第35話 任 務 ~異世界災害派遣~
2011年 3月11日
決して忘れてはならない。
沢山の自衛官が出動し、防護服を纏いながら放射能に曝されながらも沢山の人を助け、沢山の遺体を運んだあの惨劇を誰も思い出したくはない、しかし、決して忘れてはならない。
浜辺には大量の水を飲んでパンパンに膨れ上がった人だったものが何十と流れ着いておりまさに地獄絵図だった事
寝ていると思い、起こして連れていこうとしたお婆ちゃんの口から泥水がダラダラと出てきた事
頭が無く自分の娘や息子と同じくらいの子供と思われる身丈、格好の体だけを見つけた事
家族で楽しそうにしている写真を見つけた事
遺体捜索のあまりの数に隊員が狂った事
命令が無ければ一件隣の人を支援出来ず、苦情と罵声を受けた事
決してテレビや動画、SNS、現役の自衛官からは語られない、実際に起こった事。
悲しいことにこれらはどこにでも、誰にでも降りかかる可能性がある、というものである。
災害はどこにでも起こりうる。
異世界においてもそれは同じ。
違いがあるとすれば…魔法が存在する、ということである。
西の都で救助活動が一区切りし、庄野の頭のなかに過去の映像が流れる。
(・・・あれを思い出してしまうが・・・ここは異世界だ。各人が自己防衛出来る能力、魔法を持っている。故に・・・。)
西の都での死傷者は0人。皆が協力して何とか逃げ延びていた。氾濫した川の水はアルフの壁で押し出し、避難した人への手当を庄野とサクラが行った。
「・・・ふぅ。都の水は無くなったね。サリアンの方も被害は少ないみたいだね。」
「避難した方々は高台の館へ。食料、水も十分。まずは一安心、ですかね。」
アルフとサクラは安堵の表情を浮かべ広間で休んでいる。庄野は異世界の地図を眺めて険しい表情をしている。
「・・・庄野さん、何か気になることがあるのかね?」
「サリアンが位置している場所は、水害を受けにくい場所にあるんです。だから、どちらかというと被害が少なかったんだと思います。」
「これだけの被害なのに、少ないんですか?」
「ええ。場所が悪ければ・・・例えば海に隣接している面が大きいソーラ。嵐で海が荒れたとすると・・・。」
そんな話をしていると1通の知らせが来る。内容はとてつもなくシンプルなものであった。
『サクラちゃんへ
ソーラが水浸しです。力を貸してください、助けてください。(P.S おにーさんは必ず来るように)』
「ソーラが・・・水浸しに?」
「カエデお嬢ちゃんからだね。」
「推測ですが、水浸しだけではないです。津波の被害もかなりあると思います(名指しで俺だけは来いと・・・)。」
「ほぉ、色々知ってるんだね。」
「・・・ええ、よく知ってます。」
庄野の顔は険しさと怒りに近い感情で複雑な表情をしている。
「あの・・・てつや様。行っちゃうんですか?」
「・・・すいません。行かなくちゃいけないんです。助けて欲しいと言われたので。」
「そしたら、西の都はワシとサクラ姫に任せるね。サクラ姫や、今生の別れになる訳じゃないね。寂しいだろうけど、ワシと一緒に待とうね。ね?」
「う・・・ぐすっ。・・・てつや様。ちゃんと・・・帰ってきてください。出来れば、早く・・・待ってますから。」
「ワシも待ってるからね。」
二人に送られ庄野はソーラへ向かった。水害の直後であり馬車も使えないので徒歩でコピードールと約二日間歩いた。
ソーラの近辺に着き、庄野は驚愕した。
(・・・。町が・・・ほとんど無くなってる。住民の避難は・・・?生活していた人達は?生活の基盤は確立できているのか?水、食料は?・・・大丈夫なのか?)
疑問と不安を抱きながら門をくぐると罵声と怒号が響き渡っていた。
「俺達の家は!生活はどうなる!何とかしろ!」
「今何とかする方法を他国に要請している最中だ!人が足りなさすぎる・・・くそっ。せめて、サリアンの姫がいれば・・・。」
(大変そうだな・・・。サリアンの姫・・・シダレ様の事か?予知ってのはそんなに重要視されているのか?まあいい、とりあえず・・・カエデ女王に取り次いでもらおう。)
目的であるカエデと話をすべく暴動を抑えている付近にいる暇そうな兵隊に話しかける。
「すいません、カエデ女王に取り次いでもらえませんか?」
「あぁ?・・・何用ですか?」
「手紙を頂きました。来てほしいと。」
「はぁ?こんな時に・・・手紙を出すわけないだろ!馬鹿も休み休み言ってくれ!・・・お前、異界人か。チッ。あーあ、別の世界から来たやつにはこの状況を理解できないようだなぁ?!」
「・・・。もしカエデ女王かリーという人物が近くにいたら庄野という男が来たが帰ったと言ってください。(この世界の門番といい兵隊といい・・・こんなやつばっかりなのか?)」
「はいはい、どうぞ、お帰りくださいませ。・・・ん?リー?・・・。」
(ふぅ・・・。こういう事態が起きた時は、錯誤と混乱を伴う。全員が同じ情報を共有できるまで時間がかかる。・・・1度態勢を立て直してお互いが話を出来るようにしてからの方がいいかもしれない。この間にも苦しんでる人達がいる、流暢に構えてるこんな時間なんて無い・・・色々と手伝いたいのは山々だが・・・現場の人間に断られたんだ。・・・帰るか。)
手紙をわざわざ送ってきたソーラには悪いと思いながらも門をくぐりサリアンに向かって歩き始める。
(こういうことはよくある、調整は難しい。現場と上部で話が噛み合わないことは当たり前みたいなもんだ。特に災害派遣の時は・・・上層部が言ってることと現場の意見は真逆なんて事だって・・・。)
過去の思い出に浸りながら帰ろうとしたその直後に先程の兵隊が全力疾走で庄野の元へ向かってくる。その顔は数分前とは非にならないほどボコボコになっていた。
「あ・・・あの、待ってください。・・・庄野・・・様、でふよね。」
「先程述べたはずですが。」
「す・・・す、すみまふぇんでした。こちらの手違いで・・・来て頂いたのに・・・こちらへ・・・来ていただけまふか?」
「帰れと言ったのに今度は入れと?」
平然な態度をとっているが庄野の口調は明らかにキレている。
「誰かに言われたからと、間違いに気付いたからと、考えを変えるのは良い。しかし・・・態度を露骨に変えている理由は何だ?」
「あの・・・知らなかったので・・・。」
「知らなければ横柄な態度をとって良いと?お前は俺が異界人だから横柄な態度をとったんだろ?そんな国がやることは一つ、異界人以外を優先に助けるようにするんだろ。そんな差別意識をこんな状態ですら持つ国に、ソーラには手を貸せない。以上。」
「そ、そんな!・・・お願いしまふ!どうか!」
全力で謝罪を繰り返す兵隊を無視していると彼らに向かって一人の男が物凄いスピードで走ってくる。
「おっせぇよ!タコが!」怒号
声と同時に兵の腹部へ拳が刺さる。
「ぐふぅ!。すびば・・せ・。」
そのままうずくまって動かなくなる。
「ったくよぉ。すまねぇ、庄野。カエデの嬢ちゃんの手紙見てくれて来たんだろ?助かるぜ、お前ん所も被害受けてるのに。わりぃんだが手を貸してくれ。怪我人が多いのに回復魔法を使える連中が少なくてよ、お前さんかサクラのお嬢ちゃんに来て欲しかったんだ。あと、カエデの嬢ちゃんが別件でお前さんの力を借りたいんだとよ。」
「お久しぶりです、リー。えっと・・・この人はこれで良いんですか?」
「あぁ、ほっといてくれ。サリアンからの増員が来たら通せ、って話をしてたのにそれを理解してないこいつに対応を任せたこっちのミスだ。後で2度と生意気なこと言えないくらいボコボコにしとくから、今回の件は勘弁してくれや。さ、行こうぜー。」
「・・・(既にボコボコなのに・・・)。」
ボコボコにされた兵は門から数百メートルは離れた場所に放置されたまま、庄野は再びソーラへ入国した。




