第81話 定 石 〜セオリーの最大値はセオリー〜
(・・・何?隠れずに出てきた、だと・・・?
・・・なるほどね。何か、魔法による防御を張っているのかい。
そしたら弾丸の種類を変える、までだ。
・・・さっき撃ち損じたのは奴が転んでタイミングがズレたから、偶然だ。
・・・次は脚を狙わない・・・狙ってやらない。
脳天に穴を開ければ、隠れている雌狐も出てくる。
そこでケリをつければ、この戦争は・・・私たちの戦いは、終わるんだ。)
狙撃手は森の中。
引き金に人差し指の第一関節を当てる。
長く鋭い呼吸。ふぅー、と息を吐く。吐ききった後、深呼吸の容量で空気をゆっくりと肺に入れ、僅かに鋭く息を吐き、息を止める。
森の中から、キラリとスコープが光る。
(ぶっつけ本番でどうなるか不安だったが、何とか、なった・・・か。
カスミさんが屋敷の中を探索している間に義手と義足の調子を十分に確かめていなかったが・・・あれだけ簡単に歩けるんだ、それなら走ることも出来るだろうと思ってやってみたが、案外出来るもんだ。
・・・だが、運に頼るのはこれっきりにしよう。
命は一つしか無いんだから。)
歩く。
狙撃手の方向へと真っ直ぐに歩みを進めていく。その行為ははっきり言って自殺行為である。
(・・・バカが、死ね。)
対人狙撃銃から弾丸が発射される。発射された弾丸は真っ直ぐに庄野の額に向かって高速回転しながら飛んでいく。
弾丸はそのまま真っ直ぐに地面を削り、小石を空気中へと弾き飛ばす。
その道中に庄野の額は無かった。
(・・・外した・・・?
いや、。次は当てる。)
長く鋭い呼吸。ふぅー、と息を吐く。吐ききった後、深呼吸の容量で空気をゆっくりと肺に入れ、僅かに鋭く息を吐き、息を止める。
破裂音。
地面に弾丸が命中する音。
それ以外の音は何もしない。
庄野に弾丸は命中していない。
(・・・なるほど、そういう魔法か。
命中精度を下げる魔法なら、こっちにも策はある。
・・・私の能力なら・・・。)
スナイパーの左腕に刺さっている針から銃に向かって伸びているチューブの中を赤い液体が流れる。
(私の能力・・・BB弾なら、例え魔法で防御してようが、例え魔法で命中精度を下げようが・・・その効果は無力化される。
魔法に頼っているなら・・・この弾丸は、避けられないよっ!)
スコープの反射が庄野の目に映る。
(・・・光が見えてから、発射まで・・・5秒。
きっかり、5秒だ。
初弾発射から次弾の発射までの間隔も・・・5秒。)
破裂音。
(見出しをしっかりと合わせながら・・・息を大きく吐き、息を吸い、少しだけ息を吐いて・・・息を止めてから撃つ。
これを5秒間隔でリズムよく続けていく。)
破裂音。
(やっているやつは自衛隊の中でも少ないだろう。
小銃装備者で射撃の点数が高いやつでもなかなかやっていないだろう。
海外の軍隊なら、やっているものは多いだろう。
・・・実践を知っているが故の・・・知識だ。)
破裂音。
(どうすれば、的に当てられるか。
射撃に必要なものとして、見出しや姿勢を言う人間が多い。教範に書いてあるからだ。
論外は道具を指摘すること。サバゲーが趣味だったり、実弾を実際に撃ったことがある人が『この銃は当たらない』だの『このスコープじゃないとダメ』と言うが、大間違いもいいところだ。)
破裂音。
(あんな『どうぞ、撃ってください』と丸見えの閉鎖空間に丸見えの敵がいるわけがない。
いつ、どこから、どうやって襲ってくるかわからない敵を、いつも通り狙えるか?
緊張状態でも、同じように引き金をひけるか?
目の前で仲間が頭から血を噴き出して倒れているのを見ても、平然を引き金を引けるか?)
破裂音。
(・・・それらを考慮すれば、緊張状態での命中精度は通常の状態の半分以下と言われている。
いい道具を持っていても、いつも通り撃てなければ意味はない。
道具のせいにする時点で3流。
教範の内容しか喋れない奴は2流だ。
一流は自分のルールをもっているやつ・・・つまり、ルーチンを持っているやつだ。)
破裂音。
(同じリズムで撃つ事を指摘するやつもいるだろうが、小銃に関しては同じリズムで撃ったほうが命中精度は高い。
・・・特に、狙撃に関しては。)
破裂音。
(ルーチンが、『いつも通り』をつくる。同じリズムが、『いつも通り』をつくる。
その空間が、命中精度を格段にあげる。
狙撃手っていうのは、そういう世界の生き物だ。)
破裂音。
8発の弾丸は歩行している庄野に命中しないで、そのまま地面に命中する。
(どうして・・・どうして当たらない?どうして・・・?
落ち着け…呼吸を…精神を、安定させるんだ。
見出しも正しい。スコープの距離も正しい。姿勢も正しい。魔法無効の弾丸を使っている。
問題は無い。『いつも通り』狙えば、当たる・・・。
当たるんだよぉ!!!)
破裂音。
無慈悲。
その弾丸は地面を抉るだけしか無い。
「どうして!!!どうしてだぁ!!」
感情的になり、スナイパーは森の中で叫ぶ。
(・・・悪いな。
セオリー通りに遂行できること。同じリズムで射撃できること。
それは素晴らしいことなんだよ。
だがな・・・。セオリーは、どこまで行ってもセオリーなんだよ。
定石。故に、先が読みやすい。
定石。故に、ほかのイレギュラーな行動が無い。
定石。故に・・・5秒後に弾丸が飛んで来ることを考えれば、わずかに左右に体をずらせば弾丸は避けられるというわけだ。)
歩きながら、庄野はほくそ笑んでしまう。
(・・・我ながら、馬鹿だな。
会った事も無い、ましてや敵の狙撃手の事を勝手に信頼して、『絶対にこう撃ってくれる』という確証の無いものだけで敵前に歩んでいくなんて・・・。)
不意な庄野の笑みをスコープで覗き見てしまう。スナイパーはそれにより焦燥に駆られてしまう。
『どうだ?当たらずにここまで来たぞ?』と言わんばかりの笑み。
そんな意図は庄野に無い。
このスナイパーの勝手な思い込みである。
「バッ・・・バカにしやがって!!!絶対に、絶対に・・・当ててやるッ!!!」
呼吸は肩が揺れるほどに荒れ、見出しはぐちゃぐちゃになる。
庄野から見て、スコープの反射がチカチカと点滅しているように見えるほどに。
(ん・・・?なにやら、問題が発生したみたいだな。
・・・行くぞ。)
駆ける。
先ほど着けたとは思えないほど、義足で軽快に走ってスナイパーの元へと向かっていく。
「はぁっ!はぁっ!・・く、・・・来るなぁ!」
狙ったかどうかわからないような感覚でスナイパーは引き金を引く。
いい加減な見出し。狙いが適当な射撃が的に当たるはずがない。
が、運が良ければ・・・時に命中することもある。
「ぐふぅ!・・・っう!!!」
庄野の左頬が裂ける。
(クソッ・・・!適当な見出しで当てんじゃねぇよ!
・・・だが、運がよかった。ガク引きしやがったな・・・おかげで、右に逸れた。破られたのは頬だけだ。顔面の中央に当たってなければ、まだいける!!)
ドボドボと血が地面に流れる。血と混ざって顔の肉も落ちたのではないかと誤認してしまうような血の塊が何度も庄野の顔から落ちる。
そんな状態でも、庄野の歩みは止まらない。被弾した瞬間すら怯まず直進してくる。
「ひっ!・・・来るなぁ・・・。・・・来るなぁぁぁ!!!」
庄野の異常な行動による恐怖から、スナイパーは叫ぶ。
叫びながら引き金を引くが、弾は出ない。
パニックになっており、弾丸の補給をしていないまま、何度も引き金を引いているのだ。
「・・・なんですか・・・これは・・・。」
カスミは木々の隙間から、このありえない戦いを見ている。
狩人が獲物に追い詰められている。
そんな状況に何を思えばいいのか。
歓喜。
驚愕。
不安。
恐怖。
何の感情を持てば良いのか、わからない。
わかっているのは、血まみれで狙撃手に向かう庄野の顔を見て、手が震えていることだけだった。
(・・・これが、庄野哲也、ですか・・・。
カエデ女王が是が非でも欲する異界人。
サリアンが是が非でも排除したい異界人。
魔王が我々よりも脅威としている異界人。
味方であれば、心強いですが・・・本当に、味方にしていいんですよね?カエデ女王・・・?)




