第77話 失 恋 ~負けヒロインの方が人気あるのって主人公にとられてないっていう安心感とあわよくば自分にもワンチャンあるのでは?っていう錯覚と勘違いであって我々にチャンスは最初から無い~
教会で治療を受けて1ヶ月が経った。
(・・・長々とここに居させてもらってるが、至れり尽くせりで本当に申し訳ないな。
この教会は広大な平原のサリアン側に位置しているのだが、ソーラの領内という扱いらしい。だから、神父様もカエデさんもサリアンの近くに住んでるソーラの人間、ということらしい。
カエデ女王に頼まれたガントレットとグリーブの回収が難しくなってしまう事を神父様に相談したらソーラに用事があったときに伝えてくれたようだ。
・・・「しっかり治してから自分で回収すること!」という返答も貰ってくれた。
ソーラから結構離れているのにソーラの領地扱いってことは・・・サリアンに対する前哨なんだろう。
・・・となると、ここにいる二人は戦闘において俺より確実に強いだろう。
戦闘において前哨はとても難しい。そこで堅固に守って抑えるか、引いて主力に合流すべきかの判断を瞬時に行わなければならない。その判断は戦闘の全体から判断する必要がある。
敵の欺瞞に乗ることなく、相手の能力を見計らう。簡単には出来ない・・・。
ノウハウがあるなら教えて欲しいものだ。
・・・それにしても、暇だな。ちょっと外に出て風にあたるか。)
ベッドの横にある車椅子に乗り、片手で車輪を交互に回し、スラロームを描くようにして外へと出る。
「ふぅ。天気が良いな。・・・そよ風が気持ちいい。」
(この世界に来てから、あんまり風情をゆっくりと楽しむ時間も無かった。
・・・ずっと・・・生きることに必死だった。
いや、来る前もそうだったか。
必死にやれば何か答えが出るかも知れないと思って・・・がむしゃらにやっていた。
それで・・・誰かのためになる仕事をしたいと思って・・・自衛隊に入って・・・。
空挺団に入って、落下傘とレンジャー課程行って・・・特戦入って・・・。
ここで・・・
・・・何やってんだ、俺は。
ヌークを退けて、杉村と対等に戦えると勘違いをして・・・その慢心から左手と左足を失って・・・。
・・・。
サクラ姫に、何度も迷惑をかけて・・・泣かせて・・・。
これ以上泣かせないって決めたのに・・・。
カスミさんも泣かせて・・・。
とにかく、この体じゃどうにもならない。
スライムを倒すのがやっとの状態だ。片腕と片足だけでは杉村に勝てない。
杉村だけじゃない。あいつの回りにいる仲間達だ。一人は偶然殺れたが・・・あの能力だ。他のやつらも同様にヤバい能力を持ってるだろう。
わかっている限りで『杉村』『弾丸を止められる女』『フードで顔が見えない人』『全身が肉塊の化け物』『侍』『頭を撃っても死なない女』だ。
6人あんなのが・・・。
・・・俺一人でどうにか出来るもんじゃないか。
仲間を集める事が出来れば、何とかなるかも知れない。
・・・集まるのか?
異界から来た俺を信用してくれる人間なんて・・・。)
空を仰ぎ見ながら今後について考える。
何度も浮かぶ考えは良いアイデアが沢山あったが「自分を信用して戦ってくれるのか」「異界人に協力的になってくれるか」という後ろ向きな考えがフィルターとなり頭の中で却下されていった。
段々とその思考は複雑なものになり、目を瞑り唸りながら考えていると、気が付かないうちに取り込んだ洗濯物の篭を持ったカスミが庄野の前に立っていた。
「てつや君、一人で出てきたの?」
「はい。」
「もぉー・・・出たいときは言うようにって言ったでしょ?転んで怪我が酷くなったらどうするの?」
「次からそうします。」
親と子供のやり取りのような会話を終わらせ、二人は部屋に戻る。
時間が経過し、夕食を済ませる。
庄野は部屋のベッドで横になって再び考え事をしていると、カスミが部屋に入ってきた。
「入りますね。調子はどう?」
「まずまずですよ。まだ所々は体を動かすとちょっと痛みます。」
「そう・・・。あの・・・今日は、夜、冷え込むらしい・・・です。」
「・・・はい?(何か、歯切れが悪いな。)」
急に会話が終了する。
いつもと様子の違うカスミの様子を見ようと、庄野は座ったまま前屈みになり、黙ったまま俯いているカスミの顔を下から見上げる。
見たことが無いほど赤面しており、目が少し涙ぐんでいる。
「・・・。」
「カスミさん?何かあったんですか?
何かあったから、相談に乗りますよ?」
「・・・じゃあ・・・その・・・。
・・・我が儘、1つだけ、言っても・・・良い?」
「良いですよ?何なら、2つでも3つでも言っても良いですよ。」
「・・・あの、・・・その・・・。
い・・・一緒に寝ても良い?」
「・・・はい?」
予想だにしない質問に裏返った声で返してしまう。
「・・・ダメ?」
「良いですけど、いや・・・やっぱりダメで・・・いや、その・・・。
理由を、聞いても良いですか?」
「てつや君?そう言うのは、聞かないものだよ?」
「・・・はい。でも・・・。」
俯いたまま、カスミは質問する。
「・・・サクラ姫に・・・悪いから?」
本当は聞きたくない。
聞いたことで嫌われるかもしれないから。
本当は答えてほしくない。
得るであろう答えは自分が聞きたくない言葉であろうから。
「いえ、カスミさんに悪いと思ってます。」
「・・・え?」
カスミは顔をあげ、庄野の顔を見つめる。
言ってしまえば無愛想、無表情である庄野の表情は僅かであるが緩んでおり、口元は微かであるが微笑んでいるように見える。
「カスミさん。
俺は、サクラ姫が好きです。好きな人にちゃんと気持ちを伝えるまでは、他の人に対して思わせ振りな行動をとるような事をしたくないんです。それは、カスミさんに対して失礼ですから」
「・・・。」
再び俯いてしまう。返事はない。
「・・・あの、カスミさん、俺は、」
「・・・フフッ♪
てつや君の気持ち、伝わったよ。
てつや君の事、好きになって良かった。
・・・ありがとう。
ごめんね?困らせるような事言って。」
「あ・・・いえ・・・。」
「・・・もう、夜遅いから、寝よっか。お休みなさい。」
手を振って、カスミは部屋を出る。
(そっか・・・やっぱり、サクラ姫の事が好きなんだ。
誠実な人だから、きっと上手くいくだろうなぁ・・・。
きっと・・・結婚して・・・
幸せに・・・。)
「・・・うっ・・・。
うぅ・・・。」
部屋に戻る途中の廊下で涙が溢れ出てくる。
正直な気持ちを伝えてくれた事はとても嬉しかった。
自分を好きではなかった。それだけが、ただただ悲しかった。
悲しみに耐えられず、泣き崩れてしまう。
泣き崩れたカスミを神父が発見する。
「シスター?どうしたんですかな、こんな所で。」
「・・・うぅ・・・。」
泣き崩れたままで何も答えない。
答えられないと言った方が良いのかもしれない。
「・・・カスミ。
お前は、庄野さんの事を・・・好いているのかな?」
「・・・えっ?
・・・うんッ!う゛んッ!・・・好きぃ・・・。でもぉ・・・。」
泣き崩れたカスミと同じ目線の高さになるよう、片膝をつく。
神父のゆっくりと伸ばした右手はカスミの頭を優しく撫でた。
「あぁ。わかってる。
庄野さんは後悔するよ。私のかわいい娘を選ばなかったことを・・・。」
「ひっぐ・・・ひっ・・・。
おどうざん・・・。
おどぉ・・・ざぁんッッッ!」
「・・・おいで。温かいお茶でも飲んで気持ちを落ち着けようか。」
「・・・ん、・・・うん。」




