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尚、士気については旺盛であります!  作者: 固太 陽
第一章
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第71話 慢 心 ~油断してないつもりでもやってる時ってある~

「・・・ふぅ、ふぅ・・・。取り乱した所をお見せしてすみません。質問を変えましょう。庄野さん。あなたは何もしていない。

では・・・『誰が、何をしたんですか?』。」

「(・・・こういう聞き方をされたら、答えざるを得ないか・・・。)コピードールが俺に対して魔法を使いました。」



「なるほど、あなたの使い魔ですね。『使い魔を貴方の目の前に出してもらえますか?』」

「・・・ななよん、きゅうまる、ひとまる。出てこい。」

「キュッ。」「キュッッ。」「キュッ。」



ダンプポーチから勢いよく飛び出てきた3匹は白いテーブルクロスのかかっているテーブルの上に乗り、庄野の方を向く。








庄野は森から帰って来て風呂に入っていない。迷彩服はボロボロ。半長靴は爪先が剥がれ、皮手は穴が何ヵ所も開くおり、手の平を保護できているのか怪しい。



それはコピードールも同じ。

外で飼っていて一年近く体を洗ってあげていない犬が純白のテーブルクロスの上にゴロンとした様を想像すれば容易にわかる。


純白の布は一瞬にして泥と埃で焦げ茶色に染まる。




「・・・『謝罪を』。」

「・・・その、マナーがなってなくてすいません。・・・。」




怒りなのか呆れなのか、執事長は謝罪を求める。

庄野も真面目に返答をしてしまい、二人の間に気まずい空気が流れる。

このやりとりの間、下手をすればこれから死ぬかもしれないというのに庄野には恐怖を感じさせるほど落ち着いていた。




「・・・私にも否があるので構いません。とりあえず、『コピードールは庄野さんを守る必要は無い。指示を聞く必要は無いと指示してください』。」

「(・・・甘いな。)

ななよん、きゅうまる、ひとまる。俺を守るような行動は取るな。直ちに攻撃を行え。この指示以降、俺の指示は聞くな。」

「キュッ!」「キュッッ!」「キュッ!」



庄野の話が終わると、コピードール全員が執事長に対して発車済み9mm弾を複製し、一斉に発射する。



「カエデ。」

「・・・。」



執事長の一言とともに、虚ろな表情のままのカエデが右腕をスッとあげる。まばたきをする間もなく防御魔法が張られ、弾丸は全て防がれ、地面に落ちる金属音だけが部屋に響いた。




「指示無しに動くようにはしてあるのはこちらも同じですよ。

それよりも・・・どうして、私の指示した通りに動かない?

・・・どうしてだ・・・?答えろ!」

「俺は指示されたことを言いましたよ?『守る必要は無い』と言ったんだから、当然、『攻撃だけしろ』という指示は正しい。

『指示を聞く必要は無い』と言ったんだから、『以降、俺の指示は聞くな』と言ったんです。」




「それはっ・・・!・・・。」



『解釈の違いだ』と叫ぼうとしたが執事長は喉まできていた言葉を飲み込み、発言を辞めた。




指示というのは、簡潔に述べれば誰かに何かをさせる事である。

言葉にすれば簡単であるが、言った通りに行動させるのは想像以上に難しい。

『カレーを作ってくれ』という指示が出たとする。具材は何を入れるか、ルーはどこのメーカーにするか、甘口か辛口か、どれくらい作るか、いつ必要か、米は必要か、皿や容器はあるか・・・等々考えられることは沢山ある。たった一言の『カレーを作ってくれ』から出てくるカレーは人の数ほど種類がある。


当然、執事長の指示にも同じことが言える。具体的に示した様に見えて曖昧である。




自衛隊において曖昧な指示(=命令)を出すことは指揮官失格である。

その命令によっては()()()()()()()()()()()()である。

庄野はそれを理解出来るように何度も指導を受け、考え方を強制し、ここに立っている。故に、執事長の指示が曖昧でありその意味が通じる範囲内で自分が有利に動けるようになる指示をしたのだ。




(曖昧な指示だ。これじゃあ部下の命は守れない。

・・・まぁ、素人が明確な企図のもとに適切な命令(=指示)が出来るわけが無いんだが。


そもそも、もっとはっきりと言い切れば良いんだ・・・どうして執事長はそれをやろうとしないんだ?

命令ともいえない、指示ともいえない微妙なニュアンスの内容ばかりだ。

・・・そうだ、ドアノブの時から疑問だったんだ。何でわざわざ分かりにくい歯切れの悪い言葉を選んで・・・。


・・・ん?そうだ、何でわざわざそんな言葉を・・・?)




「『コピードールに攻撃を辞めさせるよう言ってください』。」

「・・・ななよん、きゅうまる、ひとまる。()()()()()()。攻撃を辞めるんだ。」

「キュッ。」「キュッッ。」「キュッ。」



執事長の()()によりコピードールからの攻撃が止む。

同時にカエデの展開していた防御魔法も解除された。




「・・・ふぅ。どうやら、あなたを見くびっていたようです。」

「・・・。」





「・・・本気でいきます。出し惜しみをして死んでしまっては何の意味も無いですからね。






・・・庄野さん。













『呼吸をすることを()()()()()』。」

「・・・ぐ・・・が・・・!!!」




喉に何かを詰められたかのように息が止まる。



(・・・なんだ、これ・・・息が・・・でき、な・・・。)





「・・・さて、部屋に戻りますかね。」



目の前で苦悶の表情を浮かべ、涙目になりながら必死に息を吸おうと喉に手を当てる庄野には一切興味を示さず、執事長は部屋の出入り口方向へと歩いていく。



(・・・コピー・・・ドー・・・。



こっ・・・。



・・・。)





執事長が部屋のドアノブを掴んだ瞬間、顔だけ後ろに向ける。



「・・・カエデ。『彼が死んだら遺体はバラバラにして燃やしてゴミとして処分しなさい。それが終わったら部屋にもどって静かに過ごしてなさい』。


・・・あぁ、忘れていた。テーブルクロスが汚れたんでしたね。・・・どけ、死に損ないが。」


「グゥ・・・ガ・・・。」


庄野の座っている椅子を蹴り飛ばす。座っている庄野は床に吹き飛ぶ。呼吸が止まっているため、受け身も十分に取れない。




「ほら、汚いペットはご主人でも助けたらどうだ?テーブルから降りやがれ、糞が。」



先程まで丁寧な口調で喋っていたのと同じ人間とは思えない程の暴言を吐きながら、無抵抗のコピードールを掴んで庄野に向かって投げつける。庄野にぶつけられたコピードール達はいそいそと庄野の顔の回りに集まっている。

「キュー・・・。」「キュゥ・・・。」「キュ・・・。」



執事長は汚れたテーブルクロスを畳みながら庄野の腹や足を蹴り続けた。

最初は弾力のあった庄野の肉体も酸欠による筋力低下でその蹴りはドスドスと内蔵に刺さっていき、それに合わせてうめき声が出る。



「・・・全く、こんなに汚しやがって。だから自衛隊は嫌いなんだ。体も汚い、思考も汚い、行動も汚い。最低な種族だ。



・・・んー?お、顔色が変色し始めたな!

よしよし、そろそろ死ぬな。ほら、死ね。死ねよ。早く死ね。」




子供が子供を虐めるように『死ね』という言葉を連呼する。

無邪気に、楽しそうに『死ね』という言葉を繰り返す。

『死ね』という言葉を繰り返しながらも庄野の腹を蹴り続けた。


















蹴る度に出てきたうめき声が無くなった。















「・・・もう死んだか。

カエデ、処理しろ。」










庄野に近づき、魔力の帯びた剣を構える。

その剣を振り上げた姿勢でカエデは停止する。





「・・・おい、早くやれ!どうした!!」
































「お前は指示が曖昧なんだよ。『死んだら処理しろ』って言ったのはお前だろ。」









男性の声と共に、執事長の目の前に防御壁が張られる。

防御壁の奥には庄野とコピードールとカエデがいる。

防御壁の手前には執事長がいる。その足元からは緑色の球体がコロコロと転がっている音がする。










「・・・これ、ばくだn」













執事長の言葉は手榴弾の爆音にかき消された。














「・・・ゴホッゴホッ・・・とりあえず、死んでないな。

ひとまる、カエデ女王にも使ってくれ。きゅうまるとななよんは俺のカバーを頼む。攻撃してきても急所には当てるなよ。」

「キュッ。」「キュッッ。」「キュッ。」



虚ろな表情のカエデに近寄り、ひとまるは魔法を使用する。


一瞬にしてその表情は元に戻り、そのまま倒れている庄野に駆け寄る。




「おにーさん!おにーさん!!・・・ちゃんと、生きてる?大丈夫・・・?」

「生きてはいます。三途の川に腰まで浸かってました。」




「・・・あのさ、もっと早い段階で『ディスペル』を使っても良かったんじゃないの?」

「使うと分かったらそれを制限される可能性があったので。

それに、()()ですから。」




「・・・その約束、おにーさんの命よりは遥かに軽いわよ。」

「俺にとっては命より重いですよ。お陰で助かりました。

・・・とりあえず、あいつを何とかしましょう。」






先程の手榴弾の爆風に吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれていた執事長が瓦礫から這い出て立ち上がる。

上半身の服はそこまでボロボロになっていないが、下半身の服は焼け、皮膚がただれており、頭からは血が滴っている。


「はぁ、はぁ・・・どうじで・・・俺の『絶命王声』を解除でぎだ?どうじで・・・!」



「答える義理は無いわ。」




カエデが庄野を守るように執事長の前に立った。





「・・・へ、へへ、へへ、へへ・・・カエデ、『俺に従え』。」

「無駄よ。私は今『ディスペル』を使っている。魔法を無効化する魔法よ。これを無効化しないとあなたの絶対王声は効かないわ。」




「へへへへ・・・知ってるよ。でもなお前、それで慢心して俺の下僕になった・・・。

カエデ!『俺に従え』!

そして、『魔法の使用を一生涯禁止する』!




・・・へへ、へへへへ・・・。

ディスペルはなぁ、発動した魔法の効果を無効化するんじゃない。

魔法の()()()()()()()()()()()()魔法だ、1つの魔法を無効化するために使われる魔法だ。


だが、俺の絶対王声は1つの命令が1つの発動だ・・・。

従わなくて良いさ、お前がその魔法を使えないなら・・・。









あはははは!!

俺の、勝ちだぁ!!」




高笑いをしながら両手を天に向けて広げ、神に感謝をしているように喜ぶ。





「・・・あなたは、()()()()()()()()()()()()()()()。」

「今さら・・・負け惜しみか?ほら・・・『俺に従え』!!」
















ハァ・・・というため息と共に両手をフリフリと振る。



「何度も言うけど、効かないわよ。」

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