第44話 悪魔2 ~神も、法も、大人も~
「・・・ほら、どうしたの?その剣を私に刺すだけだよ?ほら?抜かないの?」
「・・・くっ!」
デルと少女が向き合う。
カエデは魔法で暴れている人間を眠りにつかせ、ガラ王は片っ端から殴り倒し気絶させてサリアン人の救出(?)をしている。
庄野とアルフは動けなくなったサクラの横に立っている。
「・・・ねぇ、殺さないの?」
「答えろ・・・。何故・・・こんな事をする?」
「くすくす・・・教えてあげても良いけど、それを聞いてどうするの?」
「答えろっ!どんな事情があれど、お前は魔王の仲間だっ!許すわけにはいかない!」
デルが真っ直ぐに剣を向ける。
先程までニコニコしていた少女の顔から笑みが消え去った。表情と呼ばれるものが一切見えなくなった。
「許すわけにはいかない?・・・笑わせないで!あなた達は・・・サリアン人が私にしたこと・・・、お前の母親が私にしたこと・・・。許さないのは、私の方だぁぁぁっ!!!」
ゴルの回りにどす黒いオーラが纏う。
「母は異界人に対して冷遇をするような方では無い。例え魔力の低い異界人でも、丁重に扱っていた。」
「・・・ふふふ、それは神に誓って言ってるの?それとも、サリアンの法に乗っ取って?」
全く表情を変えず無表情のままゴルは笑っている。
「当然、どちらもだ。」
デルは強く返答する。
「・・・うふふ・・・あはははははっ!!」
笑っているがゴルの表情は変わらない。真剣な眼差しで口角も上がらないままの表情で笑い声だけが響く。
「何がおかしい!」
「ねぇ、私のこれ、見たことある?」
ゴルは上着を少しだけ上げ、腹部の中央を見せる。そこには円の中に丸や三角等の様々な形の記号がかかれている。
「・・・何だそれは?」
「へぇ、王族の人間なのに知らないんだ?」
何を見せられたのかデルはわかっていない。
そこからやや離れた位置で冷や汗が全く止まっていない老兵がいる。
「・・・は?何で・・・あの刻印が、残ってるんだね・・・?」
「アルフさん、知ってるんですか?」
「・・・知らない方が、無理だって話だね。あれは・・・サリアンの闇・・・『奴隷』の証だね。」
「・・・(そういうのは、どこの国も・・・同じなのか)。」
アルフは話を続ける。
「そこそこ昔、それこそ異界人差別が問題として浮き彫りになる前の話ね・・・異界人が森から定期的に流れてくるようになって、当時の連中は魔法の使えない異界人を奴隷として扱ったね。その奴隷の中でも用途が違ってね・・・。まぁ、その・・・。」
「男性には労働を強いる、女性は捌け口となる、ですか。」
「・・・何で・・・知ってるのかね?」
「こういう事は、どこの世界でも同じですよ(・・・つまり、あの子は・・・)。」
庄野の頭にひとつの疑問が浮かぶ。
(それにしても・・・そんな事があったのは昔の事だって話だ。あの子に刻印が刻まれたのはいつの事だ・・・?)
「・・・それがどうした。その刻印だけでは何も判断できないぞ。」
「・・・ぐすっ。」
突然、ゴルの目から涙が流れ始めた。
「ここに来て同情を誘うか・・・舐めるのも大概にしろ!」
デルが剣を構え、喉に突き刺そうとしたその刹那、カランカランと石が落ちる音がする。
(何の音だ?デルとゴルの方から聞こえる。・・・魔石?どこからそんなも・・・の・・・。・・・。)
庄野は下を向いて思考を止めた。
カランカランと音をたてて落ちる魔石はゴルの目から流れ落ちている。その石は様々な色を含んでおり、ショーケースに飾られていればそれはとても綺麗な石である。
「・・・何だ・・・魔石?・・・何で・・・お前の、涙か?」
「ふふふふふ・・・あははははははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!
これが私の能力なのぉ!
涙が魔石になって流れるの!
お前達は私の能力を利用しようと、高い魔力を持っていた私を他国に流さないようにと、『奴隷』の刻印を私に押したんだよ!そして、幼いままの方がよく泣くからって、不老の呪いをかけられた!私は未だに10才の身体なの!
・・・10才だよ。私がここに来てからもう40年は経つのに、姿は10才のままなんだよ?そのせいで、いっぱい酷い目にあったよ?
・・・10才の女の子の身体から魔石を採取出来るからって、王族の人間に「奴隷として生きる事になるが、それはこの国未来のためになる、この国の希望だ」って・・・
お前の母親が言ったんだよ?
私に不老の魔法をかけながら
見たことの無い笑顔だったよ
神様はいないって分かったよ
法なんて最初から無かったよ
でも悪魔は、この世にいたよ
サリアン人、お前達全員だよ
この世界の大人は皆悪魔だよ
ねぇ・・・何でいきなり私の体を不老にしといて、あんな熱い鉄板を私に押し付けながら『この国の希望だ』なんて言葉が出てくるの?
ねぇ、何で私はここで生きてるの?
ねぇ、何で泣き疲れて涙が出なくて魔石が上手く生成出来なかったら酷い目にあわせるの?
何で?
何で私が泣かないからって鞭で叩くの?
何で?
何で私を泣かせようとして私の足を焼くの?
何で?
何で髪の毛を引きちぎれる位まで強く引っ張るの?
何で?
何で水のなかに顔を押し浸けられるの?
何で?
何で嫌だって言ったのに私を性の捌け口にするの?
何で?
何で私のお腹に宿った新しい命を簡単に殺したの?
何で?
何で私にここまでの仕打ちをした女の娘が私の目の前で私を殺そうとしてるの?
ねぇ、聞いていい?
ねぇ、
私を殺せるの?
ねぇ、
神様に誓って私を殺すの?
ねぇ、
法に乗っ取って私を殺すの?
ねぇ、
私はこの国の何なの?」
「ち・・・違う!母は・・・私達がそんな事をするわけ無い!!」
「ふふふフフ。じゃあ、貴女の首飾りについている魔石を見せてよ?持ってるんでしょ?母親から貰ったでしょ?私が作った魔石の中でも一番綺麗な形をした朱色の魔石だよ?」
「ッ!!・・・これは・・・お前が・・・?」
「そうだよ。お前達が私の子を殺した時に作った魔石だよ。私の宝物にしてたのに、あいつは『これは預かっておく』って持っていったんだよ?
ねぇ、返してよ。」
「違う・・・違う!これは・・・そんな事、私達は・・・。」
ゴルの質問にデルの精神は徐々に蝕まれていく。
「うっ・・・うぅ・・・ひっく。」
「サクラ姫・・・。」
庄野とアルフの後ろでサクラは泣いていた。
「・・・あの子を、救う方法は・・・無いの?今からでも・・・正しい道を・・・歩んで・・・欲し・・・。」
「・・・すまんねぇ。ワシにはどうすることも出来ないね。」
(・・・救い、か。)




