第25.5話 門番 ~彼の名はタリー~
一言に、俺という人間はサリアンで優秀な魔法騎士だった。10代の頃、闘技場で行われた試合に優勝、『神童』と呼ばれる程であった。
それから約30年後、
現サリアン王が法令を変えるまでは。
「全ての階級は魔法力の高いものを優先させる。以上。」
『異常』の間違いではないかと皆が思った。かつて野良犬のような生活をしていた、ただ魔法力が高いだけの人間は貴族となり、俺は戦闘力は国で一番とまで言われていたのに魔法力だけを見られれば標準値であったため、王宮騎士から一般兵へと降格となった。
ギルドマスターや魔族討伐の生き残り、数々の名誉と栄光を残した国の英雄たちは1日にして国の象徴から平民となった。
(何で俺が・・・門番なんだよ!もっと訓練とかして強くなりたいのに・・・。)
門の前でブツブツと文句を言いながら仕事をしていると騎士団長が近づいてきた。
「デル様、どうしましたか?」
「『様』をつけるな・・・今はただの騎士団長だ。」
「・・・しかし!」
「タリー、気持ちは分かる。だがな、今更法令がひっくり返ってまたお姫様に戻れると言われても私は断る。それに、私は剣をもって外を走ってる方がいい。」
「それで良いんですか?俺は!」
「・・・今は、現サリアン王に従うんだ。どうも今回の強行な政策には少し・・・違和感がある。」
「・・・なにか裏が?」
「あぁ、まだ分からないがな・・・いずれは、この国を我々で取り戻す。その為にお前には門番として仕事をしてもらわないと。優秀な人材はサリアン王を通さず私の所へ直接会わせろ。大切なのは、使い魔の数だ。戦闘型は使い魔が大きすぎて小回りがきかない。小物を何匹もつれているやつが良い。頼むぞ。」
それからは門番として異界人をデルに案内する日々が続いた。だが、なかなか使い魔を多くもっているものはおらず、サリアン王に合わせてとぼとぼ西の都へと歩いている姿ばかりを見る日々が続いた。
あのムカつく男、庄野哲也が来るまでは。
(何だぁ?この汚い男は。大ハズレだな。)
俺はあの野郎をさっさと追い返そうとサリアン王の元へ送り城から追い出そうとした。
3匹のコピードールと戯れる姿を見るまでは。
「おいっ!お前・・・。」
止めようとしたがあいつに説教を受けた。ムカつく事に言ってることに間違いがなかった。
(・・・くそっ!・・・あいつの言うとおりだ。ミスったのは俺の責任だ。国のために忠を尽くす、か。俺に出来ること・・・デル様のために出来ることを!)
逃がした魚は大物であった。庄野はサクラ姫の婚約がかけられた試合に乱入しドラゴン使いを仕留めたのだ。
「俺があの時止めていれば・・・。」
「過ぎたことを気にするな。むしろ逃がしてくれて好都合だ。今回の戦いを見ることが出来たんだ。あいつは・・・強い。それに、広い視野と高い忠誠心を持っている。協力を要請して我が騎士団の一員に加えられないものだろうか・・・。」
デルの考え通りに上手くいくことなんて無いだろう、と思った矢先、オニトンボ退治に参加をして見事討伐をしていた。
「デル様。お疲れでした。」
「・・・私は特に何もしていないに等しい。あいつが簡単にオニトンボを倒した。・・・つくづく異界人というのは恐ろしい人種だ。あいつが敵じゃなくて良かった。」
(何だよ、庄野、庄野って・・・俺だって魔物の一匹や二匹、やれるってのに。)
そして運命の日が来た。
俺の目の前に袋一杯の金貨を置いてきた、フードを被った男に会うあの日が。
「・・・なんだ?この金は。」
「今から、私のやることを見なかったことにしてください。」
「・・・目的は?」
「王の、失脚ですよ。デル様も、あなたもそれを望んでいる。ならば、見なかったことにするべきだ。」
(なんだ、この男・・・デル様の事情を知っているなら、敵ではないのか?)
この時、俺は気付くべきだった
金を俺に払っていた時点で『悪人』の類いであることを。
金を貰って黙っていて欲しいと言う時点で悪いことをしようとしていることは明確だった。
昔からそうだ、悪いことをすれば必ずバレる。
よりによって庄野哲也によって。
『答えろ。』
「くっ・・・!」
(ホントに!態度悪いんだよ、こいつ!滅茶苦茶だ!ガラ王と殴り合いはする、ソーラの女王と情報交換のために体を許す!・・・何のために・・・こいつは・・・。)
俺は庄野哲也の生き方が羨ましかった。サリアンの制度によって知らないうちに追い出されて嫌な思いをしながら生きているのに前向きでその行動には強い信念を感じた。
「・・・デル様、質問があります。」
「ん?何だ、改まって。」
「庄野哲也は、何のためにあんな無茶を?」
「守りたいもののため、サクラ姫のためだと言っていた。『世界は違えどやることは何も変わらない、大切なものを守るために立っている』ってな。我々もその考え方は見習うべきだ。待遇が変わって文句を言っても何も変わらない。立場が変わってもやることは同じだ。そうだろう?・・・あの男は前の世界でも似たような境遇にいたのかもしれない。」
(・・・強い男だ。そうだ、俺もこの国のために戦っていたんだ!王がくそ野郎に変わってもデル様は俺が守らなければならない人だ。彼女のために、国のために戦うのが俺の騎士道だ!腐ってダラけてた時間を・・・俺は!!)
「・・・デル様?どうしたんですか、改まってこんな所まで。」
「・・・いや、胸騒ぎがしてな。やな予感がする。明日、お前に危機がくるような・・・。」
「気にしすぎです。『神童』と呼ばれた俺が魔物相手ならまだしも、魔法使い相手に遅れはとりません。」
「・・・。もし、もしかしたら・・・お前に不幸があるかもしれない。だから・・・約束を守ってくれ。死ぬな。」
(デル様の嫌な予感はだいたい当たるが・・・ま、何とかなるだろ?)
門の前でトンボを放とうとする男を見つけた。先日俺に金を払って好き放題やっている男だ。
(・・・俺は!デル様のために戦っているんだ!金のためじゃねぇ!)
「止まれぇ!何を、やってるんだ!」
「・・・お金を渡しましたよね?黙っておけと。」
(くそ野郎が!・・・金もらって黙ってた俺も大概だが。)
正体はヤエ様の騎士、ヌークだった。
「何で・・・ヤエ姫様の・・・騎士様が!」
(・・・庄野、こいつ、気付いていた?何で・・・。そこまでしてこの国のために戦うんだ?魔法も使えないこいつが?なんでそこまでして・・・。)
俺は覚悟を決めた。
(こいつなら、この男を倒してくれる。俺達が望む未来を築くかもしれない。この国の新しい道を見つけてくれるかもしれない!頼むぞ・・・!)
「サリアンへの侮辱は!俺が!サリアン門兵、タリーが許さない!うぉぉぉ!!」
「地獄まで燃え続けろ。『呪いの炎』。」
「なんだ!そんな炎は効かない!おりゃあ!」
「・・・『触った』な。さよなら。」
「うわぁ!何だ、これ!消えない!消えない!助けて、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!」
(くそっ!門番ずっとやってきて対人戦がここまで鈍ってたか・・・。相手の魔法の特性も把握せずに素手で払うなんて、焼きが回ったな。
・・・ここで・・・終わりなのかよ。
もう、何も出来ない・・・、約束も・・・破っちまった。
あぁ・・・体が燃えちまう。
体が、無くなっていく・・・俺が、無くなる・・・。
でも、最後に、『国に忠を尽くす』事は出来た。・・・守りましたよ、庄野哲也を・・・。
この国の・・・希望を・・・・・・
デルさ・・・ま。)
(・・・タリー。今まで私の騎士として守ってくれてありがとう。門番は退屈で疲れただろう?お前と一緒に戦えた事を誇りに思うよ。ゆっくり休んでくれ。お前が守ってくれたものはこの国を変えるだろう。素晴らしい働きだ。この国の未来は・・・高い空の上から見ててくれ、私とあの男がこの国を元通りにするその様を。そして・・・。)
『タリー』と名が彫られた墓石に花を置き、涙をそっと拭う。
悲しみを背負い冷たき鎧を纏った女性は西の都へ向け歩み始めた。




