第36話 任 務2 ~出来ることが出来ることが大事~
「いいか!いつも出来てることが出来なくなるときがある。いつもと違う状態のときだ。それは・・・コンディションが悪い、怪我をしてて体の部位が動かせない、何故か調子が悪い。それをある程度抑制するものの1つがルーティンと呼ばれる。だが!それを凌駕するものがある・・・それは、基本基礎の確立!常に基本通り、常に基礎を大切にしていれば、試合中でも練習通りに競技が出来る。訓練でも、実践でも同じだ!だからこそ・・・。」
(基本基礎の大切さ・・・こういう時に生きるものだ。)
リーに案内された何もない場所には既に何百人が傷付き倒れており、うめき声と叫び声で埋め尽くされている。
「ここで医療班が治療をしてる。・・・頼む。助けてやってくれ。」
「分かりました。」
「おい!医療長!使えるやつを連れてきた!指示してやってくれ。俺は救助隊の方を見てくる。」
「リー隊長!ありがとうございます!」
庄野は辺りを見渡す。医療長と呼ばれるか細い男性、必死に魔法で治療を行っている女性と羽の生えた手の平サイズの女の子。それ以外は皆怪我人である。
「・・・あの、医療班はふた・・・3人だけなんですか?」
「はい・・・。こんな大規模の災害、自己修復魔法を誰も使えない状態を想定してないんです。私は痛みの軽減、彼女は体内の血を増幅し失血阻止の魔法、この子(妖精を指差しながら)は怪我した部分の修復をしてます。あなたは何が出来ますか?」
「えっと・・・。」
医療長の返答に戸惑い何も返せなくなる。
(・・・質問の意味が分からない。個人の役割が麻酔と輸血と外傷の治療のみ・・・?)
「あの、どういう順番で治療をしてるんですか?」
「順番・・・?ええと、出血が酷い人間からやってるんです、僕達はそれしか出来ないから・・・とにかく、お願いします。」
「・・・わかりました。」
(なるほど・・・。応急処置もせずとりあえず出血が多く危険な人間から適当に治療をしている、と。基本がなってない・・・。自己修復魔法に依存してるが故、これだけの規模の怪我人が発生する想定もない、医療知識もない。
3人で1人ずつ、このペースでやっても助かる人間はほとんどいない、だからこその増援。カエデ女王は良くわかってらっしゃる。)
庄野はスッと立ち上がり怪我人を見て回る。
見て回るだけで治療を始める様子は無い。
(出血が酷い人間からやってるだけあってパッと見て怪我の度合いが酷そうな人はいない。だが・・・危険な状態をかなり見過ごしている。)
医療班の3人からはヒソヒソと話が聞こえる。
「・・・医療長、大丈夫なんですか?あの人。絶対に魔法使えないですよ、おまけに異界人。これだけの怪我人見て回るだけで帰るんじゃないんですか?」
輸血を続けながら女性は文句を言う。
「あたしも同感です。異界人ほど信用ならない生物はこの世界に居ません。」
側にいた妖精も同調する。
「うーん、僕はそうは思わないな。」
「は?」
「本気ですか?」
医療長の発言に二人はイラついた様子を見せる。
「多分だけど・・・彼は今、重症患者と軽症患者を見定めてるんだ。限られた時間で、少しでも助けられる人数を増やせるように。僕の前任者は異界人で魔法は使えなかったけど、人を助けるための知識とか、割り切らなくちゃいけない覚悟とかは凄かったよ。色々教えてもらったけど全然わからなかったけどね。」
「・・・。」
「覚悟ですか。では見せてもらいましょう。さ、治療を続けますよ。」
「ひとまる、あの人の腹部へ治癒。塞げたら俺のもとに帰ってこい。」
「キュッ!」
「きゅうまる、もう少し上を治癒だ・・・よし、終わり。次だ。」
「キュッ!!」
「・・・呼吸が戻ったか。よし、まだ魔力はあるな、ななよん。」
「キュッ!」
(俺自身が出来ることは応急処置。意識の確認、呼吸の確認、簡易的な止血、そして重軽症患者の判定だけ。全般はコピードール達に任せる。雑に場所を指定しても、その傷の度合いが激しいものであっても治せる『治癒』が希少な魔法なわけだ。そんな魔法ですら簡単に複製して使えるこいつらもある意味希少なんだろうけど・・・。何より死にそうな大怪我でも小さな怪我でも治療が出来るのは心が痛まない。)
庄野は淡々と応急処置を続けていく。コピードール達も庄野の指示に従い怪我の度合いが酷い患者を優先的に治癒していく。
しかしここは異世界。
何が来てもおかしくない。
災害発生後に近隣を他国の戦闘機が様子を見に来るように、弱っている時こそそこをつけ狙う者がいる。
突然コピードールが庄野の元へ駆け寄ってキュピキュピとわめき始めた。
「どうした?・・・何かあったんだな。ななよん、9mm拳銃を複製。」
「キュッ!」
コピーした銃を確認して目を瞑り音に注意を向ける。
(・・・足音。かなり大きい。2足歩行。1人。・・・やれるか? いや、やるしかない。患者を置いて逃げるわけにはいかない!)
「きゅうまる、ひとまるは治癒を継続。一回分の複製を使える魔力だけは残しておけ。」
「キュッ!」「キュッ!!」
コピードールに指示を促すと遠くの方から叫び声が響き渡る。
「わぁぁぁぁ!さ、サイクロプスだ!助けてくれぇ!!」
声の方から一つ目の巨人がその姿を表す。ギョロっとしたその目は怪我人達が横たわっている庄野達の方に向けらのそのそと歩み近づいてくる。
「医療長、あいつは?」
庄野は平然と質問する。
「知らないのか?!サイクロプスだ!ガラ族に匹敵する怪力を持つ魔物で・・・に、人間を補食する危険な魔物だ!正面から戦って勝てるはずがない!下がって応援を呼ぶのが懸命だ。・・・しょうがない。」
医療長は下を向く。
一緒に治療をしていた女性と妖精は逃げることに賛同をしている。
「分かりました、応援をお願いします。俺は可能な限りこいつを止めます。」
「君は・・・わかった。命は1つだ、患者も大切だが君も大切だ。危なくなったら逃げるんだよ?」
医療長は言葉を残し去った。
「お前が勝てるわけ無いだろ、異界人。」
「同感です。」
残りの二人も捨て台詞と共に去った。
(・・・逃げたか。さてと・・・。目測だが、身長は約3メートル、太腿まででも俺の身長位ある。手には何も持っていないが車が持てそうな位の大きさ。顔は一つ目にデカイ口。今の距離は約100M。動き自体は遅い。銃が効くかどうかは・・・やってみてのお楽しみってな。)
外観からの分析を終わらせ、拳銃を構える。
(片手で構えるからその分精度は下がるが・・・これだけデカイ図体なら関係ないな・・・あと50。)
サイクロプスはニタニタと笑いながら庄野の方向へ向かってくる。徐々に歩みに変わっている。
(・・・40。)
「ガァァァァァ!!!」
突然サイクロプスが叫びだし庄野へ全速力で突進してくる。その速度は先程とは非にならない。
バァン バァン
空気の弾ける音が2つ。
(・・・ゼロ。効果アリ。)
両足を撃ち抜かれたサイクロプスは転んでうつ伏せに倒れる。倒れた目の前には足を撃ち抜いた男が立っている。
「ア・・・ガア・・・ガァァァァァ!!」
「ここには怪我人がいる静かにしてくれ。」
7回の破裂音が響く。
残った弾は全てサイクロプスの頭を貫き、魔物の体はそのまま動かなくなった。
(・・・。)
「戻るぞ、治癒を続ける。」
「キュッ!」
サイクロプスが来たことが無かったことのように再び治療に専念する。何百人と傷付いた人々は庄野とコピードールの治癒で全員が一命をとりとめた。
「・・・ふぅ、終わったな。休憩しよう。ななよんは一番頑張ってたから、今日はゆっくり休もうな。」
「キュッ!」「キュッ!!」「キュウ・・・。」
しばらくして、医療班の3人と兵隊が数人走ってきた。
「はぁ、はぁ・・・あれ?サイクロプスは・・・?」
医療長が庄野の元へ駆け寄ってくる。
「大丈夫でしたか?サイクロプスが来て大変だったでしょう?」
「いえ、何とかなりましたので。」
「何とかなった?私達が呼んだ応援より早くリー様が来ただけでしょ。能無し異界人がカッコつけさ。異界人は邪魔だから帰って。」
「同感です。私達が助けを呼ぶより早くあなたを助け、颯爽と去っていく。流石我らの英雄、リー様!それに比べてあなたは・・・サイクロプスに挑んで助けられて、恥ずかしくないんですか!全く・・・。場を混乱させる方は必要ないです。帰ってもらえますか?!」
女性と妖精からの冷たい言葉を受け庄野は荷物をまとめ始めた。
「・・・わかりました。俺の方もこれ以上は手伝えそうにないので戻ります(さて・・・)。」
庄野はコピードール達とその場を離れる。
「さて、医療長。あとは我々で治療を続けましょう。・・・あれ?治療が終わってる。何で?・・・え・・・?」
「え・・・まさか・・・。」
「英雄様が来て治療もしてくれたみたいですので、詳しいことは英雄様に聞いてください。あとカエデ女王とリーに『庄野は邪魔なので帰らせた』って言えば良いですから。」
それから数十分後、3回目のソーラへの入国を行った。顔がボコボコになった医療班の女性と妖精とリーと共に。




