第45話 悪魔3 ~正義とは~
「はぁっ・・・、はぁッ!・・・違う、お前は嘘をついて・・・だから・・・。」
「嘘?そう思うなあなたの母親から貰ったのと同じ魔石を作ってあげるよ?ほら!・・・ぐすっ。・・・これでしょ?違う?」
その魔石を見るや否や、デルは剣を落として膝をついてしまう。
「あ・・・そん・・・な・・・私達は・・・。」
「そう、私達異界人に長年酷いことをしてるくせに、理想だけを掲げて、勝手に『異界人を許さない』なんて自分の都合だけで生きてるのは全てサリアン人なの。私達異界人はサリアン人に復讐する理由があるの。だから全員殺すの。私達の行動は正義そのものなの。それに、私より酷い目にあった仲間は沢山いる。その中でも魔王様は一番の・・・。だから・・・死ぬそのコンマ1秒前まで苦しみながら、死んで?」
膝をつき、うなだれているデルの頭部にゴルは手を添える。
「あ・・・あぁぁぁぁ!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!は、はぁ、はぁ・・・あぁぁぁぁぁ!!!」
「あーはっはっはっはっはっはっ!あはははははは!!やったぁ!あの女の一族に!あの女の娘に復讐してやったわ!これで私は自由なの!私を苦しめる人間はこの世から消えるの!アハハハハハ!」
恐怖に苦しむデルを目の前に、ゴルは新しいおもちゃを貰えた無邪気な子供のように跳び跳ねてはしゃいでいる。
「デル!ちょっと!・・・てか、あんた達、何でこれだけ魔法をかけてるのに効かないの?!全然止まらないんだけど・・・このままじゃ・・・。」
「ムぅ!気を失ッテるはずの人間ガ動く、精神力の強イあの女デも受ケるホドの魔法・・・かなリ異質の魔法ダ。」
カエデとガラ王は意識のないサリアン人の自害を止めるので手一杯だった。
その様はまさに地獄、制止のための魔法も効かない、殴って意識を経ってもゾンビのように歩きだし、近くの鋭利なものがあれば喉や心臓を突き立て、水があれば頭を突っ込み、屋根に登って頭から落下していく。
先程まで子供のようにはしゃいでいたゴルは暗い表情に戻り、庄野とアルフの後ろにいる少女の方向に目を向ける。
「・・・はぁ。忘れてた。もう1人、あの女の血族がいた。・・・ねぇ、後ろに隠れてないで・・・出てきてよ?」
「ひっ!嫌・・・いや・・・。」
「させない。俺が相手だ。」
ゴルの目の前に庄野が立ちはだかる。
「邪魔、どいて?」
「復讐は済んだ。十分だろ?もうやめるんだ。」
「なに?私に説教するの?恵まれた環境の人間なのに?!」
「・・・。」
(その通り。俺は運が良かった。だからこそ、この子が俺の言うことを聞かないのはわかってる。)
「・・・ねぇ、おにぃさんも異界人ならさぁ、私達がどれだけ冷遇されてきたのか分かるでしょ?」
「・・・あぁ。わかるよ。サリアンは腐ってる。」
(そう。この国は腐ってる。同じ人間なのに、異界人を人間以下と思ってる屑が平気で御天道様の下を歩いてやがる。
・・・デルにしてもそうだ。異界人を恨む理想はごもっともだが・・・殺されて当然の事をしていたのはサリアンだ。一人の女性にここまでの感情を持たせた原因を『知らなかった』で済ませて良いものではない。国の代表が過去の汚点を無かったことにしているその結果がこれだ。
・・・この国は・・・腐ってる。)
「そうでしょ?だったら・・・この国を潰そうよ!この世界を正しい方向に向けるの!私達と一緒に!」
「・・・そうだな。」
(そう、今がこの国を変える絶好の機会だ。そして、今ここで国を変えることが出来るのは・・・俺達異界人だ。俺達が立ち上がって、サリアンの過去を明らかにし、それを理解させ、2度と同じ過ちが起きないよう周知徹底を図る。それが・・・本来の正しい方向、なのだろうが・・・。)
「ねぇ、おにぃさんならわかるでしょ?サリアンをここで1度作り直すの!法律とか、体制とかそういうどうでも良いものじゃなくて、人のあり方を1から変えるの。私達にしか出来ない事なんだよ?」
「・・・あぁ。」
(この子を含めて杉村達はサリアン人に復讐を果たす事が大切だと考えている。それも至極当然の話だ。例えサリアン人にサリアンの歴史を理解させて悪行が無くなったとしても、今を生きる過去に酷い目に合わされた異界人は誰も納得はしないだろう。逆の立場で同じことが起きるだけだ。・・・どうすれば・・・。)
「でしょ?だからサリアン人をたくさん殺すの!そうすれば、生き残ったサリアン人は2度と異界人に酷いことをしようなんて思わないでしょ?」
「・・・それが、正しい方向なのか?」
「そうだよ?私達は正しいことをしてるんだよ?弱者を虐げる愚か者に『正義』を振りかざしてるだけだよ?」
「・・・。」
(・・・正義、か。)
「ま、退いてくれないならその人は良いや。もう少しサリアン人を間引きしたら帰るから。じゃね。」
ヒラヒラを手を振りながら庄野に背を向け地獄のような待ちの方へ歩いていこうとする。
庄野は何も言葉を返さず、足元にいるコピードールの頭を撫でていた。
背を向け数歩進んだゴルはニヤリと笑みを浮かべる。
「くふふふっ、ホントだ。まおーさまの言ったとおりだ。
『正義って言葉を使えば庄野は何も言い返さなくなる。あいつにとって正義はそれほど大切なものだ。それを言わなかったら瞬殺されるぞ』
って言ってたけどホントにその通りになるなんて。あははっ!なーんだ!瞬殺どころか全然私に対して何もしてこなかったじゃん!
じえーたいっていうのも対して覚悟の無い連中なんだね。この程度の連中なら、まおーさまも大したこと無いかもしれないなー。そしたら、この世界を異界人が治める事になった時にまおーさまも殺して、私がトップに立った方が良いかも!
あははっ!そしたら私、」
突然、後頭部に強い衝撃を受けゴルの思考は停止した。
先程のように言葉発することが出来ない。
頭から生暖かい液体が大量に流れていることだけが認知出来た。
(あれっ?何、これ・・・。・・・私・・・、え・・・?・・・。)
(・・・これが、正義だ。君の命は果て、何百何千という命が助かる。・・・もう苦しむこともない、安らかに。)
頭から血を流し倒れる少女の後方には拳銃を構えた庄野が立っていた。
少女の死と同時に暴走していたサリアン人への恐怖は消え、感情は元の状態へと戻る。
しかし、失われた命は戻らなかった。
元通りになった3人の兵士が少女の遺体の近くへ歩み寄る。
「こ、こいつが・・・俺達に変な魔法を!俺達の仲間を!許せねぇ!」
「四肢を切り落とせ!張り付けにして火炙りだ!」
「悪魔め!肉片一つ残してやらねぇ!」
少女の亡骸へ持っている各々の武器を振りかざす。
「ダメぇ!やめてぇ!」
サクラの叫び声と同時に3回の破裂音。
武器を持っていた兵士の兜の隙間からダラダラと赤い液体が流れて少女へと覆い被さるようにその場に倒れた。
庄野は4人の亡骸の側に立った。
(何が『許せねぇ』だ、何が『悪魔』だ。サリアン人の方が悪魔だろうが。遺体を火炙りだの四肢を切り落とすだの・・・ふざけるな。)
庄野はサリアン人殺害と未成年殺害の罪に問われた。
庄野が行ったことは正しいことであった。
時代と法がそれを許さなかった。
この世に『正義』は存在しない。存在するのは常に『悪』と『悪を裁くもの』だけである。
「魔王様・・・ご報告が。」
「あぁ、ゴルが死んだか?」
どっかりと椅子に座っている杉村に眼鏡をかけた女性が報告をする。
「・・・ご存知でしたか。」
「いや、今知った。ま、あいつがここで死ぬのは計画通りさ。」
「・・・裏切り者には、死を。ですか。」
「あぁ。だが、俺が殺すと統率が図れなくなる。庄野に『理論も糞もない正義』を語ればぶちギレるだろうと思ったが、予想通りだったな!あっはっは!」
「では、計画の第2段階へと以降した事を下達します。」
「あぁ、頼む。ちょっと外の空気を吸ってくる。」
「庄野ぉ・・・人を撃つことを躊躇わなくなったか。良いねぇ・・・最高ぉじゃねぇか!!最後に俺と殺り合う時が楽しみだぜ!あっはっはぁ!」




