第66話 結 末 ~終わりの終わり、始まりの始まり~
「仲間が目の前で撃たれたら、どうする?
決まってるな?!助ける!助ける義務があるんだ、俺達には。
・・・だが、どう見たって死んでる!って仲間はどうする?遺体を運びながら戦うか?それとも見捨てるか?
・・・いいか?よく考えろ?!俺達には達成しなければならない任務がある!その任務達成が俺達がここにいる理由であり、日々訓練をする理由だ。仲間を助けるかどうかってのはそこに掛かってくる。
弾や食料は補充できても、戦える戦士は補充できない。
だからこそ、助けられる仲間は救う!それは仲間のためでもあり、部隊のためでもあり、任務達成のためだ!
だが・・・完全にダメなときは・・・見捨てる判断を下さなければならない。
その判断力をつける必要がある。時にはどんなに弾が飛び交う中でも仲間を引きずって安全な場所にいかなければならないだろう。時には、息を引き取る寸前の仲間を見捨てて戦いを継続しなければならないだろう。仲間との別れは突然来る。その別れを惜しむ時間は許されない。
・・・戦争っていうのはそういうものだ。昔も、今も、これからも・・・。」
庄野は瓦礫の下の血溜まりに目を落とした。
(姫様は・・・。
・・・最後の言葉すら、かけられなかった。
・・・いや、もう・・・いい・・・。
悲しむのは・・・後でも出来るから・・・。
今は、頭の中が怒りで満たされてる。最悪な気分だが、今はそれが最高の状態だ。
やることを考える必要もない。
あいつを殺す。
それだけ。
まだ右腕と右足はある。コピードールの魔力も残ってる。片足で立てる。
アパッチさえ落とせば勝機はある。)
「ひとまる。」
「キュッ。」
左肩にコピードールを乗せ、アパッチに向けて左腕を構える。
(狙いはアパッチだ。マジックゴーレムを倒してもヘルファイヤは撃ってくる。ヘルファイヤを撃ち落とすのは不可能。さっき拳銃で何とか当てたのはまぐれ当たりだ。次は100%外れる。
それなら、殺られる覚悟でAAMを撃つしかない。・・・だが、もう一発撃てば・・・左腕は元通りにはならないだろうな。いや、撃っても撃たなくても・・・元通りにはならないか。
あの時に失った左手はもうないんだ。)
「ひとまる、頼む。」
「キュッ!」
庄野の左手から同じようにAAMが複製される。
AAMの噴射口から火が吹き出て、庄野の左手は先端から黒色の炭に近い状態になっていき、左肩や顔の一部さえも火に燃やされていき、皮膚は少しずつ爛れていく。
「・・・ぐぅぅう!!!おぉぉぉぉ!!」
叫びと共に、AAMがアパッチに向けて発射される。
「・・・なるほどなぁ。桜間は目が良かった、だからすぐ気がついたのか・・・。
俺はAAMを反射してきたものだと思ったが・・・造れるのか、お前も。
似てんだよなぁ・・・。
俺の能力と、似てんだよぉ・・・。
だがよぉ、わざわざ空飛ぶ馬に乗ってAAMと戯れたのは、使うための条件に関わってるって事だよな?そういう事をしないと使えないっていうなら・・・俺の能力の方が上だぜぇぇ!!」
狭い操縦席の隙間から89式小銃を引っ張り出し、外に向けて発砲する。
発射された弾丸はコクピットのガラスを割ることなくすり抜け、不規則な曲線を描いてAAMの先端に触れ、空中で爆発する。
「・・・流石に、1発でどうにかなる相手じゃないか。」
庄野はボロボロの左腕を再び空に向ける。少し上げただけの風圧で左腕は崩れ、肘から先は灰となって風に拐われる。
(・・・あと、何発撃てる・・・?いや、考えるな・・・考える時間はいらない。
やる。それ以上の思考は捨てろ。)
「・・・チッ。桜間がいねぇと、操縦と射撃が同時に出来ねぇ・・・。ヘルファイヤをぶっぱなした時に鮫顔と壁のオッサンは吹っ飛ばした。そっちは問題無ぇが、・・・厄介なのは庄野だ。
機銃もASRも確実性に欠ける。殺るなら広範囲に効果のあるヘルファイヤだが、庄野が攻撃を続けてくる限り防戦一方だな・・・まぁ、向こうの魔力は無限じゃねぇ。持久戦に持ち込むのが無難だな・・・。」
距離をとるためアパッチの機首を上を向けようとした瞬間、したからAAMが飛んでくる。
「・・・んだとぉ!?
連発で撃ってきやがった!」
(しくった・・・!俺の能力と同じ、若しくは下位互換だと思ってたが、精製速度は庄野の方が早ぇ!)
「舐めんなぁ!下から来ようが上から来ようが、俺の89式の弾は当てられるんだよぉ!!」
89式小銃を引っ張り出す。外を見ると上からアパッチにめがけて直下しているAAMが目に入る。
「途中から跳ねさせてトップアタックを狙ってきたか。確かに有効だが、今の俺相手には部が悪すぎだぜ。」
外に向け2発の弾丸が発射される。
それぞれの弾は軌道を変え、それぞれのAAMに直撃し、爆発音が響く。
「さて、次はどうやって攻めてくるんだ・・・あ?」
上を見上げる。先程弾を当てたはずのAAMがまだ落下を続けている。
「・・・チッ。外したか?」
弾丸を発射する。
AAMに直撃はしたが、爆発はしない。
「・・・なるほどなぁ、固くしてきたのか。
良いぜぇ!やってやるよぉ!!おらぁぁぁぁぁ!!! 」
単発で何十もの弾がAAMに直撃する。
カァン、カァンと金属が弾ける音だけが響く。
少しずつ、外側の金属が剥がれていく。
少しずつ、少しずつ剥がれていき、AAMはアパッチに当たることなく、爆発もすることなく、空中でバラバラに裂けていった。
裂けたAAMの内側には、一本の棒状のものが尚も垂直落下を続ける。
「芯が残ってたか。」
弾を発射する。
発射した弾を避けるように、棒状のものはまるで空をうねり泳ぐ魚のようにアパッチに突っ込んでいく。
「・・・やられたぜ。
俺の・・・敗けだ。」
杉村は89式小銃から手を離し、空を仰ぐ。
AAMの中にあった棒状のものはアパッチを縦横に貫き、テールローターを吹き飛ばす。両エンジンは停止し、機体は回転しながら庄野の真上を通過し、サリアンの城下町へ墜落していく。
「・・・FCRを、ぶっ壊した時の・・・槍・・・。
AAMの外側だけを造って・・・本命を隠してきたのか・・・。
・・・すまねぇ、桜間。勝てなかった。」
アパッチが地面に激突し、街を破壊していく。
その様を庄野は眺めている。
終わったことに満足したのか、その場にへたりと座り込む。
目から涙が溢れている。
(勝った。・・・勝ったんだ・・・。
これで・・・よかった、のか?・・・これで・・・。)
瓦礫に目を向ける。
「・・・ひとまる。ストーンシャワーでこの瓦礫を除けてくれ。」
「キュッ。」
瓦礫を砕き、遠くへと飛ばす。
見知った人、それも大切に想っている人が血塗れになって倒れている。
(辛い。)
一言で表すべきでは無いだろうが、庄野の頭の中はそれ以外に言葉が出てこない。
膝で歩き、サクラに近寄り手を握る。握り返してはくれない。
「・・・姫、様・・・。」
(まだ温かさが残っている。・・・けど・・・もう・・・2度と・・・。)
サクラの手を強く握る。
『もう、二度と握ることは出来ないんです。』
そう告げるかのように、何も反応は無かった。
「キュウ・・・。」
魔力切れのひとまるが庄野の肩に乗り、涙を拭うように顔を擦り付ける。
「ひと、まる・・・。ひとまるぅ・・・うぅ・・・。
姫様・・・姫様が・・・。」
「キュウ・・・キュッ!」
残りカスのような僅かしか残ってない魔力で治癒をサクラにかける。
「ひとまる・・・。ありがとな。もう、良いんだ。もう・・・。」
サクラから離れようとしたそのとき、庄野の掴んでいるサクラの手がピクリと動く。
「・・・え?姫様・・・姫様!」
「・・・て・・・や・・さ・・・。」
「生きてる・・・生きてる!良かった・・・。
ち、治癒を・・・誰か、誰かぁ!コピードールを!コピードールを見てませんか?!誰かぁ!」
広場に向かって叫ぶ。
反応してくれるサリアン人は誰もいなかった。
サリアン人は。
「・・・ごふっ。
お前さんが、探してるのは・・・こいつかぁ?」
「・・・杉村、お前・・・生きて・・・?」
アパッチからずるりと蛇が屋根から落ちてくるように操縦席から地面に落ちる。
その手には2匹コピードールが握られている。
「お前・・・どういう、つもりだ!」
「交渉だ・・・ぁぁ・・・。俺に・・・さっき・・・その女に使った回復魔法を、俺に使え。こいつらは、魔力が余ってる。」
「・・・そんなこと、出来るか!」
「へへへ・・・じゃあ、条件を、追加だ。俺を、回復させたら、ここにいる・・・魔王軍は、撤退させる。・・・次にサリアンを攻めるのは、俺が、完治してからだ。
猶予を、約束してやる。」
庄野は腰にさしている拳銃を杉村に向ける。
「ふざけるのも・・・大概にしろよ。お前を助けてどうなる!」
「・・・早く、決断した方がいいと思うぜ?じゃねぇと、その女・・・ホントに死ぬぜ?」
「・・・絶対に、軍を退くっていう、確証が無い。お前は、」
「話を聞かねぇな、お前。早くしねぇと・・・お姫様、息してねぇんじゃねぇの?」
庄野はサクラの手を握る。
返事をしていたときに比べて明らかに冷たくなっている。
「姫、様・・・姫様・・・姫様。」
「さて、どう、するんだ?」
(治癒を使えば、ここで戦った意味がなくなる!折角あいつを殺せるチャンスなのに・・・ここで・・・。
ここで、何もかも失ったら、意味が・・・。
嫌だ・・・俺は、失いたくない。)
歯を食い縛る。大量の涙が流れる。
(失うのは・・・嫌だ。
左手も、左足も、折角の機会も・・・。
でも・・・。
姫様を失うのは、もっと嫌なんだ!!)
「・・・ななよん。そいつに治癒を使え。」
「キュウ・・・。」
「クックックッ・・・庄野、女は大切にするんだな。ほら、お前はあっちに行って良いぜ!」
乱暴にきゅうまるを庄野めがけて投げつける。
それをキャッチして、直ぐ様治癒をサクラに使う。
「・・・ふぅ。とりあえず帰れる位の魔力は復活したな。ほら、お前は自由だ。飼い主の元へ戻んな。」
「キュー!」
「『集まれ!』・・・戦闘終了、城に戻る。これ以上は戦闘行動はとるな。
・・・次は負けねぇぞ、庄野。」
アパッチを覆うように黒い靄が出現し、杉村や数人の人間が靄の中に入っていく。しばらくすると、靄は霞のよつに消えていき、そこにアパッチはなかった。
「キュウ・・・。」
「キュ・・・。」
「キュー・・・。」
コピードールはサクラの治癒を続ける。
泣き続ける庄野を見て不安げな声で彼らも鳴いていた。
座った姿勢でサクラを抱き上げる。治癒の効果で徐々に体温が戻っていき、傷が治っていく。
魔王を逃がした後悔なのか、サクラの治療を優先できなかった後悔なのか、無茶をしないという約束を今回も守れなかった後悔なのか。
彼の涙の理由は誰にも理解出来なかった。
ただひとつ、わかっていることは、全てが終わったその時の救助が来るまではサクラを抱き上げたまま、泣きながら「ごめんなさい」と謝り続けていたことだけだった。




