第55話 突 撃 ~鬼才VS奇才~
『拳銃が小銃に勝つことがあるかって?状況によるだろうな。射程、弾速、弾数、命中制度を考えればどう考えたって小銃に分がある。しかし、取り回しや近接戦闘との併用を考えれば拳銃にも優位性はある。故に、状況によるってわけだ。まぁ、まかり間違っても、正面から撃ち合って拳銃が勝つことは無いだろう。』
(・・・そう。撃ち合えば89式に勝つわけがない。だからと言って逃げられない。奴の撃つ弾丸は自在に好きな場所に命中させられる反則武器だ。だったら・・・、真っ向勝負しかない!)
「死ねぇ!」
杉村は89式小銃から弾丸を発射する。
89式には単発、3点制限射(三制射)、連発が存在するが杉村は単発で射撃を行う。
(俺の改造89式にはメリットとデメリットがある。メリットは一つ、撃ったら好きな場所に当てられる。デメリットは2つ、『連射不可能』『引き金の重さ3倍』。三制射と連発は使えない。指切りで連射する必要があるが、その重さは3倍。簡単には連射できない。だが、それだけだ。弾が出ちまえば俺の勝ち。それだけの銃だ!)
弾丸が発射される。
庄野の頭から爪先に至るまで風穴が空き、全身から血が吹き出て倒れるだろう。
門前で異界の英雄が倒れる様を見せる。サリアン人の心をへし折り、追い討ちをかけるように全軍をもってサリアンへ攻撃が行われる。
引き金を引くだけでそれが成せる。
誰にでも実行できる簡単な作業である。
それを実行するために杉村は引き金を引気続けた。
弾倉が空になり、遊底部のスライドが引きっぱなしになるまで。
杉村の額からは大量の汗が流れる。
弾はまだ残っており、遊底部のスライドは閉じている。
呼吸音が漏れ、肩が上下する程荒い息づかいをする。
庄野は立っている。体には何一つ傷は無い。
床には小さい金属がぶつかって塊になったものがいくつも転がっている。
「・・・庄野ぉ、てめぇ・・・何の魔法を使いやがった?」
「お前の銃の能力はとてつもなく効率的かつ効果的に人を殺めることが出来る。だが、必ず銃口を通る。銃口に向かって弾を発射すれば確実にお前の発射した弾に当たる、それを実行した。ぶっつけ本番だったが何とかなった。それだけだ。」
(・・・やはり、対策を練っていた。
だがよぉ、魔石を装備するなり、対抗用の魔法を準備すればいいのに、わざわざ撃ち落としてくるとは・・・。
流石だ、改めて実感したよ。
俺の目の前にいるこの男が庄野哲也だって事を。
『鬼才』、庄野哲也。
人一倍努力する。
人一倍研究する。
人一倍思考する。
人一倍諦めない。
誰よりも・・・誰よりもだ。
ただ、それだけ。
それだけの事を全力でやれる男。・・・それ以上でもそれ以下でもない・・・それだけの男だ。)
「こんの・・・化け物がぁ!」
「こっちのセリフだ!」
杉村の銃から残った弾が発射される。
負けじと庄野も拳銃を連射する。
(杉村がどこを狙ってるのかはわからない。だが、奴が弾を発射してくる限り撃ち落とさなければ・・・俺は、殺される。こんな所で殺られるわけにはいかないんだ!集中しろ!1発1発、銃口の穴を壊すつもりで狙って撃つんだ!スライムの核よりはデカいし不規則には動かない!狙えば当てられる!)
それぞれの銃からの発砲音が鳴り響く。
その発砲音を彩るかのように銃弾がぶつかって混ざりあった金属の塊の落下音がリズムを刻む。
「・・・(チッ、弾切れか。・・・勝負には、負けたみたいだな。)」
「・・・。(射撃が、止んだ。ちょうどひとまるの魔力が切れた所だ。助かった・・・。)」
杉村は銃から手を離す。3点スリングによって首からブランと小銃を垂らし、手を叩く。
「・・・やるなぁ、庄野ぉ。まさか、俺の89式を魔法も魔石も無しで正面から対処してくるとは思ってもみなかったぜ。
完敗だ!この勝負、お前の勝ちだ。」
「・・・何のつもりだ?」
別のコピードールから複製した拳銃を受け取り、再び杉村に向けて構える。
「言葉の意味の通りさ。俺はこの一騎討ちでお前さんをぶっ殺して、この戦いの前に重要人物を倒した事をサリアンに証明したかっただけさ。ま、負けたけどな。」
「・・・本当に、それだけか?」
「・・・。なぁ、庄野。
この世界は終わってる。
だがよ、俺らがいた日本よりはマシなんだよ。
日本なんて、自分の国の事なのに他人事みたいに言いやがる連中ばっかり。仕舞いにゃ後始末を下へ下へ、回りへ回りへと押し付けてばかり。苦労するのは若い人間、努力する人間だけだ。年寄りと怠慢な人間は権利ばかり主張して若者、努力家は家畜のように扱われ、結果、死ぬ。その屍を使って更に権利を主張する。
海外の人間からみたら滑稽だろうよ。
5年、いや・・・10年もほったらかしにすればここもそんな国になる。上の連中の傲慢さがまさにそれだ。
異界人は奴隷のように扱われていた。
能力の高い異界人は魔石を作るために人体実験のモルモットにされていた。
・・・いや、されているの方が正しいか。・・・まぁいい。
そんな国に目の前でなろうとしてるんだ。ここで変えないと、また新たにこの世界に紛れ込んじまった奴等はどうなる!
出来るなら、変えるなら今しかない・・・その為には異界人が力を持ってることを証明する!
なぁ、庄野。お前の力が必要だ。
こっちに来い。」
「断る。お前のその正義への強い意思は認めるがやり方は賛同出来ない。」
庄野は即答する。
「クックックッ・・・なぁ、おめぇ、愛しのお姫様から愛想を尽かされてるのによぉ。健気だなぁ、おい!
そういう所が気に入らねぇ!
無駄な理不尽には逆らえよ!
わかってるんだろ!?意味の無ぇ事だってよぉ!
献身的に!健気に!真面目に!犬のように従ったから、お前はあの時ッ!」
「庄野が使う武器の音だ!何があったに違いない、行くぞ!」
城門からデルの声と何十人のガチャガチャと鎧のぶつかる音が近づいてくる。
「・・・時間切れか。しょうがねぇ。
教 育 の 時 間 だ 。」
杉村の体からどす黒いオーラが放たれる。
(これは・・・あいつの89式から出ている黒いものと同じものか?何かするつもりだ、躊躇ったら殺られる!)
反射的に危機を感じた庄野は杉村に向けて発砲する。
弾丸は杉村の額に命中し、仰け反って空を仰いだ。
「・・・クックックッ。痛ぇじゃねぇか、庄野ぉ。」
「嘘だろ・・・9mmが当たったんだぞ!」
仰け反ったまま両手を広げ空に向かって叫ぶ。
「アッハッハっはぁ!魔石を使いこなせば、銃弾なんて効かねえんだよぉ!
そんなに拳銃で倒したいんなら、あっちにいる魔物でもやってな!」
杉村が遠くを指差す。先日に封印した魔方陣から大量のマジックゴーレムが大量に沸き出している。
「庄野ぉ、勝負に勝った賞品として教えてやるよ。
お前らが必死に封印していた魔方陣には2つの機能がある!
1つは召喚、もう1つは転送だ。
元々あれには転送機能しか無い。それに召喚の機能を付け足した代物だ。だから、お前らが必死に封印したのは上書きした召喚の機能だけで、転送機能は生きてる。
そして、俺らの拠点からマジックゴーレムをここに転送しているのが、あれだ。
そうだな・・・1つの魔方陣から1コ中隊基幹のマジックゴーレムが出てくるだろうな。」
(魔方陣の数は概ね・・・だから・・・つまり、1コ連隊近くのマジックゴーレムが来るっていうのか。)
「そこまでだ!魔王!」
デル、ボラブ、リーが武器を構え杉村の前に立つ。
「さて・・・役者が揃ったわけだ。さぁ、始めようか。
来い!桜間ぁ!」
杉村の叫び声と同時に空から黒いモヤが現れる。
(何だ?この風を叩く音は・・・。いや、聞き覚えがある・・・、エンジン音、回転翼機の音か。・・・CH47JA、いや、UH60の音に似てる。)
空を見上げる。
空にはヘリコプターが一機、空を舞っていた。
庄野は全身から血の気が引くのを感じた。
(・・・何で、忘れていたんだ?
ちょっと思い出せばその可能性に辿り着けたはずなのに・・・。
普通じゃない。とんでもない発想、思考を持つ異端児。
演習ではあるが、十数人の小隊を率いて、夜襲と奇抜な作戦だけで1コ大隊を壊滅させた天才小隊長。
『奇才、杉村秀誠』
・・・どんな方法か分からない。だが、奴はヘリコプターをこの世界に持ち込みやがった。)
徐々にヘリコプターの機影が明確になる。
同時に、庄野は杉村と再会した場面を思い出す。
機影が明確になるのとあわせて靄がかかっていた過去の光景も鮮明になっていく。
「杉村2尉です!お願いしまッス!
職種は航空科でパイロットやってたッスが、希望があって情報科に職種変換して習志野に来ました!
ちなみに、乗れる機種については、
AH64Dです!」
(アパッチ・・・湾岸戦争における最強最悪のヘリコプター。
そんな代物を・・・異世界に・・・
自衛隊のヘリコプターを持ってくるバカがどこにいる・・・!)
「はっはぁ!
勝負には負けたが、試合は終わっちゃいねぇ!行くぞぉ庄野ぉ!」




