第27話 傷 ~内側は特に治りにくい~
(・・・恥だ、泣いてしまった。サクラ姫に抱きつかれて、頭撫でられて。・・・ストレス解消が出来ていなかった。体調管理が出来ていないのは自衛官失格だ。そういえばあいつにいつも『何かあったら相談しろ!』って怒られてた事もあったな。)
「おはようございます、てつや様。その、大丈夫ですか?」
「おはようございます、サクラ姫。・・・大丈夫です。」
「・・・ホントに?大丈夫に見えませんけど。」
「あはは・・・。正直に言うと昨日あまり寝られませんでした。」
「左腕に負担をかけないのなら外に出ても良いことにします。気晴らしに散歩をしましょう?」
「ありがとうございます。」
川の流れる音、風の歩く音を聞きながら庄野はサクラと西の都の中を散歩する。
「腕はの調子はどうですか?」
「6割程です。日常生活に差し支える事はないですが、重いものを持ったりはできません。」
(拳銃は片手で構えられる、ナイフも片手で使える。小銃は左手で据銃する際の要になるから使えない。)
「そう・・・ですか。」
「まだそんなに日も経ってないですし、これから少しずつ治ると思います。」
(・・・ホントに治るのか?杞憂、とは言えない。悪化する可能性もある。手術をしたわけじゃないから接合部に菌が入っていれば化膿してまた切断した方が良いって事も考えられる。ちゃんとした医療行為をした訳じゃない、あらゆる危険性が残ってる。)
「そうですね。何かあれば我々がてつや様を守りますから。」
「ありがとうございます。」
(守る立場から守られる立場に・・・。この世界で最弱のレッテルをやっと剥がせたと思ったのにな。)
二人が歩いていると都の外にある平野地で壁が降っているのを見かける。
(アルフさん?何をしているんだ。)
「アルフさん、おはようございます。何をしているんですか?」
「おぉ、庄野さんかね。外に出て良くなったんだね。結構だねぇ。まぁ、その。・・・修行、だね。」
修行と言ったアルフの目の前には庄野が見覚えのある形をした壁がいくつも重なっている。四角形だったり棒状のものを並べては消してを繰り返していた。
(・・・テト・・・リス?)
「昔、わしの魔法は守ることにしか使ってなかったのね。でも、ある男が『お前も攻撃に参加しろ、壁を作って落とせば良いだけだ』なんて言って・・・練習でこういうのがあるって教えてくれたね。」
「なるほど。」
(異界人か。どちらかと言うと最近の人間だろうか。)
「あ、そうだね。庄野さんの修行に手伝うって話だったね。んー、それなら・・・こういうのがあるね。『シールド』って簡単な魔法だね。1回だけ、どんな強い衝撃でも弱い衝撃でも防ぐけど1回で割れてしまう防御壁だね。これ使っておじさんが相手になるね。ほれ、試しに撃ってみるんだね。」
「はい。ひとまる、『複製』だ。」「キュッ。」
アルフの右手から薄っぺらな半透明の盾が出現する。左手は『かかってこい』と言っているかのように手招きをしている。
庄野は弾倉が込められた拳銃ごとコピーさせて右手で構える。
(前回の戦いの反省点、弾倉をコピーすると弾込めの時間がかかる。だから拳銃ごとコピーしたほうが早い。・・・よし、片手でも十分狙える・・・。よし!)
庄野が拳銃を構えた時、不意に声が聞こえたような感覚に襲われた。
『くるな!化け物ぉ!』
「!・・・(な、何だ?)。」
「庄野さん、ほれ、撃つだけだね。どうしたんだね?」
「あ、・・・いえ・・・いきます。」
『頭イカれてるよぉ!』
(幻聴?・・・誰の声だ?・・・ヌークの・・・違う、気にするな。大丈夫だ。魔法で防がれる。異世界なんだぞ?撃ったって問題は・・・。・・・俺は、何を撃とうとした?)
庄野の額から考えられない程の汗が流れてくる。呼吸は乱れ手が震えて銃口が定まらない。
「庄野さん?聞こえてるかね?」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・引き金を、引くだけだ。見出しをしっかりして、片手で撃つときは体を!それから、・・・。」
「てつや様!」
叫び声と共に庄野の右腕にサクラが飛び付いた。
「てつや様?大丈夫じゃないですよね?今日はもう屋敷に戻って休みましょう?・・・歩き疲れたんですよ、ね?」
「・・・そうだね。しばらくぶりの運動だからね。今日はもう休んだ方がいいね。また元気になったらやればいいね。」
「・・・はい。」
(・・・銃口を構えるとヌークを撃ったときの光景が頭をよぎる。そうだ・・・俺は・・・人を撃ったんだ。たとえそれが直接的な原因ではなかったとしてもヌークは亡くなった。でも・・・撃ったから自分がここにいる。でも・・・撃たなければこんな思いはしなくてよかった!)
庄野は拳銃をいつも格納している場所へ入れる。頭の中はヌークを撃った瞬間がGIF画像のように何度も短く再生されている。
(トラウマ・・・しばらく、いや、一生銃を撃てない可能性もある。・・・何が姫様を守る、だよ。銃が無かったら俺はこの世界じゃまともに戦えない雑魚だ。たまたま魔物使いを倒して、たまたまトンボを倒して、たまたま殴り合いで勝てて、たまたま魔法が使える異界人を退けられて。それだけで強くなったと勘違いしてた。)
ふぅー、と長いため息をつく。
(・・・ちょっと夜風に当たろう。サクラ姫に怒られるかもしれないが・・・無理だ。)
ふらふらと外に出て上を見上げる。夜の空には沢山の星が並んでいた。
(星座はちゃんと勉強してないから分からない。夏の大三角しか覚えてない。この世界にも宇宙があるってことなのか?)
現実逃避をして余計な考え事で気を紛らせようとした所に独りの老人が歩み寄ってくる。
「庄野さんかね・・・寝られないかね?」
「少し・・・。考え事をしてました。」
アルフはヨタヨタと歩み寄り屋敷前のベンチに座り庄野に隣に座るよう促す。
「よっと。悩みならワシが聞こうかね?・・・人の命を殺めて何も思わない人間はいないからね。」
「・・・俺は、人を守るためなら何でもするよう訓練をしてました。危害を加えようとする相手が例え友人でも容赦をしないように。でも・・・頭から叫び声が離れない!また、人を、傷つけるかもって思うと・・・怖くて、引き金を引けないんです。」
「庄野さん、まだ若いからね。気にするな、なんて言っても気にするよね。ワシも昔は全然だったからねぇ。」
「そうなんですか?」
「ちょっと昔話をしようかね?」




