第85話 獄 中 〜人生2度目の牢獄生活〜
(・・・4日目の夜が終わる。もし逃げ出すなら、あと2日でどうにかしなければならない。3日後が処刑決行日。当日に逃げ出すのは相当難しいだろう。緩みが発生する中日が狙い目なんだが・・・。
何も出来ない。
ずっと牢屋に入れられているのなら、何かしら作業が出来るんだが・・・。
ここの態勢だと、何もさせてもらえない。
決まっているもの言えば・・・起床点呼、朝の掃除、朝食、昼食、昼の作業、夕食、就寝前の点呼。
不規則なもので言えば、用便。
それぞれが決まった場所で行われる。場所はバラバラ、それぞれの場所は建物自体が異なっている。トイレですら別棟だ。
生活環境は整っているが、それ故に1日の殆どは移動で終わってしまう。
逃げ出すために何か作業をしようにも、1箇所で何かを出来るわけじゃない。しかも、1日の移動でかなり疲弊する。夜起きて何か作業をするには体力がもたないだろう。
簡単には逃げ出せないシステムだ。
・・・前回は牢屋の前に人がいたりいなかったりで雑な仕事をしていたものだが、今回はかなり勤勉だ。しっかりしすぎていて、何もさせてもらえない。
誰かの入れ知恵があったにせよ、このままじゃあどうにも出来ない。何か、策を考えないとな・・・。)
5日目の朝が始まった。
「点呼ーーーー!!早く集合しろっ!」
看守の声が牢屋の中まで響く。庄野の他にも囚人は数人いるため、俗に言う就寝点呼というものは無い。
各人が決められた位置に、決められた順番に並び、一人ずつ確認をされていく。
(自衛隊でも点呼はあるが・・・集合場所が決められているのは同じだな。
しかし、並ぶ順番まで統制される事はあまり無い。教育や学校の部隊であれば部屋毎に並ぶ方が掌握という観点から並ぶ順番まで統制するのは理解出来る。
俺も含めて十人もいないこの人数をわざわざ順番を決めて並べる必要があるのか・・・。
それも含めて、脱走を企てさせない策略なんだろう。)
点呼が終わると、そのまま囚人達はそれぞれの場所で掃除を行う。庄野の担当場所は牢屋前の通路であった。
(起床後に清掃・・・防衛大学校の1年生を思い出す。
清掃の順番が守れていないからという理由で怒鳴り散らされ、酷い目にあったものだ。
とはいえ、最近の防大は学生の親から色々と言われて、色々と緩くなってしまっている。具体的にいうなら、指導というものが存在しなくなってしまった。理不尽な環境を経験することに意味は無いかもしれないが、理不尽な環境を知らなければ教えることが出来ない。
・・・災害派遣がいい例だ。誰も災害を予期出来ない。災害は「今から災害を起こすぞ?」と通知しない。いつ、何時起きるかわからないものに対する耐性をつけなければならないのだが・・・。おかげさまで、指導しがいのある後輩が部隊に入ってきたわけだ。
・・・掃除の度にこんな事を思い出すのは俺くらいだろう。)
掃除を追え、食堂へと向かう。
食堂はサリアン兵が食事をしている場所と同じであり、その一角を使っている。その一角ですら人数に比して広く、パーテーションで区切られて見えないよう工夫されている。
(・・・パン、ベーコン、サラダにたまご焼き。和食が好きな奴は米と味噌汁、焼き魚を選ぶことができる。
囚人相手にいたれりつくせりな所なんて聞いたことが無い。)
朝食が終えると庄野達は一旦牢屋へと戻される。
移動が長く、戻った時刻は10時過ぎ。
11時過ぎには昼食のために再び移動をする。
(さっき朝食を食べたのに、もう昼食を食べないといけないのか。移動をしているから、多少は腹が空いているが・・・食の細い連中にとっては苦行でしかないだろう。
・・・まぁ、嘆いてもしょうがない。今日はカレーか。異界人が飯が不味いってことは無いし、とりあえず食うか。)
満腹そうにして昼食に手がつかない他の囚人を横目にカレーをつつく。
『食えるときに食え。食いたいときに食えないのが戦場』という心得から、庄野はいつ何時でも食事ができる。例え満腹に近い状態でも、腹に余積があれば、食事出来る時間があれば、食事を摂取する。
食事をする庄野の前にドカっと一人の女性が座る。
「よぉ、庄野だっけ?こんな状態で飯が食えるなんて、相変わらず大したもんだ。」
「・・・えっと、どちら様ですか?」
「はぁ?!ここに連れてきた奴の事がわかんねぇ・・・あぁ、あの時は栄養不足で肌がひどかったからねぇ。」
「・・・あのときの、狙撃手。」
「そんな警戒しなさんな。今日はちょっと話がしたくて来たのさ。」
「・・・。」
相手の意図が読めず、まじまじと全身を見る。
(前回戦ったときはシワシワの老婆のようだったが、今はとても整った顔立ちをしている。
特徴としては・・・淡い迷彩服、白い肌、青い瞳。
そして、使用していた狙撃銃・・・特徴的過ぎる穴の空いた銃床…ドラグノフ・・・。
極めつけは俺を待ち伏せしていたBMPT-3。
彼女はロシアの軍人だ。それもかなりの腕だ。諜報に関してはロシアは侮れない。何を聞いてくる…?)
「あんた、あと2日で処刑だろ?そうなる前に助かる方法がある。
私達の仲間になるんだ。歓迎するよ。」
「・・・理由は?」
「色々とあるけど、一番の理由はあの魔王を単身で退けられる采配、智識、そして戦闘ヘリを撃破する事が出来る戦闘力だ。
私達は異界人が普通に生活出来るような環境がほしい。だからこそ、異界人にもサリアン人に劣らない、いや、それ以上の戦闘力がある事を証明したいんだ。
そのためには力がいる。机上の空論はいらない。ペンが剣より強いのはルールに則った時だけだ。戦争に法は無い。無法地帯では誰もルールに則らない。ペンを持って戦場に立つバカは剣に刺されるだけさ。
だから、その力をこの世界に流れてきた異界人の為に使いたいのさ。」
「話は理解出来ましたが、具体的にはどうするつもりなんですか?」
「早い話、サリアンの領土の一部をもらって、異界人の為の国を建国するのさ。
ここから遠く離れた辺境に作っても、異界人の受け皿は結局サリアンさ。だから、サリアンに国を作る必要があるのさ。
・・・だけどね、サリアンにその話をしたら、当然断られたさ。だから、力によってうちらの主張を通す。奴らが散々うちらにやってきた事を、そっくりそのままやり返すって寸法だね。それ以外に方法は無いよ。」
「・・・話はそれだけですか?」
「納得行かないかい?
いいさ。こっち側に入ってくれたら儲けもんって位でしか考えてないからねぇ。
・・・よく食べて、力を蓄えておくことだね。最終日、あんたがどれだけ抵抗するのか、見物をさせてもらうよ?」
「・・・見物?何の話ですか?」
「おっと、知らなかったのかい?
教えてもいいけど、ネタバラシは興ざめだからねぇ。私から言えるのは、ここの処刑は一風変わってるって事だけだね。」
「・・・。」
食事を終わらせ、午後の作業場に入る。
庄野が行った作業は古くなった剣や槍の刃こぼれを磨いていく作業だったが、女スナイパーの話が脳裏から離れず、手が止まる時間が長い。
夕食。
上の空であったが、食事はいつもどおりにしっかりと摂取した。
就寝前の点呼。
上の空であったが、いつも通りに整列する。点呼が終わるとそのままの足取りで自分の牢獄へと戻った。
庄野はベッドに横になり、天井を見つめる。
(・・・『どれだけ抵抗するのか』『見物』・・・。そして、誰かに頼まれて、俺はここに居る。
何となくだが、処刑の全貌がわかった気がする。
チャンスはあるかどうか分からないが、最終日にすべてを賭けたほうが脱出のタイミングとしては良い可能性が高い。
・・・やるしかない、やるしかないんだ・・・。)




