第8話 試 練 ~銃≦ナイフ<<<魔法~
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「近接戦闘においては銃よりナイフの方が有利な場合がある、逆も然りだ 。わざわざ襟着きのボディアーマーを装備した相手にナイフが有効だと思うか?手を伸ばせば殴る事が出来る相手を、わざわざ拳銃で撃つのか?
……いいか?大事なのは状況判断だ。常に自分が有利な態勢を確立して戦闘を行うことだ。その基本が……」
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スポーツ、ゲーム、様々な勝負ごとにおいて有利な態勢の確立は勝敗に直結する重要な要素である。具体的に言えば、自分の得意な戦術を相手にぶつけたり、相手の苦手とする弱点を執拗に突く事である。
しかしながら、有利な態勢を確立しても勝敗が左右されない、どうしようもない場合が存在する。
それは、『圧倒的な戦力差』である。
「ハァッ……ハァッ……。」
庄野は両膝に手を乗せ、肩で息を吸いながらアルフの説教を受けていた。
「うーん、庄野さんね。あんた、魔法を使わない相手だと強いみたいね。でも、魔法を使う相手だとね……はっきり言って子供以下だね。」
「ハァッ……ハァ…。」
「あとね、その、どーらん?だっけ。顔に塗ってもいいけど……ちょっと魔力の波を出せば、近くにいる生き物は見えなくても探知出来るから、草むらに隠れてワシを攻撃しようとしてたみたいだけど、意味無いからね。ワシは探知の魔法は使えないけど、使える人が相手だったら全く意味無いからね。」
「ハァッ……。……ふぅー。」
「ワシが使った防御壁、大抵の物理攻撃なら防げるけど、魔力を纏ってれば簡単に貫通して壊れるっていう、誰でも使える初級の防壁魔法なんだけどね。この魔法はだいたいの人間が防具に付与魔法として貼ってたり、魔石に付与して装飾品として装着されてるんだけどね……これを破れないことがどういう事か、わかるよね?この世界の人間にダメージ与えられないって事だからね。この世界の人達と戦うのはただの自殺行為だね。物凄い威力がある武器持ってるなら別の話だけどね。」
「はい。」
呼吸を整え、庄野はしっかりと返事をする。
「うん、呼吸が落ち着いたみたいだね。今日は何となく庄野さんの訓練に付き合ったけど、もう誘わんで良いからね。これだけ実力差があったら、お互い訓練にならないからね。
ちなみに、闘技場で勝てたのは相手が戦闘経験の浅い異界人で強い使い魔と狭い場所で戦えたからだからね。だだっ広い平野で勝負したら何万回やっても負けるね。運良く勝てたってのを忘れないでね。」
「はい、勉強します。」
庄野は深々と頭を下げた。
(……突然特訓に付き合うって言ってくれたから、何かと思ったら、いきなり薄い壁に全周を覆われて『どんな手使っても良いから一時間以内に出てみてね』って言われて、挑戦してたわけだが……。何か手段があるんじゃないかって努力はしたが、傷一つつけられなかった。これが今の俺とこの世界の人間の力の差だ、分かってた事だ。……ただ、銃の威力が通用するかどうか、これを試したかったんだが、今後の事を考えると残弾に余裕が無い。実戦でもない所で試し撃ちをする事なんて出来ない。引き続き戦力外か。)
「まぁ、せっかくだからね。魔法を使った戦い方について、ちょっと教えてあげるね。」
アルフからこの世界の基本的な戦術について様々な説明を受けた。伊達に年はとっておらず、庄野への説明は丁寧なもので非常に分かりやすいものであった。
故に今の庄野の戦闘能力は全く役にたたない、という現実が鮮明になっていった。
(なるほど。先ずは索敵、これを行う事に変わりはない。だが、この世界の人達は敵を探す魔法、『探知』がある。使える人が限られるが、相当な距離まで使えるらしい。『探知』が使えなくても、数十m程度なら魔力の波を放出して、ぶつかった物の形で人がいるかどうかを感知できるらしい。魔力を持っていれば、クジラのエコーロケーションみたいなものを全員が使えるそうだ。
更に、発見後は遠距離から魔法で攻撃。射程は個人差があるが約1km先の人間を狙う事が可能で、直撃すれば行動不能な怪我を与えることができる。攻撃を行う魔法使いの周辺は常に魔法で防御壁等を展開しているから、常に全周の防御は完璧、か。俺一人がこの世界の戦いに参加したところで戦術的な変化をもたらすことは無いな。)
庄野はアルフの話を聞いて納得をした様子であった。
「ショックを受けてるように見えないし開き直ってる様子でもないね。」
「戦闘で役に立てないのはサリアン王に散々言われて納得してましたので。でも、俺に出来ることはそれだけじゃないですから。」
「そうかね。ま、頑張ってね。」
「はい。ありがとうございました。」
庄野と話し終えると、アルフはトボトボと屋敷の方へと帰っていった。
(さて……。俺が自衛隊で培ったものは白紙になった。これが現実だ。異世界に来て、簡単にレベルが上がって強くなる。そんなの漫画やアニメの中だけだ。それに、自衛官として出来ることは戦うことだけじゃない。俺に出来ることをやる。それだけだ。)
庄野はちらりと目線を下に向ける。足元にはコピードール達が寂しそうにしており、ウルウルとした目で庄野を見上げている。庄野はスッとしゃがみ込み、3匹の頭をわしゃわしゃと撫でた。
(時間は経ったがこいつらの運用方法がわからないままだ。このままじゃただの可愛いペットだ。とりあえず色々試してみたいが……何をすれば良いのやら。)
庄野はコピードールを撫でながら空を見上げ、今後について考える。何かを思いつくが、現実味が無くてもパッと消える。再び何かを思いつくも、パッと消える。具体的な解決策が出てこないまま、時間だけが過ぎていった。
(……先人達が全てを諦めて西の都を出ていった気持ちが何となくわかった。だからといって、諦めるわけにはいかない。俺はこの世界で出来ることを全てやった訳じゃない。この世界で最弱なだけだ、諦める理由になっていない。そんな事で何も悩む必要もない。
やれるだけの事を全力でやるだけだ。弱いからやれないとか、弱いから役に立たないとか、そんな理由の方が必要無い。一つ一つ、出来るようになっていこう。)
庄野は考える事をやめ、再び訓練に移行した。




