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尚、士気については旺盛であります!  作者: 固太 陽
第一章
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第10話 基本基礎 ~まずは村人に話しかける~

ーーー

「『基本基礎の徹底』と言われてもピンとくる人は少ない。自衛官でも分かってない人の方が多いかもしれないな。

武道や茶道をやった事がある者は『守破離』という言葉を聞いたことがあるか?『守』は教わった事を忠実に守り、確実に身につける段階。『破』は他の人に教わったりして良い部分を取り入れ、元々の形を崩していく心技を鍛える段階。『理』は自分自身のやり方で独自の流派を作る段階。この守破離は師弟関係のあり方を示す一方で、修行や何かを身につけるのに必要な考え方でもある。

話を戻すが、『基本基礎の徹底』っていうのは守破離の『守』をしっかりやりなさいって事だ。これはスポーツでも同じだ。基礎練習をみっちりやらされるけど面白くなくて、すぐ応用に走ったり、見栄えのいい技ばかりを覚えようとするだろ?そっちの方が楽だし、何よりやってて楽しいからな。でもな、基礎練習を中途半端にやってると、体力がなくて試合でへばったり、体幹が弱くて怪我をしたり、良いことなんて何もないんだ。だからこそ、基本基礎の徹底っていうのは大切なんだ。」

ーーー 


 庄野は長い廊下をスタスタと歩き、サクラの部屋へと向かっていた。


(何をやっているんだ、俺は。やる事がわからないからって身体的な訓練ばかりやって、コピードールの使い方ばかりに気を取られてその質問ばかりして……。基本に基づいた順序に沿って、情報を収集しよう。

最初は周辺地域に関する情報収集だ。数カ国から『是非わが国へ』と言われても、周りにどんな国があるのか全然わかっていない。そもそも、国の規模が元の世界と同じなのかも不明だ。そういう事について、ここに住んでる人に聞かずに過ごしていた事は反省だな。

今後はここに住んでる人達だけじゃなくて、もっと他の場所で情報を収集しよう。多種多様な情報が集まるだろうな。

そういえば、城下町には酒場みたいな所があったな。……酒はあまり得意では無いし、何より城下町の方に行くのは気が引けるが……致し方ない。これからの自分自身のためだ。

携帯もパソコンもない、足を使って集めていこう。)


「サクラ姫、ご相談があります。」

「……てつや様。どの国に行くかお決めになったんですか?」

「いえ、その件は保留にしたいと思います。」

「保留、そうですか。」

 

 庄野は『保留』という言葉を聞いて、少しばかり嬉しそうにするサクラに、情報収集がしたいという事情を説明した。


「話は分かりました。気をつけて行ってきてください。」

「ありがとうございます。帰ります。」


 踵を返して颯爽と屋敷を飛び出すと、庄野は西の都の真ん中にある田んぼの横で一休みしている老婆の元へ走っていった。

(まずは、田んぼにいるお婆ちゃんだ。西の都の中では二番目に長生きで、西の都が出来る前からこの地域に住んでる方だ。周辺国の事とか歴史には詳しいはずだ。)


「お婆さん、おはようございます。」

「あら、庄野さん、今日は手伝いすること無いよ?」

「今日は手伝いじゃなくて、聞きたいことがあって来ました。この前、『我が国に来ませんか』と何人もの人達に言い寄られたんですが、どこの国の人か分からなくて……。」

「あはは、そうよねぇ。」


 優しく微笑むと、老婆は話を続けた。


「初めてここに来たんだものね。庄野さんは知らないでしょうけど、沢山来てた人達は全員ソーラかガラっていう2つの国のどちらかの人なのよ?」 

「そうなんですか?」

「そうよー、ソーラとガラはサリアンのお隣さん。昔からの確執があって仲が悪くてね……しょっちゅう異界人の取り合いをしてんのよ。」

「なるほど。その……2つの国の人が何人も来たっていうのは……?」

「そうねぇ、なんて説明したらわかりやすいかしら……。

えーと……ソーラもガラも、西の都みたいな小さい国を沢山持ってるのよ。西の都はサリアン国の領土内にあるけど、位置が遠いから管理をサクラちゃんに任せて、小さい国みたいな扱いになってるの。ソーラとガラは領土が広いから、そうやって管理してるのよ。その小さい国々の偉い人達が、あなた目当てで来てたの。」


 庄野は大きく頷き、わざとらしく『初めて知りました』と返事をした。

(なるほど。この世界の国は都道府県のような感じで、その中に市町村のような役割を持つ小さい国があると思えば良さそうだ。)


「ちなみに、サリアンに隣接してない国っていうのはどこがあるんですか?」

「そうねぇ……サリアン以外になると、海を渡って行くことになるから、そんなに詳しくないのよね。名前とかなら多少はわかるけど……。あ、一応、サリアンと隣国の事も教えてあげようかしらね。」


 庄野が聞いたのは以下の通りであった。


・サリアン

森林が近辺に多い。ソーラ、ガラに隣接している。かつて魔族を倒した英雄の国とされており何となく優遇されている魔法絶対主義の国。数年前から急激に強力な使い魔か能力を持っていない異界人への差別が悪化、同時に魔力が高い人間が地位を得るようになった。


・ソーラ

水源が多い。サリアン、ガラ、隣接しており、港がある。外の国へはここからしかいけない。かつての魔族討伐に関わっていない。魔法、武力は他国に比べ最も低い。他国民に対して最も寛容。武力ですべてを解決しようとするサリアンと方針の違いから仲が悪い。


・ガラ

領土のほとんどが鉱山。サリアン、ソーラに隣接しており、人口が最も少ない。強靭な肉体を持った住民ばかりで、対魔法能力が高い。かつての魔族討伐時に多くのガラ民が参加し、肉壁として使われたのが原因で人口が少ないとされている。その因縁からサリアンと仲が悪い。


・魔境

この世界の端にあるとされている。魔族が生まれ魔族が住む場所。かつての魔族討伐で滅んだとされている。


「あと、氷の国とか、炎の国とか、岩の国とか、色んな国があるらしいけど、忘れちゃったわ。あたしも年だし。ごめんなさいねぇ、そんなに詳しくなくて。」

「勉強になりました。ありがとうございました。」


 老婆に頭を下げると、庄野は西の都の端にある柵の修理をしている老爺の元へと走っていった。


(さて、次は壁塗り職人のおっちゃんだな。昔はサリアン城の修復業をやっていたらしく、サリアンに住んでたそうだ。城下町についてはこの人が詳しいだろう。)


「おっちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんですが。」

「おお、庄野さん。今日は壁塗りの手伝いじゃないんかい。」

「サリアンの城下町に何があるのか知りたいんですが。」

「サリアンの城下町について?まぁ、良いけどさ。俺が住んでた頃よりだいぶ変わっちまったから、今もあるものだけ教えとくよ。」


 老爺が語ったのは以下の通りであった。


・闘技場

元々は魔法訓練場として使われているが、稀に異外人同士の試合会場(殺し合いの場)になる。


・図書館

サリアンについての本しかなく、建物が大きい割に本の数はかなり少ない。


・市場通り

食料、雑貨品が買える。武器や防具は裏通りにある。当たり外れがあるので、自分で触って買うのが良い。


・酒場/ギルド

様々な国から人が集まり、情報交換を行っている。


・魔法学校

試験がとても難しく、部外者の入学は困難。魔法と地位が全てであり、成 績が良い人間ほど高貴な産まれが多い。卒業後は王国の親衛隊になったり、地位を得て政治を行う分野へ行くらしい。


「参考になりました。ありがとうございます。」

「庄野さん、情報を集めているのかい?もし城下町に行くなら、今日が良いよ。なんでも隣国の英雄達が近日大きな怪物と戦うって話だ。サリアンの酒場はギルドと引っ付いてるから、必ずそこで話をしてるよ。」

「良い情報をありがとうございます。」


庄野とコピードールは準備を済ませて、速やかに城下町の方へ向かった。


(戦闘になることもないだろうから銃は屋敷の鍵付きの箱に入れてきた。護身用にナイフ、緊急時のために救急品袋。コピードールは何となく連れてきたが、頼りにはならないだろう。……着いたな、あの時以来か。)


城下町入り口には前回と同様、偉そうな態度の門番が立っていた。


「おい、止まれ。何者だ。」

「……。」

「異界人か。何のようだ。」

「対面した人に対して種族で呼ぶのがこの国のやり方なのか。」

「……お前が名乗らなかったからだろうが。文句言うな。」

「ん……それもそうか。酒場に行きたいんだが。」

「酒場?酒でも飲むのかよ。」

「ちょっと情報を集めたくてな。」

「ふーん……。ここから真っ直ぐ行って、二つ目の十字路を左だ。赤色の看板でデカい扉があるからすぐわかるはずだ。」

「あぁ……ありがとう。」

 

 思ったより素直に行き先を教えてもらえた事にやや驚きながらも、庄野とコピードールは酒場へ真っ直ぐ向かっていった。


ギィッ バタン。

立て付けの良くない扉を開け酒場へと足を運ぶ。


庄野は改めて痛感した。

ここが異世界であることを。


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