第58話 開 戦3 ~VS魔王軍~
(・・・結界は簡単に破られた。天馬も天馬騎士もたかが腐敗したドラゴンなんかに、簡単に殺られた。・・・何故だ。油断なんてしていなかったッ!何故・・・。)
項垂れるデルの脳裏に庄野に言われた言葉が突き刺さる。
『この戦いは、遊びじゃないんだ。
失敗がなく順調にいったとしても、相手の力量を見誤っていれば、全員死ぬぞ。』
(見誤ったのか・・・?異界人だと、たかをくくっていたのか・・・?
クソッ!冷静になれ・・・まだ終わっていない。)
デルは立ち上がり、剣を握った。
「アルフのおっさん。壁を頼むぜ。」
「任されたね。」
アルフは城門があった場所に立ち、壁の展開を準備する。傍らにはコピードールが二匹待機している。
リーはその横で槍の先端に着いている魔石を外すと片手に持ち、槍投げのような体勢をとる。
「・・・壁、邪魔にならないかね?」
「あ?あぁ、問題ねぇよ。槍が避けるからよ。」
(避ける・・・ね。さて、見せてもらおうかね。ソーラの英雄の力を。ワシの見立てではデル、ボラブより・・・各国の英雄と呼ばれる戦士達の中でこの男が一番強いね。・・・彼を除いて、だけどね。)
リーの持つ槍がほのかに光る。
(空を飛んでいる。それだけだ。
俺の目には見えてる。それで十分だ。
俺の槍から、誰も逃げられねぇ。海中だろうが、空中だろうが、誰も逃がさねぇ!)
「喰らえぇやあぁぁぁぁ!!!追尾槍ッッ!!!」
リーの投げた槍は海蛇のように空中を泳ぎながら飛んでいく。
「杉村さん、槍が飛んで来ます。」
「わあってる!30mmガンで撃ち落とす!」
杉村は即座に狙いをつけ、飛んで来る槍に向けてアパッチの機銃を発射する。
槍は向きを変え、滝を登る魚の如く左右に躍りながら天へ向けて飛ぶ。
弾丸は命中しない。
「槍は上に行きました。回避の必要は無いかと。」
「・・・いや、違ぇ!トップアタックだ!真上から来るぞ!アパッチの装備じゃ対応出来ねぇ!桜間ぁ!熊出せ!」
「はい!」
杉村の叫び声と同時に桜間は何もない手の平から熊の人形をうみ出し、熊の人形を外へ向かって投げる。熊の人形は操縦席の透明の窓をすり抜け、外へと放り投げられた
槍はアパッチの更に上で向きを180度変え、アパッチを真上から真下に串刺しにしようと物凄い勢いで落ちてくる。
「急げ、桜間ぁ!」
「・・・いきます!『レディ、steady、テディ!』」
槍はヘリコプターの真横を通り、その勢いのまま地面へと突き刺さる。
熊の人形はアパッチのFCRがあった位置に乗っかっている。
「すいません、FCRが破壊されました!」
「・・・構わねぇ。計器異常無しだ。生きてりゃ十分、合格点だぜ。それに、FCRは落とされても問題ねぇ。どーせ、ロックオン出来る目標もここには無ぇし、ここには自衛隊も政府も無ぇ。あっちで落としたなんて言ったら切腹で済めば良いくらいのものだろうよ。
生きてりゃ良いんだよ、生きてりゃ・・・。
・・・命より価値のあるものなんて、無ぇんだよ。
センチになってもしゃあねぇ。もう一回やられると厄介だ。ASRで攻撃する。」
「んー・・・お前さんの槍、当たったけど外れたね。」
「あぁ、どうやらあっちには物と物の場所を入れ替える魔法を使えるらしい。
俺の追尾槍が当たった瞬間に場所が変えられた。
もっかい攻撃すれば落とせ、・・・。
・・・おっさん!何か来るぜ!」
リーの言葉が終わる前にアルフは壁の展開を始めている。
(庄野さんは魔力の高い壁は逆効果って予想してたね。じゃあ、魔力が少ない土壁ならどうだね!)
地面が持ち上がる。
海辺の砂を手の平で寄せ集めて山を作って固めたような平たい壁が現れる。
展開したばかりの壁に向かって何十発ものASRが直撃し爆風により付近の人や物を吹き飛ばしていく。
「・・・おっさん、無事か?」
「ワシは問題ないね。・・・横に広く作ったけれども、回りの連中まで守りきれなかったね。」
壁の裏に避難していたリーた何十人の兵士は無事であったが、壁に入れなかった者はもう人間とは判別がつかない形をしている。
手甲や脚甲、兜には中身が残っており赤い液体と白いものがはみ出ており、筋肉なのか骨なのか区別がつけられない。鎧は形状を維持しているが、中からはただただ赤いものが流れ出ている。
「命中です。」
「チッ。魔力をあまり使わない壁を使ってきやがったか。」
(槍を投げる前に魔石を外しているように見えたな。魔力を帯びていない槍での攻撃、魔力をほとんど使っていない壁による防御。
対応が早ぇ・・・なのに現場の指揮官は杜撰だ。また結界を張ろうとしてやがる。どういうことだ・・・?
・・・あー、庄野の入れ知恵か。いや、今回の作戦に庄野は関与していないはずだが・・・。痺れを切らして庄野が指揮をとったか、対応策を庄野に聞いた切れ者がいるか。どちらにせよ楽勝で勝てる状態じゃ無くなったな。)
「もう一度だ!もう一度結界を張れ!今度は全体ではなく、城門側を強化だ!」
デルが大声で指揮をする。声の後に城門側に結界が張られる。先程の結界とは異なり、何十にも張られた結界は濃い色をしており、内側は見えない。
「結界を貼ってきました。どうしますか? 」
「ヘルファイヤだ。撃ち終わったらフォックスを突っ込ませる。奴が中に入ったらASRを連射だ。
・・・ヘルファイヤ、発射。」
杉村が乗っているアパッチは特殊な能力を持っている。
装備している兵器は命中した対象の魔力を吸ってそれを爆発に変換する。つまり、防御に使用した魔力の量に比例して威力が上がる。特にヘルファイヤはその比率が大きい。故に、魔法で防御しなければ筒が飛んで来るだけになってしまう。石や鉄を混ぜて作られた城門の破壊は出来ない。
庄野はその兵器の特性を概ね的中させていた。それは杉村が持つであろう「本来持ち得ない能力を武器に持たせる」事とアパッチがわざわざ目立つように出てきた意図を理解していたからである。
そこから「どうやってサリアンを守るか」と考えずに「どうやってサリアンを潰すか」と考えれば自ずとその答えに辿り着く。
デルにはそれが出来ない。
出来ないから思い付かない。結界を張らせる事が杉村の狙いだと。
次はやられまいと、魔力最大の結界を張ってしまう。しかも、サクラの治癒により結界の魔力は半永久的に尽きない。
最悪の選択肢を選んだ|。
2発目のヘルファイヤが命中する。
先程とは比べ物にならない爆発が起こる。
付近にいたアルフはそれを予期してアルフの背中の方向、つまり、城門側に壁を展開していたためほぼ無傷である。
サリアンは城門を抜けると、華やかな雰囲気が広がる町がある。右手には服や装飾品、左手には武器、防具屋、正面には町の中央にある噴水が遠目に見える。人通りは子供達の声が、商人達の笑い声が聞こえる、そんな町が広がっている。
『そんなものがあったとは思えない』と言われてもおかしくない程に全てが消し炭となった。町の家屋や地面が焦げて黒くなった煤なのか、人間だったものなのか、それは誰にもわからない。ただ、横に転がっている沢山の鎧の破片や布の切れ端だけがその悲惨さを物語っていた。
「・・・は?・・・何で・・・。さっきより、強力な、結界を・・・張って・・・。」
絶望に打ちひしがれる。デルは先程まで強く握っていた剣を落とす。カラン、と音が城門の全員に聞こえる程に響いた。
「戦意を失うには早いね!あんたもワシの後ろに来るね!」
うなだれるデルをアルフが支え、リーと共に無事な兵の近くに避難させる。
「・・・命中。・・・杉村さん、これ以上は・・・。」
「フォックス、聞こえるか?行け。」
「承知!サリアン人!全員!殺害!殺害!
グルゥァァァアアア!!!、」
サリアンへ目掛けて獣のような人間が4足で走ってくる。
誰もその獣を止めようとしない。サリアン人は完全に戦意を失っており、戦う意志を失っていた。
「チッ!いかせるかよぉ!」
リーがすかさず槍を構え、突っ込んでくる獣の正面で横に薙ぎ払う。
獣はもろに薙ぎ払いを受け、体が上下に別れる。
が、真っ二つになった直後、再び一つの体に戻り突進を続ける。
「・・・何だ、こいつ!攻撃が効かねぇぞ!」
突進を許し、獣は場内に入る。
同時にアパッチからASRが発射され、アルフとリーは再び動けなくなる。
「グルルゥゥゥ!殺害!殺戮!殺傷!」
「おおぉぉぉ!させないぞぉぉ!」
焦げた地面の煤から叫び声、同時に岩のような手が地面から出てくる。
ヘルファイヤの爆発を受けてもなお、ボラブは無事であった。
ボラブは拳を放つ。獣は片手で簡単に止める。
「・・・ガラ人。邪魔。・・・ド・・・ケ。」
「おぉぉ!やるなぁ!だが・・・やらせんぞぉ!!!」
(・・・マジックゴーレムが、80体。マジックゴーレムがが・・・90体。
数えるのが面倒だ。概ね100体。・・・やるか。)
庄野は拳銃を構えた。




