第31話 崩 壊 ~覆水盆に帰らず~
「・・・説明してもらうぞ。」
「・・・。」
庄野達は騒動の後、全員で西の都に向かうことになった。サクラはひたすら何かを怖れ泣き続けているためベッドに寝かせて鑑定士により何の状態異常をかけられたかを調べている。庄野は折れた左腕と内臓が破れる程の蹴りを受けたためコピードールの治癒を受けている。その傍らに疑念を捨てられない各国の英雄3人が立っている。
開口一番に庄野に問いかけたのはデルだった。
「答えろ。お前は魔王の仲間なのか?」
「杉村とは仲間だった。だが、魔王になったあいつの仲間じゃない。」
「そう言われて『はいそうですか』と納得できるほど我々は馬鹿じゃないぞ。」
「・・・。」
「ちょっと待てよ。」
たまらずリーが口をはさんだ。
「お前が攻撃を仕掛けたときによ、殺さないように外したんだよな?結果的に何もなかったけどよぉ、お前は民衆にあそこまでした連中にすら情けをかけるのかよ?・・・昔の友人と会えていきなり殺せって言われて出来ないのもわかるけどよぉ、甘すぎじゃねぇの?」
「・・・(返す言葉もないな)。」
「リーも意見は最もだ。そして・・・お前はヌークと戦ったとき、自らの腕を犠牲にしたときも情けをかけたらしいな。自分を犠牲にして戦って、悪人、他人の命はとらない。偽善で得られるものなんてたかが知れてるぞ。」
厳しい口調でデルは叱咤する。
「なぁ、庄野。」
珍しくボラブが話に介入する。いつものような怒号とも言える叫びはなく静かな口調で話を続ける。
「これから先の戦いは殺るか、殺られるか!・・・その2つしかないんだぞ?お前は優しすぎる、最後の最後でお前の優しさで足元をすくわれても誰もお前を助けられない。もし、俺達と共に戦う意思があるなら覚悟を持ってくれ。戦争だ、これは。」
「覚悟はもってもらわないと困るねぇ。」
扉を開けて一人の老人が入ってくる。
「庄野さん、サクラ姫が今どういう状態か・・・説明するより見た方が早いから、サクラ姫の部屋に行くね。3人にはワシから説明するから、まずは座ってお茶でもしながら話をしようかね。」
アルフの指示により庄野はサクラ姫の部屋に赴く。
ドアを開けるよりもずっと前から廊下に響くほどサクラ姫の泣き叫ぶ声が聞こえていた。
(・・・戦う覚悟、か。杉村を殺せるのか・・・。いや、今は姫様だ。)
部屋に入るとベッドの上で泣き叫ぶサクラ姫の傍らで鑑定士と呼ばれる修道服のような服を着た女性があたふたとしていた。
「庄野です。状況を教えて下さい。」
「あぁ、庄野様ですね!えっと・・・その・・・。言いにくいことなのですが、サクラ姫は・・・もう・・・。」
修道服の女性は庄野の顔を見て言いにくそうに下を向いている。
「どういうことですか?」
「・・・順を追って説明します。サクラ姫は『恐怖』という状態異常魔法をかけられています。『恐怖』になった人の症状として、始めに何故自分がここにいるのか、自分の存在意義を認識できなくなります。次に生きて良いのか、ここにいていいのかと、孤独感が拭えなくなります。そして・・・最後に、過去のトラウマや怖かった思い出が当時受けた感覚で永久に続き自分を攻め続けて・・・死に至ります。」
「・・・。」
「この状態になった人間は恐怖から逃亡するように・・・自殺をします。この世界でこの状態から回復した人間はいません。・・・解除の為の魔法も存在しません。眠ることも出来ず、食事もままならない。日々衰弱しながら泣き叫ぶ様を見ていくだけです。・・・ごめんなさい。」
「庄野さん、入るね。」
鑑定士からの説明が終わるとアルフとデル達3人も部屋に入ってきた。
「・・・ワシも悲しいんだけどね。サクラ姫はもう・・・戦いはおろかこんな状態じゃ先も長くないね。庄野さん、サクラ姫は・・・あんたの事を。」
アルフ達はサクラがこのまま亡くなる、だから想い人である庄野には残り少ない時間ではあるが側にいてあげて欲しいと話をしたが庄野の耳には全く入っていなかった。
庄野には別の思惑があった。
(孤独感、眠れない、食欲がなくなる、トラウマを解消できない・・・昔の俺に似ている。)
思いきって庄野は皆に問う。
「うつ病みたいなものですか?」
鑑定士は首をかしげる。
「そんな病気があるんですか?」
アルフはキョトンとする。
「うつ?・・・何だねそれ。」
デル達も反応であった。
「うつ病?聞いたことない。」
「むぅ。しらないな。」
「そんな病気あるのか?」
うつ病は病気である。それなりに知識のある人間からすれば『仮病』も病気であると言う。どちらも同じで目に見えない部分が正常な状態にない、故に何かをするにも活力が足りなかったりやる気が起きなかったりする病気であるが、うつ病の回復には治療薬が必要であり仮病を治すには環境、心境の変化が必要である。
庄野はうつ病について簡単に説明したが、デルだけは納得した様子を見せない。
「・・・という病気です。治すことが出来ると思います。俺がなんとかします。」
「私は反対だ。庄野・・・。お前をまだ信用できない。仮に本当に治す方法があってそれがお前にしか出来ない?それが本当かどうか・・・証明して見せろ!」
デルは抜いた剣の先を庄野に向け敵意を剥き出しにした。
「ちょ、ちょっと、やめるね。」
「止めないでください。アルフさん。」
アルフが止めようと口を挟みかけたがそれを阻んだのは庄野であった。
「・・・ほぅ?証明できるというのか?」
「出来ません、だからもし姫様を助けられなかった時は俺を殺して構いません。」
「今、何と言った?」
「姫様を助けられなかったら俺を殺していい、と言いました。」
「なるほど。流石はサクラ姫の騎士、良い心がけだ。だったら・・・今ここでサクラ姫のために死ぬことも本望だろう?あぁ、その模様の服を見るだけで不愉快だ。お前が魔族にしか見えないな!」
明らかな殺意をもってデルは庄野の首めがけて剣を突き刺そうとする。剣が首の皮膚にふれるか否かという所でアルフがシールドの魔法でガードする。
「・・・どういうつもりですか?かつての英雄が魔族を庇うとは。」
「今、お前さんのやってる事はサリアン王が異界人にしてきた扱いと同じだって分からないのかね?服装が同じだから?そんな理由でこの男を殺すのかね。・・・違う世界から来たものが魔王と同じ服を着てた、そしたら同じ魔族なのかね?・・・良い機会だね。はっきり言うけどね、昔っから魔族ってのはサリアンが造り出したもの、サリアンが追い出した異界人だね。」
(・・・アルフさん、やっぱり。)
「嘘だ!そんな事はない!」
「じゃあ、何で魔王と呼ばれた男は庄野さんと同じ格好をしてるんだね?庄野さんの友人というなら、元々は異界人だって事になるね。」
「それは・・・。」
「・・・ワシの仲間も皆土に帰ったし、言うときかねぇ。これは色んな方面から口止めされてたんだけどね・・・。」
アルフは魔族についての歴史を淡々と説明した。
大昔、異界人は異質な才能や使い魔を持っており存在もしない『魔族』と呼ばれ迫害されていたこと。
かつての魔族討伐の魔王も同じように迫害された異界人だったこと。
それをうけてサリアンの制度がかわり異界人を受け入れ二度と同じことが無いようにしていたこと。
そのルールを今のサリアン王が勝手に変えたこと。
それにより再び異界人への差別が始まってしまったこと。
「ワシもギルドからこの制度をどうにか出来ないかと色々やってきたけどね・・・。魔族を見たことないだろうから、どうせ何を言っても今のお前さん達は信じないよね?だからね、これから先、ワシらとあんたらには線引きをさせてもらうね。ワシらは庄野さんの味方だね。庄野さんを魔族扱いするならワシらは魔族側って事で構わない。」
「何を・・・無茶苦茶を言わないで頂きたい!」
「デル・・・わからないかね?ワシにとって大切なのはサクラ姫だね。そのサクラ姫を助けられる希望は・・・今、庄野さんだけなんだね。それなのにお前さんは庄野さんを殺そうとしたね。だったらワシはサクラ姫のために魔族側として扱われても構わないね。なんならワシも殺すかね?」
「ぐっ・・・!」
「まぁまぁ、お二人さん、落ち着こうぜ。今日はもう遅いし、続きは明日にしようぜ?な?」
「おぉ!怪我人も二人いる・・・今日は休んだ方が良い。」
ボラブとリーの必死な説得によりデルとアルフの口論は止まった。
「空き部屋はあるから今日は泊まると良いね。城下町も混乱してるだろうから宿は無さそうだしね。」
「感謝するぜ。デル、ほら、行くぞ。」
(・・・デルの言い分は最もだ。俺が・・・出ていけば良い話なんだ。サクラ姫の治療は、コピードールに・・・。)




