第78話 回 収 ~この世界で初めての装備品~
(・・・さてと、そろそろ来たかな。)
庄野はベッドから片足で立ち上がり、壁に手をつたいながらケンケンで外に出る。
外に出ると、協会の前で子供達がカスミと追いかけっこをしていた。
「あ、庄野のおじちゃん!またあれ作ってよ!!」
「お兄ちゃんな?そろそろ覚えてくれよ?
よし、ちょっと待ってろよ・・・。
・・・おし、出来たぞ。そらっ!」
庄野が飛ばした紙飛行機に子供たちは魚の群れのように並走し、遠くのほうまで走っていく。
地面に柔らかく着陸した紙飛行機を飛ばし、再び追いかけている。
「ふぅ。子供たちは元気ですね。」
「良いことです。・・・特に、あの子達にとっては。」
「・・・そうですね。」
「過去を振り返る事は大切です。でも、過去を引きずって前に進む障害になるなら、その過去は捨ててしまうのも大切です。
・・・難しいんですけどね。」
遠くからでも子供達の遊んでいる甲高い声が響いている。
(‥‥聞いた話だと、ここにいる子供達は両親を失っているらしく、日中はここに遊びに来て、夕暮れになるとサリアンにある孤児の宿泊施設に帰るそうだ。
あくまでもここは教会であって孤児施設ではない。子供達が泊まれない事はないが、部屋にもベッドにも限りがある。いつも来る子供はざっと10名程度だが、その人数ですら受け入れるのがやっとだろう。
教会もそんなに大きい場所ではない。
杉村の2度の襲撃によって家族を失った子供もいれば・・・俺と同じ事情で家族と離れてしまった子供もいる。
子供ながらに両親と突然別れることになるなんて、辛いだろうな。何なら親を認知する前に別れた方が・・・いや、その考え方はよそう。
・・・別れを伝えることもなく、急に家族を奪われた悲しみは簡単には忘れることが出来ない。それを克服して、こうやって笑って過ごす事が今出来ているのはここの大人達のサポートのおかげなのだろう。
・・・それにしても、サリアンはこのような状況を理解しているのだろうか?
いや、あえて泳がしている可能性もある。
隣国との接線にある教会に子供を遊びに行かせてこちらの情報を入手しようとしているのか・・・?
・・・まぁいい。憶測で思考するのは良くないな。
考えなければいけないことが多すぎる・・・とりあえず、やる事を1つずつ片付けるか。まずは・・・。
西の都に置いていったガントレットとグリーブの回収だ。)
「あら、子供達があんな遠くに行ってる!ちょっと注意してくるね。」
「お気をつけて。」
(カスミさんは敬語で話しかけるときと私語で話しかけるときがある。
私語で話しかけてくるときは素が出ているときが多い気がする。
・・・それか、何か大切な事を話しているときだろう。
理由はわからないが、そんな気がする。)
カエデを見送り、外を見て考え事をしていると、教会に向かって歩いてくる一人の男性が庄野の目に入った。
(・・・こんな所に人が来るんだな。)
三十代半ばで背筋はピンとしており、黒色の背広を着ており、手を後ろに組んで歩いてくる。
(・・・さて、どうしたもんかな。)
「こんにちは。今日はどういったご用事ですか?」
「ええ。ちょっと・・・お祈りです。」
「そうですか。そういえば、あそこにある・・・ほら、あれ。見えます?」
「はぁ・・・どれですか?」
突然話しかけ、庄野はその男性の右後方を指差す。
男性は反時計回りに後ろを振り返り、庄野の指差した方向を見る。
「・・・何があるんですかな?」
「真実です。」
「はい?」
「あなた、俺を馬車から突き落とした人ですよね?」
「はぁ、あの、何を言ってるのか。」
「俺が指差した方向・・・あなたの右後方ですよね。何で、わざわざ遠い反時計回りに振り向いたんですか?
時計回りに振り向いた方が早いですが・・・。」
「いやー、気のせいですよ。何も考えてないですから。」
「でしょうね。
あなたの癖ですよ。ソーラで俺が馬車に乗るときも反時計回りに回りながら説明していました。そんな物珍しい癖を持っている人はなかなか」
「・・・ケッ!糞が!何でわかった!」
男性は声を荒げる。
「・・・今、わかったんです。」
庄野は『どうだ』としてやったりのしたり顔をする。
「あ?何言ってやがんだ。わかったから聞いたんだろ?」
(あ、この人・・・マジで悪い人だ。)
したり顔が煽りにならず、相手の悪さに失望してしまう。
そんな二人のやり取りにカスミが近寄ってくる。
「大きな声がしましたが、何かありましたか?」
「うるせぇ!アマは引っ込んでろ!」
男性が大振りに右こぶしを構えてカスミに振り下ろす。
それを小さな動きでかわし、カスミの左腕が相手の右腕に絡むように交差し、左こぶしは男性の右頬を潰し、口から赤色の液体が飛び散る。
(・・・あんな喧嘩パンチでもクロスカウンターであわせられるってことは、やっぱりこの教会にいる二人は相当の手練だな。)
「ふぐぉぉぉ・・・痛ぇ・・・こんな所、2度と来るかぁ!!!」
(見事な逃げっぷりだな。
それにしても・・・。)
「てつや君、怪我はない?」
「ええ、大丈夫です。カスミさんは・・・大丈夫そうですね。」
「フフッ。こう見えて強いですから♫」
「ハハハ・・・。」
乾いた笑いでリアクションを誤魔化しながら、庄野はカスミに訪ねた。
「カスミさん、単刀直入に聞きたいんですが。
ここから西の都までどれくらいですか?」
「馬車を使えば数分、徒歩でも数十分ですよ。子供達をサリアンに送るので、一緒に行きますか?」
あれよあれよと言う間に車椅子に乗せられ、サリアン城の付近まで移動してしまう。
「じゃーな!また遊んでくれよ!!」
無邪気に手を振る子供達と別れ、西の都へと向かう。
「1年近く離れていたから、みんな俺のこと忘れてるかもしれないですね。」
「・・・うん。」
カスミの歯切れがとてつもなく悪い。
何かを言いたそうにしているが、それを必死に隠そうともしている。
時間の経過と共に、その隠そうとしていた真意がはっきりとする。
「・・・は?ここは?」
「・・・西の都・・・今は、廃棄です。」
見渡す。
何も無い。家や田畑の跡はあれど、そこに家は無い。田畑も無い。人もいない。
何も無い小さな村にポツンとあった屋敷だけはほぼそのままの姿でそびえ立っているが、何も無い中に1つだけあるのが余計に不気味であった。
「ここに住んでた人は、どこに行ったんですか?」
「・・・ごめんなさい。分からないの。」
(・・・争ったような形跡は無い。人がいなくなった後にとり壊されたのか?これだけじゃわからん。分かっているのは家があった場所は綺麗に家が無くなっている事、田畑は綺麗に平たく整地されていることだ。)
「とりあえず、屋敷に向かいましょう。」
屋敷に入る。
屋敷の中は庄野が住んでいた頃から殆ど変わっていない。棚や床にホコリが溜まっており、天井に蜘蛛の巣がある以外は。
(・・・誰も手入れをしていないのか。
お手伝いのオバさん達もどこにいったのか。)
「部屋に向かいましょう。」
庄野の部屋の前に立つ。
ゆっくりと扉を開ける。
庄野の部屋は他の部屋に比べて少し綺麗であった。
ホコリは被っているが、机の上にガントレットとグリーブが置いてある。
(あった。これだ・・・。これの為に命を落としかけたんだ。十分な機能を発揮してくれよ・・・。)
ガントレットを右手に持ち、左腕をガントレットにはめる。
グリーブを右手に持ち、左足にグリーブをはめる。
右足と義足で車椅子からゆっくりと立ち上がる。
(長さがピッタリだ。
まるで採寸をしていたかのように・・・。珍しい魔石を使っていると言っていたが、凄いな。
多少ではあるが、自分の意思で少しなら指が動かせる。
ん、これは・・・?)
よく見ると、机の上に手紙が置いてあった。
『てつや様。
貴方ならきっとこの手紙を見ているでしょう。
あれから色んなことがあって・・・書ききれないから、起きたことだけを書きます。
名目上、西の都はサリアンの属国となりました。実際は・・・サリアンの兵に攻め込まれました。家屋、田畑はすべて破壊され、その破壊した痕跡は全て消されました。
住んでいた人達はサリアン兵に連れて行かれる前にソーラに避難しました。ソーラのどこかでひっそりと住んでいますから安心してください。
私とアルフは上手く逃れたのでまだ捕まっていないと思います。
ここに来たということは、ガントレットとグリーブを回収にきたのだと思います。私とカエデ女王で作りました。貴方の事を守ってくれるはずです。必ず装備して下さい。
こんなことしか出来なくてごめんなさい。
どこかの国でてつや様に会える事を祈って・・・。
サクラ』




