第82話 暗 雲 ~第5の勢力~
(・・・相手がわざわざ狙撃手に向かってくる。射撃をことごとく避ける。弾丸が顔に命中しても怯まない。
そんなあり得ない戦い方にパニックになったか。
だから、急に狙いがめちゃくちゃになった、と考えられる。
やはり、イレギュラーに対応出来なかったか。)
庄野は足を止め、上を見上げる。
スナイパーが先程まで狙撃していた木の目の前まで到着していた。
木の上では、冷酷な射撃を行っていたスナイパーとは思えないほど乱心している。
「クソッ!銃が外れないっ!固定しすぎたっ!全然、動かないっ!クソッ!」
(・・・女性だったのか。
酷く痩せこけているように見える。ゆったりとした服でほとんど見えないが、手足もかなり細い。栄養失調を起こしているようにガリガリだな。
ん?・・・腕と銃を繋ぐようにチューブが刺さっているように見える。
・・・何か、特別な能力で作られた銃なのだろう。体の組織を媒体にして銃と成しているのか、または、別の何かを作っているのか。
チューブが枝に絡まっているのに気が付いていないようだ。
このままご乱心でいられても話ができないな。)
「おーい、チューブが枝に引っかかっているぞ。それを外さないと。」
「あぁ!クソっ!」
「おーい、聞こえるか!」
「あぁぁぁっ!!!ゼンッゼン外れない!クソがっ!消えろ!」
スナイパーが銃から手を話す。
叫び声と共に、銃はみるみる白くなっていく。
銃の形をした白い物体は、灰のようにサラサラと風に飛ばされ消えていった。
銃を消すと、スナイパーは木から飛び降り、腰元からナイフを取り出して庄野の目の前に立ち、突っ込んでくる。
それと同時に、カスミも離れた距離を一気に詰めて、スナイパーと庄野の間に立ち、徒手で構える。
「どきなっ!」
スナイパーは右手に持つナイフをカスミの喉元に向かってものすごい速さで突き出す。
「どきませんっ!」
カスミは前に出していた左手の甲でなナイフを捌き、そのままスナイパーの手首を掴んで反時計回りに180度ほど回す。そのまま関節が極まったスナイパーの手の甲に膝蹴りをかます。
「ぐぅ・・・ぁあ!」
鈍い音と共に、ナイフが地面に落ちる。落ちたナイフも銃と同じように白色に変わっていき、灰のようになっていく。
「まだですっ!」
手首を極めたまま、カスミの左回し蹴りがスナイパーの側頭部に直撃する。その蹴りの直撃に合わせるかのようにスナイパーは横回転しながら、カスミの目に向けて爪先で蹴りを与える。
カスミはその蹴りに仰け反り、手を離してしまう。
「甘いよっ!」
「くっ・・・仕込み、ですか!」
スナイパーはバック転して距離を取る。
靴を見ると、爪先に先程まではついていなかった槍の先端のようなものが飛び出ている。
「どきなっ!アタシはそこの男に、庄野哲也に用があるんだよ!」
「どきません!なんなんですか!あなたは!・・・って、てつや君?」
カスミの肩にポンと触り、前に出る。
「俺に、用があるんでしょ?・・・刺客を送ったり、わざわざ手のかかることを。」
「はっ!出てきたねっ・・・このっ、裏切り者がぁ!!!」
「裏切り・・・俺が、何をしたんですか?」
「あんた・・・自覚は無いんだねぇ。
あんたは、異界人として・・・この世界の人間に!魂を売ったんだよ!」
「・・・話が、読めないんですが。」
「そうかい・・・順を追って説明しようかねぇ。」
スナイパーは木のほうへよたよたと歩く。
手が木に触れると、地面にドカッと座り、その木を背もたれにして語り始めた。
「あんた、かつて英雄として崇められた異界人・・・最後、どうなったか知ってるかい?」
「知りません。」
「英雄として崇められた、かつての異界人はね・・・2代目魔王として君臨したのさ。」
「・・・は?」
「いいかい?
むかーしむかしに起こった異界人とこの世界の人間の戦争・・・魔族を倒して平和になって、ハッピーエンドー・・・とは、いかなかった。
実際、異界人を完全には殲滅出来ていなかったのさ。
初代魔王は死ぬ直前、この世界に2つの呪いをかけた。
『異界の森にある異界の扉は永遠に閉じられない』
『異界人を殺せば殺すほど、強力な能力を持つ異界人がこの世界に呼ばれる』
というね。
だから、この世界にいる異界人を全員殺したとしても、この世界に入ってくる新たな異界人を止めることは出来なかったんだよ。
しかも、殺せば殺すほど、強力な能力を持つ異界人が現れるのさ。
そして、その強力な能力を持った異界人がこの世界に入って最初に見る光景は・・・異界人が差別され、無残に殺される様さ。そして、高い能力を持ったそいつらは『正義』の名のもとに攻撃を仕掛けるのさ、最初に訪れる、サリアンでね。
だからね、サリアンは異界人に何度も滅ぼされかけてるんだよ。
最初は撃退できていた。
だが、異界人は無限に現れる。
だが、サリアン人は無限じゃない。
だから・・・異界人は丁重に扱うっていうシステムが出来上がったのさ。
この世界に残っている『異界人への差別禁止』のルール・・・異界人に対する人道的な配慮をしてるのは建前さ。本当はね、世界を滅ぼされかけた過去の隠蔽・・・サリアン人達の悪事を隠し、身を守るためのものなのさ。」
「・・・。」
「その事態の収拾に貢献したのは2代目魔王・・・まぁ、かつての英雄様さ。
ただ、サリアンに『異界人を差別するな!』って言っても聞かないだろう?だから、それなりに立場のある人物を用意したのさ。
表の顔はサリアンの英雄、裏の顔は2代目魔王さ。
公開されている情報は『英雄が異界人への差別禁止を唱えた』だけど、実際は『2代目魔王はサリアンと平和調停を結んだ』ってわけ。異界人には2度と手を出さない。丁重に扱うよう事を条件に。
もし、差別をしたり、迫害するような事をしたら・・・異界の扉を拡大させ、さらに能力の高い異界人をこの世界に送り込み、再び戦争を起こす。
だから、『差別禁止』なんてルールがあったのさ。」
「そうか、だから・・・こんな訳のわからない国になっているのか。」
「そうさ。
それなのに、この国は!その約束を破って、めちゃくちゃにしやがった!!
『能力の高い異界人はサリアンに残す。それ以外は国外へ。』
フフッ・・・ふざけてるだろ。
そのせいで・・・私の同士達は酷い目にあった!だから、私達はこの世界に復讐をするんだよ!
それなのにッ!お前はッ!この世界にッ!尻尾を振ってさぁ!良いご身分で暮らしてるじゃないか!
それを裏切りと言わずに!何て言うんだい!!」
(・・・妬み、と答えたら殺されそうだな。
だが、彼女の意見もわかる。本来であれば、劣っている異界人を守るための法が機能せずに、結果としてサリアン人の良いように使われているのは事実。俺も元々はお払い箱にされた人間だ。気持ちはわかる。
だが・・・。)
「だからといって、関係ないソーラを巻き込んだ事は許せない。」
「ソーラも同罪だよ。異界人差別に対して厳しくやってるのは、今のおチビなお嬢ちゃんに変わってからさ。それまでは見て見ぬふり。私達は酷い目にあったもんさ。
あぁ、『ガラはどうなんだい?』っていう屁理屈は辞めてよ?あそこはそもそも他国の人間に対しては無関心だからね。」
「それで、どうして俺を狙うっていう話になるのかわからない。」
「あぁ・・・理由かい?理由は二つ。
一つは、私達の意思。
私達じゃこの世界の人間に下等生物として扱われてきた。その復讐さ。
サリアンに産まれただけで恵まれていると勘違いしている阿保共への、ね。だから、そいつらに協力しているあんたは復讐対象なのさ。
・・・私個人としては、あんたの命なんてどうでもいいんだけどねぇ・・・。
二つ目。こっちが本命さ。
・・・フフッ。
・・・なぁ、あんた。サリアン人から『裏切り者』って言われたこと、あるかい?もしくは、魔王と同じだ、とか・・・。」
庄野は過去に言われた言葉を思いかえす。
(心当たりはあるが・・・あの人だけだな。)
「ある。」
「・・・そう。そうかい。
その人からの依頼さ。」
スナイパーはボロボロの右手をあげる。
手にはフレアガンが握りしめられており、上空に赤い光と共に煙が一直線に伸びる。
その光が灯されてから数秒もしないうちに、遠くから重たいエンジン音がうなり声をあげる。
(何の音だ・・・?これは、装軌音か?
・・・まさか、戦車を持ってきているのか!)
ブルン、ブルンとエンジン音を鳴らしながら、その車両は近づいてくる。
戦車・・・とは違う。
主砲の位置には機関銃。両サイドには装甲とは別に貼り付けられプレートのようなものが何枚も見える。足元はキャタピラであり、明らかに日本製ではない。
「・・・は?なんで・・・?」
庄野は開いた口がふさがらない。
スナイパーは座り込んだ姿勢で、ケラケラと乾いた声で笑っている。
「・・・BMPT-3・・・ロシアの・・・装甲、戦闘車・・・?
お前、何をしてるんだ・・・?
異世界にッ!何を持ち込んでるんだ!
何なんだ!お前はぁ!!!」
庄野はスナイパーに向かって叫ぶ。
スナイパーは立ち上がらずにそのままの姿勢で顔だけ上に向けて答える。
フードの内側から、青い瞳が庄野を睨みながら。
「ヒャーーハハハハ!!!
自己紹介が遅れたねぇ!
私の名前は『シエラ』。
ただの女スナイパーであり・・・ソーラの執事長に魔法を与えた張本人であり・・・。
サリアンと共に、あんたを殺そうとしている反逆者達のリーダーさぁ!!」




