第17話 調 査 ~情報の価値を理解するって簡単そうでめちゃくちゃ大変~
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「『アンテナを高くしろ』と指導されることがあるだろ?別に携帯のアンテナを伸ばしたり、外にあるアンテナを高い所に動かすんじゃない。周りが何の会話をしてるのか聞き耳を立てたり、他の部や科でどんな話が話題になってるのか、そういった些細な所から情報を集めろって事だ。
そんな事をしてどうすんだって思うだろ?じゃあ、情報ってのはどこから貰えると思う?……インターネット、図書館、友人、親、先輩、上司、先生、情報はどこからでも、誰からでも取れる。そこを絞らなければ、どれだけ集めても有益な情報は集まらない。情報戦はな、情報を集める相手を決める所から始まってるんだ。さぁ、アンテナを高くするんだ!
……え?携帯にアンテナは付いてない?そうか、君達はガラケーを知らないのか……アッハッハ!ありがとう、良い情報を得たよ!」
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(『情報を得るために一番必要なものは何か』と聞くと、その情報の真偽や、有益かどうかといった『情報の価値』について答えることが多い。それは間違いではないが、最も重要な事は『どこから情報を得るか』ということだ。
それを理解せずに情報を集めようとすれば、インターネットに書いてあった事や動画で喋っていた事を鵜呑みにし、情報に操作されてしまう。それだけ情報っていうのは恐ろしいものだ。()
「あの……てつや様、良いんですか?」
「何がですか?」
サリアン城に向かう道中、サクラは庄野に話しかけた。
「てつや様はこの世界に来てから、西の都に住んでる人の手助けもしてくれますし、命を落としかねない危険な事もしてくれました。まるで、そうするのが当然のように。前の世界でもそうだったんですか?」
「そんな大したことじゃ無いですよ。俺は……この世界じゃ魔法だって未だに使えない、役立たずのショボい人間だと思ってます。そんな人間に、この世界で何ができるのか分かりません。
でも、目の前で困ってたり助けを求めてる人がいて、その人の為に何か出来るのなら、俺のできる限りの全力で手を差し伸ばしたい。指し伸ばせる手があって、伸ばせば届く距離にあるのに、何もしない。そんなのは嫌だ、そう思ってるだけです」
「なるほど……騎士として素晴らしい心構えだと思います!サリアン兵や他の異界人にも見習って欲しいです。特に、前に来た異界人は『俺がこんなショボい魔法しか覚えられないわけがない!もっと凄い人間なんだ!』って言い残して、どこかに行っちゃいましたから」
「ハハハ……(アニメの見過ぎだな。)」
「ホッ、素晴らしいねぇ。ますますサリアン王には感謝しないとね」
「そうね。立派な騎士を頂いたこと、感謝しましょう」
サクラの隣を歩くアルフ。その表情は言葉とは正反対に厳しい表情をしている。
(素晴らしい心構え、立派な騎士……ね。そうやって考えれば良いけど、ワシには度が過ぎた自己犠牲精神としか思えないね。姫様に、辛い思いをさせなければいいけどね……)
三人はサリアン城に入り、長い廊下を進む。その道中で、アルフから二人の姉妹について説明を受ける。
「まずはヤエ様だね。『魔眼の魔女』って言われてて、この世界全域を上から見る事ができる『第3の目』を持ってる人だね」
部屋の前に到着すると、サクラは庄野に話しかける。
「……てつや様。その……部屋に入ったら、ヤエお姉様の言うとおりにしてください。そして、質問された時以外は何も話さないように……お願いします」
「わかりました」
不安そうな表情のまま、サクラはドアをノックをした。
「……ヤエお姉様。サクラです。入ります。」
「サクラ?入りなさい」
部屋に入ると、妖艶な女性が大きな椅子に足を組んで座っていた。
(容姿はサクラ姫に似てないな。……こう言うことは言うべきじゃないんだろうが、何となく性格の悪さが滲み出ている。蛇のように長くうねった髪、まさに魔女だな。)
「それがあなたのペットね。オニトンボと戯れるのが趣味なの?」
「っ!……そう、ですね」
(ペット……俺の事か。サリアンの偉い立場の人間はこんな連中ばかりなのか?)
「魔石事件を解決したいんです。力を貸してください。」
「可愛い妹の頼み事とあらば、手伝ってあげるわ。あと……ポチだっけ?頭が高いわ。お座り」
(……しょうがないな。)
庄野は何も言わず、言うとおりに土下座をした。
「へぇ、一言目で言うことを聞いたのは初めてね。躾が出来てるじゃないの。良いわ、使ってあげる。……『第3の目』」
ヤエの髪がザワザワと波打ち、目の色が徐々に赤紫色に変化していく。
「……地上に変わった施設は無いわね。鉱山の中、土の中、海底は私の力じゃ見えないから分からない。その辺りは自分達で探しなさい」
「ありがとうございます。ヤエお姉様」
一通り終わると、ドアのノックと共に眼鏡をかけた執事のような格好をした男性が入ってきた。
「失礼します。ヤエ様。予定の時間です。……サクラ様、ペットを部屋に入れるのは辞めていただきたい。部屋が汚れます」
「ヌーク、あたしが許したの」
「そうでしたか。失礼しました。ネズミのようなドブの匂いがしたので」
「……以後、気を付けます。お姉様、ヌークさん。お気をつけて」
三人は部屋を出る。サクラの不安そうな表情は一気に悲しみに変わり、ほろりと一滴の涙を流す。
「てつや様ぁ……すいませんでした……あんな目に合わされるとは思ってなくて……」
「姫様は謝る必要ありません。俺は気にしてませんから」
「全く、あの女の異界人嫌いは相変わらずだねぇ」
再び長い廊下を歩き、もう一人の姉、シダレについてアルフから説明を受けた。
「シダレ様は……何というか、独特な方だね。会えばわかるね。『未来予知』をしてくれるね。あと、終わったらすぐに部屋を出てね。怒ると怖いからね」
サクラはシダレの部屋の扉にノックをする。ヤエの部屋に入る時とは打って変わって、緊張した様子は見えない。
「シダレお姉様、入ります。……お久しぶりです」
「おいで」
「はい」
「サクラ、あなたじゃない。老兵、あなたじゃない。異界人、来なさい」
(部屋は薄暗い、何枚ものローブを被ってて、顔も体も全く見えない。一言に、不気味だな。)
庄野はゆっくりとシダレの前へ歩いていった。
「庄野です」
「……解決は早いわ。協力を求めなさい。……決意が必要、守るためには失うことになる。……左、その時は使い魔を頼りなさい。何度も……可哀想に、でもそっちはかなり先。3人の英雄とは……良い仲なのね、今は。その先は……覚悟する事ね。……恐怖に打ち勝つスキル、それは他人にも作用させられる。寄り添いなさい。この世界の真相……闇を太陽の下に晒す……光と闇……生と死……戦ってばかり……大きな決断……そう、まぁ良いわ。……守る為に力を欲して……そ、貴方の選択なら何も言わないわ。……フフフ、私も巻き込まれるのね」
「……はい?」
「『嘘』『偽り』を見破りなさい。話は終わり、帰りなさい」
「いや、でも意味が……」
「シダレお姉様、入ります!すいません、すぐ出ます!」
「ほら、庄野さん、帰るね」
庄野は二人に腕を捕まれ、強引に部屋の外へと引っ張られる。部屋を出る前に、ペコリと頭を下げた。
「ありがとうございました」
扉が閉まる瞬間、扉の奥から「サクラを頼むわ」という声が微かに聞こえ、庄野は心の中で「はい」と答えた。
「これからどうしましょう?」
「手がかりは少ないけど、やっていくしかないね」
(予言……多分、この世界と俺の事なんだろう。どうやら、かなり苦難の道が待ってるみたいだな。)
次に庄野達はギルドに行き、近年の巨大な魔物が出現した場所について調べるが、特に有意義な情報は得られなかった。
情報収集を始めて一週間が経った。サリアン領土内の魔物が出現した近くの山を捜索したが何もなかった。ガラ、ソーラの近くまで足を運んで捜索をしてみても何も見つからなかった。ボラブは鉱山洞窟の奥深くまで、リーは海底をくまなく探しているが、実験を行っているような施設は無いと、サリアンのギルドに報告が届いていた。
「ふり出し、だね」
「そうですて。でも、シダレお姉様の話だとすぐ見つかるって話で……。てつや様?何をしているの?」
「魔物が出現した場所と地図をもう一回照らし合わせているんです。ちょっと気になってまして」
「何か引っ掛かるのかね?」
「ええ。出現場所が何というか……ちょっと気になって」
「山の中、海底、森林地帯。問題あるのかね?」
「問題という程かどうか……よし……やっぱり、そうか」
「何か分かったのかね?」
「いえ、まだ断片的なものでして」
「些細なことでも、このアルフおじさんに相談してみなさい。」
「魔物の種類と出現場所が変なんです。『オニトンボ』は海から来てますし、この『ねじり貝』は山から来てます」
「オニトンボは山の魔物、ねじり貝は海の魔物だから逆だね。ギルドの誤りだね」
「俺がオニトンボを討伐した時は海岸方向から来ました。ギルドの報告が間違ってるとは思えません」
「ん?じゃあ何が間違ってるんだね?」
「そこが引っかかってて……」
(そもそもの認識が間違ってるのかもしれない。ヤエ様の『第3の目』によって、地上に魔石実験の施設が無いと断定したから、見えない場所を重点的に調べている。……『嘘』と『偽り』……もしかしたら、情報を入手する相手を間違えた可能性がある)
ふとシダレが、発した言葉を庄野は思い返す。
(そういえば、『協力を求めろ』って言われたな。……他の所からアプローチしてみるか)
「どうしたのかね?」
「今日は帰って休みましょう。明日、また説明します」
庄野達は、西の都の屋敷へと戻った。




