第98話 復 讐2 ~やられたからやり返すのが半〇直樹、やられてもやり返せない、やり返したら批判されるのが自衛隊~
庄野はコピードールに向かって叫んだ。
「きゅうまる!治癒をお前ら同士で使って回復しろ!回復出来たら、みんなこっちに来い!」
「キュッ!」
一匹のコピードールが反応し、わずかな魔力で他のコピードールに治癒を。回復したコピードールは他のコピードールに治癒を。さらに、最初に治癒を使ったコピードールに治癒を使い、3匹は元気を取り戻し、庄野の足元へと走って行く。
庄野の叫び声に反応し、現場にかけつけた数名の兵士と思われるソーラ人が庄野に向かって槍と杖を構えた。
「なんだ、この化け物は!どこから出てきやがった!」
「ずっとここにいたが、気が付かなかったのか?不測の事態があった時は索敵の魔法を使うことをお勧めするよ。」
庄野は冷静に会話をするが、出会い頭に『化け物』と言われたことに拳を握りしめ、奥歯をかみしめていた。
(俺は化け物。そう見られるならしょうがない。俺はもう、自衛官でもなければ、騎士でもない。
だが・・・コピードールを足蹴にするようなこいつらは人間じゃない。人間じゃないないなら、俺と一緒の化け物だ。)
「・・・忠告どうも。話が通じるなら、こっちの要求を聞いてもらいたい。その魔物は返してくれないか?うちのものなんだ。」
「この魔物はおr・・・いや、庄野哲也っていう異界人が持っていたものだろう?なんでソーラの所有物になってるんだ?」
「チッ、お前には関係ないだろ!さっさとそれを寄越せ!」
「関係あるよ。大切な仲間がぞんざいな扱いを受けて、傷つけられていたのを目の当たりにして・・・。そんなの見せられたんだ。
あんたらを生かしておけねぇよ。」
「化け物のくせに!だったら、力ずくで返してもらうぞ!」
ソーラの兵隊が一気に庄野に襲い掛かる。『火炎弾』、『雷撃槍』。次々に魔法が唱えられ、球体の形をした炎と光放つ槍が弾丸の如く庄野に目掛けて放たれた。
「きゅうまる。防御壁を3方向に展開。」
「キュッッ!!」
アルフが使用している防御壁を複製し、杖から発された炎の弾丸を防ぎ、雷の如く高速で放たれた槍を阻んだ。
(防御ができるなら問題ない。壁の魔力はコピードール3匹で治癒によって修復している。治癒があるからこそ、こっちの魔力が尽きる事は無い。逆に、向こうの魔力が尽きた瞬間に攻撃する。)
作戦が決まり、庄野は89式小銃を複製して構える。わざわざ、庄野は魔力切れを狙ったのには理由がある。結局、彼は自衛官という立場を捨てきれていないのだ。自衛官である以上、『先制攻撃』という発想が無い。専守防衛を掲げている以上、やられないとやり返せないのだ。だからこそ、自衛隊の訓練は防御訓練が多い(一部攻撃訓練が多い地域はあるが、全国的には防御訓練が多い)。
庄野が培った陸上自衛隊での知識は、庄野の命を救う救世主であると同時に、庄野の行動を阻害する枷となっている。
「防御壁を張れるとは、なかなか知恵のある化け物だな。・・・ククク。」
一人の兵士が不敵な笑みを見せ、槍の先端に何かを塗る。そのまま何の魔法も使用せず、防御壁に向かってその槍を投げた。
誰がどう見ても何の変哲もない槍。木の柄に尖った鉄が付いているだけ。何でもない槍が放物線を描いて飛んで来る。綺麗なアーチの終点には庄野哲也が立っているが、その間には防御壁が展開されている。投擲された槍はまず当たることは無い。
(投擲か。問題無いだろう。仮に破られたとしても、その速度なら小銃で捌く事ができる。)
そんな油断が庄野哲也の肉体と武器を破壊する。何でもないその槍は防御壁を貫き、先端部分を側面から捌こうとして触れただけの89式小銃はバラバラに弾け、その槍は軌道を変える事なく庄野の腹部から入り、背中に飛び出た。
「な・・・ぁ・・・。」
「ハハハ!見ろ、串刺しだ。もう奴は動けない。両腕を切り落として、魔物を回収するぞ。」
(・・・せめて、行動不能にする程度で済ませようとしたが・・・、もう、容赦しない。)
「きゅうまる・・・『解除』!ななよん、拳銃をくれ。」
「キュッッ!」「キュッ!」
防御壁を解除し、すぐさま9mm拳銃を複製して弾丸を発射する。
弾丸は兵士には届かない。キィン、という金属のようなものに当たった音はしているが、兵士には全く当たっていない。
「は・・・?」
「ギャハハハ!魔導士との闘い方が全く分かっていないなぁ。お前、異界から来た化け物か。そんなおもちゃで、防御壁を貫通するわけがねぇだろ!さぁ、もう一回だ!」
後方にいる杖を持った魔道士が構える。再び炎の弾丸が庄野を襲う。
「きゅうまる・・・防御だ!」
「キュッッ!!」
「そんな壁じゃあ、意味無ぇんだよ!死ねぇ!」
「ぐぅうぁぁぁッ!」
先程とは違って、真っ直ぐに槍が庄野に目掛けて飛んでくる。両手で槍を、掴んで止めようとする。しかし、先端に手が触れただけで右手の親指から母指球までが抉れ、左手も同様の部分の金属が削れ、槍は庄野の左肩に突き刺さる。
「よし、もう良いだろう。無駄な魔力は使うなよ、ヤツの思うツボだ。もう一回抵抗してきたら、次は頭を吹き飛ばす。どうせ化け物だ、殺しても構わん。」
(・・・日々、魔法を使って戦っている人間だ。やはり、自衛隊なりの戦い方じゃあ、無理があったか。なんだかんだ、今回がこの世界の人間とマトモにやり合う初めての機会だからな。良い勉強になった・・・高い授業料を払うことになったが・・・。
『どうせ化け物』。何回口に出せば満足するんだ、コイツラは。この世界の人間は、相手が化け物なら何をやってもいいと思ってやがる。それなら・・・化け物が化け物に何やっても良いってことだな。
・・・こうするしか・・・無いか。)
「ひとまる。64式小銃を複製。きゅうまる、7.62mmの弾丸と弾倉を複製。ななよん、お前は弾丸を・・・。」
「キュッ!」「キュッッ!!」「キュッ!」
「今更、新しい武器を用意したって無駄だ。何なら、こっちが防御壁を展開して待っててやろうか?ホラ、来いよ。」
防御壁が庄野とソーラ兵の間にそびえ立つ。ソーラ兵は、防御壁の後ろでニタニタと笑いながら庄野を見ている。
「ななよん、弾倉をくれ。」
「キュッ!」
槓杆を引く。弾倉を下から差し込み、槓杆を戻す。照星と照門を立て、床尾を右肩にしっかりと付ける。簡単な弾を込めて、射撃に必要な部品を準備して、狙いを定めるだけの行為。今、死ぬかもしれないという緊張状態でも淀みなく庄野はそれを行う。
(弾数、30。目標、20数名のソーラ兵。・・・撃て。)
バァン。 静かな夜に破裂音が響いた。
先程とは違い、金属に当たったようなキィンという音がしない。その代わりに、コツン、コツンと何かが落ちたような音がした。
「ハハハ!同じ武器じゃないか。そんな武器で・・・あれ、お前、頭g」
破裂音。
高笑いをしていたソーラ兵の声は夜の闇に消えた。
「・・・おい、どうした?・・・やられたのか?!クソッ反撃だ!」
杖に魔力を込め、炎が現れる。が、破裂音がする度にその炎は1つずつ、スゥッとロウソクの火のように消えていく。
「ひ・・・うわぁぁぁぁぁ!!」
仲間が一人ずつ殺されていく惨劇を目の当たりにし、一人のソーラ兵が逃亡を図る。そのソーラ兵を破裂音が引き止める。足は膝から下が吹き飛び、前のめりに倒れる。
「あぁッ!あ・・・熱い、痛いぃぃぃ!!」
破裂音が悲鳴をかき消す。倒れたソーラ兵から何も聞こえなくなった。
「クソッ!このやろぉ!」
槍を持った兵士が反撃に転じ、庄野の顔面に槍を突刺そうと突っ込む。
破裂音。弾丸は右肩に命中し、肩から手の先が身体から分離し、槍が地面に落ちる。身体から離れた右腕は宙をグルグルと回転し、地面にボトリと落下した。
「俺の、腕・・・腕がぁ・・・。」
破裂音。腕を失った兵士はその悲しみから開放された。
庄野が使用しているのは64式小銃、口径は7.62mm。現在陸上自衛隊で使っている銃は89式小銃、口径は5.56mm。たかだか約2mmしか変わらない口径であるが、その威力は全く異なる。5.56mmが腕や肩に当たっても吹き飛ぶ事はほぼ無い。しかし、7.62mmが手足に命中すれば、弾丸の回転が肉と骨をねじ切り、そこから先を全て吹き飛ばすのだ。人間に向かって撃つ口径ではない、非人道的だという意見も出てくる程である。
庄野哲也は『復讐』という名目で、そんな兵器を使っている。
(・・・槍の先端に何か塗っていた。恐らく、防御壁を無効化する何かの成分を含むものだ。2回目の攻撃で先端に触れる事が出来たから、それを64式小銃の弾丸に塗れば・・・貫通弾として使う事が出来る。腹を貫いた槍は地面に刺さってて、俺はここから動けない。
残り残弾・・・いや、そんなのどうでもいい。貫通弾が入っている弾倉ごと複製すれば良いだけだ。全員殺すだけ。それ以上でも以下でも無い。)
それから何回の破裂音があったのかわからない。わかっているのは、火消しに駆け付けたソーラ兵、コピードールを連れてきたソーラ兵、射撃音に反応して駆け付けたソーラ兵は誰一人として生きていないという事だけである。庄野の周りにある大量の死体の山がそれを物語っている。
(ハァ・・・ハァ・・・終わった。夜が明ける前に、ここを離れないと・・・。)
「コピー、ドール・・・槍を、折ってくれ。」
「キュッッ!」
きゅうまるが体当たりをして、地面に刺さっている部分をへし折る。
「ありが・・・。」
そのまま庄野は意識を失い、仰向けに倒れた。
まだ夜が明ける前。一人の男性と一人の女性、そして一匹の妖精が惨劇のあった現場に到着した。
「うわぁ・・・もう全員死んでますよ。死亡ー死亡ー。全員死亡で報告書作りません?」
やる気の無さそうな女性は長い髪を指でクルクルと回しながらも、倒れているソーラ兵の脈と呼吸を見ている。
「そ、そうですよ・・・それに、まだ犯人がいるかもしれないし・・・朝になってやりません?」
ビクビクと怯えた様子の妖精もその女性に同調する。
「駄目です。瀕死なら時間との勝負ですから、今やらないと。それに、誰でもいいから、生きているなら助けなさいと命を受けたでしょう・・・ん?」
優しそうな男性が二人を諭していると、今にも死にそうになっている人物を発見した。




