第20話 熾 烈 ~女と女の戦い~
今年もよろしくお願いします。
「サクラちゃんは知らないと思うけど、庄野様と私は大人の関係なのよ?ね?おにーさん?」
カエデはペロリと唇を艶めかしく舐め、視線を庄野に向ける。
「なっ、何を言ってるんですか……ねぇ、てつや様?そんな事、無いです……よね?」
「……」
(……サクラ姫にめっちゃ睨まれてる。カエデ女王とキスした事について『あれは事故だ』と弁明しても、墓穴を掘るだけだ。姫様には悪いが、黙秘を貫かせてもらおう。)
サクラの質問に庄野は必死に下を向き、何もなかったかのように振る舞う。反対に、カエデの言葉は雨のようにサクラに降り注ぐ。
「ま、それはそれとして。ソーラだって事件の解決を渋ってるわけじゃないの。今回の魔石事件を早急に解決したいと望んでるのは同じよ?でも、各国が適当に情報を集めても意味が無いと思うの。私達がこの事件を解決するのにやらなくちゃならないのは、犯人探しと犯人を捕らえる事の二つ。そして、その二つを実行するのに何が必要なのかを考えなくちゃいけないの。ここまではわかる?」
「……はい」
(なるほど、自衛隊の任務分析がよく出来ている。まだ幼いのに、末恐ろしいな……。)
「じゃあ、続けるわね。まずは犯人探しだけど……各国が情報を共有して逃げ場を無くすようにして探しているのに、未だに見つかってない。多分、犯人側の仕業で共有された情報に間違ってるものが混ざってると思うの」
「犯人側って、つまり……」
「ええ、この事件には協力者がいると確信してるわ。だってそうでしょ? オニトンボみたいな強力な魔物も操って、凶悪な魔石も作れる人物が一人とは考えにくいじゃない」
「確かに……そうですね」
(それは俺も同意だ。主犯者とそれをサポートして情報を錯乱させる協力者が最低でも一人はいる。それはほぼ間違いない。)
「話を戻すと、まずはその協力者を探しましょうってことよ。でも、魔法で闇雲に探しても逆に魔力を探知されて、余計に見つからない。だから、魔力無しで密偵のようにコソコソと情報を集めて欲しいの。そういうのに適した人……ここにいるでしょ?」
「……え?」
「あら、もしかして、庄野様の事をご存知ないの? 情報収集は十八番なんでしょ? ねぇ、自衛隊さん?」
「あの……てつや様、その……」
「俺の拠点や地域への潜入及び偵察能力は、比較的高い方だと思います」
(正直に答えたが、自衛隊の事まで知ってたか。……となると、俺を欲する目的は……。)
「ねぇ、わかった? この事件を解決するには庄野様が必要なのよ。あなたの個人的な考えで世界を混沌に落とすの?」
「そんな……ことは……」
(それは違う。俺一人で何かが変わる話じゃない。この問題はもっと深い部分に根がある。……これは、サリアンの異界人に対する差別と受け入れ態勢による弊害だ。
強い使い魔や能力を持つ者だけを選別し、サリアンの戦力を上げるだけのシステムが長年続いてるせいで、そこそこ戦える異界人はどこかへ行ってしまった。故に、対魔法能力の高い魔物を倒したり、魔法を使わない捜索が出来なくなっているのが、今回の問題点だ。)
「ねぇ、一生彼に会えなくなる訳じゃないのよ?この国に国籍を置くだけ。それで良いの。別に西の都に住んでて問題はないのよ?」
「……」
「サクラちゃん? 黙っていたらわからないよ?」
「……嫌です。それでも、てつや様は渡せません!」
「あなたのエゴで、世界が終わるわよ?」
「終わらせません。そのためにここにいます、私も戦う決意をしました」
「……あはっ。あははははっ! あなたが? 戦う決意? ウフフ……思いっきり笑っちゃったじゃない。いつもビクビクして、何かあったらすぐ泣いて、大怪我をした人を直視できなくて、まともに治癒も使えないあなたに、何ができるっていうのよ!」
「それはもう克服したね。サクラ姫は、とても強くなったね」
「……おじ様、あなたに聞いていないわ。ねぇ、強がりも大概にしてよ。じゃあ、あなたがボロボロの人間を見ても治癒魔法が使える事、証明してよ!」
「わかりました。俺が証明します」
庄野は上着を脱ぎ、未だに治りすらしてない、触れれば出血寸前の傷だらけの身体を顕にした。
「ちょっと、何を……え? 何、この傷……。どうしたらこんなに……?」
「先日、訳があってガラ王と戦いまして、その時の傷です。サクラ姫の治癒のお陰で痛みは無いですが、骨はまだ折れてますし、傷はこの通りです」
庄野は巻かれていた包帯を少しずつ剥がしていく。何度もガラ王に殴られ、投げ飛ばされ、地面を何度も転がった際に受けた肉の抉れと皮膚の爛れ跡が、その悲惨さを物語っている。
「あの、筋肉バカと戦ったの? 何で?」
「サクラ姫を侮辱したからです」
「……本当にそれだけの理由で?」
「はい」
「……はぁ。庄野様、あなたのこと、誤解してたわ。目的のためなら最適で確実な方法をとる、私と同じような思考の持ち主と思ったんだけどなぁ」
「俺は人ですよ、カエデ女王。……それと、回りくどい話し合いはやめませんか?あなたが俺を欲しがる理由、もしかして武器についてじゃ」
「ストップ……そこまでお見通しなら、良いかな。サクラちゃん、少しだけ彼を貸してほしいんだけど。あと、情報はあげる、用が終わったら彼もすぐに返す。良いかしら?」
「は、はい!」
庄野はカエデと共に別の部屋に案内される。そこには壁に幾つもの武器が飾られており、庄野のよく知るものもあった。
「はぁ……『おにーさん』は凄いわね。あなたに隠し事は通用しないだろうとは思ったけど、まさか武器が目的っていうのまでばれてたなんて……」
「いえ、今知りました。あなたが俺を欲しがる理由はそれ以外にあるとすれば、単純に俺が欲しいか、武器が欲しいか。公算が高い方を言っただけです」
「……狐みたいな人。ハァー、やっぱりサクラちゃんに返したくないなぁ。ね、1つ私と約束してよ。今後、武器についての相談は受けてほしい。良いでしょ?」
「構いませんが……量産は手伝いません」
「それは、おにーさんのポリシー? それとも、他に理由があるの?」
「どっちもです」
「ふーん……ま、いいや。
ねぇねぇ、あそこに飾っている武器を使えるようにしたいの。昔これを使ってた異界人がいたんだけど……自殺しちゃったの。国に帰りたいって、家族が待ってるって……ねぇ、何か知ってる?」
「64式小銃ですね。……うん、状態はかなり良い、まだ使えそうですよ」
64式小銃。自衛隊ではまだ使っている部隊も健在する現役の銃。口径は7.62mm、肩に直撃すれば腕が千切れて絶命するほどの威力である。
「どうかしら」
(うーむ。外観に異常は見られない。銃口も中の溝も問題ない。とりあえず、引き金室部以外バラしてみるか。)
「中の状態を見ます」
庄野は64式小銃を二分も経たないうちに分解をし、それぞれの部品を細かく点検していく。
「部品に異常はなさそうですね。結合します」
「そんな風にバラバラになるのね。この前、ここにいた異界人は『バラバラに出来たら結婚してくれ!』って意気込んでたけど『キョウハンがないと分からない!』って叫んでたけど……何だったのかしらね?」
(……元自、予備自か即応予備自のどれかだな。さて……異常がなかった事はわかった。試射してみるか。)
「カエデ女王、弾は?」
「あなたが持ってるものじゃダメなの?」
「えっと……俺が持ってるものは違うんですよ……」
「なにそれ! 見た目一緒じゃないの?!」
怒るカエデに対し、庄野は『口径の違い』について、懇切丁寧に説明し、何とか理解をしてもらった。
「……と言うことです」
「はぁ……そういう事ね。ま、最初からそう上手く行くと思っていなかったし、見てくれてありがとね、おにーさん☆」
「力になれなくてすいません」
「バラバラにする方法が分かれば何か解析できるかも知れないし、十分よ。それに……くすっ、もう貰ってるから」
「それは……5.56mmの空の薬莢ですか。トンボを退治したときに一発無いと思ったら……リーに持って帰らせたんですか? ……まあ、好きにしていいですけど……でも、それを量産をして命の奪い合いをするようなことは起こさないでください。これを使うのは国を守るためだけに留めて」
「ねぇ……おにーさん。こっち向いて?」
ーーー油断。庄野はカエデ女王に二度目の唇を奪われた。
「あ……」
「おにーさんがソーラに来てほしいって思ったのはホントだよ?……ソーラは対魔法に特化してる。守ることしか出来ない国なの。だから『弱い』って言われ続けてた。だから強くなりたかった。だから強い武器が必要だったの。魔法が使えなくても、協力な武器を持つおにーさんが一緒にいてくれたら、ソーラを建て直せるって本気で思った。だから、サクラちゃんに酷いこと言って……泣かせて……もういいよって……言わせようとして……ホントは、サクラちゃんとは友達なのに……それで……」
(……強い女性だ。国の存続の為に、友情をすてる強い精神力。もし、この国に最初に来ていれば、カエデ女王と歩む道もあったのかもしれないな。)
「でも、サクラちゃんは強くなってた。おにーさんと会えたから、だと思う。サクラちゃん、泣き虫だから……側に、いて……げてね?」
「精進します」
庄野はカエデの頭を撫で、ゆっくりと抱きしめた。
(……こんな、年端もいかない少女が国のために戦っているのに、別の国ではふんぞり返って物を寄越せと言うだけ。……腐ってやがる。この世界を、変えなければ……。)
カエデは庄野の胸の中で涙を流し、小さな声で泣き叫んだ。




