第9話 反 響 〜陸上自衛隊、外から見るか、内から見るか〜
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「えー、これから疲れを感じると思うが、感じる事が無いように気を緩める事無く、通常業務に移行してもらいたい。我々は、国民の皆様からの見返りのために今回の任務を行った訳ではない事をしっかりと理解してほしい。自衛隊員として、やらなければならない任務を遂行する事にやりがいを強く持ち、それを誇りとして、引き続き臨んで欲しい。」
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『自衛隊あるある』という言葉を聞いたことがあるだろうか。よくネタにされて笑い話にするものである。上に記載したものも自衛隊あるあるであり、『災害派遣が終わった後、隊員に厳しい発言をして、不満を持たせてしまう偉い人の激励あるある』である。災害派遣に参加し、やっとの思いで帰ってきた隊員にこんな事を言う人がいるのか、と疑問を持ちたくなるが、自衛隊内部では『災害派遣は主たる任務ではなく、従たる任務だ。やって当然、褒められるためにやるものではない』と考えている人も少なからず存在し、努力を評価されない場合が存在するのも事実である。
逆に、災害派遣に対して外部からは『頑張ってくれてありがとう』と労いを受けるのも事実である。
災害派遣のように、組織の内部からと外部からで評価が180度変わるような事はよくある事である。
今現在、庄野哲也という男の評価も同様にサリアン国内と国外で正反対になっており、国外からの庄野は英雄として崇められている。
何故そんな評価を受けたかという話であるが、先日の闘技場において、魔物の系統の中で最も高い能力を持つとされる戦闘型のレッドドラゴンをほぼ体術のみで倒した事が発端となっている。魔法使いや強力な使い魔を従える人間を魔法を一切使わずに勝つというのは異例であり、その噂だけで庄野を自分の国に引き入れようと、サリアン以外の各国から要請を受けている状況にあった。
サリアン以外の国には戦力となる魔法使いや強力な使い魔が全くいない。それもそのはず、サリアンの近辺には異界の森があり、定期的に強力な使い魔や魔力を持った異界人が来る。そういった人間を優遇するシステムを持っているので、強い力を持っている異界人を半永久的に獲得できるのだ。
だからこそ、庄野のようなサリアン国籍を持っておらず戦闘力が高いと評価される異界人は国力の増強のため、是が非でも欲しいのだ。
そんな背景を一切知らず、庄野は何カ国もの使者と今後について話を聞かされていた。
「……で、ありまして、庄野様の境遇を聞けば、それほどの数の使い魔をお持ちになって、最強と言われるドラゴンを従える異界人を圧倒していらっしゃる!それなのに……ッ!サリアン国は貴方様を見放し、あまつさえ、西の離れに住んでいると!嘆かわしい。是非我が国でその力を振るっていただきたい!」
「えっと……。後日返答しても宜しいですか?」
「ええ!お待ちしますとも!いいお返事をお待ちしてますよ!」
ちょび髭を生やした全身黒のスーツを着た、いかにも使者という感じの男は部屋を出ていった。
(ふぅ……参ったな。先日は『子供以下』とまで言われていたのに、外の人間からはこの対応。隣の芝は、ってやつか。……とりあえず今日は帰ってもらえたが、果たしてどうするべきか。アルフさんに相談してみるか。)
庄野は何も理解していない。周辺国の状況も、異界人がこの世界ではどういう立場なのかを。年配のアルフなら何かいいアドバイスをくれるのではと相談するが、返答はあっさりしたもので、「サリアンよりは境遇良くなるんじゃないかね。好きにすれば良いけどね。」の一言で終わってしまった。
(困ったな。そうだな……姫様に相談するか。)
庄野は何も理解していない。国の事情に詳しい人間が誰かということを、そして自分がサクラに好意を持たれている人物であるという事を。そんな相手に「国を出たほうが良いか」と相談すればどうなるのか、自明の理である。
「……ッ!そんなの、てつや様の好きにすれば良いんじゃないんですか!」
(何で拗ねてるんだ?)
当然こうなる。乙女心を理解するのも難しいが相談相手を選ぶことも難しい。庄野はこの世界でまだ誰が何を知っているのか、人間関係を十分にに築けていないのであった。
「……まいったな。」
あれこれ考えても何も思い浮かばなくなり、少のは気晴らしに屋敷から出て、近くの広場のベンチに座る。安堵と落胆から、大きなため息を漏らした。
(はぁ……。西の都の中にいて、今後について考えるにも知識が足りない。自分の境遇、コピードールについて、自分の世界に戻る方法、生きる目的。どうしたものか……。)
庄野がふと顔をあげると、広場で楽しそうに踊っている一人の女の子が目に入る。綺麗な空色のドレスを纏っており、見た目は小学生くらいであるが、その踊っている様は大人びた女性にも見える。
(一言に、お嬢様って感じだな。あ、目があった……しまった、癖で手を振ってしまった。)
任務や訓練で駐屯地から外に出ると、子供が手を振ってくる事がよくある。その際によく振り返す事から、子供を見ると先に手を振ってしまう事がよくあるのだ。
庄野が癖で手を振ると、女の子はにんまりとした笑顔で庄野の元へ歩み寄ってきた。
「おにーさん、どうしたの?」
「ごめんね、踊りの邪魔をしちゃったかな。」
「ううん、そんなこと無いよ?ね、何でため息なんかついてたの?幸せが逃げちゃうよ?」
「はは、ありがとう。ちょっと考え事をしてたんだ。」
女の子は上を見上げ考え込む。しばらくすると、再び質問を投げかけてきた。
「ねぇ、それは未来の話?過去の話?」
「えっと……どっちかっていうと未来の話かな(……何だ……この子)。」
「自分のこと?他人のこと?」
「……自分のことだね。」
「欲しいのは力?知識?」
「知識かな。」
「知識ね、わかった。じゃあ、今日はお近づきのしるしって事で1つだけ教えてあげるね!」
「……うん。」
女の子はおもむろにポケットから1つだけビスケットを取り出した。
「私は今ビスケットを1つだけ持ってます。ポケットに入れます。いくよ?『ポケットの中にはビスケットがひ、と、つ☆ポケットを叩けばビスケットはふ、た、つ☆』。はい、2つになりましたー!」
「おー、ふたつあるね。凄いなー(懐かしい。子供の頃によく歌ってたな。今のは……手品か?いや、多分魔法だろうな。こんな女の子でも使えるのか)。」
「そう!凄いでしょ!でもね、これは魔法じゃなくて手品なの。魔法の『複製』は特別な魔法で、コピードールしか使えないの。だから、私には使えないの。」
「へぇー、手品なんだ……え、今なんて?」
「コピーだよ、『複製』の魔法。コピードールが『複製』を覚えるのはレベル3になったらだよ?おにーさんのコピードールは3匹ともレベルが1だからまだ使えないの。あとね、使い魔はたくさん連れている程成長が遅くてレベルが上がってくれないの。それはね、経験値は必ず均等に配分されるから。おにーさんの場合、3匹連れてるから経験値は3等分されちゃうんだよ?知らなかったの?もー、サクラちゃんは何も教えてくれてなかったんだね?」
「……。」
庄野は開いた口が塞がらなかった。
(自分が知りたかったコピードールの謎を……何者だ?この子は……。この子からもっと有力な情報が得られる。もっと他の事が知りたい! )
「あ、もっと聞きたいって顔してる。ダーメ、今日は1つだけって約束だよ?そんな悪い口は塞いじゃお☆」
「んっ!!!」
油断した庄野は唇を奪われてしまう。
迷彩服の格好をした男が小さい女の子と公衆の面前で接吻をしていた。こんな現場を日本で見られたら例え女の子からの行為であっても間違いなく通報されて懲戒免職であろう。庄野は初めて異世界に居ることに感謝した。
「……ぷはっ。えへへ、また会おうね、おにーさん。今度は正式な形でね?」
「う……ん?」
女の子はヒラヒラと手を振りながら遠くへと走り出す。その姿に庄野はゆっくりと手を振り返した。
(……は!いかん!あんな年齢の女の子にキスされて、動揺してる場合じゃないだろ!
……だが、有力な情報が1つ得られた。コピードールは今のままじゃコピー出来ないのか。大器晩成型ならしょうがない。地道に経験値とやらを稼ぐしかないな。)
庄野は何も理解していない。明日からのコピードールとの訓練に胸を踊らせているが、これから起こる大事件で、自分の境遇が大きく変化する事を。
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「カエデ様、いかがでしたか?庄野哲也という男は。」
「んー?唇カサカサだった!顔はそんなにタイプじゃないけど、声と目の感じは好きかな?」
「……それだけですか?」
「今はね。……彼の価値はドラゴン使いを倒した戦闘力じゃない、彼が持ってる物に価値があるの。彼に正しい道を示して、コピードールを使えるようになって、彼の持つ『武器』を量産できれば……くすっ。武力で私に、我が国『ソーラ』にかなう国は無くなるんだよ!」
「ええ、……もしかすると庄野哲也はあの武器の使い方もご存じかもしれません。」
「そうだね。色は違うけど、形が似てるものを持ち歩いてたし…あれ。サクラちゃんには悪いけど、彼は私が国の人間に、私の騎士になるんだから、待っててね?あははッ!」
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私は災害派遣に3回参加しましたが、3回とも『お疲れ様』と言ってもらえませんでした。




