第51話 魔 物 ~強く、残酷な生き物~
~サクラとアルフが西の都を出発して数時間後~
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「・・・はぁ。」
西の都の入り口で独りの女性がため息をついた。
大きめの手提げ鞄を持ち、修道服に身を包んだ女性はどこか気だるそうであった。
(はぁ・・・司祭様から西の都に行くように言われたから、また異界人の鑑定が出来ると楽しみにしていたのに・・・病人の看病ですか・・・。サリアンの医者は全員がサリアン兵の治療に、国民の怪我と病気は全て教会へ押し付けてお金は全部終わってから処置・・・。踏み倒されるに決まってるのに、司祭様は人が良すぎるんですよ!全く・・・。)
かつてサクラに危機があったときに訪ねてくれたシスターが気だるさと向ける先を失った怒りと共にとぼとぼと西の都に入り、渡された地図に書かれた住居へと赴く。
(・・・あれ?ここって、サクラ姫のお屋敷?まだ・・・治ってなかったのかしら・・・。
・・・誰か、倒れてる!)
屋敷の目の前にはうずくまっている男が1人。迷彩柄の半袖シャツに迷彩ズボンの男である。
「し、庄野様?!大丈夫ですか!!」
「ぐぅっ・・・ふぅ、ふぅ・・・。・・・あ、シスター?・・・ゴホッゴホッ。」
「どうしたんですか?!・・・血?どこか怪我を・・・?」
「・・・大丈夫です。それより、コピードールは、何処へ?」
「え?・・・コピードールなんていませんよ?そんなことより、治療しますから、怪我した部分をみせてください!」
「・・・はい。(よし。・・・頼むぞ、ひとまる。・・・お前は、他の2匹より、小柄で・・・複製が出来る回数がちょっと少ないけど・・・一番頭は良い子だ・・・。頼む・・・頼むっ!)。」
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(さて・・・行くかね!)
意を決してマジックゴーレムに接近を試みる。
アルフを目視により確認したマジックゴーレムは巨大な手で地面を掬った。その地面をまるで砂を掛けるが如くアルフへ目掛けて投げ飛ばしてきた。
「は?ちょっと!・・・ぬぅん!」
通常より大きめの防護壁を展開し、上から雨のように降ってくる岩石を防ぐ。
(・・・参ったね。接近しようにも、こんな滅茶苦茶な遠距離からの攻撃を避けながら、サクラ姫を守りながら、やつの脚部を壁で削るのは至難の技だね。やつの動きを止める策は無し。これくらいの土石だけなら持久戦でサクラ姫の回復を待つ方が無難だね。)
『一度防護壁を解除し、サクラの近くへ向かって壁を展開、事後はサクラの回復が終了後に敵から距離をとって戦線を離脱』
というものがアルフの考える策であった。
(・・・この降ってくる土石が終わったら解除するね・・・。)
しばらくするがおさまる気配はない。
(・・・おかしいね。これだけ投げていれば地面が無くなるね。それに降り続くっていうのも不思議だね。両手で投げたとしてもこんなに・・・。)
しばらくするがおさまる気配はない。
(・・・マズったね。デカいだけのマジックゴーレムだと思って油断したね。こいつ・・・ボスクラスだね。)
魔物には様々なタイプが存在する。その様々なタイプの中でクラスが存在する。大きく3つ、と例外が1つ。
・ノーマル→そのままの意味。普通。
・エリート→非常に能力が高く、エリート同士で群れを形成する。
・ボス→生命の持つ魔力を大量に奪うことで成長したクラス。魔法が使える。
・使い魔→異界人を導く魔物。その多くは魔法を使う。低レベルでもボスクラスに匹敵する程強い。
(この、連続して土石を降らせる攻撃・・・『レインストーン』だねぇ。使う魔力もそんなに多くない初級~中級の魔法、原始的、古典的な魔法だね。ただ土石を降らせるだけ、ただ固いものが沢山降ってくるだけ。即死させるほどの威力は無いけど、広い範囲の相手を足止めしたり、邪魔をするには持ってこいの魔法。だから土石が降り続いて、いつまでも終わらないんだね・・・。
そして、こいつは地面を掬って投げたのは・・・多分、最初の1回だけだね。わざと地面を削って投げてる様を見せる、それしか遠距離攻撃は無いと思わせるために。ワシは直感的に『この攻撃ならすぐ終わる、大きめの防護壁を張って下がれば良い』と大きめのを張ってしまった・・・。策にハマって、まんまと魔力を使わされてしまったわけだね。・・・このままじゃダメだね。とにかく、魔力の消費を抑えないと・・・。)
アルフは直ちに防護壁を小さく出来ない状態にある。防護壁はアルフだけでなく、少し離れた位置のサクラも守るために展開している。壁を小さくするにはサクラに近づかなければならない。
壁を張ったまま下がって小さめのものを展開する。
サクラとアルフだけが守れる壁を展開し、サクラに近づく。
ちょっと考えれば誰でも出来る行為である。
それが、アルフには出来ない。
(・・・攻撃が止めば・・・攻撃が・・・止めば・・・。)
アルフの壁には致命的な弱点がある。
わざと遠くに展開したり、攻撃のために使用する壁は守るためのものではなく、ただの重量物として展開している。そのため壁としての耐久度は低い。
しかし、『防ぐ』ために壁を張った場合、壊れないように逐次魔力を投入しなければならない。そのため、壁の近くから離れる事が出来ない。
今のアルフは壁から離れる事が出来ない。離れた瞬間に壁は降り注ぐ岩石により瞬く間に崩れてしまう。
(・・・何か、無いかね・・・ワシとサクラ姫が助かる道は・・・何か・・・ッ!。・・・ヤバい!・・・壁が崩れ始めたね!)
策を思い付けないまま時間は経ち、アルフの魔力が限界に近づき始める。崩壊を防ぐべく魔力を更に投入しようとするが、壁は少しずつ剥がれ、手の平程の大きさの岩がアルフの頭に直撃する。
「ぬぅぅぅッッ!(ヘルムを着けてても、結構痛いね・・・もう・・・)。」
フッ、と壁が透明になり、残酷な雨が二人を襲う。
「・・・アルフ?大丈夫?アルフ・・・?」
座ったままの姿勢で動けないままのサクラが声をかける。
「アルフ?ねぇ・・・どこ?」
「・・・ここに、いるね。」
サクラの後ろから老人の声がする。
「この石を降らせる攻撃、レインストーン、だよね。ボスクラスの魔物?」
「ご名答だね。回復したら逃げるね。」
「うん。ごめんね、私が動けたらこんなことには・・・。」
「・・・気にしちゃダメね。あとどれくらいで動けるかね?」
「もう動けると思う。アルフ、ちょっと手をかし・・・。」
振り向いてアルフの方を向く。
兜の間から見える顔は血塗れで片目には尖った石が刺さっている。出発する前には傷も何もなかった鎧は大量の凹みがあり、左足の膝から下は本来とは違う方向に向いている。
「・・・え?アル・・・フ?」
「防護壁の縮小をミスってね。サクラ姫には土石が当たらないようには出来たけど、ワシには全部直撃したね。で、再展開して壁を1/10位にしたから、まだ耐えられるね。」
(・・・ごめんね、サクラ姫。こうするしか無かったね。二人が無傷で壁だけ小さくするには魔力が全然足りなくて不可能だったね。サクラ姫の前に壁を何重にも張って、ワシが近づいたら魔力投入出来る防護壁に切り替える。その間、ワシはレインストーンを受ける。・・・枯渇寸前の魔力でどうにかするには、これしか無かったね・・・。)
「・・・あ、・・・いや・・・治癒を。」
「治癒はしなくて良いね!ここから動くために、体力と魔力は残すね!」
アルフの悲惨な姿に治癒魔法をかけようとしたサクラを大声で制する。
「でもぉ・・・アルフが、死んじゃう・・・。」
「ぐずるんじゃない、まだ死なないね。とにかく、動けるんならここから離脱をするね。」
二人が立ち上がろうとすると、レインストーンが止む。直後、空から今までとは比べ物にならないほど巨大な岩が降ってくる。
ドスンという巨大な音と地鳴りが響く。木々が揺れ、地面にはヒビが入り、まわりの動物が皆一斉に逃げ出した。
「・・・え?」
「・・・跳んだのかね?」
壁の目の前に巨大なマジックゴーレムが立ちはだかる。手を伸ばさずとも、二人に手が届く距離にいる。
「接近する手間が省けたね!」
別の壁を2つ空中に展開する。壁はマジックゴーレムの脚を挟むように水平方向に高速移動する。
車が正面衝突したかのような激しい音が響く。壁はボロボロに崩れ、その間には傷1つないマジックゴーレムの脚がある。
「くっ・・・効かないなら!」
マジックゴーレムの足の下から円柱型の細い柱の壁が地面から突き出る。足を掬われ、バランスを崩す。
「今だね、逃げるね!」
二人は必死に距離をとろうと逃げる。
バランスを崩したマジックゴーレムはゆっくりと後ろに倒れるが、その姿勢から地面を蹴り決して綺麗とは言えないがバック転により転倒を回避し、四つん這いの姿勢になる。
さらにその姿勢から陸上のスタートダッシュが如く走りだし、一瞬で距離を積め、アルフの後ろを走っていたサクラを掴んだ。
「きゃぁぁあ!」
「なっ!」
サクラを掴んだマジックゴーレムは似たりと笑い、言葉を発した。
「グヘヘ、マリョク、タカイ、ニンゲン。コロシテ、チカラ、モラウ。オマエ、マリョク、タカイ。
ドウヤッテ
コ ロ ス ?」
「嫌、いやぁ・・・助けて・・・
助けてぇ・・・
てつや様ぁ!」
サクラの叫び声と共に破裂音が三回。
「グォォ・・・オオォォォォォ!・・・・・・。」
魔物は怒号を上げながらボロボロと崩れていき、ブロックになった。
「た、助かったね・・・。」
サクラは辺りを見渡す。
「てつや様!てつや様ぁ!」
そこにいたのはコピードールだけだった。
「キュッ!」「キュッッ!!」「キュッ!」




