第61話 悔 悟 ~それぞれの思い~
「やめろぉぉぉ!!! 」
「ケッ!ダマレ!ガラ人!お前ニ用ハ無インダヨォ!アーヒャヒャヒャヒャヒャ!キャハハハハハハハハハ!!!」
蜘蛛のような下半身、人間の形をした上半身の化物はサリアン中を駆け回り、民を襲っていく。建物を破壊し、屋内に避難している女性の赤ん坊を次々と奪っていく。
胎児の大きさに問わず、例え着床した直後のものであっても特殊な能力でそれを察知し、問答無用でその尊い命を簡単に破壊していく。大切なものを奪われた女性は何をされたかわからないで呆然としている者もいれば、まもなく出産を迎えていたのにそれを奪われて悲しみにうちひしがれる者もいる。
付近の警備をしている兵は全く役に立たず、出会った直後に顔面を串刺しにされる。必死にボラブは追いかけるが、多数の足を持つ女性に追いつけない。
(マズイ。このままでは、サリアンの未来が奪われてしまうぞぉ!
どうする!
・・・どう、するか。
・・・。
いや、もしかしたら、どうもしなくて良いのかもしれない。)
追いかける足が止まる。
(・・・怒りの理由は・・・馬鹿な俺でも理解できる。
サリアンが全部悪い。
だから、この国を潰すために、産まれてくる子供を全員殺せば、サリアンは無くなる。今を生きている人間だけで今が終わるんだ。
全くもってその通りだ。それが一番幸せなのかもしれない。
だが・・・だがなぁ・・・。
やられたから、やり返す。そんな復讐の連鎖はどこかで断ち切らないといけない。
・・・『後でもいい』と、『今回の件は仕方ない』と、今起きている惨劇を見過ごす訳にはいかない!)
「使いたくは無かったがぁ!いくぞぉぉぉぉ!!」
ボラブが両腕を地面に叩きつける。地面からゴツゴツとした手の形をした岩がボラブから蜘蛛のような足に向かって伸びていく。
伸びた岩は何本もの足を束ねるように掴み、転倒させた。
「グァァァァァアアア!ナンナンダ!貴様ァ!!」
「ボラブだぁ!貴様じゃない!!」
掴んだ岩の手を砕こうと別の足で攻撃するが効果は無い。
気がつくと反対方向から別の岩の手が現れ、足の大半を掴まれて身動きがとれなくなる。
「グゥゥゥ!『変異』!」
多数の足は消え、再び女性の姿に戻る。
ボラブから女性の間の道は10メートルは掘ったのではないかと思うほど大きな穴が開き、それにより付近の建物がボロボロと崩れ始める。
(むぅ。やっぱり使うべきでは無かったか・・・街の防衛を任されたのに町を壊してしまった。
いや!あいつを止められたのならこれくらいの事を気にしてはいかんなぁ!!)
「何故、邪魔、する・・・?サリアン、悪。異界人、悪くない。サリアン、異界人にしたこと。虐待、暴行、強姦、実験・・・。」
「・・・あぁ、そうだな。
だからと!言ってぇ!戦う意思の無い人々を襲うのは・・・。」
「私、戦う意思、無かった。お腹の中、赤ちゃん、戦う意思、あった?何故、私の赤ちゃん、殺された?」
「ぬぐぅ、それは・・・。」
「戦争。サリアンと、異界人の、戦い。ガラ、ソーラ、余所者。邪魔。」
「・・・(俺達は異界人の今回の行動はやり過ぎだと思っていたが・・・異界人からサリアンがやってきた事を聞く限り、異界人は何も悪くない。説得でどうにかなれば良いと思っていたが・・・)。」
ボラブの返事が無くなると、女性はトボトボとボラブと反対の方向へと歩いていく。
「・・・好吧,我做了我在这里所做的。所有将要出生的人都被杀害。只有女人可以放心。(まぁいい、ここでやることはやった。産まれてくるであろう男は全員殺した。ほっといても産まれるのは女だけ。)」
「・・・何だって?おい!・・・行ってしまった・・・。」
中国語を理解できないボラブは最後まで言葉を理解できなかった。
「むぅ・・・どうやら、目的を達成されてしまったみたいだなぁ。
・・・正義って、何なのだろうなぁ。」
産まれてくるであろう男の子を全員殺す行為、これは将来的な戦力を削ぐ効率的な方法の一つである。
単純な話、兵となる人間が減るから。
女性だけで編成されたとしても、男性には力で負ける。生理によって必ず全員がコンディションが良い訳ではない。
スタミナがある、疲れにくいとされるのは女性であるが、それは日常生活の話である。
戦争は日常を非日常に変える。
「・・・ごほっ。ごほっ。・・・痛っつ。・・・思いっきり腹で着地しちまった。」
庄野は後ろを見る。
手榴弾が爆発したと思われる位置に近い場所に立っていたゴーレムは体の殆どが吹き飛んでいる。手榴弾からやや離れていたゴーレムは頭や腕は吹き飛んでいるものの、庄野の方へと歩み寄ってくる。
「クッソ!そんなにうまくいかないか・・・。
きゅうまる!もう一個出せるか!」
「キュッッ・・・。」
複製した手榴弾を渡すと、完全に魔力が枯渇したきゅうまるはぐったりと元気がなくなる。
(これがラストの手榴弾・・・。
こいつらは多分走れない。時間稼ぎをして逃げ回っても良いが、アパッチは依然として健在、攻撃を続けている。あっちをどうにかしないとこの戦いは負けるどころか、終わらないぞ・・・。
何も考えずに俺を追いかけてくれるなら、円を描くようにぐるぐると回って一ヶ所に集まった所に・・・。)
そうこう考えていると、まだ足の残っているゴーレム達は体の石をボロボロと落としていく。
(何だ?脱皮か?いや、回復をするために外側を外した可能性がある!勝機だ!ここを逃すわけにはいかない!)
チャンスを逃すまいと手榴弾を片手にゴーレムとの距離を詰めようと走り出す。
同時にゴーレムも庄野に向かって走り出す。速度は庄野の全力疾走とさほど変わらない。
「・・・マジかよぉ!」
急ブレーキをかけてゴーレムの反対方向へと走る。
(・・・なるほど。チンタラしてたらやられるって気付いたのか。ただの岩人形じゃない・・・知恵がある。)
先程のマジックゴーレムから受けた傷も治りきっておらず、走って距離を取ろうとするがその距離は無情にも迫っていく。
「ハァッ!ハァッ!・・・(足、痛ぇ・・・もう、真後ろにいる・・・どうする・・・やろうと思えば、やれる・・・だが・・・それでいいのか?)。」
庄野の頭の中には「神風特攻隊」の映像が流れている。
国のために平和を信じた若者の無謀な特攻。意味はあるのか、やる必要はあったのか。様々な議論の余地はあれど『それが過去に起こったこと』は事実であり、日本人として忘れてはならない事である。
そして、決してやってはいけないこと
『彼らの死を主義主張に使うこと』
これだけは人としてやってはならない。
亡くなった彼らはそのために死んでいない。
過去の人の命を利用して主義主張を謳う人間ほど信じてはならない。
そして、『同じ過ちを繰り返すこと』。
今、庄野はそれを実行するかどうかを決断しようとしている。
(折角の仕留める機会を失った。このままじゃ、俺は殺される。
ただ殺されて、リーやアルフさんの所にこのゴーレム達が行ってしまうのはマズい。アパッチも落とせない、被害が拡大してしまう。それは出来ない。
ここで阻止するには、手榴弾を使うしかない。俺を追ってるのは7、8体。手榴弾の効果範囲に入れて爆発させるには、全員の動きを止める必要がある。
・・・俺を囮に、俺ごと吹き飛ばせば・・・。
・・・それで、本当にいいのか?)
走り続ける庄野にゴーレムの掌が伸びる。
後ろを振り返る余裕もなく、手が近づいている事にも気が付けない。
虫が叩かれるように手の平でひっぱたかれ、地面を転がっていく。
「・・・ッ!・・・。」
突然の事で声も出せない。
吹き飛ばされた拍子にダンプポーチに入れていたきゅうまるも飛ばされてしまう。
(なん・・・殴られたのか?・・・痛い。痛い・・・。全身が、痛い・・・。いや、立て・・・動かないと、殺される。
手榴弾・・・ピンが抜けて、る。・・・マズイ、爆発する。)
「M26手榴弾はピンを抜いても手を放さなければ爆発しない。レバーが取れて、撃鉄が信管にぶつかって、ゆっくり燃えて爆発するんだ。ほら、大丈夫だろ?」
陸上自衛隊の有名な話である。
ピンが抜けても爆発しない。機構上はその通り。それを実際に見せようとしたら、爆発してしまいその教官が亡くなった事件が存在する。
故に、『ピンを抜いたら(抜けたら)投げろ』というのが通説となっている。
庄野もそのように教育を受けており、意識は朦朧としていたがその認識を持っていた。
倒れている庄野に追い討ち、とどめを刺そうとゴーレム達は接近を続ける。
先頭にいたゴーレムが庄野に向けて拳を振り下ろす。
当たる直前、ギリギリの所で体を捻り、直撃は免れるもわき腹の肉が抉られる。
「ぐッッ!!!・・・はぁ、はぁ・・・悪いな、こっちまで来てもらって・・・。ちょっと、動けそうに無いからさ・・・。
・・・じゃあな。」
寝そべった姿勢のまま、手榴弾を空に向かって投げる。
2度目の爆発音が響き渡る。




