第70話 歓 迎 ~ようこそ私の世界へ~
「・・・ったくよぉ。どうなってるんだ?一体・・・?」
「・・・えぇ。そうですね。」
城に入ってからはソーラの兵隊が庄野達を待ち受けていたかのように何人もが配置されていた。
兵達は庄野を見つけるとゆっくりと歩みより、何度も『カエデ女王が許可した者以外の入城は禁止されている。立ち去れ。』という言葉と同時に攻撃を仕掛けてくる。その攻撃と交差してリーの拳が顔面にささり、お説教と拳の雨のフルコースがお見舞される。
城に入ってから・・・城の入り口で。庭園で。廊下で。
それぞれの場所に待ち受けていた兵隊は同様に拳を喰らい、顔面がボコボコの状態でそれぞれの場所で倒されたままにされている。
(何なんだ、こいつらは。
気を失うまで殴らないと止まらない。・・・生きてるのかどうか分からない。まるで映画やアニメに出てくるゾンビのように。
・・・そもそも城の中が異常な雰囲気だ。これだけ派手に暴れているのに出てくるのはゾンビのような意思の無い兵隊ばかり。のんな状況でカエデ女王に動きはない。そして・・・執事長も。)
「カエデ女王が許k」
「うるせぇ!」
武器を構える時間も与えず、リーは走りながらソーラの兵にアックスボンバーをかましてそのまま長い廊下を突っ走る。交差した兵は1回転して頭から地面に着地し、陸に上がってまもなく絶命する魚のようにピクンピクンと震えている。
その悲惨な姿の横を申し訳なさそうに庄野は片足で走って何とかついていく。
「・・・ここが嬢ちゃんの部屋だが・・・。」
「リーは離れてください。俺がいきます。」
ドアノブに手をかける。
『開ける必要はありません。ドアノブから手を放してください。』
庄野が扉を開けようとしたその瞬間、横から声が聞こえる。
『どちら様でしょうか?こちらを向いて名乗って下さい。』
「庄野哲也です。」
声の方向を向き、ハキハキと自分の名を述べる。
アルフさんほど年を取っている風貌には見えない、白い髪に白い髭、全身黒色のスーツ、角張ったフチのメガネをかけた老人がそこに立っていた。
「・・・あなたが、庄野哲也ですか・・・。
・・・そうでしたか。こちらへ。ご案内します。あぁ、リーは来なくて良いです。通常の勤務に戻りなさい。」
言われるがまま別の部屋に案内される。
リーも何事も無かったかのように離れていく。
「どうぞ・・・座ってください。」
庄野は席につく。白い布がかけられた大きなテーブルのあるその部屋は食堂であった。
座った席には皿はなく、食事も並べられてはいなかったが、ナイフとフォークだけは置かれていた。
「さて・・・庄野さん。どういったご用でこちらに来たか、聞いてもよろしいですか?」
「カエデ女王の様子がおかしいとリーから聞いたので来ました。」
「・・・様子がおかしい?そんなことはないんですがね・・・?
それで?今日、いきなり来たわけですか。まるで賊が襲ってきたかのようでしたが・・・。
それについては、理由を答えてもらえますか?」
「リーとの会話に違和感を感じました。」
「違和感、ですか?なるほど・・・。
では、その違和感について、あなたが考えていることを全て話してください。」
「そもそも、リーが俺を探しに来たところからおかしいと思ったんです。今になって、それもサリアンではなく無関係なソーラから俺の捜索がかかるなんてあり得ない。リー自身に聞いても『カエデ女王に言われた』の一点張りでよく分かっていない。彼は理由やきっかけを大切にするのに、そんな曖昧な理由で探したのには・・・他の理由があったから、だと考えました。
そして、決定的だと思ったことは・・・執事長について話すときだけ、機械が話すように流暢だったんです。その時は全く断定出来てなかったんですが、今あなたと話してはっきりしました。
カエデ女王も、リーも、そして、・・・今の俺の状態ではっきりと理解しました。」
「・・・そうですか。あなたの捜索を命じたのは失策でしたね。
ふっふっふっふ・・・。それだけの不確かな情報だけでここにたどり着くとは、素晴らしい推理力ですね。
しかし・・・あなたは有能過ぎました。やり過ぎました。
ここに来てしまった事を後悔する事ですね。
どんな気分ですか?
自分の体が思い通りに動かないっていうのは?人に操られる気分は?」
「・・・最悪です。」
執事長に話しかけられてから今に至るまで一度も庄野の意思で言葉を発していない。
自分の意思を一度も介さずに言葉を発することがどれ程恐ろしいか。庄野の全身から汗と表現するには冷たすぎる水がだらだらを流れ続けている。
(・・・手も、足も動かせない。ほんの僅かに指先なら動かせるが・・・何の意味もないだろう。
それよりも、言いたくないことまで言葉が勝手に流れる方が恐ろしい。昔テレビでやってた嘘っぱちの催眠術に本当にかかったみたいになにも出来ない。
考えろ・・・何の制約も無しに『命令した通りに動く』なんて事は無い。必ずあるはずだ。どうにかして打開策を・・・。)
「さて・・・庄野さん。私が指示した内容のみ喋ってください。カエデ、貴女も座りなさい。」
「・・・(声が・・・出せない)。」
「・・・。」
執事長の後ろからカエデ女王が姿を表し、椅子に腰を掛ける。
その容姿は庄野が会った時と殆ど変わっておらず、暴行を加えられた様子も無い。
感情が感じられない虚ろな表情を除いて。
(・・・何かされてるのではないかと心配はしていたが、問題は無さそうだな。・・・外見は。目が虚ろ、表情が死んでいる。命令によるもので表情が作れないのかどうか。とにかくこれを解除して攻勢に移らなければ・・・!)
「さて庄野さん。あまり自分の能力のことを語りたくないのですが・・・まぁ、言っても言わなくても問題無いでしょうから、言っておきます。
私の能力『絶対王声』は命令した通りに人を従わせるものです。条件は相手がその言語を理解できること。以上です。
あまり説明に時間を掛けてもしょうがないので、実際に受けてみますか。
庄野さん、『右手にフォークを持って、左肩に全力で突き刺してください』。」
執事長の言葉が終わると、庄野は右手にフォークを持ち、思いっきり左肩に突き刺す。
「・・・ッ!(・・・痛ッてぇ・・・ッ!言葉にならないような叫び声も出せないのか・・・しかも、全く抵抗出来ない・・・。コピードールに指示がだせない。これじゃどうしようも・・・せめて、ダンプポーチから出せれば・・・)。」
「ふっふっふっふっ・・・。
どうですか?痛いですか?
辛いですか? 怖いですか?
悲しいですか? 悔しいですか?
無力・・・無力ですよ、今のあなたは。
私の前では何も出来ない。
トイレに行けない。
食事も出来ない。
睡眠も出来ない。
感情表現も出来ない。
性行為も自慰行為も出来ない。
何かを伝えようと赤子のように泣き叫ぶことすら出来ない。
私が与えた権限でしか生きる事が出来ない世界。
私が全てを握る世界。
ようこそ、私の世界へ。」
手を広げ、舞台の主役のように庄野に向け揚々と語る。
その表情は先程とは異なり無邪気な子供のようである。
「・・・ふぅ。」
メガネの位置を戻すと、子供のようだった様子は消え、元の冷淡な老人に戻った。
「さて・・・早速ですが、死んでいただきます。
どんな理由であれ、私のもとへ辿り着いてしまった。
知ってしまった以上、生きたまま帰すわけにはいきません。
『右手に持ってるフォークを放してナイフを持ってください。』」
言われるがまま庄野の右手にはナイフが握られる。
(・・・マズイ!)
「・・・『右手に持ったナイフを、喉に突き刺してください。』」
上を向き、晒された喉元へ向けてナイフが自らの手によって無慈悲に突っ込んでくる。
(・・・頼む!気付いてくれ!)
喉元に触れるその瞬間、ナイフは先端から粉々になり、バラバラになった金属は灰のようにサラサラな粉へと変わっていった。
(・・・たす、かった・・・。)
「・・・何を、したんですか?」
「・・・。」
勝利を確信していた執事長の額からじわりと汗が垂れる。
「何をした!答えろぉ!!」
「・・・俺は、何もしてません。」
「う、嘘をつけ!そんなわけ無いだろ!」
「俺は、何もしてません。俺が嘘をつけないのはあなたが一番分かってるのでは?」
「ぐっ・・・!生意気をッ!」
「俺は何もしてません。」
(なるほど・・・見つけたぞ、絶対王声のデメリット。
俺は何もしてない。それは事実だ。
何かしたのは・・・コピードールだ。
各コピードールには俺から指示がなくても戦えるように各々にSOPを示している。
ひとまるには『俺に危機が迫った場合、最大限の努力をもって俺に防御魔法を使用する。ただし、ひとまると俺、どっちも危険な状態だった場合、ひとまるの命を優先する。』と。
故に、何も指示をしなくても俺の身を案じて魔法を使ったんだ。今使ったのは多分『破壊壁』だろう。アルフさんに教わった魔法の1つで、何か触れればその壁は壊れる代わりに触れた武器や魔法を道連れにして破壊する、というものだ。
だから、執事長の質問に対して『コピードールに事前に指示をしておいた。魔法を使ったのはコピードールだ』と答えるのが正しいのだろう。それが真実だ。
しかし・・・俺は何もしてない。それも事実だ。だから俺は嘘をついていない。
執事長の能力は相手に言った通りの事を実行させる能力。だが、その質問に対しては『真実』である必要はない。『事実』で良いんだったら・・・まだやりようがある。
だが、行動については具体的に指示をしている。左手の無い俺に対してわざわざ『右手に』と細かく指示をしている。
というか、もっとシンプルに出来るはずなのに・・・あえてやっていないのか?
どちらにせよ・・・判断を誤れば・・・。
・・・殺られる。
・・・勝負だ。この1年間・・・死と隣り合わせの生活をしてきたんだ。こんな所で、簡単に殺られるわけにはいかないッ・・・!)




