第72話 約 束 ~男として守らないといけない約束がある~
「何で、効かない?・・・何故だぁ!」
執事長の慌てる様子はまるで子供が駄々をこねるようであり、何度も地団駄を踏んでわめいている。
「そもそも、お前だ!どうやって呼吸の禁止を解いた?どうやって!」
「それは・・・ひとまるとあなたのお陰ですよ。
『汚いペットはご主人でも助けたらどうだ?』って指示したじゃないですか。」
「指示・・・?そいつが俺の能力で言うことを聞くわけがないだろ?俺の能力は言葉を理解することが条件なんだ。こんな小汚ない使い魔ごときが、人間の言葉が理解できるわけが無い。」
「キュルー!!キュルーー!!」
執事長の悪口にひとまるが反応する。怒っている犬が吠えるように、可愛い鳴き声で執事長に向かって叫んでいる。
その傍らにいるななよんときゅうまるは微動だにしていない。
「何だ・・・。何を騒いでいるんだ?」
「『小汚ない使い魔』ってバカにされたから怒ったんですよ。こいつは俺に従ってくれている3匹のコピードールの中で唯一人間の言葉を理解してるんです。」
「使い魔が・・・?そんな訳無いだろっ!言葉を持たない魔物が人間の言葉を理解するなんてあり得ない!」
「あり得ない。
・・・そうですね、俺もそう思ってました。でも、この世界じゃ普通の事なんて何も無いです。
オニヤンマが巨大化して人間を襲ったり、同僚が魔王になってこの世界を滅ぼそうとしたり、アパッチと生身で戦ったり・・・。
あり得ないことばかりですよ、この世界は。」
「・・・。
じゃあ、使い魔が俺の指示を受けたとして、どうやって解除した?」
「・・・幸い、魔法を無効化する魔法をコピードールが知ってたんです。」
「・・・知ってた?そんなはずはない!
俺の絶対王声を解除出来るのは、同じ絶対王声か、カエデが使う『ディスペル』だけだ!・・・。
・・・お前、まさか・・・。・・・そういう魔法が使えるのかっ!?」
「・・・それについては黙秘します。約束なので。」
ギリギリと歯ぎしりをする。噛みしめているのは満足の行く解答が得られない事への悔しさなのか、能力が発動せず思った答えが返ってこない事への怒りなのだろうか。
「・・・お前はもういいっ!・・・カエデ!お前は何をしたんだっ!」
「・・・まぁ、教えてあげても良いけど。
私が使ったのは『ディスペル』と『リフレクト』。2回目は反射魔法よ。」
「リフレクト?何を反射したんだ?」
「あなたが放った最後の指示。『一生涯魔法の使用を禁止』でしたっけ?それをあなたが受けたの。」
「・・・へ?」
間の抜けた返事が口から自然にこぼれた。
「何で分からないの?自分で自分の魔法を二度と使えないようにしたの、あなたは。試してみなさいよ。何万回やっても無駄だと思うけど。」
数秒の静寂。
その後、執事長は両足をズルズルと引きずるように、ゆっくりとボロボロの椅子に歩みより腰を掛けた。
半分手榴弾の爆風で吹き飛んだテーブルの上に両肘をつく。
手で顔を覆いながら考え事をしている。
しばらくするとテーブルに水滴が滴りはじめた。
「・・・そんな。・・・折角、手に、・・・。・・・入れ・・・。」
「恨むなら自分の能力を恨むことね。」
「あの、ちょっと良いですか?」
地べたに座っている庄野が挙手をして二人の会話に割り込んだ。
「はぁ・・・まずはおにーさんの方ね。・・・あいかわらずボロボロになるのが好きなのね。とりあえず、治療を済ませて、服は洗濯して、体を・・・ていうか、」
「その前に執事長とお話がしたいんですが。」
「・・・話はまだ終わってないけど・・・はぁ。
少しだけなら良いわ。」
「ありがとうございます。
・・・ちょっと、聞いても良いですか?」
庄野は倒れている椅子を執事長の正面に立て、面接をしているように向かって座る。
「・・・何だ?今更俺に聞くことなんて無いだろ。」
「時間が惜しいので単刀直入に聞きます。
『絶対王声はあなたの能力ですか』?」
「・・・何だって?俺の能力に決まってるだろ?何を言ってるんだ?」
「えー、すいません。その・・・何て言うか・・・。『貰い物』というか、『借り物』というか・・・最初からあなたの能力なのかっていう質問なんです。」
「・・・。」
「俺に対して絶対王声を使う時なんですけど、ずっと違和感があったんです。
『禁止する』って言葉や『死』という単語をギリギリまで使わなかったですよね。あえて、回りくどく死ぬ方法を選んでるのが不思議だったんです。
それに、所々で指示の出し方が曖昧過ぎるんです。自分の使う力なのに、ちゃんと理解して使えてないような・・・そんな感じがしまして。人から教えて貰ってそのまま使ってるような使い方をしてるというか・・・。
もし、借り物か貰い物の能力だとして・・・それは、」
「・・・あんた、何年だ?」
「・・・?」
「この世界にきて、何年だ?」
「2年経たない位です。」
「そうか。
・・・俺は40年だ。22になる時に紛れ込んで・・・気がつけば還暦もとうに過ぎた。
ここに来た当時は大した能力も無い、使い魔もいない、魔法も使えない・・・はっきり言って使い物にならないただの人間だ。
拾ってくれたのはソーラの前女王だ。人使いはそこそこ荒かったが、俺を城に置いてくれた。異界人の俺を雇ってくれた事には感謝をしてた。
だが、一部のこの世界の奴らは俺に対して嫌悪感を抱いていた。『異界人がこんな所にいるな』ってな。何十年もそれは続いた。
カエデ女王に変わって、異界人への迫害禁止が強化された。
・・・表では。こういうのはな、見えないところで悪さをするようになるだけなんだよ。
・・・今まで以上にひどい目にあった。
食事をもらえなかったり、買い物をさせてもらえなかったり・・・。本当に最悪な40年間だった。こんな世界に来なければ、こんな目には・・・運が悪かったんだ。
・・・ある日、そんな俺に風変わりな女から話が来た。
『魔法を教えてやる。変わりにこの国を壊滅させろ』ってな。胡散臭い話だったが、この世界には恨みしかない。だから話にのった。
・・・それで魔法を貰った。
だから、あんたの言うとおり、絶対王声は俺の元々の能力じゃない。よくわかったな。」
「そうですか。でも、」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!貰ったってどういう事!魔法の受け渡しが出来るなんて、聞いたこと無いわよ!」
話の途中でカエデが割り込む。
「そうは言っても、貰ったものは貰ったんだ。
渡してくれたやつの名前は聞いてないからわからんが、瞳が青い若い女性d」
言葉の途中、窓ガラスが割れる。
割れる音と同時に執事長は椅子から落ち、床に倒れた。
白いシャツの胸部分に小さい穴があり、赤い色が滲み出ている。
「きゅうまる!東の窓に防御壁を展開!
ひとまる!机を倒してこっちにも壁を作れ!
ななよん!治療をする、手伝ってくれ。」
ひとまるが机を倒し、その裏に執事長の襟を加えて引きずりこむ。庄野は匍匐で近寄り、血が滲んでいる部分の止血を試みようとする。
(胸部に小さな穴がある。銃声は僅かに聞こえた・・・対人狙撃銃・・・。執事長は・・・心臓からは反れてるが・・・肺に当たってる。
出血が酷い。俺が出来る範囲の応急処置・・・とにかく止血だ。)
止血をするために服を剥がそうとする庄野のその手を執事長が払った。
「・・・良い。約束を・・・果たせなかったんだ・・・。
『出来なかったら、殺す』・・・と言われてた・・・。・・・。
へ、へへ・・・死んだら・・・帰れるかな?日本・・・に・・・。
お・・・かあ・・・・・・。」
「・・・(助けられなかった・・・)。」
「・・・おにーさん、何が起きてるか説明して。」
「遠距離に撃てる銃で執事長が狙撃されました。胸部に命中、死亡しました。狙撃してきた敵の位置は分かりませんが撃ってきた方角は東からです。」
「東ね・・・『リフレクト』を城の東側全域に張ったわ。もう大丈夫よ。」
再び発砲音が小さく聞こえたが、窓ガラスには何もない。
「撃ってきたわね。でも、跳ね返したか問題ないわ。」
「・・・。」
(そんな簡単に反射の壁を、しかも大規模のものを作れるのか。
何て言うか・・・チートだよな、この世界のレベル高い人って。)
「・・・さて、おにーさんの治療をする前に。」
「何でしょう?(・・・怒られそう)。」
へたりと座っている庄野のそばにカエデが近寄る。
庄野の顔に手が伸びる。
反射的に顔が叩かれると認識し、目を瞑る。
ポンポン、と頭の上に小さい手が乗せられる。
「・・・無茶、しすぎ。約束守ってくれたのは嬉しいけど、それで死んじゃったら、私のせいみたいじゃないの。」
「・・・すいません。約束を破りたくなかったんです。・・・もう、約束を守れないのは、嫌だったんです。」
「サクラちゃんの事?あの子はそういうの大事にする子だからねー。でも、私との約束は破って良いわよ。おにーさんの命の方が大切だから。」
「有難うございます。」
「・・・チッ。2発目に撃った弾は跳ね返された。・・・それでも、目的は達成したから良いか。
ゴンタはバカだから魔法の制限をさせたのは失敗だった。
・・・さて、行くか。仲間の元へ・・・。」




