月と不思議と幼馴染
『月』をお題に勢いで書いたやつです
「わたし、月ってすごく不思議なものに見えるんだよね。」
道の白い線の上を歩きながら、暗くなった空を見上げてそう言う少女は、その場でくるりと回ると後ろを歩く少年のほうを向く。
「どう思う?」
「僕?うーん、そんなに不思議でもないんじゃないかな?
月の満ち欠けも所詮科学で説明できるものだし、そんなに不思議なものじゃないんじゃない?」
少年は何でもなさそうにそう言うと、「ほら帰るよ」と言い、少女を追い抜く。
「まったく、夢ないね~。」
少女は少し速めに歩いて少年に追いつくと、少年の頬をつつきながらそう言う。
一方の少年はいつもつつかれているせいで、特に表情を変えない。
「そもそも、満ち欠けするのが不思議なんじゃん!」
「金星も満ち欠けあるけど。」
「そういうことじゃない!」
無表情な少年に頬を膨らませる少女は、さらに強く頬をつつく。
流石にそれは痛かったのか、少年は無言で少女の手を掴みもう片方の手で少女の頬を触る。
「女子のほっぺ触るなんて信じられない!」
「僕の頬つついてきた人のセリフじゃないね。」
「そういうのいらないの!
わたしは謝罪を要求します!」
「はいはいすいませんでした。」
「雑!そんなの認めるわけないじゃん!」
「僕悪くないし。」
「子供みたいに言ってもかわいくないからね!」
「ちっ。」
「舌打ち!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら道を進んでいく二人。
暫くそんな感じのくだらない話をしていたが、やがて少女のほうが話題が逸れていることに気が付く。
「って、月の話してたじゃん!」
「あ、今更?」
「気が付いてたなら言ってよ!
……まぁいいや。それで、月の話だよ!
神秘でしょ!?不思議でしょ!?」
手に持った鞄を振り回しながら熱弁をふるう少女を、少年は「また始まった」みたいな目で見る。
それに少女が気付かなかったのは幸いと言うべきか。
「だって、地表から見ると太陽と月の大きさがほぼ同じに見えるんだよ!?
その絶妙な距離感と大きさ、偶然じゃないって!」
「いや、偶然だから。
え、何?神様が創ったって言いたいの?」
「そうじゃないんだよね~。
なんかこう、ただ不思議だよね~って言いたかっただけなんだよ。」
そう言われてもいまいちピンとこない少年は、首を傾げる。
「なんで首を傾げるの!!
幼馴染なんだから分かってよ!」
「そういわれましても、根本的に理解できないんだから仕方ないじゃん。」
「なんでわかんないかな!」
「そっちだって僕のことわかってないじゃん。」
車が通るので少女の腕をつかみ自分のほうへ引き寄せながら、少年はそう言う。
だが、少女は胸を張って「わかってるもん!」と答える。
「へぇ、本当に?」
「本当!だって、十五年間も一緒にいるんだよ?それくらいわかるよ。
例えばリンゴ飴が好きとか、色の中だと藍色が好きとか、実はかわいいものが好きとか、ゴーヤが苦手とか、少年漫画のテンションがあんまり好きじゃないとか、ハムスターが好きとか!」
「それだけ?」
「え、えっと、アニメを毎週欠かさず見るとか、理系科目が得意とか、寝るときはうつぶせになるとか、えっと、えっと……」
「じゃあ、僕の好きな人は知ってる?」
少年は悪戯っ子のような笑みを浮かべると、自分の斜め下にある少女の顔を見てそう言う。
少女はぴたりと足を止めると、暫くの間フリーズする。
「え?す、好きな人!?」
「そ、好きな人。知らないでしょ?」
「し、知ってるもん!
あ、同じクラスの高橋ちゃん!」
「違うよ。」
「じゃあ、あの有名な黒田先輩!」
「先輩は好みじゃないな。」
「あ、隣のクラスの石川さん!」
「はずれ。」
「あ、もしかして本当はそんな人いないのに、いるみたいにそう言ってるんでしょ!
絶対そうだ!」
「そんなわけないじゃん。ちゃんといるよ。」
「う、うぅ、わかるわけないじゃんそんなの!」
「開き直ったよこの人。」
少女の降伏宣言に少年はそんな言葉を言うと、深く溜息を吐く。
「ほら、幼馴染だって何でもわかるわけじゃないんだよ。」
「そ、そうかもしれないけど!」
「だから、僕が君のことをわからないのは当然だよね?」
「じゃ、じゃあ、今教えてよ!
す、好きな人は誰なの?」
「……本当に鈍感なんだから。」
少年はそう呟くと、また溜息を吐く。
「鈍感?それってどういう……」
「僕の好きな人は君だよってこと。」
「…………へ?」
少年からの急な告白に、少女はしばし固まった後、顔を真っ赤にしてそう声を漏らす。
「は、はぁ!!?わ、わ、わ、わたし!!?」
「あ、『月が綺麗ですね』って言ったほうが良かった?」
「そういう問題じゃない!!
え?わ、わたし!?
だって、そんな素振り一度も……」
「なにしても気が付かないのはそっちでしょ?
だから、告白したんじゃん。
まったく、それでよく『幼馴染なんだからわかってよ!』って言えるよね。」
「な、なんかごめん。」
「それはいいよ。それより返事は?」
「へ、返事?」
「そ、告白の返事。」
少年は何事もないかのようにそう言うが、その頬は赤く染まっており、恥ずかしがっているのはよくわかる。
一方の少女も顔が真っ赤になっており、目を右へ左へ泳がせていた。
「あ、え、えっと、わ、わ、わたしも好き、です……」
「だよね。知ってた。」
「し、知ってた!?」
「だって、幼馴染だしそれくらいわかるよ。
中一ぐらいから?本格的に僕を意識しだしたのは。」
「な、なんでわかるの!!?」
「勘。」
少年の言葉に、少女は唖然とする。
少年のほうは全部わかっていたのに、自分は何も気が付いていなかったのだ。そりゃあ驚きもする。
「じゃ、じゃあ、バレンタインのチョコが実は本命だったのも、家に来た時にわざとわたしのコップを使わせたのも、お風呂の時に間違えて入っちゃったって言いながら実はわざとだったのもばれてるの!?」
「うん、ばっちり☆」
ぱたり。
少女は地面に座り込むと、両手で顔を覆って「うがぁあ!」と変な声を漏らす。
「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!
え?じゃあ何?わたしが毎日小学生が読むようなおまじないの本の内容を試してたのは無駄だったの!!?」
「それはそもそも無駄じゃないかな?」
「恥ずかしい!!」
あまりの恥ずかしさに悶える少女。
少年はそんな少女を面白いものを見るような目で見ると、少女の肩に手を置く。
「気にすることないよ。」
「そ、そうだよね!」
「君がよく寝言で僕のことを好きって言ってたのも、クリスマスの時に割と本気で『プレゼントはわ・た・し』を実行しようとしてたのも僕はわかってるからさ。」
「きゃああああ!!何で知ってるの!!!?」
恥ずかしいことがばれていた少女が恥ずかしさのあまりのたうち回るのを面白そうに見ていた少年は、「ふふっ」と声を漏らす。
「う、うるさい!
わたしが好きならもっと早く言ってよ!!」
「僕のためにいろいろ考えてくれるのが嬉しくてつい、ね。」
「恋人になっても考えるに決まってるじゃん!!」
「あと、面白かった。」
「最低!!」
ぽかぽかと少年を殴りつける少女と、それに「痛い」と言いつつもそういうのも嫌いじゃない少年は、二人並んでゆっくりと家に向かって進んでいく。
その二人の進む方向には、綺麗な満月が浮かんでいた。
誤字脱字等ありましたら、ぜひ教えてください!
たぶんあります。