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尚、士気については旺盛であります!  作者: 固太 陽
第一章
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第16話 飲 酒 ~酒は飲んでも呑まれるな~

ーーー

「あーっはっはぁ!庄野ぉ!お前、下戸だったのに今は飲めるようになったんだな!

 あ……?嗜む程度しか飲めねぇだぁ!?何言ってんだ、飲める量はどうでも良いんだよぉ!酒の席に来ることが重要なんじゃねぇか!

 こういう酒の場はな、『接待する場』とか『酒を沢山飲む場』って勘違いしてる奴が多いけど、そうじゃねぇ。

 ……酒の場はな、集いの場という名の『情報収集の場』だ。考えてもみろ?数人集めて、ちょっと酒飲んで飯食ってる間のたった数時間で色んな情報を集められる。酒は思考を鈍らせ、言っちゃいけない情報すらも引き出す。大半はゴシップとか、誰かに対する愚痴とか、役に立たねぇ情報ばっかりだけどよ。でもな、聞き方とかを上手くやれば、会社の企業に必要なノウハウとか、仕事をする上でのテクニックっていう役立つものを簡単に収集する事ができる。何なら、上司に言いにくい事を酒の席で相談して、仕事の話を進める事だって出来る時がある。ま、これは稀だけどな。

 世の中、使える物は何でも使える奴が強ぇのよ。恵まれてない環境に文句言ったり、やってる事がショボいって勝手に呆れてやる気無くして、優遇が良いって勘違いして別の場所で燻るような連中には一生分からねぇだろうけどな。ほれ、庄野。俺の唐揚げでも食って元気出しな!あーはっはっはっはぁ!」

 庄野哲也という男は、酒が嫌いだった。酒を飲む理由がない、そんなことをする暇があったら、筋トレをしてプロテインを飲んだ方が有意義と思っていた。

 しかし、彼の同期が言う『情報収集の場』として足を運ぶ事で、徐々に人との繋がりと情報を得る事の大切さを学んでいった。


 だが忘れてはならない。いくら酒を飲もうが、アルコールに強くなることはない。アルコールに強くなったと誤認しているだけで、肝臓の機能が低下しているだけなのだということを。


ーーー


「庄野。お前……顔が赤いぞ。無理強いはしないからな」

「……まだ大丈夫れすよ、赤くなりやすいだけれすから」

「かぁーーー!酒を飲み!この世界の今後について語る!王達には出来ない所業だなッ!」

「庶民的とも言うけどな。ま、俺達にはお似合いじゃねぇか?」


 庄野は酒に強くない為、ジョッキ1杯で顔が赤色に変化し、2杯目で呂律が怪しくなっている。庄野以外の3人はその何倍もの量を飲んでいるが変化はない。


「……ふぅ。いきなりで悪いんだが、本題に入っても良いか?」

 

 突然、デルが口を開く。他の三人もケラケラとしていた表情から一変し、真剣な顔つきに変わる。


「庄野、ボラブ、リー。今回の魔石事件は到底許されるものではなく、即急に解決する必要がある。犯人を突き止め、魔石の実験を阻止するには、各国の協力が不可欠だ」

「おぉ!任せろぉ!……と、言いたい所だがなぁ。王達は国家間で抱えてる問題を盾に協力は得られそうに無い。かと言って、俺達だけでやるには人手不足だぞぉ?」

「おっ?ボラブの割には良いこと言うじゃねぇか、俺も同意だぜ。こちとら、事件解決のためにちゃちゃっと動きたいのは山々だけどよ?俺等で勝手にやってもカエデお嬢は喜ばねぇだろうし、非効率だ。どうにかして三国が協力してやれる方法を探さねぇとな」


 三人の話を聞いて、庄野の酔いが徐々に覚めていく。

(皆、考えがしっかりしている。ただの戦闘要員って訳じゃなさそうだ。俺も酔ってる場合じゃない。真剣に考えないとな……)


「あぁ、リーの言うとおり、三国で対応した方がいい。だがサリアンの王は……あの糞だ。どれだけ頼んでも領土や貿易については期待出来ないな」

「ガラ王も同じだ。あんなに怒り狂っては、直談判してもダメだろう」

「カエデお嬢は曲者だけど懐は深ぇからな、言えば理解はしてくれるけど納得はしてくれねぇよ」


(何も無しには協力が出来ない。となると……どの国も欲しがるような報酬があれば良い。そんな都合の良いものがあれば、だが……)


 何となく、庄野は質問をしてみた。


「例えばなんですけど、協力を貰うために対価として何か与えるなら、どんなのがあります?」

「ん?そうだな……一つは領土だな。場所によっては資源を得られるから巨万の富となる」

「武器や使い魔、魔石ってのもあるぞぉ!国宝級の物を渡す事だってあるからなぁ!」

「何の金にもならねぇ勲章とかな。あとは……今は少ねぇけど、人ってもあるぜ?強いスキルを持ってる達人を王国の師範として雇ったり、絶世の美女を貰ったりとかな」


「なるほど。でも、王達の話し合いを聞く限り領土は無理そうですね。武器、人の方が可能性はありますが……あー……」


(いや……でもなぁ、自分で言うことじゃ無いもんなぁ……。)


 何かを言いづらそうにしている庄野に、注目が集まる。


「何だ?言ってみろ」

「おぉ!もしや!妙案を思い付いたんだなぁ!」

「おっ?じゃあ飲まないわけにはいかねぇな!おい、姉ちゃん!酒持ってきてくれ!」

「いや……その……何も思いついてない訳じゃないんですが……あんまり良い案じゃないというか……」


 三人に言い寄られ、しどろもどろになっている庄野の元に、フラフラとした足取りでアルフが近付いてきた。アルフも顔は真っ赤であり、完全に()()()()()()()()


「おやぁ?庄野さんじゃないかね、ん?会議に呼ばれとったけど、もう終わったのかね?終わって早速一杯とは……いやー、若いって、良いねぇ。

 こちらの皆さんは?……ほほぉ、各国の英雄と酒を交わす仲とは。すみに置けないねぇ」

「アルフさん、今日はどうしたんですか?」


「マスターと飲んでたね。彼とは長い付き合いでね、城下町に用事がある時はたまーーに来てるんだね。じゃ、ワシは先に帰ってるから。帰り道で寝ないようにね」

「そんな事しませんよ……」


 他愛も無いアルフと庄野の会話に、ボラブとリーが食いつく。


「おいぃぃ!庄野ぉ!!この老人、『アルフ』と言ったかぁ?!あの、魔族討伐に参加したッ!生き残りではないかぁ!」

「マジかよ……。『城壁人間アルフ』、その魔法強度は城壁にも匹敵するっていう伝説の老兵……サリアンの何処かで隠居してるって噂は聞いたことあったけど、ホントに実在したのかよ……」


「アルフさん、有名人なんですね」

「まぁ……ね。あ、庄野さん。明日また色んな所から使いが来るらしいね。オニトンボを倒した事で庄野さんの名が広まったみたいだね。『今度はサインを貰って、我が国一の英雄として迎えさせて頂きますよ!』って気張ってたね。

 国籍についてはよく考えて、姫様とよく話し合って決めるんだね。それじゃあねー」


 アルフは庄野の肩をポンポンと叩くと酒場から出ていった。


(ふぅ。帰ったらまた大変だな。断る言い訳を考えないと……。)


 庄野はやや落胆しながら視線をテーブルに戻す。『大変そうだな』と憐れみの目を向けるデルとボラブとは対象に、リーだけはニヤニヤと笑っていた。嫌な予感を感じつつも、庄野はリーに話しかけた。


「あの、リーさん。何かあったんですか?」

「……庄野、お前……面白ぇ奴だなぁと思ってたけど、だいぶイカれてんな?」


「……何がですか?」

「しらばっくれんなよ。なーにが『良い案じゃない』だ。お前、『魔石事件の解決に貢献した国は庄野哲也を獲得出来る』って提案しようとしたんじゃねぇのか?」


 リーの言葉に、酒場にいる全員の会話が止まった。


(……最悪だ。アルフさんに見つからなければこんな事には……いや、酒の席に参加した時点でもう……決まっていた事か。)


 庄野は全てを諦め、リーの提案に対して「そうです」と一言だけ返した。


「だろうな。そうすりゃお偉いさんは動かずとも、各国の地方を管轄する連中はお前を欲してるんだから、ほぼ間違いなく協力する。けどまぁ……自分を対価にするなんて到底思いつかねぇよ」

「おぉぉぉ!!今回の魔石事件を解決に貢献した国は!庄野哲也を獲得出来る!!採用だぁ!」

「なるほど……この方法なら無理に各国同士が協力せずとも人員を集める事ができる。なかなかの妙案だ」


(あぁ、絶対に手を貸すだろうな。逆の立場でもそう思う。……俺は酒の縁に恵まれているようだ。)


 後日、ギルドや各国の掲示板には『魔石事件解決に協力し、犯人を捕らえた国には報酬として庄野哲也を有する権利を与える』という文面が記載された。日本でそんなものを景品にした仕事をすればお縄にちょうだいどころの騒ぎではないが、ここは異世界。闘技場でサクラが景品になったように、人権というものは何も無いのだ。

 

 とは言え、庄野はサクラの騎士である。にも関わらず、何の許可も無しに勝手に話しを進め、何の断りもなく文面を出した事に流石のサクラも頬を膨らませて怒っていた。


「てつや様……聞いてますかッ!一言も相談しないで勝手なことをして、何かあったらどうするんですか?!」

「……はい」


(ちょっと提案しただけで、こんなに話が早く進むとは思ってなかった。くそ……誰だ、張り紙作ったやつ。見つけ出したらぶっ飛ばしてやる。)


「巨大トンボ討伐もです!勝手に無茶なことをして!……怪我で、済まなかったら……どうするんですか?」

「……すいません」


「……てつや様は……どれだけ、私が……心配じでるのが……分かっ……すか?」

「……」


(胸が苦しい。何も言い返せない。また、泣かせてしまった。何をやってるんだ、俺は。)


「……今回の件は、本当に許しません。怒りました。()()()()()()()。」

「え゛。いや、でも……」


「行きます。異論は認めません」

「あ……わかりました」


「そしたらワシもいこうかね」

「アルフさん。良いんですか?」


「敵は魔法使い。しかも人を魔石にする狂人ね。それに……庄野さん、この事件の犯人、どこの国の人と思うね?」

「異界人の仕業かと」


「だろうね。最悪、知り合いと戦う事になるね。もしトドメをさせなかったら、ワシがやるね」

「大丈夫です。道を外した人間に容赦できるほど、俺は優しくないので」


「では、出発しましょう。まずは、お姉様達から話を聞きましょうか」

「そうだね。ヤエ様とシダレ様はそういう動向に詳しいからね」


(お姉様達、サリアン王の長女と次女か。……俺も噂でしか聞いたことはないが、凄い魔法を使えるらしい。……俺自身で解決してやるんだ!必ず!)


 庄野達は屋敷を出発し、サリアン城を目指した。

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