第15話 会 議 ~第1回異世界議論~
巨大トンボ討伐から3日、サリアン国内では混乱が起きていた。というのも、各国の上層部とギルドの一部の人間しか知らないはずであった『魔石にされた子供』の情報が漏れてしまったからである。これにより、各国では『子供がサリアンに集められ、人体実験をされている』と噂が流れ、人が人を疑うようになっていた。
(サリアン側からすれば、強力な魔石を多く持ってないガラとソーラが人体実験を行って国力を強化しようとしているように見える。逆に、ガラとソーラからすれば、異界人が最初に集まる国となるサリアンが異界人の選別と称して魔石の実験台にしているように見える。
これから各国の代表同士で会議を行うらしいが……話し合いで解決する訳がない。だからと言って、俺ができることは何もないわけなんだが……。)
腕を組み、立ったまま下を俯いて庄野は悩む。サリアンに各国の王が集まる会議に参加することになり、庄野は魔石が発見されたオニトンボ討伐の当事者であるため、詳細を語って欲しいと呼ばれ、控えの間で待機をしていた。
(……各国のお偉いさんと対面か。面倒だな、ああいう連中は息を吐くように嘘をつく。話にならない連中と話をしなければならないとは……はぁ……。)
悪態をつき、魂まで吐き出そうな程の長いため息の直後、コンコンというドアのノックと同時にサリアン兵が控えの間に入ってきた。
「庄野様、こちらへ」
「わかりました」
別の部屋へと行くと、日本には無いだろうと思われる大きな長方形のテーブルがある部屋へと案内された。部屋の中には、先日一緒にオニトンボを討伐したデル、ボラブ、リーの三人がいた。
「あ、先日はどうも」
作法が分からない庄野は、部屋に入って三人に軽く会釈をする。デルは庄野に近付き、腕を組みながらムスッとした表情で庄野を睨みつける。
「庄野……お前はオニトンボを倒した後に頭部の中を確認していたな。あの時、既に魔石を発見していて、今回の混乱を招かないようあえて黙っていた、という所か。せめて私達に相談しても良かったんじゃないのか?」
「確証が無かったですし、言っていいものかどうか分からなかったので、すいません」
「……まぁいい。後で話がある。終わったら残れ」
デルが話し終えると、今度はボラブが庄野に駆け寄る。
「倒したときに!気付くとは!かぁーーー!さすが、さすがだ!」
「いえ、気付いたというか、何というか……ハハハ……」
ボラブは庄野の背中をバシバシと叩きながら大きな声で叫ぶ。その様子を遠くから呆れるようにリーが見ている。
「たまたま見つけただけ……って感じじゃなさそうだもんな。かつて魔族討伐に参加した異界の英雄もさぞ頭の回る方だったとか……おっと、始まるな」
会話を遮るように各国の王が部屋に入り椅子に座っていく。その中に見知った顔の女の子がいた。
(あ……俺にコピードールの事を教えてくれた女の子だ。偉い人だったのか。)
全員が席に座ると、サリアン王が咳払いをして、話しを始めた。
「では、これより……会議を始める。まずは、サリアンギルドからの報告から。デル、報告を」
「はい。ギルドからの報告ですが、『人の子をそのまま魔石にしたものが魔物の頭の中から発見された』との事です」
「うむ。それだけでも十分な問題だが、物理耐性の高い人間を魔法耐性の高い魔石にしたものであった。意図は恐らく、本来重複出来ない魔法を魔石としてなら効果が出るか確かめるため。ここまでは承知しているか?」
(サリアン王が述べた事は俺と考えと同じだな。魔物に魔石を使用して重複不可能な二つの魔法を魔石としてならどうなるか、実験を行ったんだろう。)
「待テ。その意図にツいテは聞いテいない。推測、憶測はやめろ。ここデ話し合うのは『事実の共有』ト『方針の決定』ダろう。」
(発言したのはガラ王だ。ボラブより体格は小さいが、全身を覆う岩の身体の隙間から鋼のような物が見える。遺伝で皮膚の純度が違うのだろうか。)
「うむ。それはすまない。意図については我が国で話になっている推測だ。ここまでで食い違いはあるか?」
「ガラ国も同じよう話を聞いテいる。」
「ソーラの女王よ、そちらは?」
「事実の共有、という意味では全然ですね。この際だから聞いたらどうですか?『どこの国の仕業だ?』って」
「なっ!!!」
「おい、カエデ姫。場を乱スナ。ソンナ事を聞イテモ結論GA出ナイノハ分カルダROUUU……」
「アハッ、冗談よ。本気にしないでくださいな、ガラ王……人語が乱れてるわよ?」
「ムゥ……。感情的になるトいかんな」
(ソーラのカエデ姫。俺にコピードールを教えてくれた子……わざと場を乱したな。人体実験の関係者がこの中にいる可能性があるって思ってるんだろう。少しでも顔や態度に出れば、そこで釣ってやろうって魂胆なんだろうが……。)
「……オホン。気を取り直して、今後の方針について話そう。魔物の出現位置から考えて、人体実験が我々三国のどこかで行われているのは間違いない。それを突き止め早急にこれを阻止しなければならない。その為には我々の不仲な状態を一旦解消して今後に取り組みたいと思う。」
「はっきり言わせテ貰う。不仲なのは元々貴様らサリアンが魔族討伐の戦い以降、我らの土地を奪ッタからダ。サリアンの裏の山は我々の資源トなっテいタ山。過去に魔族が攻めテきテ防衛線をそこに作る為にサリアンの人間が入ることを許しタ。ダが、土地をやるとは言ッテいない。先ずはそッチからダ」
「ソーラも同じよ。かつての魔族討伐のためにサリアンからの資源輸入量が減らされましたのはわかるけど、それが終わってから何年経ちましたっけ?今日に至っても量が戻っていませんわ。そちらは要求するばかり、我々の要求には何も答えない。話になりませんね」
ガラとソーラに追求されると、しどろもどろになりながらサリアン王が返答する。
「それは、今回の問題とは、別の事だ。い、今は、この魔石事件を解決してからでないと……」
「フザケルナッ!貴様ハイツマデモソウヤッテ……ッ!」
「そうよ、サリアン王!今日こそは取り合ってもらうわよ!」
サリアン王の後ろ向きな返答に、会議はただの水掛け論となっていく。話し合いのレベルの低さに、庄野は欠伸を漏らす。
(領土問題に貿易問題も未解決のまま、何も譲歩せずに協力だけ求めて今後の方針を立てようとする……流石に酷すぎる。小学生の討論の方がまだマシだな。……ん、ヤバそうだな、出るか。)
危険を察知して、庄野は会議の途中ではあるがこっそりと音をたてずに部屋を出た。開けた扉をゆっくりと閉めて振り返ると、城の兵とばったり会ってしまう。
「な……貴様!会議中に部屋から出るとは、無礼にも程があるぞ!」
「どの王に無礼なんだ?」
「サリアン王に決まっているだろう!」
「目先の問題を解決する為に協力だけを求め、他国との問題は後回しにする。他国の王や姫をわざわざサリアンに呼んで会議をするというのに、譲歩の準備を何もしていない。サリアン王こそ、他国の王達に無礼じゃないのか?」
「それは……王が決めた事であって、お前が部屋から出ていって良い理由ではない、戻れ!」
「そうは言われてもなぁ……」
サリアン兵と庄野が部屋の前ですったもんだをしていると、会議を行っている部屋から何かが壁に衝突して物が壊れる音が響く。直後、全身の岩が赤色に染まったガラ王が物凄い形相で部屋から出てきた。
「今回の件デ!お前ト話ス事ハ無イ!解決シタイナラオ前一人デヤレバイイ!解決ノタメニ鉄ノ輸出量ヲ増ヤセダト?!バカモ休ミ休ミ言エ!GRRRRRRRUUUUUUAAAA!!!!」
「ガラ王!お待ちををぉぉぉ!」
ドスンドスンと廊下を揺らしながらガラ王とボラブが部屋を出ていく。しばらくして、ソーラの姫、カエデも部屋を出てきた。
「あーあ、ガラちゃん、獣人化しちゃった。あたしも帰ろっかな。どーせ武力最弱のソーラには出番ないし。おにーさん、こうなること予想して部屋をちょっと早めに出たんだよね?いつからわかったの?」
「……会議が面白くなかったので出ただけですよ」
「ふーん……まぁ、いいや。また会おうね、おにーさん☆」
「じゃあな、庄野」
カエデは手を振りながらピョコピョコと走り出し、リーと共に部屋を後にした。
「俺も帰っていいか?」
「……はい……庄野様もお帰りになって構いません」
サリアン兵との会話を終えると、庄野も出発をした。
(予想以上に会議にならなかった。人間というのはどこの世界でもこうなのだろうか。上にいる人間ほど屑ばかり……無駄な時間を過ごした。さて、西の都に戻って、今後について話そうかな。)
軽い足取りで城から出ようとする庄野に怒号が飛んだ。
「止まれぇ!庄野哲也ぁ!」
「……デ、デル?何でしょう?」
「ハァ……ハァ……。『終わったら残れ』と言ったはずだが?」
「あ……ごめんなさい」
「来い!」
「はい……」
(ヤバイ……こいつ、怖ぇ!)
腕を引っ張られ、引きずられるようにギルドの目の前に連れていかれる。そこにはボラブとリーが待っていた。
「あれ、皆さんもお揃いで……」
「おぉ!遅いぞぉ!」
「庄野、ガラ王がぶちギレて椅子を壁にぶん投げたの、お前さんが立っていた場所だったんだぜ?部屋から出てて正解だったな」
「よし、全員揃ったな。行くぞ!」
軋む扉をくぐり、オニトンボ討伐の為に四人が出会ったテーブルの席にそれぞれ座った。
「マスター!酒をジャンジャン持ってきてくれ!」
「おぉ!!食い物もくれぇ!!肉なら何でも良いぞぉ!」
「俺はテキトーに飲み食いすっから、注文は任せるわ」
「はい、お待ち!残さず食ってくれよ!」
(……あっという間にテーブルに乗り切らないほどの酒と料理が並んだ。美味そうではあるけど、四人で飲み食いするのに小隊でやる宴会くらいの量があるんだが……)
庄野はややドン引きしながらも、酒の入ったジョッキを手に持つ。
全員が酒を持った事を確認すると、デルが声高らかに叫んだ。
「それでは……会議を始める!」




