第63話 決 意 ~やると決めたらやる~
「・・・はぁ。あのなぁ、こういう回避方法があるなら先に言えや。マジで焦ったじゃねぇか。」
「はぁ・・・はぁ・・・すいま、せん。説明してる時間が、無かったんです。」
庄野はコピードールから回復を受けていた。サクラの使う治癒ではなく、シスターが教えてくれた普通の回復魔法で傷を治している。
「それにしてもよぉ、よく考え付いたな。
ストーンシャワーを発動して、地面を直下に掘って、土の中に入ってかわすなんてよぉ。」
「・・・マジックゴーレムと、戦ったあと・・・地面に穴が大量にあったんで、もしかしたらって、思っただけです。ぶっつけ本番だったんで、ホントに死ぬかと思いました。」
「ま、お互い生きてんなら問題ねぇよ。・・・ちなみに、地面の下に隠れるってのは、お前さんの国の軍隊ではでは常套手段なのか?」
「俺の国の軍隊では、よく使う方法です。
・・・長い歴史の中で使われてる戦いかたの1つです。
所詮、魔法の使えない異界人の絞り出した苦肉の策ですよ。」
「んな事ねぇだろ。魔力が切れちまったら誰でも防御方法なんて無ぇんだ。戦いが始まる前に穴掘っておけばそこで強力な魔法攻撃を防げるって事だろ?良いじゃねぇか。
何より、費用がかからねぇのが良い。強力な魔法、強力な魔石をたかが穴を掘るだけで防げるなんて、相対的に考えたら良いに決まってんだろ。」
「・・・そう、ですかね。でも、魔法を完全に防げるかどうかは保証しかねますよ。」
「あ?別に良いだろ。
完全に防げなくとも、魔力切れを起こしたやつの生存率が少しでも上がるんだったら、その戦術を採用するだろ、普通。その労力をケチったばっかりに兵が死んじまったら何の意味も無ぇ。違うか?
今が良ければそれで良い、相手は大したこと無いから問題ない。そんな適当な考え方してんのはよぉ・・・平和ボケしてる連中だけだぜ。」
「・・・ええ。」
(・・・全くもってその通りだ。
そう、陸上自衛隊のやってる戦術は古臭いものばかりで近代的ではない。『意味がない』と若い連中は生意気を言う、中堅幹部や陸曹も理想ばかり並べる。
そうじゃない。穴を掘るってのは生存率を高めて戦いを継続するための策なんだ。最低限のあるもので最大限のパフォーマンスをするための作戦なんだ。
『意味がない』と文句を並べて命を失うのが正しいのか。
『もっと良い装備を買えば良い』と無い金の話ばかりをして、隣の芝の話ばかりして、文句ばかりで何もしようとしないで命を守れるのか。
違うだろ、そんなの。
・・・無いものは無いんだ。
そんな事もわからないやつらばかりだ・・・日本は、日本人は。
失ってから初めて気がつく。
・・・失ってから、なんだよ。その大切さに気がつくのは。)
心の中で叫びながら、失った左足の治療を見ていた。
「・・・そろそろ、行きます。」
「・・・。・・・あ?おいおい、冗談だろ?
まだ傷が癒えてねぇじゃねえか!出たって死ぬだけだぜ!?」
「・・・そうかもしれません。でも・・・この間も、誰かが苦しんでいる、誰かがあいつらの驚異に震えている・・・。見てるだけじゃ、何も変えられないんです!」
「お前っ、そんな事言ってもよぉ!血が止まっただけだろ!んな無茶したら・・・。」
庄野の顔を見て、リーはたじろいでしまう。
(・・・なんて、目をしてやがる。片足失って、全身もボロボロで、無茶苦茶痛ぇはずなのによぉ。
バカだな、こいつは。生粋のバカだ。
俺達の周りにはこんなやつはいない。
誰かのために無茶苦茶出来るやつなんていない。
こういうやつが今の世界には必要なのかも知れない。
・・・よく言えば献身的、悪く言えば貧乏くじを引きたがるアホ、または生き方が下手な苦労人。
そんなやつが、意外と世界を簡単に変えたりするんだよなぁ・・・。
ま、こいつが死なないように援護はしてやるか。何かあったら、カエデの嬢ちゃんに怒られるからな。)
「・・・行かせて、ください。いや、行きます!」
「あぁ。じゃあ行くか。ほれ、乗りな。」
「・・・え?」
「あ?行くんだろ?ほら、その足でどうやって移動するんだよ。乗れ。おぶってやるからよ。どこまでいくんだ?」
「とりあえず、アルフさんの近くまで。」
「へいへい。地中から出たら高速移動で行くからな。振り落とされんなよっ!!」
隠れていた地中から高く飛び出し、地面に着地すると同時にアルフへ目掛けて走り出す。
庄野が魔石が埋め込まれた腕輪を装備していた時とは比べ物にならない速度で移動し、数秒もたたないうちにアルフが生成した壁の裏に到着した。
「ほれ、到着だ。借りは返したからな。」
「おぉ、庄野さん!戻ってきたかね・・・。・・・左足、やられたかね。」
「はい。持っていかれました。現物が無いので複製も出来ません。」
「そうかね。(まーたサクラ姫に怒られるね・・・。)いや、それは後でいいね。今は、あれを何とかしないとね。」
「アパッチは俺が何とかします。」
「ほぉ、何か作戦はあるのかね?」
「・・・。」
「・・・庄野さん?」
「・・・正直なところ、これだっていう策を思い付いてないです。ただ、物理攻撃が有効なのは確信しました。」
「ほぅ、理由は?」
「岩の雨を降らせる魔法を避けたからです。デルが指揮をしていた者が放った魔法は避けなかったのに、コピードールが使った岩を使う魔法は避けたので。」
この世界の魔法は複雑であり、同じ魔法でも物理攻撃の魔法と魔法攻撃の魔法が存在する。
例えば、同じストーンシャワーであっても実在する地面の土を固めて降らせるストーンシャワーは物理攻撃である。
逆に、魔力によって無から生成された岩を降らせるストーンシャワーは魔法攻撃である。
このように、魔法によっては物理攻撃として使うことも出来れば、魔法攻撃としても使うことが出来る。
往々にしてこの世界においては人間が使う魔法はほぼ全てが魔法攻撃に該当し、魔物が使う魔法はほぼ全てが物理攻撃に該当する。
しかしながら、コピードールが使用する複製は特殊であり、受けたり覚えた魔法の特性をそのまま反映させる。ゴーレムが使用した魔法を複製して発動したストーンシャワーは物理攻撃、サクラやシスターから受けた回復魔法は魔法(攻撃)として扱っている。
庄野はこのやや複雑な魔法のシステムを何とはなしに理解をしており、杉村の攻撃を見て確信に変わったと言える。
「・・・で、どうするね。」
「空にいる相手に攻撃するには、長距離から攻撃するか、接近するしか無いんですが・・・。」
「接近は出来ないね。天馬が残っていれば別だけどねぇ。」
「そうですよね・・・。」
(・・・どうしたものか。接近さえすれば例え拳銃であっても効果は出せる。だが、肝心な天馬隊は壊滅。使えない。
ATM(対戦車ミサイル)を用意しても有線誘導然り、赤外線誘導然り、避けられるのが目に見えている。使えない。
12.7mmも試すか?いや、射程が雲泥の差だ。蜂の巣ならまだ優しい。ASRで肉片すら残らないだろう。
・・・クソッ!せめて、天馬が残っていれば・・・。)
悔しさが込み上げる。
絶望的な状況から目をそらすように空を見上げる。
(いや、諦めたらダメだ!必ず何処かに付け入るチャンスがある!
ダメ元でもいい!死にかけでも何でも良い!天馬が倒れている場所へ行って確かめれば、いるかもしれない!)
「リー。天馬が倒れている場所へ連れていってください アルフさん。ななよんときゅうまるを置いていきます。後は頼みます。」
「あぁ、良いぜ。・・・死体でも使うのかぁ?」
「任されたね。あと、生きて帰ってくるんだね?良いね?」
リーと共に少し離れた場所の平野へと赴く。
そこはヘドロまみれになっており、人と翼を持った馬の亡骸がぐちゃぐちゃに混ざっていた。
(・・・異臭が凄い。天馬や騎士の死臭じゃないぞ、これは・・・。天馬を落とすときに使われたドロドロの化物から発してる匂いなのか?)
片足でけんけんと近づき、ヘドロの中に手を入れ、天馬に直接触れる。
「おい、庄野・・・。いくら天馬を探してるって言ってもよぉ・・・こんなんじゃあ、生きてねぇよ。」
「かもしれません、でも、探します。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・庄野ぉ、俺の魔法で索敵したけどよぉ。もう生体反応は感じねぇんだよ。分かるか?もうここには俺ら以外生きてるやつはいねぇんだよ。
・・・なぁ。なんでそんなに必死にやれるんだよ。
お前はこの戦いには無関係だろ?なんでそこまで・・・そこまで出来るんだよ。」
「・・・やると、決めたから。」
「何だって?」
「やると決めたからです。」
「お前、そんな理由で・・・そんな理由で命かけてよぉ!死んだらどうすんだ!?そんな理由で戦って、足を失って!何のために戦ってるのかわかんねぇじゃねぇか!!」
「・・・理由は、ありますよ。
自分のためです。
それだけです。」
(・・・わけ、わかんねぇよ。お前とか、カエデの嬢ちゃんとか。何のために、そこまでよぉ・・・。)
「・・・ッ!まだ心臓が動いてる!ひとまる!治癒だ!!」
「キュッ!」




