第49話 亀 裂 ~所詮部品~
「ほっ。庄野さんはどんな様子だね?・・・聞くまでもなかったね。」
部屋に入ったアルフは泣き崩れるサクラと苦しそうな庄野を見て概要を察した。
「アルフぅ・・・どうしよう・・・てつや様・・・死んじゃう・・・。」
「とりあえず、落ち着くね。さて・・・。」
アルフは庄野の上着を脱がして、体を触り始める。
「アルフ・・・何やってるの?」
「シッ。ちょっと、静かにするね。」
しばらく庄野の体を触ると、上着を戻した。
「・・・。」
「体に外傷は無い、痼も無い、特に変なところも無いね。とすれば・・・重度の過労かねぇ。でも、咳の方は薬が必要だから、医者を呼ばないといけないね。・・・とはいっても、サリアンの方が悲惨だからね、どうしたもんかねぇ。」
「・・・アルフ、お医者さんだったの?」
「あぇ?ワシ、軍医も兼ねてやってたの知らなかったのかね?」
「・・・初耳です。ごめんなさい。」
「・・・ま、良いね。とにかく、このままの状態じゃ手遅れになって庄野さんが死んじまうってのがホントになっちゃうね。医者を無理矢理にでも連れてくるか、庄野さんを向こうに連れていくか、はたまた・・・。」
んー、と唸り声をあげながら腕を組み、アルフは考え事を始めた。あれでもない、これでもない、とアイデアは浮かぶものの、現実味が薄く実行の可能度は低いものばかり。
そんな調子で長々と考え事をしているアルフを目の前に、サクラは強く言葉を発した。
「アルフ、私達で何とかしましょう。」
「ん?当たり前だね。・・・何をだね?」
アルフは嫌な予感を察知し、念のため『何を』するか確認をとる。
伊達に年はとっておらず、その嫌な予感は概ね的中する。
「私達で魔物が出てくる魔法陣を封じるの。」
「はぁ?!本気でいってるのかね?!」
予想のはるか上をいくサクラの言葉にアルフは大音量で返答する。
「・・・本気だよ。これは、本来なら私達だけで解決しないといけない問題なのに、てつや様に頼りっきりになってる。頼るのは良いと思う。でも、頼ってばかりはダメだと思う。頼ってばかりだから、無茶ばっかりして、てつや様はこんな事に・・・。お願い、アルフ!」
「・・・はぁ~~~~~~、わかったね。・・・姫様も、誰かさんに似てきたねぇ・・・。」
「ふふっ。そうかもね。そしたら、」
『行きましょうか』と椅子から立ち上がろうとしたサクラの袖を満身創痍の庄野がいきなり掴んだ。
「・・・てつや、様?」
「ハァッ!ハァッ!・・・おれ、も・・・行き・・・す。」
「無茶言わないでください?今のあなたはそんな状態じゃ」
「行きッ!・・・ます!行けますッ!・・・お願い、しますッ!俺も・・・行き・・・。」
「・・・どうして?どうしてそこまで無茶するんですか?」
「・・・頑張ら、ないと・・・。俺は、ここにいる意味が、無いから・・・。俺は、魔法、使えないし・・・強く、ないし・・・余所者で・・・、だから、頑張って・・・頑張らないと・・・ハァッ、ハァッ・・・。」
「・・・頑張らなくても、大丈夫ですよ?てつや様は十分、」
「・・・違う、・・・違うッ!俺は・・・全然・・・何も成せてないッ・・・!何も・・・まだ・・・。」
(嫌だ・・・嫌だッ!見捨てられたくない・・・、置いていかれたくないッ・・・、出来ない奴だって思われたくないッ!!・・・俺は・・・無力だ・・・力不足だ・・・だから、頑張らないと、結果を出さないといけないんだ!だからッ!こんな・・・ことで・・・。)
動かすのがやっとの体を無理矢理起こしサクラの袖を掴みながら、庄野は懇願する。
何度も、何度も「嫌だ」「連れていってくれ」と。
そんな庄野の態度に対し、徐々にサクラの表情は暗くなり、冷たい言葉を発する。
「・・・ねぇ、てつや様。あなたを連れていって、何かメリットがあるの?」
「・・・え?」
「アルフに倒れた時の事を聞きました。攻撃を魔物に当てることが出来なくて、そのまま倒れたんですよね?」
「あ・・・う・・・。」
「そんな人を連れていっても、はっきり言って足手まといです。」
「・・・。」
冷たく発せられた言葉に庄野はショックを受ける。
ド正論に何も言い返せない。
サクラは更に追い討ちをかける。
「てつや様、あなたの代わりになる人間はいるんです。だから来ないで下さい。」
「え・・・代わりは・・・いる・・・?何で・・・?じゃあ、もう・・・俺は・・・。」
サクラの袖を強く握っていた庄野の指がゆっくりと離れた。
(そっか、そうだよな・・・。俺がこの国でやって来た事は・・・ただ命を奪ってきただけで・・・、ただの・・・人殺しで、歯車、なんだよな・・・。)
そのまま俯いて動かなくなる。
「・・・私達は行きます。ゆっくりと休んでて下さい。」
冷たくいい放つとサクラは部屋を出ていった。
「・・・そこまで冷たくしなくても・・・ねぇ?庄野さん?」
「・・・そうだよ。俺は要らないから、代わりの人がいるんだ。 俺は、もう、必要ないんだ。」
ぶつぶつとお経のような言葉が漏れる。
「おーい・・・庄野さん?」
「どうせ俺は、ただの人殺しで・・・命を奪うことしか出来なくて・・・もう・・・そんな人間は・・・要らないから・・・。だから・・・俺はもう要らないんだ・・・替えの歯車に入れ換えて・・・俺は捨てられて・・・そう・・・。」
庄野の目線はどこを見ているか分からないほどブルブルと縦横無尽に動いている。
「庄野さん、ワシの声が聞こえるかね?・・・庄野さん、庄野さん。」
何度も何度も声をかける。
1分も、2分も声をかけ、やっとその意識はアルフの方に向く。
「・・・アルフ、さん?・・・俺は・・・。」
「とりあえず、ワシも行ってくるね。・・・何かあったら困るから、人を呼んでおくから。どこか遠くに行っちゃダメだからね?約束、したからね?いいね?」
「・・・はい・・・。」
防具と道具を準備し、サクラは外へ出ようとする。
「・・・アルフ、行きましょう。」
「準備、出来てないね。」
「え?」
「サクラ姫、庄野さんをあのまま出ちゃって大丈夫かね?結構こたえてたみたいだけど・・・何か誤解してるかもしれないし、一言だけでも言ってあげても良いんじゃないかね?」
「・・・良いの。あれくらいのお灸を据えておかないと、ホントに着いて来てしまうから。」
「・・・はぁ。サクラ姫がそう思うなら、別に良いけどね。」
「キュピー!」「キュピー!!」「キュピー!」
「・・・みんな・・・どうした?ゴホッ、ゴホッ!・・・よしよし。」
ベッドの上に登ってきたコピードールの頭を撫でる。サクラに冷たくあしらわれたショックからは立ち直れておらず、生気も覇気も無い。
(どうして・・・。俺には・・・無茶する以外に出来ることが無いんだ・・・。無茶しないと・・・俺には・・・魔法も何も無いから・・・誰かを守れる力は、無いんだ。だから・・・。)
「・・・俺が出来ることは・・・。でも、こいつらなら・・・」
「キュ?」「キュ??」「キュ?」
ベッドから立ち上がり、外に出る。
(1つだけ、試したかったことがある。『複製』という言葉に引っ張られて思い付かなかった事・・・複製出来るものの条件を確かめる。俺の推測が正解なら・・・。)
片膝をつき、コピードールに話しかける。
「手榴弾を複製してくれ。」
「キュ?」「キュ??」 「キュー!」
1ぴきのコピードール(ななよん)だけが何かを察知し、手榴弾を複製する。ピンの外れていない、未使用のM26手榴弾がコピードールの頭上から庄野の手の平に渡される。
(なるほど・・・俺が過去に使った、いや、触れたことがあるものなら複製が可能なんだ。魔法なら俺がかけられた事のある魔法なら複製が出来る。だから治癒魔法が使えるんだ。・・・それなら・・・。)




