第50話 無 念 ~後悔先に立たず~
「で、魔方陣を何とかする方法ってあるのかね?」
「方法は2つ、破壊と封印。封印はそのままの意味で、魔方陣が書いてある地面を物理的に壊すだけ。封印は色んなやり方があるけど、簡単な方法は魔方陣と逆の属性の魔法を使用すると昨日を失うみたい。」
西の都を出て、二人は近くにある魔方陣へと歩いていた。
「ふーん、なるほどね。で、魔方陣の属性はわかってるのかね?」
「魔族・・・いえ、異界人が使うなら闇属性がほとんどだから、私ならすぐに壊せると思うの。試すだけでもやってみたいから。」
「なるほどね。で、問題は・・・大量に出現しているあの強力な魔物がいるなかでどうやって魔方陣に近づいて魔法を使うかって所かね。」
「うーん・・・何かを囮にして魔物を離すか、物理攻撃が強い人に魔物を倒して貰って・・・。」
サクラの頭に庄野の姿が過る。
同時に悲しみと後悔の感情が沸く。
右手に拳銃を握り、真剣な眼差しで遠くの魔物を見つめる。
破裂音と共に目の前の魔物が崩れていく。
何かを成し得た後は決まって『ふぅー』と口をすぼめて鋭く息を吐く。
サクラが駆け寄ると、ニコッと優しい笑顔を返してくれる。
彼がここに居ればどれだけこの魔方陣の封印が楽になるか。
対魔法特化の魔物を退けるというサリアン人にとっての難題を容易に突破できる唯一無二の存在を。
『好きだ』と想いを伝えてくれた大切な人にどうしてあんな風に酷い言葉を並べてしまったのか。
何故酷い言葉を放つ数秒前に時を戻すことが出来ないのか。
後悔の念はサクラの瞳から涙と共に流れる。
「・・・今から帰って、ちゃんと謝ってからでも遅くないね。どうするかね?」
「・・・え?あ・・・。大丈夫、大丈夫だから。・・・ごめんなさい。」
サクラは涙を拭い、再び歩き始める。
そうこうしていると、二人の目の前にはサリアンに最も近い場所にある魔方陣が映る。
「さて・・・魔物はいないね。デル達が狩ってくれてるなら、ここはいなさそうだね。」
「うん。・・・『封印』を始めます。アルフ、防護壁の展開をお願い。」
サクラは魔方陣の側に立ち、魔方陣に対して治癒の魔法をかける。その様をドーム状の壁が覆い被さるように展開し、全周を防護する。
魔法を使用してから1分。
地面に刻まれていた魔方陣が少しずつ消えていき、描いたときに掠れたようになっていく。
「・・・このままいけば・・・。これで・・・。」
5分程して、魔方陣から光が消え、うっすらと紋様だけが地面に残る。
サクラはヘタッとその場に座り込んだ。
「サクラ姫、大丈夫かね?」
「はぁ・・・はぁ・・・うん、大丈夫。ちょっとだけ、休ませて・・・。」
「全力で魔法を使ってるよね?体力的にも厳しいから、日を分けてやっても良いね?どうするね?」
「・・・大丈夫。このまま、行けるところまで行って、限界が来たら、帰りましょう。」
とはいうものの、サクラの足取りは重かった。二つ目、三つ目と順調に魔方陣を封印する事には成功した。しかしながら、個数を重ねていく毎にサクラの足取りはどんどん重くなり、封印にかかる時間も長くなっていった。
四つ目の魔方陣の封印が終わるには二時間を要していた。
「サクラ姫、もう、今日は辞めとくね。」
「・・・。あと・・・1つだけ・・・。」
持っている魔法用の杖を文字通り杖がわりにして何とか立ち上がる。
が、その様子は誰が見ても限界である。
(んー、結構奥まで来ちゃったから危ないんだよねぇ。このまま連れて帰っても不機嫌になるし、かといって連れていって何かあったらワシ一人じゃ壁張って数分やり過ごす位しかできないし・・・困ったねぇ。)
アルフが別の策は無いかとあれこれ考えているうちに五つ目の魔方陣へとたどり着いてしまった。
「えーと・・・西の都から結構離れた場所に来たし、ほら・・・そのー、乗り物も用意してないし、歩いて帰るからね?それに、魔物だってデル達が倒してるかもしれないけど、残ってるのがいるかもしれないね。あと、あんまり無理すると、ワシ、人を担げるほど力無いからね?というか、さっきも死にかけてるからね?・・・無茶、しないでね?」
「え・・・無茶?そんなもの・・・してません!大丈夫だから!」
(・・・しまった。『無茶』って言葉は失言だったね。ムキになってるねぇ・・・。あーあ、全く・・・誰に似たのやら・・・ねぇ?庄野さん。
あんた、いろんな人に影響与えすぎだね・・・。)
五つ目の封印が始まって数時間経つが、終わる目処はたちそうに無い。サクラの魔力も殆んど残っておらず、フラフラとした状態で無理矢理絞り出した残りカスのような魔力だけで何とかしようとしている。
そんなサクラ姫をアルフはただ見つめることしかしなかった。
「・・・くっ。・・・もう少し・・・もう少しなのに・・・ッ!」
必死に魔力を込めようとするが杖の先からは魔法を使ったときの光が出なくなる。完全に魔力が枯渇し、サクラは崩れるようにその場に座り込んでしまう。
「時間切れだね。・・・歩けるようになったら、帰ろうか・・・ん?」
アルフは耳を済ませる。遠くの方からドスン、ドスンと岩が落ちてくるような音がする。その音はどんどん近くまで迫ってきている。
「・・・サクラ姫。動けるようになるまで何分位休めば良いかね?」
「・・・え?・・・はぁ・・・はぁ・・・
5分・・・欲しい。」
「ん、わかったね(5分・・・ね。たかが5分が厳しいね。)。」
意を決してアルフは音がする方向、それもかなり遠くに壁を展開する。
展開して数秒もせずに、ブゥンと風を切る音と共にガラスのように破片となって飛び散った。
「何で、よりによって・・・こんなときに来るのかねぇ。今来るんじゃないね、マジック・・・ゴーレム!」
ブロックで全身を形成された魔物を目視にて確認する。
(・・・ん?何か・・・デカくないかね?いや、気のせい・・・
じゃないね!デカいね!!)
アルフから1㎞は離れている位置、木々の上からマジックゴーレムの巨大な図体の上半身が見える。
ドスン、ドスンと音が大きくなっていく。
マジックゴーレムが徐々に距離を詰めてくる。
(・・・は?何だね、これ・・・デカすぎだね・・・。今まで)
通常のマジックゴーレムがCH-47Jと同じ位のサイズとしたら今アルフが見ているマジックゴーレムはE-767程のサイズであった。
「・・・ねぇ、アルフ?」
「な、なんだね?」
「もう、振り返る体力も・・・残ってないから、何が来てるか、見えないんだけど・・・ここまでかな?・・・私達。」
「・・・いんや、そんなこと無いね。動きはノロマだから、サクラ姫が回復すれば全然逃げ切れるね。」
「そっか・・・じゃあ・・・頑張らないと。」
「今は頑張らなくて良いね。しっかり休むんだね・・・。」
サクラは下を向き、動かなくなる。
その傍らにアルフも座り込む。
(すまんねぇ・・・ワシも結構、かつかつね。ここまで奥に来ると思ってなかったし、防護壁張るのに魔力を使いすぎちゃったね。・・・ワシはここで死んでも良いけど、サクラ姫が死んじゃったら沢山の人が悲しむからねぇ・・・せめて相討ちだね・・・。さて。)
スッと立ち上がり、巨大なマジックゴーレムの方向へ歩く。
(デカイ分、動きは鈍いし、的がデカいね。脚部を破壊して動きを封じて、サクラ姫を逃がす。・・・逃がせるかね?こいつを相手に・・・。)




