結構な量がある。今まで、部屋に配膳してもらっていたやつらはこういう最期をむかえていたわけか。
・・・過去の偉人が辞世の句を残した理由が何となくわかる。ここにきて、『残したい』という気持ちが強くなる。これが生存本能というやつなのだろうか。
悩んでもしょうがないな。・・・とりあえず、食うか。
ご飯に味噌汁・・・まさか・・・これはっ!?
ハムステーキ!最高じゃないか!!)
防衛大学校の食事はお世辞にも旨いとはいえない。学生約2000人の食事を一気に作るため、ご飯を炊く窯もムラが出来てしまい、ベチャベチャな部分(通称:べちゃ飯)が発生する。味付けもしょうがない。ムラが出ないように味をつけようとなると、微妙な味になる。
そんな中でもあたりと呼ばれるものがいくつか存在する。
その一つが『ハムステーキ』である。
(当時ではあるが)下級生である1、2年生の朝食は必ずパン、上級生である3、4年生はご飯を食べることができるという文化があった。というのも、先ほどの大釜での機能上、朝食に学生全員分のご飯を炊くことが出来ないため、学生の半数ほどしかご飯が無い。朝には長蛇の列を成して朝のご飯争奪戦が始まり、特に人気であるハムステーキはとてつもない人気であった。
故に、(当時)『最も食堂に近い1大隊は隊舎から出る時間を遅らせろ』なんて苦情が発生した事もあったほどである。
庄野が食しているハムステーキはまさに防衛大学校の学び舎に過ごしていた当時の青春の味そのものであった。
(この肉厚のハムが懐かしい・・・。
ウスターソースを少しかけると肉質に味が増してうまいんだよな・・・。
学生時代が懐かしい。みんな、どこで何をしているんだろうか。
・・・あぁ、そういえば、俺も杉村も、去年の春には学校に入校するんだったな。
AOC、俺は普通科だから富士学校(富士駐屯地)、杉村は航空科だから航空学校(明野駐屯地)に行く。・・・行っていたんだ、こんな世界に来なければ。
ここに来なければ・・・学校に入校中の夏、昇任して、1等陸尉になっていたのか。
俺が1尉か・・・変な気分だ。
まぁ・・・もう、承認することも無いんだが・・・。
・・・いや、今更だな。
殺されるかどうかって時にそんな事を気にしてもしょうがないか。
さて、食うか。
・・・。
ふぅ。食ったな。
さて・・・。この後どうなるか、だな。
『どれだけ抵抗できるか』『見物』というワードからある程度どのような事をさせられるのかは推測できる。だが・・・俺が疑問に思っているのは、何故そんな事をするのかって事だ。
わざわざ回りくどい処刑方法をとらなくても、処刑するなら、さっさと殺せばいい。それなのにやらない。
・・・何かしら企みがあるのだろう。
まぁ・・・ある程度予想はつくが・・・それがわかったところでやることは変わらないか。)
「庄野、いるな?・・・よし、来い。」
看守に呼ばれると、庄野は外へと連れていかれた。
手錠もかけられず馬車に乗せられ、15分ほど移動をする。
馬車から降りると、熱気と歓声が空気中に響いた。
(・・・やっぱり、ここか。
闘技場。懐かしいな。
サクラ姫が賞品にさせられてしまった時に連れてこられたのが、ついこの前のようだ。
まだ、この世界について何も知らなかったころだ。
ドーランなんて無意味なのに顔に塗りたぐって、素人を全力で投げ飛ばして・・・殺そうとした。
・・・過去の事を悔やんでもしょうがないな。いくか。
どうやら、何か試合をやっているみたいだな。喜びの歓声、怒りの怒号が入り混じった声が響いている。
・・・だいたい想像はできていたが、ここで戦えって話か。)
闘技場の裏口のような所から入り、奥のほうへと案内される。
入り組んだ道を進むと、待機室のような場所に連れていかれる。壁には剣、槍、手斧などの武器が並んでおり、持ち手の部分はやや変色している。
(持ち手の変色・・・腐っているのか、血がついて色が変わったのか・・・わからんが、使いたくはない。)
「順番が来たら、奥の扉が開く。開いたら進め。ここにあるものは何でも使ってもいいぞ?なんでもな・・・ククク・・・。」
看守は不敵な笑みを浮かべながら去っていた。
(さて、どうするか。
・・・刃こぼれはしていない、柄の部分は使えないと断定して使うか。槍の刃先だけを集めれば、投擲武器になる。斧は振り回せればいいから、腐っているであろう部分を最初からへし折っていれば手から離れることは無い。剣も振り回さず、突くだけなら問題無いな。
あとは・・・。)
武器を物色していると、部屋に一人の女性が入ってくる。
手には一本のナイフと服を持っている。
「・・・これを、使って下さい。それと、これに着替えてください。」
「・・・(誰だっけ・・・、見覚えはあるんだよなぁ・・・確か、サリアンで・・・あれ、いつだったか・・・。
あー、杉村と初めて会った時、サリアンで会議が実施される時にあったな。サリアンの門番か。)」
「あー、えっと・・・サリアンの門番ですよね?どうして、俺にこれを?」
「あ・・・マルクです。覚えてもらえて光栄です。
・・・とある方から、渡してこいと・・・。」
「誰ですか?そして、何のために?」
「・・・誰からかは、言えません。
その・・・ナイフは『ドラゴンキラー』です。刃先は短いですが、ドラゴンの硬い鱗を簡単に剥がすことが出来ます。この服には耐火性能が付与されています。ドラゴンのブレス・・・火炎を防いでくれます。でも、完全には防げないです。何度も浴びれば、服は燃えなくても・・・庄野さんが燃え尽きてしまいます。」
「ドラゴン・・・?俺は、これからドラゴンを戦うんですか?」
「・・・この国に、処刑はありませんでした。処刑なんて、意味がないからです。・・・でも、今は・・・その制度が、導入されて・・・ぐすん。」
「・・・話してもらえますか?」
「・・・ごめんなさい・・・言えないんです。ごめんなさい・・・。」
会話の途切れと同時に、遠くの扉がガラガラと開く。
「庄野哲也っ!何をしているっ!早く来いっ!」
「時間か・・・行くしかないか。」
「あ・・・服、着れてないです!」
「時間がないので、これだけで何とかします。
・・・最後に、これだけ教えてもらえますか?
いつからですか?」
「え?あ・・・えっと・・・あの・・・。
あの時ですっ!水害が各国に発生した・・・あの時にっ!」
「それだけわかれば、結構です。デルによろしく伝えておいてください。」
「あ・・・。・・・はぃっ!!!」
闘技場に入る。
庄野が入ると、先ほどとは比べ物にならないほどの歓声が沸き上がる。
庄野が入った扉の反対方向には、見覚えのある赤いマントを着た男と、赤色のドラゴンが立っていた。
「お前は・・・あの時の・・・。魔境にいって杉村の配下になったって噂を聞いていたんだが、こっちに戻っていたんだな。」
「・・・。」
下を向いたまま、反応がない。
「おい、聞こえているのか?何か言ったらどうだ?」
「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・グ・・・グ・・・ギ・・・ギィアアアアアアアアア!!!ジョウノッ!ジョウノオオォォォォォォォォ!!!!!!!」
人間とは思えない、化け物の叫び声。
マントの内側から、彼の右手が姿を現す。青紫色をした他の生き物の腕を取り付けたかのように大きな腕が現れる。
(・・・何だ・・・こいつ・・・?)




