第39話 異 変 ~ようこそありきたりなRPGの世界へ~
(ソーラに逃げ込んで助けを要求するのも手だったが、災害を受けた直後の国へ逃げ込んでも被害が拡大するのは目に見えている。ここは無理をしてでもサリアンへ逃げるのが得策だ。)
「おいおい、まさかサリアンまで逃げる気か?普通の人間なら2日はかかるんだぞ?・・・まぁいいさ。ヘルハウンドぉ!やつを追いかけて噛み千切れぇ!」
2つ首の犬が何十匹と雪崩れるように庄野を猛スピードで追いかける。
が、その距離はじわじわとはなれている。
「ヘルハウンドォ!何をやっている!相手はただの人間だぞ!何で追い付けない!!」
(・・・カエデ女王からは赤魔石の腕輪を装備するなら最大4つまで、それ以上は体が持たないと言われた。両腕にコピーした腕輪を2つずつ装備しているが・・・普通に走る以上のスピード、というか・・・予想以上に早い!早すぎて皮膚がヒリヒリする。だが今は追われている、速度を落とすわけにはいかない!)
しばらく走ると魔物は追ってこなくなった。先程まで犬の駆ける足音と獣の乱れた呼吸音しか聞こえなかったが立ち止まると草原の草が風でなびく音、川のせせらぎが聞こえるほどである。
(撒いたか?・・・魔法ってのは本当に凄いな。こんな簡単に能力が上がるものなのか。・・・過去に素手で何も装備しないでガラ王と殴りあった自分に見せてやりたいものだ。しかし・・・副作用みたいなものは無いのだろうか?詳しいことはアルフさんに聞いてみるか。・・・さて、考えるのは終わりだ。)
思考をやめ、再び走り出す。徒歩で約2日かかる道のりを約半日走り続けた。道中には見たことない生物がうじゃうじゃとしており、それを横目に西の都に向かう。
(まるでゲームの世界だ。スライム状の生物、土塊の人形、首のない騎士、危険そうな生物がその辺に何匹もいる。・・・あいつ、ホントにこの世界を滅茶苦茶にするんじゃないだろうな?)
魔物から逃げ回り、気が付けば日が登り、昼過ぎには西の都に到着していた。
西の都に入ると汗だくでぐったりとして座っているアルフと目が合う。隣にはサクラもいる。
「ただい・・・まぁ!。」
「てつや様ぁぁぁあ!うぅぅ~~・・・。」
庄野が二人に話しかけるやいなや、サクラは泣きながら飛びつく。
「えっと・・・。只今戻りました。遅くなってすいません。」
「ぐすっ。・・・遅いよぉ・・・てつや様・・・ うぅ・・・よかったぁ・・・。」
庄野はサクラの頭を撫でる。サクラは泣きながらもその表情は嬉しそうに微笑んでいた。
「ん゛ん゛ん・・・お帰り。」
「あ、えっと・・・。アルフさん、只今戻りました。 」
アルフの咳払いを合図に二人は離れる。
「・・・まぁいいけどね。庄野さん、帰り道は大変だったんじゃないかね?」
「何とか。でも・・・。」
庄野は二人に昨夜の事を説明した。
「ふぅむ・・・もしかしたら、色んな場所で召喚の魔方陣を展開してるのかもしれないね。こっちは昨日の朝に魔物が出始めてね、悪いことに対魔法に特化した魔物が多くてサリアンは苦戦してるね。」
「そうですか・・・。(あえてそういう魔物だけを召喚しているのか?)」
汗を拭きながらアルフはスッと立ち上がる。
「とりあえず、まだ西の都の外にも魔物がいるから、倒すのを手伝って欲しいね。・・・あそこ、遠くに白い岩の人形が動いてるよね?あれは魔法が効かないからワシじゃ倒せないから頼むね。動きは遅いから大丈夫だと思うけどパワーは相当なものだから危険だと思ったら距離を取るんだね。ワシらは回りの他を倒してるね。」
「はい。」
複製した9mm拳銃を片手に1体ずつ撃破していく。白い岩の人形は見た目こそ頑丈であったが9mm弾一発で粉砕できるほど脆い相手であった。
(対魔法能力が高い反面、物理への耐性はほぼゼロ。体のどこに命中しても一撃で崩れるのはそういうことなのか?)
岩の人形を全て倒した庄野の目の前に水色の軟体生物が1つ近づいてくる。
(これは、スライムって呼ばれるやつか?帰ってくる道中最も見かけた個体だ。多分、雑魚だろう。)
拳銃を構え、スライムに向かって弾を撃つ。
弾は直撃したが、スライムに変化はない。よく見ると、弾の回転を受け流すかのようにスライムの体の一部が高速回転して弾を受け止めている。
(・・・。)
2発、3発と弾を撃つ。
スライムに変化はない。
「ふぅー、年はとりたくないねぇ。庄野さん、こっちは終わったし、そっちも白い岩の人形は終わったみたいだね。あとはスライムだけだから大丈夫だよね?」
「・・・。」
庄野は返答を返さなかった。
(銃弾が効かないのか?いや、物理にとてつもなく強い可能性がある。こういう時はやり方を変えよう。)
ナイフを構え、スライムに斬撃を与える。切った部分に切れ目は入ったが数秒もせずに接合される。
(これは違う。)
マチェットで叩き切る。真っ二つになり、しばらくすると同じサイズのスライムが2体になる 。
(悪手だ、これじゃない。)
半長靴で蹴り飛ばす。空き缶のように転がっていき近くの木にぶつかるが何も変化はない。
(・・・次だ。)
殴る。グミを殴ったような感触で弾力が返ってくるだけで変化はない。
(・・・。)
「えっと・・・庄野さんは、何をしてるんだね?」
必死にスライムを倒そうとする庄野が心配になりアルフが声をかける。
「ハァ・・・ハァ・・・。スライムを、倒せません。」
虚勢を張ってもしょうがない事をこの男はよく知っている。出来ないことは素直に「出来ない」と言う大切さを庄野はよく知っている。
「あー・・・スライムはワシとサクラ姫でやるから。サクラ姫の方を見てて欲しいね。」
「・・・わかりました。」
サクラは普通に魔法を使ってスライムを退治している。回復魔法に特化したような印象を受けるがサリアンの人間であり当然のように魔法は使える。
「全部倒しました!」
「終わったね、帰ろうかね。」
「・・・。」
モンスター退治を終えて3人は屋敷に戻った。
その夜、庄野は眠れずに外のベンチでたそがれていた。
(・・・後で聞いた話だが、俺が倒した白い岩の人形は『マジックゴーレム』と呼ばれる稀少種らしく、滅多に出てくるものじゃないらしい。害はなく、野良のマジックゴーレムは人を滅多に襲わない。だからこそ対応出来る人間が少なくて苦戦を強いられたそうだ。そして・・・スライムに苦戦する人間は・・・この世界に・・・滅多にいないそうだ・・・。)
庄野は自分の弱さを嘆いていた。
(コピードールに魔法を使えるようになってもらえれば簡単に倒せる。それはどうでもいい。俺は・・・俺のやってきたことが・・・自衛隊の能力がスライム以下って・・・)
庄野は落胆した。ただただ自分がやってきたこと、自衛隊の能力が通用しなかったことが悲しかった。
星を眺め自分自身がやらなければならないことを改めて考える。
(・・・へこんでる場合じゃない。俺のやらなくちゃいけないことは杉村を止める事だ。その為に必要なものを・・・。)




