第53話 齟 齬 ~みんな違ってみんないい、とは~
「・・・。」
「・・・。」
サクラとアルフはコピードールを引き連れて屋敷へと戻っていた。疲労困憊していたためか、ほとんど会話はなかった。
何故、コピードールが二人のもとに現れたのか。
何故、コピードールが弾丸を発射できたのか。
二人はおおかたの予想がついていた。
『庄野哲也が何かした』と。
その予想は当たっている。しかしながら、何故そんな事をしたのか、という理由は見当もついていない。
無茶をしてサクラの役に立ちたいなら、無理にでも魔方陣の元へ行けばいい。自衛官である庄野にとっては病であるとしても屋敷から魔方陣まではそう遠くない距離である。無理矢理来れば良いだけの話なのだが、彼は来なかった。でもコピードールは来た。
全く動けない程病状が悪化していて、コピードールに全てを託したのではないか。
それとも、さらに病気が悪化しており、助けを呼ぶためにコピードールだけ来たのではないか。
二人は今回の件について考えるが思い付くのは悪いことばかり。庄野が楽をしようとコピードールに任せた、庄野がもう戦う気はなくコピードールを主として戦うようにした、というような庄野の怠惰を思い付くことはなかった。
それほど庄野の評価は勤勉であったのだろう。
それらの疑問を解消すべく屋敷に戻るやいなや、休むこと無くそのまま庄野が寝ている部屋へと赴く。
「・・・アルフ、入りましょう。聞きたいことは山ほどあるけど・・・まずは容態が気になるわ。」
「分かったね(あの様子じゃ不安だったからシスターを寄越したけど、効果はあったかねぇ。庄野さんは端から見れば無敵で完璧な人間だけれども、普通の人間だから普通に悩んだり苦しんだりするし、何よりあれだけ咳き込んでいたのは心配だからね。さて・・・)。」
アルフがドアをあける。
「あ・・・。」
「・・・あ。」
「・・・え?」
「・・・(効果はあったけど・・・こっちは逆効果だね)。」
サクラは無言で部屋から出る。何事も無かったかのように自分の部屋へと戻ってしまった。
色々と察したアルフが声をかける。
「あー・・・シスター、庄野さんの具合は?いや、本人が元気そうだから、本人に聞こうかね。どうだね、庄野さん。」
「えっと・・・薬を処方して頂いて、そのお陰で今は咳もないです。」
「そうかね・・・シスターや、ちょっと申し訳無いんだけど、コピードールがちょっと怪我をしててね。外にいるから見て欲しいんだね。」
「あ、分かりました。では・・・庄野、様、また。」
「はい・・・シスター。」
よっこらしょっ、と掛け声を出しながらアルフは椅子に座る。
「はぁ・・・で、どこまでヤったんだね?ん?」
「・・・やってません。ちょっと、その・・・抱き合ってただけです。」
「ちょっと抱き合うっていうのは普通の男女がやることじゃないけどねぇ・・・。
ちなみに、サクラ姫とシスターならどっちが好きなんだね?」
「サクラ姫です。」
庄野は即答する。
「・・・必要ないと、捨てられても?」
「はい。」
庄野は即答する。
(それだけ想ってるなら無茶なんてしないで言うことを聞けば・・・いや、想ってるからこそ無茶をするのかねぇ。)
「・・・コピードールに武器を複製させた理由は?」
「俺は行けないので、少しでも助けになればと思って。」
「本当の理由かね?」
少し強めにアルフは問う。
「・・・代わりはいる、と言われたからです。
サクラ姫が傷つくいたり、悲しんでる姿を見たくなかった。自分の存在意義が欲しかった。だから無茶をしてたんです。
でも、代わりはいるなら俺は要らない。だから、俺がいなくてもコピードールだけで戦えるように、と思って。」
「・・・全く。・・・それで、手を怪我したって訳かね。サクラ姫もサクラ姫だけど、庄野さんも庄野さんだね・・・。一応、ワシの方からサクラ姫には今回のことは言っとくね。あと・・・ワシ個人としては、サクラ姫を悲しませることは許さないからね?」
じゃあね。
と後ろ向きに手を振りながら部屋を出ていく。入れ替わりでシスターが部屋に入る。
「コピードールの容態は?」
「怪我一つ無かったです。邪魔だったから、部屋から出されただけでした。」
ごそごそと荷物をまとめる。
「・・・帰っちゃうんですか。」
「ふふっ。残念に思ってくれるだけで嬉しいです。症状はおさまってるけど、夜にまたキツくなると思うから、薬はちゃんと飲むこと。あと、水分はちゃんと取ってくださいね。」
「ありがとう。助かったよ、カスミさん。」
「こちらこそ。・・・あの・・・もし、これから先、酷い怪我をしたら、私を頼ってください。魔力を持ってない異界人は治癒よりも普通の回復魔法の方が治りが早いですから。・・・またね、てつや君。」
ニコッと笑いながら修道服の女性は手をヒラヒラとさせて部屋を出た。
(・・・はぁ。参ったな、サクラ姫に何て言おう。誤解だ、と言ってもしょうがない。・・・こういう時は、悩むより行動だな。)
身体を起こし、サクラの部屋へと赴く。
(ふぅ・・・思った以上に体が重い。鈍ってるとか、ずっと寝てたからとか、そういう感じじゃないな・・・まだ本調子じゃないってことか。)
重い身体を引きずって、なんとかたどり着いたサクラの部屋のドアをノックする。
「庄野です。」
「・・・入って良いですよ。」
入ると、サクラはベッドの上で横になり庄野に背を向けたままである。
「あの・・・。」
「てつや様。からだの調子は?」
「はい、本調子では無いです。でも、薬のお陰でかなり楽にはなりました。もう大丈・・・いえ、完治するまではしっかり休みたいと思います。」
「・・・何で、シスターと抱き合っていたんですか?」
どストレートな質問に体が強ばる。
「・・・俺を心配してくれて、それで、親身になってくれたからです。」
「・・・答えられないなら、良いです。何でコピードールがてつや様の武器を扱えたんですか?」
(嘘だと思われたか。まぁ、しょうがないか・・・『サクラ姫に代わりがいるって言われたことにショックを受けて慰めてもらってた』なんて、本人を目の前に言えないからな。)
「戦力を分散しても戦えるようにするためです。俺一人に3匹ついてくるのは非効率なので。」
「・・・それでは、コピードール3匹がてつや様の武器を全て扱えるようになったら、てつや様は指示だけしていれば良いんですか?」
(・・・あぁ、サボるために複製させたと思われたのか。何を言っても聞いてくれないな。信頼を失ったわけだ。終わったな、ここでの生活は。)
「そうです。誰でも簡単に指示が出せれば・・・と思って。」
「・・・。」
会話が無くなる。
庄野が立ち尽くしたまま、数分が経つ。
「・・・帰ります。」
「どうぞ。」
庄野が部屋を出るとコピードールが待っていた。
「おぉ、お帰り。よし、ちょっと外に出るか。」
「キュッ!」「キュッッ!!」「キュッ!」
「さて・・・ここで良いかな。」
庄野達は西の都から少し離れた森で、木々に適当な大きさの×マークを3つほど書いた。
「よしっ。・・・これより、射撃検定を実施する。
目標、ひとまるは一番左、きゅうまるは真ん中、ななよんは右な。×の真ん中に向けて弾丸を発射。9mmを九発ずつ。準備が出来たら、各個に・・・撃てぇ!」
三匹のコピードールがひたすらに弾丸を発射していく。
薬莢から発射された後の弾丸を複製しているので発射音が無い。ヒュー、という空気を貫く音だけが流れる。
「・・・ひとまるときゅうまるは4発命中。そして・・・ななよんは・・・1発だけか?いや・・・同じ箇所に9発入れたのか!凄いじゃないか!!」
わしゃわしゃと一匹のコピードールを撫でる。
「・・・ひとまる。お前さんは俺の企図をすぐ理解してくれる、この中で一番頭がいい。きゅうまる、お前さんは体格が大きくて、複製が一番多く使える。そして、ななよんは魔法の制御が上手いから、射撃も必然的に上手い。みんなには個性がある。みんな違くてみんないいんだ、よしよし。」
「・・・ぐすっ。うぅ・・・。」
「泣くくらいなら、ちゃんと謝ったらどうだね?」
ベッドの上でサクラは泣いていた。
「だって、無茶しないでって、何回も言ってるのに、また無茶しようとしたから・・・代わりはいるって、代わりに私達がやるって、言っただけだもん!私、悪いことしてない!」
「・・・結局、それで庄野さんは自分の手を撃ったね。結果、彼は無茶をしたね。彼は彼なりにサクラ姫の事を考えて・・・。」
「・・・ぐすっ。それに・・・何でシスターと・・・楽しそうに、イチャイチャして・・・。」
(全然聞いてないね・・・。
庄野さんは庄野さんで、サクラ姫の意図を誤解してる。
庄野さんはサクラ姫に『必要ない』と思われてると勘違いしてるね。
サクラ姫はサクラ姫で庄野さんの意思を誤解してる。
庄野さんはサクラ姫が戦わなくて良いように無茶を承知で戦ってる。
サクラ姫は庄野さんが何で無茶をしてでも戦おうとするのか理由をわかってない・・・いや、わかろうとはしないだろうねぇ。
はぁ・・・みんな、思ってることがバラバラだね。)




